【第87話】真紅の満月
「久しぶりだな、我が半身よ・・・。」
『真紅の満月』を背後に顕現したノクタリオスは圧倒的な力を放っていた。
10才のあの日、自身でも良く退けられたものだと思ってしまうほどだった。
「ノクタリオス・・・!随分約束が違うじゃないか・・・。約束は5年後、つまり後2年半以上猶予はあったはずだ。」
そう、ノクタリオスが前回の去り際に放っていた言葉は5年毎に後二回。
つまりニクスが15才と20才の時に現れると話していたのだ。
それが12才の中頃の今現れた。
「確かに。あの時はそんな事も言った。だがな?異常な速度で成長するお前を試したくなった。それに不思議とお前が成長する度に何故か俺も回復速度が増してくれてな。今じゃこの通り『真紅の満月』も発動できたという訳だ。」
「ニクス君の成長で回復速度が増した?魂が関係しているのか?」
ランスロッテ様が僕を庇うように前に出る。
「ふむ。今度はその女がお前の師となった訳か?今度は一瞬で燃え尽きないでくれよ。」
明らかにアッシェ先生のことを挑発しているが僕はそんな挑発には乗らない。
「悪いがそんな安い挑発には乗ってやらないさ。僕も成長したんでね。」
「それに今回は俺様も居るぜ。久しぶりに全力が出せそうな相手で興奮しっぱなしだ!」
既に臨戦態勢のレオニダスさんは久しぶりの強者に気が高ぶっているように見えるが生命エネルギーは非常に落ち着いている。
最近気術の第二門を開いたお陰か生命エネルギーの状態でその人の内心が分かるようになっていた。
そう、ノクタリオスの生命エネルギーも当然見て取れるのだが内心『焦り』の様なものが見え隠れしているのを感じた。
もしかしたらノクタリオス自身気がついていないのかも知れない。
だが僕達は全員が二門は開いているのでそれを無意識的に共有している。
「また一人ずつ来るのか?俺は構わないが?」
ノクタリオスがそんな事を言う。
それを聞き僕はゆっくりと眼帯を外す。
「そんな馬鹿な事するわけ無いじゃないか。今回は3対1だ。行こう、レビン!」
「おうよ!今回はこいつの鼻っ柱折ってやろうぜ!」
そうして僕は不完全な融合を果たすと同時に自然と玄武の加護も発動する。
「ふーーーー。」
僕はゆっくりと目を開け、しっかりとノクタリオスを捕らえる。
先行したのは一番早いランスロッテ様だった。
バチバチ!!と全身から放電現象が始まり気術と雷属性の魔法を組み合わせた最高速度で一気に切り込んだ。
「!?」
だが当然ながらその速度に最初から合わせてノクタリオスが反応している。
このトップスピードに初見で対応できるのはノクタリオス位かもしれない。
何度か電撃を纏った刀身で斬りかかるも尽く躱される。
四度目の切り込みを躱した時だった全身を強く気術で強化したレオニダスさんがノクタリオスの真上までいつの間にか跳躍していて一気に落下しながら一撃を放つ。
ズドオオオン!!
まるで何かが大爆発したかのようなその一撃をノクタリオスは片手一つで受け止めている。
「なるほど。今回の味方につけた者たちは前回の者よりも遥かに優秀だな。」
ノクタリオスがそんな事を言っている間に僕は一瞬でノクタリオスの間合いにまで潜り込む。
薄く薄く張り巡らせた気術は極限まで薄く伸ばされ存在感すらも薄くしている。
「なに!?」
ノクタリオスが気がついたときには既に僕の気術のコントロールにより一瞬で右拳に集められた生命エネルギーが顔面にめり込む瞬間だった。
諸に顔面に入りノクタリオスが吹き飛ぶ。
どうやらマナで咄嗟に防いだようだが、マナだけでは気術に寄りコントロールされた生命エネルギーを防ぎ切るのは困難だ。
それは流々舞の時に痛いほど思い知っている。
気術には気術でしか対応しなければならない。
だが、ノクタリオスはやはり長い時を生きた人外の紛れもない古き魔人だ。
驚き吹き飛んだだけだった。
ダメージが軽く鼻血を出しているくらいでほぼ無い。
「こいつは・・・。流石に驚きだ。今の一撃でもあの程度のダメージなのか。」
レオニダスさんが驚愕していた。
「ああ。アイツはそういう存在だ。だから私は恐れていたのだ。」
ランスロッテ様は予想はしていたようだが改めてノクタリオスの状況を見て苦虫を噛み締めたような顔になる。
「く・・・あははははは!!成る程!成る程な!良いぞ。ニクス。今の一撃は非常に良かった。まさか未だ不完全なお前の状態で俺が血を流すことになるとは思っても居なかった!今回は期待できそうだなあ!?」
ノクタリオスは前回よりも遥かに成長し、自身を『殺しきれる状態』に近づいているニクスを見て興奮しているようだった。
「期待できるということは、お前を殺してしまっても本当に良いんだな?」
僕は興奮覚めやらないといったノクタリオスに問いかける。
