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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第二章~アルヴェリオン共和国編~

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【第75話】ごっちゃ煮スープ

僕の出した案が両方とも受け入れられ、『炊き出し』と『慰霊碑』については大統領直轄案件としてレオニダスさんが指揮しサポートとして総師範(マスター)率いる道場の有志の人達も手伝いとして入ってくれることが決定する。

最初の炊き出しについては5日後の休みの日が設定される。

かなり人数が想定されるということで場所についてはレオニダスさんが用意してくれるという。


総師範(マスター)も早々に動いてくれ、その日の内に全師範代を集め話をしてくれるとのことだった。

予想していなかったのはその全師範代達の中に僕も呼ばれたということだった。

「うー・・・。流石に緊張します・・・。」


「大丈夫、大丈夫。ニクス君なら問題ないって。」

ランスロッテ様はニコニコと嬉しそうだ。


「なんでそんな嬉しそうなんですか?」


「そりゃあ、自分の子供達がこれだけ素晴らしい案を提出し、それを形にしようとしているんだ。親として誇らしいじゃないか。」


「もー。いざとなったらランスロッテ様も手伝ってもらいますからね。」


「構わないさ。ふふ。」


そうして僕、レビン、そしてエレインが総師範(マスター)に呼ばれ師範代達の前に立つ。

「皆のもの、良く集まってくれた。今日集まって貰ったのは今後毎週の休みの日に行われる新たな行事についてだ。まず経緯を話す。知ってるものも知らないものも居るとは思うが話には聞いたことはあると思う。羅刹猿についてだ。」


その『羅刹猿』という単語が出た途端ざわりと師範代達が声が出る。


「そう、あれは約20年近く前のことだ。奴が同士達を無惨に殺し回っていた時、偶然にもこの国を訪れていたランスロッテが討伐したあの羅刹猿だ。あの時はランスロッテ以外は止めることが出来ず、結果100人を超える死傷者を出してしまった。」


師範代達のざわめきは更に大きくなる。

ああ、もしかして道場とランスロッテ様の最初の接点てこの羅刹猿なのかな?なんて考えが頭をよぎる。


「そしてまたその羅刹猿が現れた。だがそれは今回は人的被害は出すこと無く討伐することが出来た。それも誇らしいことにこの道場の者たちによってだ。今回はランスロッテ及びエレイン、ニクスそしてレビンが討伐に参加し、無事その役目を果たした。」


おおお!と歓声が沸く。


「更にこの者たちは討伐に際し発生した金銭を受け取ること無く、次の要求を大統領であるレオニダスと約束を取り付けた。一つ。前回被害にあってしまった者達への追悼と、今回討伐した金剛猿及び羅刹猿の供養の為の慰霊碑を作ること。一つ。毎週末の休みの日、賛同者のみに手伝ってもらい炊き出しを行い、主に貧しいものや怪我や病気で満足に食事を取れないものを中心に参加してもらう。本道場より手伝いとして調理補助を主に人的整理、警備等を募る。なお希望者については金子は出ないが食事が振る舞われる。」


ざわざわと再び師範代達が話し始める。


「なお、先程も言ったようにこの案はここにいるニクス、レビン、エレインにより提出され直接レオニダスが受領し先導するものであり私も賛同した。これは本来『武』を極める我らの仕事ではないかもしれんが、『心』を育てるうえでは重要なことだと思っている。無理強いはしない。門下生にも話をしてもらい協力してくれるものを募ってはくれんだろうか?よろしく頼む。」


総師範(マスター)が道場内で教え子たちにお願いをするのは初めて見たかもしれない。

他の者達も同様にその様な姿を見たことがなかったのかも知れない。

師範代達に沈黙が流れる。


だがその沈黙は少しの間だけだった。

何処からとも無く声が聞こえ始める。

「いいな!」


「やってやろうじゃねえか!」


「心を育てるか。たまにはこういうのもいだろう。」

等など肯定的な話が聞こえてくる。

入りとしては上々だ。


「ニクスよ。ここからはお前が具体的な話をしてくれるか?」

そう言い総師範(マスター)が話しかけてくる。

うう、やっぱしこうなるのか・・・。


「はっ!失礼します。」


そうして僕は師範代達の前に行き話を始める。

話というより、アイデアだった。

「まず協力者の方には話を広めていただきたいです。内容は『この街に対しなんでもいいので協力的なことをすれば毎週休みの日に食事が提供される。』と言った内容です。あくまで施しではなく、協力したことへの対価としての食事の提供となります。」


