【第74話】報奨金の扱い
「ふう・・・。」
僕が羅刹猿を倒し他に敵対するものが居ないことを確認すると、自然と命の逆巻時計が解除され僕達は3つの存在の別れていた。
「お疲れ様。ニクス君、レビン。それにエレインも本当に良くやった。それにしても、ニクス君とレビンは体調に変化はないかい?」
ランスロッテ様が嬉しそうに話しかけてくれる。
「そういえば、今までとは雲泥の差で今のほうが楽ですね。」
「そうか。やはり君のあの姿と呼吸法、そして気術は相性がいいみたいだね。」
「その様です。」
「さて、後はここの処理だな。」
そう言ってランスロッテ様は見たことがない道具をだしそれを使うと3つの小さな花火の様なものが天高くあがる。
「これで良し。」
「今のはなんですか?」
僕は初めて見た道具に興味津々でランスロッテ様に聞く。
「信号弾だよ。3つの合図は『状況終了、確認と手伝いを要請』の意味だね。」
「へー!」
暫くするとその信号弾を見た他の冒険者たちがどこからとも無く現れる。
「うお!これはすげえな。」
「羅刹猿があんな状態に・・・。」
「どんな戦いだったんだ?」
等など口々にしながら状況を確認している冒険者たちだった。
「君たち、私は白金級のランスロッテだ。申し訳ないがやるべきことはやったので後処理を任せていいかな?勿論手伝ってもらった人には後で報奨金より手間賃を出す。」
そう言うと冒険者たちの顔色が代わり、一気にお仕事に取り掛かる様子が見て取れた。
「さ、ここは任せて私たちは帰ろうか。」
「「はい!」」
僕とエレインは声を揃えて返事をする。
街まで戻り冒険者ギルドに着く頃にはお昼ごろになっていた。
「さて、これから非常に面倒だが報告がある。君たちは当事者だ。付いてきてくれるかな?」
「わかりました。」
そうして僕達は冒険者ギルドのギルドマスターより色々と質問を聞かれるが、金剛猿と羅刹猿を仕留めたのが僕とエレインであるという事を告げると唖然としていた。
「ラ、ランスロッテ様は何もしていなかったのですか・・・?」
「ああ、私はアドバイスをしていただけで実質何もしていないかな?」
「では冒険者では無いこのお二人で?」
「まあ、問題はないよね?冒険者の資格を持つものの監督下で行われた討伐だもの。規約には抵触してないよね。それに報奨も貰えるはずだ。」
「た、確かにその通りですが。しかし冒険者でもない素人のお二人が・・・。」
「冒険者としては素人かもしれないが戦闘に関しては私とともに日々訓練を積んでるものだ。実力はあって当然ではないかな?」
「わかりました・・・。では報奨金の扱いですが素材の買取と討伐報奨金から今手伝いで後処理を行っている者たちの手間賃を差し引いたものを渡す、でよろしいですか?」
「基本はそうだが、羅刹猿の魔石はそのまま現物で渡して欲しい。それ以外はそれで良い。」
「畏まりました。ではその様に。明日の同じ時間帯には全て完了していると思いますので取りに来ていただいても?」
「そうさせてもらう。じゃあ帰ろうか。皆。」
そうして僕達は道場への帰路につく。
道場に帰ると門付近で総師範と共に意外な人物が僕達を向かえてくれる。
レオニダスさんだった。
「よお!話は聞いたぞ!良くやったな、お前ら。お手柄だ。」
「相変わらず君は耳が早いな。」
「これでもおれはこの国の頂点なもんでね。この国の情報は一番最初に入ってくるんだわ。」
そう言いレオニダスさんは笑っていた。
「エレインよ。大変だったな。」
総師範が静かにエレインの心配をしている。
「お祖父様・・・。」
「お前が言わんとしていることは理解している。」
「そうですか・・・。」
「ニクス、レビンお前たちも大変ご苦労だったな。この後少し話を聞かせてもらうが良いかな?」
「はい。実は僕も総師範にご相談が。それにレオニダスさんが居てくれるならなおのこと助かるのですが。」
