年明けにはたち!
おとんと二人、紅白を見ながらこたつでぬくぬくとするこの時間が至福ってやつだな。それに、これからお楽しみもある。なんてったって、私の誕生日は1月1日だ。毎年、年明けにプレゼントを渡されるのが私の恒例。0時0分ぴったりの、ハッピーバースデーの声が私の特別。私が17でお母さんが亡くなってからは、おとんが毎年、欠かさずにプレゼントを渡してくれる。だから、声が一つ減ったからって、寂しくなんかないはず。いや、そりゃちょっとは寂しいけど……。でも、今年は待ちに待った二十歳だ! 成人は18からになったけど、なんやかんや二十歳って特別な気がする。はたちって呼び方が特別だもんね!
ああ、そろそろ紅白も終わりだ。この紅白が終わってからの15分間が、なんだか毎年そわそわして、でも大切な時間。
「今年は可愛らしい子達が多かったな」
「それ毎年ちゃうんか」
「今年は紅組だと思うな」
「ええ? 私は白組に一票! 推し、まじでかっこよかった」
おとんと二人だから、多数決で決めれなくなっちゃったな。まあ、テレビで結果出るんだけど。でも、これからは、意見が分かれても、多数決じゃない。おとんと、一緒に乗り越えていかなきゃなんだ。
ちょっと湿っぽくなってたら、いつの間にか、紅白が終わってた。お寺の映像になったところで、おとんが急に叫ぶ。
「年明けまでの宝探しスタートや! 年明けまでにクリアしないとダメやで!」
急に大声だしたから、肩が跳ねる。びくったー。なんやねん急に、いつもはそんなんやなかったやろ。
「おとん、今年は15分間でクリアしたらプレゼントにしたんやなー? おもろいこと考えるやん! やったるで」
「じゃあまずはソファの下みてみ!」
「こういうのって地図とか謎解きで場所がわかるやつちゃうんか。それもう宝探しか?」
「ええから! 時間なくなるぞ!」
「ええー?」
急かされてソファの下を見ると、小さい手形に、付箋が貼ってある。ええ、私の手形かこれ? 小さくて可愛い、1歳ぐらいかな。付箋には、『ちっちゃい手、触るのが怖かった』とある。
「あれ……、これ、お母さんの字っぽい?」
おとん、これまさか?
「泣いとる場合ちゃうで、急がんとゲームクリアできんぞ」
私は腕で豪快に涙を拭く。
「なんで付箋やねん! 普通こういうの手紙とかやろ!」
「はは、じゃあ次はテーブルの下な!」
なんや、ただの石だが。でも付箋が貼ってある。
『かわいい石、いうあなたにズキュン』
「なんや、全く記憶がないんやが」
「2歳ぐらいだったからなぁ。そりゃないやろなぁ」
お母さん、こんな石とってあったんか。こんななんの変哲もない石、ずっとずっととってあったんか。
やば、なんかもう涙腺崩壊しそう。泣かせにきてる。やばい。
「感傷に浸ってる場合じゃないぞ。時間ギリだからこれ。次は玄関な」
アンパンマンの靴。ちっちゃい。こんなん履いてたんや。
『バイキンマンがいい? わがままやな!』の付箋。
「はは、そんなわがまま言っとったん?」
「なんかバイキンマンの方が好きだったんだよお前、なんで?」
「知らん」
「3歳のことは本人でもわからんかー、じゃ、次、廊下の掃除機の横」
次は似顔絵や、なんとなくわかってきたぞ、次は4歳やな。付箋には、『色使いが、天才的やった』とある。
「これって誰の顔書いたんやろ」
「俺が聞きたい。お前に。誰やねん」
「でもお母さんはずっととってたわけやろ? 正解はお母さんだけが知ってるのかもな」
「そうだな」
「なんかおとんも泣きそうになっとるやん。まだまだあるんやろ? 泣くの早いで!」
「はは、じゃあ次はお母さんのクローゼットの引き出しな」