「協力というのは具体的に?けが人や病人では出来ることが限られるのでは?」


「なんでも良いのです。例えば街中に落ちていたゴミを一つ拾ったですとか、困っている人を助けたでも良いです。けが人や病人の方は、例えばですが『怪我や病気と戦った。』というのも十分な理由になると思ます。なんでも良いのです。そしてそれは誰かが実際に確認したものでなくても自己申告で良いのです。要はきっかけが欲しいだけです。」


「肝心の食料はどうなる?」


「レオニダスさんが各農家に呼びかけをしてくれ、屑野菜などの市場に出回らないものや売れ残ってしまってまだ食べれるが廃棄になりそうなものを今回の羅刹猿の報奨金で買取それを使います。」


「どれくらいの規模感を予定しているのだ?」


「それについては全くの未知数です・・・。すみません。全く集まらないかも知れないですし、集まりすぎるかも知れないです。集まりすぎた場合は先程総師範(マスター)よりお話があったように貧困で苦しんでいるもの、病気、怪我で満足に日頃食事が取れていないものを優先とします。恐らくそれならば問題はないはずです。」


僕はより確実にするために何かが必要だと考え頭を捻る。

するとエレインがアイデアを出してくれた。


「炊き出しの案内をした後、希望するものは2日位前に道場や役場などに参加する意思を伝えてもらってある程度の人数把握をするのはどうかしら?」


「なるほど。それは良いと思う!役場だけでは恐らく抵抗感もある人がいると思うので道場でも受け付けるというのも凄い良いアイデアだと思います!エレイン師!」


僕が興奮しているとエレインも照れているがそこに質問が飛んできた。

「道場で受け付けるのは構わないが、誰が担当するのだ?休みの日であれば有志のものでいいとは思うが、稽古中は無理なのではないか?」


「そこはレオニダスさんに頼めば良いんです。役所の人を借りてきて、出張所にするんですよ。」

僕は当たり前のように言うが、やはりこの国のものからすればレオニダスさんは頂点に立つもの。

大統領なのである。

気軽にそんな事を頼んでいいものなのかと声が上がるがそこはランスロッテ様の出番だ。


「レオニダスさんへの陳情は私の保護者でもあり、レオニダスさんとの古い友人であるランスロッテ様にお任せすれば良いんです。そうですよね、ランスロッテ様?」

僕は満面の笑みでそう聞くとランスロッテ様は苦笑いしていた。


「レオニダスへの交渉は私が行うので心配しなくて良い。この件は大統領であるレオニダス肝いりの政策になる可能性が極めて高い。その様な事業に最初からこの道場が参加できるというのは極めて名誉なことであると私は考える。もし何かこの件に関し疑問や陳情があれば私を通して欲しい。」

流石は僕の保護者だ。

非常に頼もしい。


「では、私たちからの報告は以上である。是非とも成功させようぞ!」

総師範(マスター)が声を上げると一斉に「おう!」という賛同の声が上がる。


その後はランスロッテ様が早速動いてくれたようでレオニダスさんの元から連絡や調整、受付係などが派遣されてくる。

門下生たちは朝のランニングの際に大きな声で呼びかけを行い、周知を徹底する。

こうした情報は人から人へ、徐々に拡大していきそして受付が開始となった開催2日前には道場の前には沢山の参加を希望する人達が次から次へと訪れ、エレインの案は正しかったことが証明される。

それを見てエレインは感動で声を失っている。


「エレイン、見て下さい。こうやって自分一人だけでは解決できないことも一人一人が案を出し合い、努力することで人は繋がることが出来るのです。エレインの案も大変素晴らしいものだと思います!成功させるために頑張りましょうね!」


