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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第二章~アルヴェリオン共和国編~

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【第77話】12才の誕生節

気術の訓練は予想以上に早く進み既に『巡』を完全に体得し、更に気術を纏った流々舞も一定速度で行える程度まで成長していた。

休みの日はいつの間にか『煮汁会』と呼ばれるようになりすっかり定着し、最初は抵抗感を示していた者たちも次第に話を聞きつけいつの間にか参加するようになり、更にそこから交流が生まれレオニダス率いる国の他の支援もスムーズに届けることが可能になっていた。

季節は巡り春になり僕は12才の誕生説を迎えようとしていた。


「君も12才になるんだねえ、ニクス君」

ランスロッテ様は食事を食べながら染み染みと話をしている。


「そうですね。お陰様で無事にまた一つ歳を重ねることができそうです。」


「それにしても本当にお前には驚かされてばかりだな。とんでもない速度で気術を身に着けたかと思えば、俺でも難儀していた弱者達への支援のきっかけをあっさり作りやがった。それもこの国に来てようやく1年近くだ?全く。おかわり。」


レオニダスさんも今晩の食事はアーテル家で食べている。

たまに様子を伺いに来るという名目で家に食べに来ているが純粋に食事目当てな気がしている。

何せ食べる量が半端じゃない。


「少しは遠慮したらどうかね?レオニダス。」


「良いじゃねえか。こんな旨い飯をお前一人で独占しようというのがそもそもの間違いだ。おう、ありがとうよ。」

僕はおかわりの皿をレオニダスさんへと渡す。


「食事は皆で食べたほうが美味しいですからね。それは煮汁会でも証明されたようですし。」


「ああ、あの煮汁会は本当にすげえよ。俺も仕事がないタイミングで顔を出すが日に日に人が増え、更にはこの国の遠方の村からなんかからも開催に向けて支援して欲しいという声があって、使者を出してるくらいだ。」


「そんな規模感になってるんですね。驚きました。」


「所でだ、ニクスお前最近流々舞も普通にこなせるようになってきたらしいな?」


「普通かどうかはわかりませんが、とりあえずこなせるようにはなりました。」


「お前それがどんだけのことか理解してないのか?」

レオニダスさんが呆れたように言うが実はそれについては他の師範代達から言われて耳にタコ状態だった。


「知ってますよ。毎日恨み節のように師範代達から聞かされてますから。」


「がはは!それはそうか。まあ、恐らくだがそろそろ声が掛かっても可笑しくはないか?」

レオニダスさんがそう言うとランスロッテ様は複雑な顔になる。


「さてそれはどうなんだろうな。仮に声がかかっても素直に受けさせるべきか、辞退させるべきか悩ましい所だ?」


「何故辞退なぞさせる?素直に受けさせればよかろう。」


「通常の流れであればそれは名誉あるべきことだろう。だがこの子達は異質だ。下手に上がり過ぎると今後の対応に混乱が生じるだろう。」


「・・・一理あるかもな。」

二人して考え出してしまったがどうやら僕とレビンの今後の扱いのようだった。


「僕とレビンの今後に何があるんですか?」


「ああ、すまないね。昇段の話しさ。」


「昇段ですか?」


「ああ、君は今段位で言えば黒帯、つまり気術の門を開けたという状態になっていて扱いは門下生だ。」


「そうですね。」


「だが、今君たちの状況は他の師範代達と同程度だと言うことは認識しているね?」


「うーん、まあ師範代達と同じ事をしているということはそういうことなんですかね?」

僕は普段の光景を思い浮かべてみる。


「そこが問題なんだよ。お前は門下生でありながら師範代と同じ工程を行っている。つまり昇段して門下生から師範代に格上げするかどうかの瀬戸際なんだよ。」


「なるほど。確かにそれは問題になりそうですね。昇段のお話って強制力があることなんですか?」


「いや無い。だが普段であれば昇段は名誉なことであり断るという事辞退が選択肢に今までは入らなかったというだけだ。」


「では断っても良いんですね?」


「断るつもりか?」


「はい。断ります。」

僕はきっぱりと言うと二人は驚いた顔をしている。


「何故だい?」


「単純に経験不足だからです。僕は単に気術と相性がいいということもありますが魔人という身体のお陰で異常な回復力があります。それに物を言わせてかなり無理をして訓練をしても身体が強制的に回復させてくれるので今の速度でもやっていけています。本来であれば十年以上掛かってようやく立てる場所に僕は1年足らずで立てているのはある意味ではズルしているからなんですよ。」


