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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第一章~少年編~(全47話)

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【第8話】新しい家

アッシェとの師弟の契約を交わしてから1週間後


「本当に行っちゃうの!?ニクスが行くなら私も行く!!」


リリーが泣きながら大声で叫んでいる。


「リリー、週末の2日は戻って来るから。それに鼻水出てるよ。」


リリーの鼻水が服に付いて伸びている。


僕の冷静すぎる返答にリリーが「むー!」と怒りながら鼻水をかんでいる。


「ニクスが行っちゃうなら誰が私に勉強教えてくれるの!?」


「勉強ならシスターに見てもらえるでしょ?僕だってシスターから教わったんだから。」


再び冷静な返答にリリーが更に膨れている。


「もう知らない!ニクスのバカ!」


リリーはそう言うと部屋に引っ込んでしまう。


「あはは・・・。」


そんなやり取りをしていると、シスターからフォローが入る。


「安心してください。もちろんリリーも本気ではありませんし、ただ寂しいだけですから。」


「はい。わかっています。」


にこりと笑いながら返す。そこにアッシェが僕を迎えに来てくれた。


「おはよう、シスター。おう、ニクス。体調は戻ったか?」


「おはようございます、アッシェさん。あれからまともに動けるなるようになるまで更に3日寝込んでました・・・。」


結局、あの師弟の約束を交わした後、ニクスは全身の筋肉痛に悲鳴を上げ更に3日間寝込んでいた。

我ながら情けない。

動けるようになってからは、移動の準備とリリーの説得に時間を取られていた。


「まあ、それだけお前の身体はお前が思っているほど頑丈ではないし、まだまだガキだってことだ。」


アッシェが釘を差すように言う。


確かに僕は年齢の割に同い年程度の子どもたちよりも恵体であり、倍近い年齢の少年たちに負けないくらいそれなりに筋力には自信があった。


「これからは俺がみっちり鍛えてやるから、泣いて戻りたいなんて言うんじゃないぞ?俺はガキのお守りはごめんだ。」


皮肉たっぷりにアッシェは言われる。


「勿論です。お世話になります。」


ペコリと頭を下げる。


「まあ、そうは言っても毎週末はここに戻ってきて息抜きできるんだ。その時に泣き言は言うと良い。」


ぐりぐりと乱暴に頭を撫でるアッシェ。


「荷物の準備は出来ているな?じゃあ早速出発するぞ。とはいってもそこまで離れていないからな。」


「はい!」


歯切れのいい返事が僕から聞こえたと同時にリリーが部屋から出てきて僕へと突進に近い形で思い切り抱きつく。


「怪我だけはしないでね!歯はちゃんと磨くんだよ!それにえーっと、えーっと・・・。」


頭をフル回転させながら考えているリリーに返す。


「それはこっちも同じだよ、リリー『おねえちゃん』。」


『おねえちゃん』と呼ばれたことがことさら嬉しかったのか、にかーっと笑顔を浮かべながらニクスを送り出す。


「では、行ってきます、シスター。お体には気をつけて。」


シスターにも出発の挨拶を言うと笑顔でシスターは返す。


「毎週末、帰ってきてからのお話を楽しみにしております。くれぐれもアッシェさんにはご迷惑をおかけしないよう頑張ってきなさい。」


そう言いながら優しく僕の頭を撫でてくれる。


「ほら、さっさと行くぞ!日が暮れちまうだろ!」


アッシェの若干苛立ちの混じった様な声に身体をびくっとさせながら小走りでアッシェに付いていく。


「ちょっと待ってくれ!」


そう声を掛けてきたのはいつも僕をいじめる二人、アレク、カッツェだった。


なんだ?ここに来て更に嫌味でも言うのかな?


そんなことを思っていると、思いもよらぬ言葉を掛けてくれた。


「リリーを助けてくれてありがとう!それと・・・、『ブラン』だなんて言って悪かった・・・。」


そう言うとアレク、カッツェは頭を下げる。


想像していなかった光景に若干固まったが僕はアレク、カッツェに


「大丈夫だよ、気にしていない。それに僕がいない間はアレク、カッツェがリリーの面倒を見てね。」


「ああ、約束する。」


そんな男の友情を確認していると、やはり「むーっ!」っと膨れっ面をしているリリーの声が聞こえた気がした。その後、


「「「いってらっしゃーい!」」」


教会の皆からの声で送り出されることとなった。


その後しばらくアッシェの歩きに若干小走り気味に歩を合わせしばらく移動すると、アッシェの狩人としての作業場件住居に到着する。


なるほど、狩人の作業場が村から若干離れているのはこの匂いのせいか・・・。


そう思いながら若干顔を歪ませると、すぐにその表情にアッシェも気がついたようで、「すごい匂いだろ?」と声をかけてくる。


「慣れないうちはこの血と脂の匂いはきついかもしれん。だが、この匂いは冒険者をやる上では欠かせない要素でもあるからな。」


そうアッシュが言うと当然僕は覚悟していたので


「勿論です。素材を剥ぐ時に血と脂の匂いは絶対ですもんね。わかってます。」


そう、淡々と答えるニクスにアッシェは驚きを隠せない。


「本当にお前、6才なのか?冒険者になりたてくらいの大人だって怯むくらいの環境だぞ?」


そう、思わず突っ込んでしまうくらいニクスは冷静であった。


「冒険者になるって決めてからは関連する本を読んで当然頭には入っていますから。それに・・・」


僕がそう言いかけると


「『例の匂い』か?」


アッシェが昨日のやり取りでの僕が言っていた話を思い出したようだ。


「はい、あの時、フォレストボアと対峙して、とどめを刺す瞬間に匂ったあの匂いはこの場所よりも遥かに強い匂いでしたから。」


未だにあの強烈な匂いを鮮明に覚えている。


「ふむ・・・」


アッシェは無精髭を撫でながら言う


「まあ、今はそれについて考えてもわからないことだらけだろう。そのうち分かるかもしれないし、分からないかもしれない。今はそんな曖昧なことを考えるより・・・。」


そう言いながら家の中へと入っていくアッシェ。


「こっちへ来たらどうだ?ここが今日からお前が冒険者として旅立つこと日がくるまでの間の『新しい家』だ。」


『新しい家』と言われ、一気に実感が湧き鳥肌が立つのを感じた。


「お世話になります!」


そう言うと


「ただいま、だろ?」


そうアッシュに言われ僕は笑みを浮かべながら言う。


「ただいまです!」



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