第一章 第2話|境界
昼に近い時間になっても、少年は森の中にいた。
村の森を一通り巡り終え、知っている場所はすべて確かめた。
結果は同じだった。
少年は立ち尽くし、深く息を吐いた。
探し尽くした、という感覚だけが残る。
籠の中身は空に近い。
治療師が挙げた名と一致するものは、ひとつもなかった。
ここまで来て、ようやく、少年は顔を上げた。
霧の向こう、木々が密になり、影が深くなる方向。
村の森の続きに見えて、はっきりと違う場所。
樹海だ。
父の言葉が、はっきりと思い出された。
あそこには、入るな。
理由は聞かされていない。
ただ、淡々と、何度も言われてきた。
少年は一歩、後ずさる。
戻れば、村に帰れる。籠は空でも、今日という日は終わる。
だが、その先を思い浮かべた瞬間、足が止まった。
幼馴染の顔が浮かぶ。
熱に浮かされた目、力の入らない手。
少年は視線を落とし、籠を見た。
空の底が、やけに深く感じられる。
「……少しだけなら」
声に出したことで、逃げ道がなくなった気がした。
境目に近づく。
線が引かれているわけでも、柵があるわけでもない。ただ、空気が重くなる。
境界だと、直感的に分かる。
少年は立ち止まり、もう一度だけ振り返った。
霧の向こうに、村はまだ見えている。
父の声が、最後に頭をよぎった。
そこには理由も説明もなく、ただ静かな拒絶があった。
少年は目を閉じ、そして開いた。
一歩、踏み出す。
空気が変わった。
音が遠のき、湿り気が増す。視界は霧が薄いはずなのに、どこか狭く感じられた。
少年は、振り返らなかった。




