第一章 第1話|霧の村
樹海の縁にあるその村では、朝はいつも霧が出た。
夜のあいだに森から流れてきた湿った空気が、家々の間に溜まり、陽が高くなるまで消えない。
少年は籠を提げ、村の外れへ向かって歩いていた。
籠は祖母が使っていたもので、持ち手の部分が少し擦り切れている。中身は空だ。
薬草を探すのは、今日で三日目になる。
幼馴染が倒れたのは、数日前のことだった。
最初は熱だけだったが、夜を越えても下がらず、言葉も次第に途切れがちになった。治療師が呼ばれ、家の中には薬の匂いが満ちたが、状況は良くならなかった。
「効くとすれば、これか、これだな」
治療師はそう言って、いくつかの薬草の名を挙げた。
少年はその名を覚え、何度も頭の中で繰り返した。
「昔は、この辺りでも採れたんだが……」
その先は、言葉にならなかった。
代わりに、治療師は小さく首を振った。
少年は何も言えず、ただ頷いた。
村の周囲の森は、よく知っている。
子どもの頃から入り、遊び場でもあり、薪を拾う場所でもあった。季節ごとに生える草や、実のなる木の場所も、大体は頭に入っている。
だから、最初の二日は迷いなく探せた。
それでも、欲しいものだけが見つからない。
少年は森の中で足を止め、籠の中を覗いた。
役に立たない草が数本、雑多に入っているだけだ。
霧の向こう、木々が密になり、色が濃くなっていく方向があった。
村の森とは、どこか違う。
だが、そのことを深く考えるのは、やめた。
今日はまだ、村の森を探し切っていない。
少年は籠を持ち直し、歩き出した。
霧は静かに流れ、村はまだ近くにあった。