「ええ・・・!私頑張るわ!」

エレインの決意が固まりエレインも受付の手伝いを率先して行っていた。


「ニクスよ。本当に感謝しておる。」

そこに、すっと総師範(マスター)が現れた。

僕は姿勢を正そうとするも止められる。


「ああ、良い。そのまま聞いてくれ。」


「はい。」


「これは総師範(マスター)ではなく一人の祖父としての言葉だ。きっかけをくれたこと、本当に感謝している。」


「いえ、僕は自分が納得できるように動いたまでです。結果を出したのはエレイン自身なので褒めるならこの炊き出しの後、エレインを目一杯褒めてあげて下さい。」


「そうさせて貰うかの。では当日を楽しみにしておるぞ。」


「はっ!」


そうして炊き出し当日、大統領であるレオニダスも直接参加するとのことで来場する。

「おはよう、諸君。今日は天気にも恵まれた。それにこの場を手伝い盛り上げてくれる皆を誇りに思う。私も参加し手伝わせて貰うつもりだ。場合によっては今後も毎週継続して行う予定となる行事だ。今日はよろしく頼む!」


「おおおおーーー!!」

一際大きな歓声が上がり炊き出しが開始になる。


食材も予定通り廃棄になるが食べられるものが大量に買い付けられたので十二分に揃っている。

農家的にも今までは自身で消化しきれない分は完全に廃棄となっていたものに値段がついたため大変ありがたがられているといい、更に大統領の肝いりということで商人達が進んで慈善事業として調味料を提供してくれたという。

こういう時はごっちゃ煮のスープにするのが一番良いということで、道場で使う大きな寸胴を何個も使い大量のスープが出来る。

会場の案内も役人と有志で参加してくれた門下生たちが案内や警備をし、普段はこう言った類の施しを受けたくないといった人達も口々に「俺はゴミを拾ってきたんだ。」や「私は親の面倒を見てきた。」等自身のことを説明してくれながら並んでいた。


出来上がったスープは元は屑野菜だがスープになればもう何が何だかわからない。

とにかく具だくさんなスープがドンドンと出来上がる。

普段この様な豪勢なものを口にしたことがない貧しい者たちは口を揃えて「ほ、本当に貰って良いのかい?」と物怖じしていた。

そこにレオニダスさんが現れ高らかに言った。


「ここに居るもの達はこの国を良くしようと、自分たちで出来る範囲で努力をしてきた者たちだ。今回のこの食事はその対価であり貰う権利がある!十二分に食っていってくれ!!」

そう宣言したことで不安を浮かべていた者たちの表情は和らぎ、あるものは笑みを浮かべながら、あるものは泣きながら美味しそうにそれを食べている。


ある程度街の者たちに配り終えた後、有志の手伝いの者たちにもごっちゃ煮スープが配られ僕達も食べることにした。

「それにしても本当に具だくさんになりましたね!」

僕がそう言いながら熱々のスープを飲み、レビンに野菜を取り分けてやる。


「本当に美味しいわ・・・。」

そう言いながら食べているエレインは目に涙を浮かべながら食べている。


そこにレオニダスさんも自分用のスープを持ちながら参加する。

「よう、お前ら。見ろ!大成功じゃないか?それにスープも旨い!」


「ええ、本当に美味しいですね。」


「全く俺ですら難儀していたものをこうも簡単に行っちまうとはな。」

レオニダスさんがスープを見つめながら話す。


「いいえ、決して簡単じゃありませんでしたよ。今後これが毎週上手くやれるかどうかは主催であるレオニダスさんの力量に掛かっていると思います。道場としても手伝えることは限られています。」

僕が冷静に返すとランスロッテ様はスープを食べながらレオニダスさんに自慢している。


「どうだ?私の自慢の子どもたちは。凄い子達だろう?」


「否定はしねえよ。全く、お前には勿体ないくらいだ。まあ、今はこの美味いスープをゆっくり味わおうじゃねえか。」


こうして初開催となった炊き出しは成功に終わる。

今回の炊き出しは『煮汁会』と呼ばれる毎週休日の日の恒例行事となり、今回開いた場所だけではなくアルヴェリオン共和国各地で開かれる伝統行事になったとか。


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