第二章 Side魔女|樹海の奥にて
樹海は、騒がしかった。
人の気配が、いくつも重なっている。
恐怖と戸惑いと、薄い期待が入り混じり、霧の中を流れていた。
魔女は、それを遠くから感じ取っていた。
足を運ぶ必要はない。樹海の内で起きていることは、触れなくとも分かる。
「……また、か」
呟きは、誰にも届かない。
人は、追い詰められると、同じ選択をする。
理由は様々だが、行き着く先はいつも似ている。
境界の内へ、足を踏み入れてくる。
魔女は、静かに歩いた。
霧を裂くでもなく、地面を踏みしめるでもない。
ただ、そこに在るように進む。
やがて、子どもたちの列が見えた。
数は多い。
誰かが決めた順番に従い、声を殺し、前へ進んでいる。
欲はない。
奪おうとする意思もない。
ただ、生き延びようとしているだけだ。
魔女は、言葉をかけなかった。
かける必要がない。
進むべき方向は、すでに定まっている。
子どもたちは、歩き続ければいい。
霧が流れ、木々がわずかに間を空ける。
足元の感触が変わり、ぬかるみが消えていく。
列の乱れは、いつの間にか整っていた。
誰も、振り返らない。
後ろを見る余裕がないのではない。
見る意味が、なくなっていた。
やがて、人の営みの気配が近づく。
境界の外だ。
魔女は、足を止めた。
これ以上、進む理由はない。
霧の向こうで、大人たちの声が聞こえ始める。
安堵と困惑が混じった、雑多な音。
魔女は、それを背にして、樹海の奥へと戻る。
夜が明ける前に、すべては終わる。
人の記憶は曖昧になり、理由は語られなくなる。
それでいい。
魔女は、歩きながら、わずかに首を傾げた。
「……何度目だったかな」
数える意味はない。
樹海は、今日も変わらず、そこに在った。




