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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第二章

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【第73話】羅刹猿

僕達は支度を終え道場にエレインを迎えに行くといつもと装いが違うエレインが総師範(マスター)と共に待機していた。

総師範(マスター)はランスロッテ様を見るなり聞いてくる。

「ランスロッテ。大昔の猿というのは羅刹猿のことか?」


「ええ、斥候の報告書を読みましたがまず間違いないかと。」


「なるほど・・・。エレインのこと、頼んだぞ。」


「ええ。お預かりします。では。」


そう言い僕達はランスロッテ様を先頭に一気に目的地まで駆け足で向かう。

最近では馬などの騎乗生物に乗るよりも自身の足で走ったほうが早いくらいだし、呼吸法も相まってそれでも息切れや疲労などはこの程度ではほぼ無い状態だった。


「走りながら説明を行う。一度しか言わないのでしっかり聞き取るように。」


僕とエレインは同時に返事をした。


「「はい!」」


「羅刹猿とは元々、『金剛猿(こんごうえん)』と呼ばれる獣だ。基本的にこの金剛猿は群れで行動するが、これが長き時間を得て力を蓄え更にこの金剛猿同士でリーダーを力によって決めるのだがそのリーダーとなった一頭が進化をし羅刹猿となる。」


僕はそこまで聞きランスロッテ様に質問をする。


「ということは群れで行動している可能性が高いのですか?」


「良い質問だ。その通りだ。羅刹猿の周りには無数の金剛猿がいる。なので基本的には単騎で挑むよりもパーティで挑むことが前提となる。もしくは広範囲の魔法で一気にケリを付けるかのどちらかとなる。」


「なるほど。」


エレインもそれを聞き質問していた。


「では私たちは金剛猿の討伐ですか?」


「そうだな・・・。状況によるとだけ言っておこう。」

ランスロッテ様が何かを言いかけたが途中でその話は終わる。


「羅刹猿についての話は以上だ。更に速度を上げて移動するぞ。」


そう言い更に僕達の移動速度は上がる。

どんどんと景色は代わり、木が生い茂る山間部へと突入する。


「目的地まで後少しだ。気を緩めるなよ。そろそろ奴らの『歓迎』が待ってるはずだ。」


「歓迎?」

僕がそう口にした時だった。

一瞬にして気配が変わるのを感じる。


「さあ、お出ましだ。」

ランスロッテ様がそう言うとどこからとも無くとんでもない速度で人の拳大位の石が飛んでくる。


「おわ!」

僕達とエレインは驚く。

だがそれは普通の一般人では脅威なのかもしれないが僕達にとっては『ただ急に石が飛んできた。』位の驚きであり躱すことも出来るし叩き落とすことも出来る程度のことだった。

そうして対処をしていると悔しそうな猿どもの声が聞こえだす。


「キキーーー!!」

すると石では僕達にどうにか出来ないと思った猿たちが姿を表す。

それは一頭一頭がかなり大きく、成人した人間程度の大きさの少し金色掛かった毛を纏い、目に独特の赤い光を宿す猿達だった。

その数はかなり居るようだった。


それを見たランスロッテ様が僕達に声を掛ける。

「まずは君たちのお手並み拝見だ。羅刹猿のがいる状態の金剛猿達は近い内に人を襲い出す。そうなる前に殺せ。」


「行きます。」

僕はそれ聞きハンドブレイカーを手に一気に金剛猿達に突っ込み斬り伏せる。

僕の一撃は以前とは比べ物にならないぐらい洗練され無駄のない動きが出来ているのを実感する。

何頭かが僕に同時攻撃を仕掛けてくるがどれも『死の匂い』はほぼ無くそれに猿たちの動きも手に取るように見える。

これが道場での訓練の成果なのかと自分でも驚いた。


一方エレインはと言うと非常に困惑している様子だった。

攻撃はぜず回避行動のみに留まっている。

僕はそれを見て異常を察知するもランスロッテ様に静止させられる。

「ニクス君!手を出してはいけない。これは彼女の問題だ。」


「ですが!」


「君は目の前の問題に集中しなさい。」

そう言われ向き直ると、先程斬り伏せた猿たちの倍近い数の猿たちが僕を狙っている。

僕は呼吸を整え、ランスロッテ様の言う通り集中することにする。


ランスロッテ様はエレインに話しかけていた。

「どうした、エレイン?やる気がないなら帰ったほうが良いぞ。」


「わ、私は・・・。」


「こいつらが『猿』だからか?まるで同胞を傷つけるようで怖いのか?」


ランスロッテ様の言葉がエレインに刺さる。

「はい・・・。」


「では君は結局のところ、真の同胞を助けることは出来ないな。」


「え?」


「さっきも言ったがこいつらは金剛猿だけであればただの獣だ。駆逐する意味はない。だが羅刹猿が居るならば話は別だ。人を村を、そして街を襲い出すぞ。私が以前羅刹猿を討伐した時は村が3つ完全に破壊され人的死傷者数は軽く100人を超えていた。君も話くらいは聞いたことがあるはずだ。」