その言葉に反応しノクタリオスがギョロリと睨んでくる。
「俺ははじめからそう言っているはずだ。何が言いたい?」
「お前が死を強く望んだ理由は昨日知ったよ。このお前と共に古き時代を共に歩んできた『命の逆巻時計』が教えてくれた。」
僕は時計を手にする。
「・・・。」
ノクタリオスに沈黙が流れる。
「君が生まれた瞬間、君が滅びゆく世界で何を成そうとしたか。挫折、苦悩。そして信頼され家族を得た喜び。更にはそれを守れなかった悲しみ。それ故行き着いた死を望むという自然の流れを僕は知った。」
それを聞いたノクタリオスの逆鱗に触れたのだろう。
ギリィ!という歯を食いしばる音がここまで聞こえるようだった。
そしてノクタリオスから迸るマナが最大限に達する。
『死の匂い』が強烈になる。
「黙れ・・・。黙れ・・・!!!」
「僕は黙るつもりはない!君の半身なのだから!!」
それを聞いたランスロッテ様が僕に羅刹猿から得ていた魔石を投げて渡してくれる。
僕はそれを受け取ると直ぐに『命の逆巻時計』が吸収し僕が本来の身体を取り戻す。
髪の色は黒髪から色が抜け落ちたような銀髪へ。
そして顔半分には猫の顔を立てに割ったような面が現れる。
マナが全身に溢れ体中から放電現象が始まるとともに今回は今までとは違う現象が起きる。
『儂の命も多少持っていくと良い。』
玄武の加護と同時に現れていた土と石の玄武様の力から声が聞こえ、それから大量の生命エネルギーが発生したかと思うと、命の逆巻時計はそのエネルギーすらも飲み込む。
そうして僕は更にもう一段の強化を得る。
左手を肩から指先まで籠手のような物が出現しそれは黒砂で出来ているのか真っ黒でザラザラとしている。
更に左の肩口からはまるでノクタリオスの様な翼が生える。
「ふーーー。」
ランスロッテ様とレオニダスさんが僕の今までとは明らかに違う完全な姿と強大なマナと生命エネルギーに圧倒されているのが分かる。
「これは私たちはサポートに回ったほうが良さそうだ。」
「・・・だな。」
【黒砂の剣】
僕がそう唱えると握りしめていたハンドブレイカーに今までとは違う形状の黒砂で出来た刃が出来る。
それは右手に握っているハンドブレイカーと左手の黒砂の籠手の間に黒砂で出来た鎖のようなもので接合されているように見える。
「・・・行きます!」
バチチチ!バチ!!
ランスロッテ様以上にけたたましい放電現象の音とともに一気にトップスピードに乗り斬りかかる。
直前まで受けていなそうとでも思っていたのかノクタリオスは構えていたが自身に迫る斬撃を見て急に回避へと行動を変化させる。
躱された斬撃は触れる物体に切断すると言うよりは削り取るというような斬撃の性質を纏っており、直線上広範囲に渡り一気に削り取る。
重要なのは、【黒砂の剣】は剣であって剣ではない。
実態は磁気を帯びた黒砂の集合体だ。
形は流動的に変化する。
【黒砂の剣】の一撃をギリギリ躱したノクタリオスにランスロッテ様とレオニダスさんも合わせるように自身の持てる最高の一撃を放つ。
【天雷神罰の剣】
【龍殺しの一撃】
降りかかる雷を体現したかのような剣撃に加え、龍すら屠る一撃がノクタリオスを襲う。
更に僕は自身の意志のとおりに動く変幻自在となった【黒砂の剣】を隙間を縫うようにノクタリオスへと追撃を図る。
その瞬間「カチ、カチ・・・」と不思議な音が僕の耳に届く。
「ぐ!こいつら・・・!!調子に乗りやがってえええ!!!」
捌ききれないと思ったのかノクタリオスは強引に自身の持つマナを最大限放出し、無理やり僕達を一時遠ざける。
「はぁはぁ・・・。」
「あれだけの攻撃を受けてなおこの力・・・・!!」
ランスロッテ様とレオニダスさんが明らかに疲弊しているのが分かる。
「悪いが、一方的にやられるのはやはり癪だ・・・!俺もここからは全力だ!!」
ノクタリオスがそう言い放ち、魔法を唱える。
【真紅の満月の剣】
そうしてノクタリオスの手には一振りの真っ赤な剣が握られており、一振り軽く振っただけでとんでもない衝撃が起きる。
「これがノクタリオスの魔法・・・!」
「その通りだ。悪かったな、ニクス。お前にはやはり俺は殺せないようだ。このくだらない世界とともに屠ってやる!!」
『死の匂い』が一段と濃くなった時だった。
突如としてその匂いは霧散する。
「そうはさせません。」
僕の背後から聞き慣れた声が聞こえる。
【時戻し】
そうして唱えられた今まで感じたことがない魔法は僕の未だ折れて完治していなかった左手を一瞬で治し、更にノクタリオスの握っていた【真紅の満月の剣】を破壊していていた。
正確には破壊では無く無かったことにしていた。
更に僕の耳には「カチ、カチ・・・」と音が聞こえる。