僕がそう話を切りだすとレオニダスさんは興味を示す。
「ふむ。いいぜ?この国の危機を救ったかもしれない奴らの話なら聞いてやる。さあ、行こうか。」
そうして僕達は道場内でゆっくり出来る所で腰を掛ける。
「それではまず報告から聞こうか。」
総師範が話を切り出し、ランスロッテ様が見たままの状況を説明する。
「そうか・・・。やはり羅刹猿であったか。それにしてもそれに対処したエレインとニクス、レビンがほぼ無傷とはな。正直驚いた。」
総師範が素直に僕達の状態を見て驚いている。
「それは私も正直驚いていますよ。まだ生まれたばかりだとは言え、あの集団戦闘をここまで綺麗にこなせるとは思ってもいませんでした。」
「ふむ。それにしてもエレイン。お前やたらと気分が落ち込んでるじゃねえか?」
レオニダスさんがエレインに話を振る。
「そ、それは・・・。」
「相手が猿だったからか?気にすることはない。あそこで放置しておけば以前、羅刹猿が現れた時のような災害級の被害が出ていた可能性があるんだ。それを未然に防いだと思えば良い。」
珍しくレオニダスさんが慰めているがそれでも彼女の顔は晴れなかった。
「そういえばニクス。俺達になにか話があるんじゃなかったのか?」
レオニダスさんが先程の僕の言葉を思い出したようで話を変えてきた。
「ええ。まず確認なんですが、ランスロッテ様。今回の報奨金の扱いはどうなりますか?」
「うん?そうだね。私は実質何もしていないからニクス君、レビン、そしてエレインで三等分して渡そうかと思っていた。」
「やはりそんな事を考えていたんですね。今回の相手を考えると結構な金額になるのでは?」
「そうだね。今回は緊急討伐になったのも大きい。正直君たちのような年齢が持つ金額としては不釣り合いな金額だと思ってくれて良い。」
それを聞き僕とレビンは顔を合わせ頷き合い、総師範とレオニダスさんに話をする。
「僕とレビンはその受け取ったお金を全額社会のために使いたいと思います。」
それを聞いた大人たちは表情を変える。
「いやいや、お前な。その金はお前達が受け取る権利があるんだぞ?」
「理解しています。ですがどう使うかは当人たちに委ねられますよね?」
「それはそうだが。で、具体的にどう使うつもりだ?」
僕は少し考えた後、二つの使い道を提示する。
「一つは毎週休みの日に貧しい者たちを中心に、炊き出しを行えませんか?その素材費用及び手伝ってくれた人への賃金として使用したいと思っております。」
ランスロッテ様は何も言わずただ嬉しそうにそれを聞いている。
声を出したのはレオニダスさんだ。
「な!?お前、自分の金を他者への施しに使うってのか?」
「はい。」
総師範も理由を聞いてくる。
「そこに至った話を聞いてもいいかな?」
「はい。元は僕の育った村で行っていた毎週末に行っていた教会主催の行事です。貧しい教会でしたが、毎週末になると農家の方々に協力してもらい市場に下ろせなかった不揃いな野菜や余ってしまった食材を持ち寄りそれを調理して村の皆で食べていました。そこには病気や怪我等で働けなくなった者たちも参加し、貴重な食事だと言ってくれていました。」
僕はあの時の光景を思い出しながら話を続ける。
「この街で暮らし始めてからも、ちょくちょく街で病気や怪我で満足に働けないであろう人達を見かけます。恐らくその人達は満足に食事も出来ていないのではないでしょうか?」
レオニダスさんがそれを歯痒そうに肯定する。
「その通りだ。事実俺は幾度となく介入しようとしたが予算の問題やそもそもやり方などで躓いてしまい、結局のところあまり上手くいっていない。」
「それは一方的に施しを押し付けようとしているからではないですか?」
僕がズバッと切り込む。
「!?」