「・・・!」


「こいつらは私利私欲のために人を玩具のように扱い殺すような畜生だ。これを逃せば、君の守りたいと思う人達を殺される結果になるが良いのか?」


ランスロッテ様に言われエレインが決心したかのように目の色が変わり、回避行動から明確な攻撃行動へと変わる。


僕とエレインが合わせて20頭ほどを仕留めたときだろうか。

一気に空気が変わる。

明確な殺意とともに現れたそいつは身の丈で言えば5~6m近くは有り、筋骨隆々とした身体、全身が金の体毛で覆われ、更には肩口から更に2本の腕が生えた異形だった。


「さあ、本命のお出ましだ。」

ランスロッテ様がそう言ったことでこいつが羅刹猿だということがわかる。


「私は今回あくまで補助だ。可能なら君たちだけで対処してご覧?」

そんな事をランスロッテ様が満面の笑みで僕達に言う。


「そんなことだろうと思っていました。レビン。」


「あいよ。」

そうして僕達は不完全な融合状態になり構える。

すると一気に濃くなる「死の匂い」と共に羅刹猿は一気に間合いを詰めてくる。


「この動き方!」


放って来た打撃はとても重く鋭く、そして気術を纏っているのがわかった。

僕はハンドブレイカーでそれを受け止め吹っ飛ぶが完全に防御できていたためダメージはない。


「ニクス!」

エレインが僕に気を持って行くがその隙を羅刹猿が逃すこと無くエレインに対しても一気に間合いを詰め気術を纏った一撃を放っているが、そこは流石というべきだろう。

変則的かつ非常に重く鋭い一撃であっても躱し続けるエレイン。

そして少しの隙を狙い反撃の一撃が入れる。

その一撃は気術で纏った一撃でかなりの威力が有り羅刹猿も巨体でさえ、後ろに飛ばされていた。


こちらが優勢かと思われたが、エレインの一撃を食らった羅刹猿の様子が明らかに変る。

更に一段と「死の匂い」が濃くなり、金色だった羅刹猿を纏っていた体毛は赤色に変化する。

筋肉も更に膨れ上がり、身体が更に一回り以上。


それを見たランスロッテ様はエレインに下がるよう指示する。

「エレイン!君の出番は終わりだ。ここからの領域は君では危険だ。」


「ですが!」


「力量を見極めるのも重要なことだ。現にあれを見て君は倒せるイメージが湧くというのか?」


エレインは言葉は出さず、だが明確に否定するように首を横に振る。

「それでよろしい。ニクス君!レビン!」


そう言ってランスロッテ様は僕に一つの小さめな魔石を僕に投げる。

僕はその意味することを理解する。


「エレイン。以前私がしたニクス君達の話、今ここできちんと目に焼き付けておくと良い。」


僕はランスロッテ様が投げた魔石を受け取ると即座にそれを命の逆巻時計で吸収し、完全な融合を行う。


バチチチ!!バチ!

体の外へ放電現象が始まり、更に猫の半分の面が現れる。


「ニクス君達。折角だ。その状態で呼吸法と気術の『巡』をした状態で戦ってみると良い。」


「わかりました。」

僕が呼吸を整え身体に『巡』で生命エネルギーを身体に満たすと逆巻時計に明らかに変化が起きる。

時計の進みが遅くなったのだ。

更に体外へと放電されていた電気エネルギーが身体に纏わりつくようになる。


「これが・・・。」

僕は自分の体に起きた変化に驚いているとそんな僕を脅威と感じたのか、羅刹猿が僕に向かい先程以上の速度で突進してくるも、明らかに先ほどよりも「死の匂いは」薄らいでいた。

僕は安々とその攻撃を交わしカウンターで一撃を入れる。


「ふっ!」

その攻撃は気術と電気エネルギーを纏った一撃を放つ。

羅刹猿も咄嗟にそれに反応し2本の腕で防御するがその腕をへし折り身体に僕の拳がめり込み羅刹猿が吹き飛んでいく。


「ギ・・・ギ・・・!」

吹っ飛んだ先で自身の置かれた状態が良くないことを悟った羅刹猿が逃げようとするが僕はそれを見逃さない。


黒砂の剣(ダスクブレイド)


ハンドブレイカーに漆黒の刃が付く。

「すまない。今楽にするからね。」


僕はそう言い一瞬の内に間合いを詰め一気に首を切断する。

それを遠目で見ていた金剛猿たちは一目散に散り散りになり逃げ始める。


「追う必要はない。命を奪うのは最低限でいい。二人とも見事だった。」 

こうして僕達の羅刹猿討伐は終わりを告げた。

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