【第72話】繋がる点と点
気術の門を開き、それから総師範とランスロッテ様の元で徐々に生命エネルギーをコントロールするという訓練を行ってから約1ヶ月が経とうとしていた。
「ニクス君、レビン。ゆっくり目を開けてご覧。」
ランスロッテ様にそう促され僕達はゆっくりと目を開けるとそこには見たこともない状態が目に取れた。
まるで全身から湯気が出ているがその湯気が身体を包み込むような形となっている。
「こ、これは・・・?」
「いやはや、門を開いてたった一ヶ月で『巡』を習得するとは思いもしなかった。」
総師範が非常に驚いた様な様子で僕達に声を掛ける。
「『巡』ですか?」
僕は初めて聞く単語に?を付けて聞き返す。
「『巡』とは門を開いたものが最初に到達すべき地点。すなわち生命エネルギーを正確にコントロールし、気術へと昇華させた状態のことを言う。」
「という事は僕達・・・」
「ああ、最初の気術の習得に至る。これで生命エネルギーが勝手に漏れ出して死ぬ様な事はなくなった。」
「やったーー!」
僕とレビンは嬉しさの余り声を上げてハイタッチする。
「だが、ニクス達よ。これはあくまで気術の入門に過ぎん。これからも研鑽するように。」
「はっ!」
「それで、総師範?これからはどうするんです?私がニクス君達を指導しますか?」
「・・・、いや。やはり成長が早すぎる。身体と気術が釣り合っていなければお前も知っての通り気術によって身体を潰されかねなだろう。よって今後も私とランスロッテで指導することにする。」
「ふふふ。総師範も素直じゃない。わかりました。宜しくお願い致します。」
「ああ、それと今後は朝からこちらに来ると良い。通しで気術の訓練に移行することにする。」
総師範からそう言われ僕は素直に返事をすることが出来なかった。
「そ、それは・・・。」
「うん?どうかしたのかね?なにか問題が?」
「い、いえ。大変光栄なことなのですが僕はまだ門下生という若輩の身です。この様なことを言うのは生意気に聞こえるかもしれませんが、特別扱いのような事はして欲しくないのです。それに・・・。」
僕はチラっとエレインを見た。
エレインは最初こそ他の門下生達からすればまるで別の世界に生きている様な人物に対する扱いだったが、ここ最近は年相応に接してもらえるようになっており僕達だけではなく他の門下生達との短い時間の交流を楽しんでいるようだった。
それに気がついたのか総師範が再び驚いたような表情を見せる。
「そうか・・・。そうだな。良かろう。では君たちはエレインと同じ様に朝と夕の掃除の時間だけは門下生達と同じ様に掃除をして、昼も皆と食事をしてくると良い。」
「ありがとうございます!」
「総師範、どうです?私の子たちは。とても魅力的でしょう。」
「ああ、素晴らしい子達だよ。私が持っていないものを持ち合わせ、それを教えるだけの力があるようだ。」
「そう言って貰えるとは親としては感無量ですね。」
「全くお前というやつは。」
ランスロッテ様と総師範が何かを話していたが聞き取ることが出来なかったので「なんでしょう?」と聞いてみたが「何でもない。」と返されてしまった。
「そう言えば次はどの様なことを行うのですか?」
「基本的には『巡』の強化になる。気術は『巡』に始まり『巡』で終わると言ってもいいほど、この『巡』が非常に重要だ。」
「何事も基本ですね。わかりました。」
そうして僕達は『巡』を徹底強化すべく更に研鑽を励むことになった。
それから数日が経った日だった。
僕達がいつものように早朝から掃除をしている時だった。
一人の男性が大慌てで道場に向ってくる姿が見て取れた。
「失礼!私は冒険者ギルドのものだが、こちらに『蒼雷』のランスロッテ様がいらっしゃると聞いたが本当かね?」
僕はその尋常ならざる様子にその人物に声を掛けた。
「確かに、こちらにいます。ご要件は?」
「緊急の討伐依頼をお願いしたい。」
「ご事情があるようですね。少々お待ちいただけますか。呼んでまいります。」
僕はそう言い道場に入り、ランスロッテ様のもとに行く。
この時間は恐らく総師範と話などをしていると思ったのでいつも訓練をしている部屋に行く。
「失礼します。ニクスです。こちらにランスロッテ様は居ますでしょうか?」
「入るが良い。」