「ズルってお前な・・・。」

レオニダスさんが呆れたように言うが事実は事実だ。


「僕は成長もしたいと思っていますが経験を積みたいのです。経験を積むには上に立つよりも下に居たほうが学べる機会や経験を得る気かは多いと思っています。なので大変名誉なことだとは思うのですが昇段のお話は断りたいと思います。」


「全く君というやつは。わかった、総師範(マスター)へは私からその旨伝えておこう。」

ランスロッテ様が口添えしてくれることとなり翌日早速話してくれたようであるが僕は総師範(マスター)より呼び出しを受けることになってしまう。


「おいおい、なんで俺様まで呼び出しなんだよ・・・。」

レビンは不満で一杯というような顔をしている。


「知らないよ。そもそも僕だって何で呼び出されてるんだか知らないんだから。」

とぼとぼと歩いていき総師範(マスター)の部屋の前に着く。

この部屋に来るのはエレインのことで呼び出されて以来だった。


「失礼致します。ニクス及びレビンです。」


「うむ。入りなさい。」

総師範(マスター)に許可が出され入室するとランスロッテ様も部屋にいる。


「失礼します。お呼びでしょうか。」


「座りなさい。」

そう言って促されたので僕達は座ると総師範(マスター)は無言で僕達の目をじっと見つめる。

暫く沈黙の後、総師範(マスター)は語りだす。


「ランスロッテに聞いた。何やら昇段の話があったとしても断るとな?」

僕はあれだけ決意を昨日語っていたにも関わらず、総師範(マスター)に首に刃でも押し付けられているようなプレッシャーに襲われるがなんとか言葉を絞り出す。


「はい。私はまだまだ未熟故、教えを頂く立場で有り続けたいと思う次第です。」


「ふむ。困ったのう。実は似たような話があってな。」


「似たようなお話ですか・・・?」

僕は何のことかわからず思わず聞き返す。


「エレインじゃよ。あやつももう一度学び直したいということで現在持っている師範代の段位を返納し、門下生として学び直したいと言うて来てな。」


「エレイン師がですか・・・?」


「うむ。どうやら君たちの姿を見て自分はまだその器ではないと考え直したらしい。そして今回のお前たちの話しをランスロッテが持ってきた。そうなるとエレインの話も受けざるを得ない状況になってくる。」


総師範(マスター)を困らせるつもりは有りません。僕は僕の背丈に会う立場を欲したただの我儘に他なりません。総師範(マスター)が『決定した事柄』だと申されるのでしたらばそれに従うまでです。」


「ニクスよ。本当に感謝する。お前にはいつも損な役回りをさせる。」


「いえ、僕はお世話になっている身です。異を唱えるつもりも混乱を持ち込むつもりも有りません。」

僕はそう述べるとランスロッテ様は苦虫を噛み潰したような顔になるのを僕は見逃さなかった。


「異議があります。」


「うむ?なんだランスロッテ。」


「仮に昇段試験をされるというのであれば、その相手は私にさせて下さい。」


「・・・本気か?」


「私がこの様な事態で冗談を言うとでも?」

総師範(マスター)とランスロッテが睨み合う。


「わかった認めよう。昇段試験はこの後すぐに行うことにしよう。」


「ありがとうございます。」

そう言ってランスロッテ様は頭を下げる。


「ニクス君、レビン。私が言いたいことが分かるね?」


「・・・。はい。」

こうして僕の師範代への昇段を掛けてランスロッテ様との試験が行われることになる。

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