「施しを受けるということは自身の環境を受け入れるということになります。それを受け入れる事が難しい人もいるはずです。ですから僕達の村では一方的に施しを行うのではなく、例えば農家でしたら野菜を一個でもいいから持ち寄るや、怪我人や病人などは出来ることでいいので手伝ってもらい、その手伝いの対価として食事を提供していました。」
レオニダスさんは神妙な面持ちで考える。
「・・・。確かに一方的な施しでは受け取りにくいものであっても対価であれば自身の貰う権利を確立できるから同じ食事であっても考えが変わるということか・・・。」
「はい。なので総師範にお願いしたいのは普段調理を行い慣れている者たちでこの考えに賛同出来る者を貸し出して欲しいということ。レオニダスさんに協力してほしいのは金銭の管理及び場所の提供、そしてレオニダスさんの名声を貸して欲しいです。」
「ふむ。賛同出来る者たちだけで募れば強制ではなくなり、気持ちよく手伝いができるうえに賃金が手に入る、か。」
総師範が感心したように返答する。
「はい。」
「場所の提供は出来るだろう。だが金銭の管理と俺の名声はどういうことだ?」
レオニダスさんが頭に?を浮かべながら質問してくる。
「金銭の管理は、これを今後お金が続く限りでいいので国主導で行ってほしいと考えるからです。どれだけ僕とレビンのお金で続けることが出来るかわかりませんが、仮にレオニダスさんが大統領の座から降りて後任の方が付いたとしても、良い結果が出ていれば続けてもらえると思うからです。」
「なるほど。」
「名声を利用するというのは、後ろ盾としてこの国の頂点であるレオニダスさんが主導しているということがわかれば、これを利用した悪事は出来ないでしょうしそれに話題性も有り集まりやすいのではないかと思いったんです。」
「・・・。お前はそれで良いのか?」
「というと?」
「今の計画にお前の名前がまるで入っていないじゃないか。これだけの事をするのにお前はその名誉を受けるということは考えないのか?」
「僕は皆さんが美味しそうに食事をしてくれればそれだけで十二分です。」
僕は笑顔で返す。
「どうだ?レオニダス。私の子は素晴らしいだろう?」
「ああ、お前には勿体なさすぎるよ。良いだろうその話乗った。」
「私も協力させてもらおう。調理だけではなくトラブル防止の為の警備も必要ではないか?」
「ええ、そうですね。最初の内はトラブルが発生しやすいと思いますので慣れるまでは必要かもしれません。当然賃金も払います。」
「うむ。だがその賃金だが、同じ食事で提供というのはどうかね?」
「それで良いんですか?」
「ああ、良い経験となるだろう。」
総師範は笑顔で答えてくれる。
「私も・・・、私もそれに参加させて下さい!」
エレインがここまでの話を聞き、自身も参加したいと言いだす。
「お金もニクス達と同じ様にレオニダス様にお預けします。」
「それで良いのか?」
レオニダスは意外そうな顔をして確認する。
「はい!」
エレインは真っ直ぐ前を向き返事をする。
「・・・。わかった。全面的に協力しよう。それでもう一つというのは?」
レオニダスさんは使い道のもう一つの内容を聞いてくる。
「慰霊碑はこの国でもありますよね?」
「ああ、ある。」
「では以前の羅刹猿の災害で亡くなった方の慰霊碑とともに今回僕達が討伐し、命を奪う形になった金剛猿と羅刹猿の慰霊碑を小さくてもいいので作ってもらえませんか?」
「理由は?」
「慰霊碑があれば過去にそういった災害で実際多くの命が奪われたという事実が残り、今後の予防策になると思うんです。それに今回討伐した金剛猿や羅刹猿たちはまだ人や村などを襲う前でした。実質僕達はそれらの罪のない命を奪った形になります。それを弔ってやりたいと考えました。」
「ニクス・・・。」
僕の提案にどこか安堵したような表情を見せるエレイン。
「全く本当にとんでもない子どもだ。わかった、それも作ろう。」
こうして慰霊碑が作られるとともに今後毎週末に、道場及び国主導で炊き出しが行われることになった。