次はサンタさんへの手紙かあ、5歳の時? なんとなく覚えてるな。ミニーちゃんのおもちゃが欲しかったんよ。そうだそうだ。付箋には、『サンタさんくるかも?って寝れなかった』とある。そうだった。緊張で全然寝れなかった。
「なついなこれ。エモすぎんな。字こんなだったか。まだ手紙残ってるのが感動だわマジで。てかミニーちゃん結局くれなかったよな? 全然違う絵本とかだった気がするんだけど」
「お前が当日手紙書くからやろ! その前からサンタさんに手紙出すからおとんには秘密とかいって、どれだけお母さんと俺が苦労して聞き出そうとしていたか! 手紙も当日全く見せてくれんかったし」
「そりゃ問題児だったな、はは。当時の私は真剣だったけどな」
「はは、まあ可愛かったわ。やばい、時間がないぞ、次はその下の引き出しだ」
すぐ下かよ、隠すのめんどくさくなってるやんけ。
「またサンタさんへの手紙かよ! お母さんもめんどくさくなってねこれ」
「お母さんに文句言うな」
付箋は、『いい加減寝ろ! 寝て欲しかったで』とある。
「お母さん、大変やったんやな……」
「ほんとだよ、夜更かしやめろよ」
「お肌に悪いからな、今はやめてる」
「えらい。じゃあ次お前のベッドの上」
なんやこれ。旗やん。あ、これなんか発表みたいなのしたな! 付箋には、『一生懸命振って、可愛い』とある。
「これさぁ、本当は大きい旗が良かったんよ。だけど力がなかったから、小さい旗にされてさぁ」
「これですらお前大変そうだったぞ。筋肉つけろ」
「今言われても……」
「次、机の上」
実はさっきから見えてた。もう宝探しではねえなとは思っていた。七夕に、コアラのマーチ食べたい、と書いてある。『1年に一度の願い、安い』子供なんだからそんなもんやろ!
「次、お母さんの化粧台」
口紅や。付箋には、『絵の具扱い、許してへんでな』とある。
「そんな時あったか? 何歳の時?」
「9歳や。数えとけよお前も。9個目やろ。お母さんのあの時の怒りようといったら。怖かったでほんまに。この口紅、何円だったんだろうな。でも、ずっと持ってるってことは、お母さんの大切な思い出だったんだろうなぁ、急げ、時間無くなってきた! 次、お前の引き出しの机の中!」
おとんがだらだら喋っとったのに。また自分の部屋戻らなあかんし。
筆箱! なつかし、これ。小学校の頃、大好きでめっちゃ使ってた。付箋には、『よう使ってた、こんなボロボロを』とある。
「そうなんだよなぁ、めっちゃ好きでずっと使ってた」
「おとんとお母さんはいじめなんじゃないかと家族会議があったんやで。いじめじゃなくて良かったけど」
「自分で縫ってたもんな。あたらしい筆箱買うお金もないんかって心配されたわ友達に」
「いらん心配かけとるやんけ。お父さんという稼ぎ頭がいるにも関わらず」
「まあまあ、次は?」
「次な、こっちの引き出し」
もうおとんが開けとるし。まあいいや。あ、キティちゃんのキーホルダーだ。『あんた、キティちゃんすきやったな』
「これ、ゴミ箱に捨ててたのに」
「なんで捨てたん?」
「なんか知らんけどキーホルダーが盗まれて、これももういらんかなって思った。半分いじめみたいな感じやったんかな」
「いじめ!? 本当に? 知らんかった。なんで相談しなかったんや。父さん全く知らんかったぞ」
「うーん、子供ながらに、相談できなかったのかなぁ。大人に頼るもんかって意地だったのかも。お母さんは、気づいてたのかな」
「どうだろ、じゃあ次、こちら」
うん、もうずっと気づいてた。でかいもんね。木刀だね。修学旅行でつい買ってしまった木刀だ。『なぜ、女の子が木刀買うの?』そうだよね。つい、ついね。
「黒歴史ってやつだなこれが。よし、恥ずかしいから次行こう」
「お父さんも自分の修学旅行で木刀買ったぞ」
「いらん情報、はよ次!」