総師範の声で中に入るとランスロッテ様が見たこともない位に汗を流し集中して『巡』を行っている姿が目に入る。
初めて見た光景だったので僕は思わず息を呑む。
「ふう・・・。うん?ニクス君どうかしたのかい?なにか急いでいたようだが。」
僕はランスロッテ様に声を掛けられたことで要件を思い出し話を伝えた。
「実は冒険者ギルドの方がランスロッテ様を尋ねてきました。なんでも緊急の要件だそうです。」
「冒険者ギルドが?」
「はい。かなり焦っているようでした。」
「ふむ・・・。めんどくさいと前までは無視していた所だが、そうだな。総師範、ニクス君たちを連れて行っても?」
それを聞いた総師範は片目だけを開ける。
「お前のことだ。また良からぬことでも思いついたのだろう。良かろう連れて行け。ただし条件がある。」
「何でしょうか?」
「依頼の内容が仮に討伐であった場合、エレインも連れて行って欲しい。可能か?」
「私は彼女の保護者ではないんですがね?」
「だからお願いしている。」
「まあ・・・。総師範の珍しいお願いもされたことですし確約はしませんがとりあえず行ってきます。」
「うむ。頼んだ。」
僕は戻りながらランスロッテ様に聞いた。
「なんでエレインを連れて行って欲しいのでしょうね?」
「君を連れて行く理由と同じさ。社会勉強をさせたいのだろう。」
そう言われて納得した。
「お待たせしました。こちらがランスロッテ様です。」
「ありがとうございます!もしよければ冒険者ギルドまでご足労いただくことは可能ですか?」
「ここではまずい内容なのか?」
「緊急討伐依頼が発行されました。」
ランスロッテ様がそれを聞いた途端表情を変え、すぐに移動を開始する。
「行こうか。エレイン!君も来るんだ!」
「わ、私もでありますか!?」
「君の『お祖父様』のお願いだ。ただ内容的に危険だと判断される場合、君たちは送り返す。」
僕はエレインを見て一言だけ言う。
「行こうエレイン。」
エレインは頷き一つで返答する。
僕達は早歩きに近いペースで冒険者ギルドに入る。
「こちらです。ギルドマスターがお待ちです。」
ランスロッテ様がギルドマスターの部屋に入室すると、ランスロッテ様を出迎えるように中に居た人物が手を合わて跪いていた。
「お久しぶりです。ランスロッテ師。お元気そうで何よりです。」
「久しぶりだね。所で緊急討伐だって?話を聞こうか。」
「そちらのお嬢様はエレイン様ではないですか?それにそちらの子達は?」
「私の子達だ。気にするな。話をする気がないなら帰るぞ。」
「失礼致しました。こちらをご覧下さい。」
どうやらギルドマスターとランスロッテ様は顔見知りのようでランスロッテ様のぶっきら棒な態度にも対処していることからそれなりに関係がある人物だということが理解できた。
「ふむ・・・。」
そう言いランスロッテ様が手渡された書類に目を通している。
「ランスロッテ様、それはなんですか?」
「報告書だ。緊急討伐に至った経緯が書かれている。」
「なるほどです。」
「・・・。なるほど。『羅刹猿』だな。」
「やはりそうなのですね。」
「ああ、以前狩ったのはもう何年も前の話だ。だが確かに『羅刹猿』なら緊急討伐に指定して正解だな。良く判断できたな?」
「以前ランスロッテ様が残されていた文献を拝読し、該当するものが『羅刹猿』ではないかと思われたため即時緊急討伐を発行しました。」
「ただしい判断だ。この街で金級のパーティ以上は居ないのか?」
「残念ながら。大変お心苦しいのですがその様なパーティはどこの国でも希少です。」
「それでたまたま近くに居た白金級の私に白羽の矢が立ったわけか。」
「ご理解いただけたなら幸いです。」
ランスロッテ様が少し考えた後僕とエレインの顔を見る。
「実戦になるがやれそうか?」
僕とエレインは顔を見合わせた後返事をする。
「「はい!」」
「では早急に準備を整える。ここで一時解散し、エレインは一人で道場にもどれ。半刻もしない内に迎えに行く。場所は森の中だ。それに備えた着替えをし待っていなさい。」
「お祖父様には何とお伝えすれば?」
「大昔の猿が出てそれに付いていくことになったと伝えなさい。それでわかるはずだ。」
「はっ!」
「では私たちも支度をしようか。」
「わかりました!」
僕達は支度を整え、久しぶりの実戦に備える。