「はいはい、じゃあ次はクローゼットな」
ええ? 私のクローゼット開けたの? サイテー。まあいいや。
あ、制服だ。なっつ。『ブレザーより、セーラー服がいい』ただの感想になってますやん。めんどくなってますやんお母さんも。
「私はブレザー派かな」
「お父さんもセーラー服派かな」
「キモ」
「泣いていい? 次は下の引き出し」
プリクラだ。『あんたこんな目でかくないからな』わかるー!プリクラって少女漫画みたいにされるよな。この頃は撮りまくってたなあ。
「お母さんなんでこんなプリクラ取ってあんの? 恥ずかしいやんけ」
「お前黒歴史いっぱいあんな」
「うるさい、次」
「すみません、次、こちらの引き出しです!」
塾のノート?『がんばった。本当に頑張った』とある。
「……志望校落ちましたけど」
「お母さんはお前が本当に頑張ってたことわかってたで」
「そりゃ、頑張りはしたけど」
やば、また泣きそうになってきた、やばいから「次!」
「はい、お前の化粧のポーチの中」
「はあ? 女子のポーチ開けるとか犯罪やろ、ギルティやで、おとん」
「泣いていい?」
無視してポーチを開ける。あれ、お母さんの口紅だ。
「2回目の口紅やんけ、やっぱめんどくなってないか?」
「付箋みたら?」
「はいはい」
付箋には、『隠れて使ったこと、知ってたよ』とある。
「はは、恥ずかしいね、メイクしたかった年頃なんよ。お母さん、いつもみたいに怒ってくれたら、ごめんって言えたのに」
「お母さんはお前のこと大切にしてたんや。じゃあ次な」
おとんが、手紙を渡してきた。あ、もう17歳までいったかぁ。私がお母さんに宛てた手紙。「死なないで、死なないで欲しい」とばかり。下手くそな手紙。
『ごめんなあ、本当にごめんなあ』と手紙の最後に付箋。しわしわになってる。
「謝るぐらいなら、生きてて欲しかった」
「お母さんがこの手紙もらってどれだけ泣いたか。悔しかったと思うで。お母さんも」
「そうだよな。そうやんな。おとん、素敵な宝探しをありがとう。思い出ツアーやったな。めっちゃ楽しかった」
「まだ終わってないぞ。お前、二十歳になるんやろ?」
「は? 17歳までの思い出ツアーじゃないの?」
「次は、こたつの上」
2つ何かが置いてある。さっきまでなかったのに。1つはピアスだ。みたことないピアス。『十八になったら開けるんやろ?』と書いてある。もう1つはネックレス。『綺麗なあんたに似合うとええな』
「なにこれ、どういうこと? 泣かせにきてるやん。やめてよ」
「お母さんからのプレゼントや、大事にしろよ」
「大事にする。絶対に大事にする」
こんなん涙止まらん。卑怯や、卑怯や。
「年越しまであと1分、じゃあ、こちらを読み込んでください」
おとんのスマホに、QRコードが表示されている。現代的やな。私のスマホで、QRコードを読みとる。年明けまで10秒、と表示された。9、8、7、6、5、4、3、2、1、
『ハッピーバースデー! 愛してるよ』
生きてる時に撮ったお母さんの動画、一瞬で終わった。ブレブレだった。
「ハッピーバースデー! 二十歳になった感想は?」
「ありがとうお母さん、ありがとうお父さん。最高の誕生日です。二十歳。今日から私、はたちだね」
「はは、二十歳おめでとう! 愛してるよ!」
「ふふ、ありがとう。うん、年明けにはたちって、特別でええな」
うんうん、今日は、最高の誕生日だ。17の思い出と、3つのプレゼント。両手にいっぱい。こんないっぱいの年はないな。特別や!
つけっぱだったテレビでアナウンサーが「明けましておめでとうございます」と挨拶してる。
「あけおめ、おとん」
「略すな。明けましておめでとう」
うん、うんうん、今年は素敵な一年になりそうだ!




