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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第二章

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【第70話】生命エネルギーの扱い

僕は意図せず気術の最初のステップとなる扉を開いてしまった影響でその日は珍しくかなり疲労困憊し、料理もまともに作れず寝入ってしまう。

後々聞いた話だがハースリンが何度も往復しながら僕の看病をしてくれたとのこと。

翌朝にはしっかり回復し、食事も取ることが出来た

「ご心配をおかけしました。それにハースリンもありがとう。」


「ニクス様、本当に大丈夫なんですか!?」


「お陰様でね。」

そういい、ハースリンに笑顔で答える。


「本当に君の身体は不思議で満ちている。本来あの状態になれば下手すれば1週間はまともに動けなくなってても可笑しくないだろうに。これもまた呪われた魂の成せる所業なのかな。」


「その点だけは感謝しなければいけませんよね。」


「感謝すべきなのか憎むべきなのか・・・。」

そんな事を言いながら真剣に悩み出すランスロッテ様を尻目に早々に支度を終え僕はいつものように道場に向け出発する。


道場に付くと昨日のようにエレインが待っていた。

彼女もこの時間にここに来るというのが少なからず日課になったようだった。

彼女を見る周りの目も少し落ち着いたように思える。

そんなことを知ってか知らずかいつもの様に話しかけてくるエレイン。

「おはよう、ニクス。聞いたわよ。もう自力で『門』を開けちゃったって本当なの?」


「あはは。そうみたい。今日から午後の指導に安全面を考えて総師範(マスター)の元で気術の訓練をすることになったよ。」


「そうみたいね。本当に驚きだわ。普通どんなに天才と言われている人達でもその状態に行くまでには何年もの時間がかかるというのに・・・。あ、でも気術の訓練を総師範(マスター)から受けるならその時は私も一緒に訓練できるかも。」


「あ、そうなんだ。じゃあその時は『ただの門下生のエレイン』じゃなく『エレイン師』として接しなきゃだね。」


「ええ。楽しみにしてるわね。ニクス。」

午前中の訓練を熟した後の食事の時は、どこから話が広がったのか質問攻めの嵐だった。


「お前もう気術の門開いたって本当かよ!?」


総師範(マスター)に指導してもらえるだって!?」


等などである。

僕は食事の時間を削りながら丁寧に答えていき、時間ギリギリで食事を書き込んで食べることとなった。


「食事くらいゆっくり食いたいぜ。」

レビンももみくちゃになっていたので呆れていた。


「本当にそうだね・・・。」

僕達はトボトボと歩きながら午後いつも訓練している場に移動すると、ランスロッテ様が待っていた。


「あれ?ランスロッテ様?」


「ニクス君、レビン来たね。今日から君達は総師範(マスター)と僕の目が入る場所での訓練となる。こっちだ。」


「なるほど。それで迎えに来てくれてたんですね。」

そういった僕を笑顔で見てこう言う。


「いやあ、久しぶりにニクス君とレビンの大変そうな顔が見られるなんて、楽しみだなあ。」

その言葉に僕とレビンは顔を引き攣らせる。


「あはは。冗談だよ。だがやはり君たちの成長を間近で見たいと思うのは親心だと思ってくれ。」


僕は訝しげな表情を浮かべながら「そういうことにしておきます。」と答えると頭をグリグリ撫でられた。


「ランスロッテです。ニクス、レビンを連れてまいりました。」


「入るが良い。」


「失礼します。」

僕達はそう行っていつもの訓練所より先にある比較的狭めの部屋に入る。

部屋全体の人数は先程の部屋よりもかなり少ない。

だが帯を見ると圧倒的上位の存在だということがわかる。

更にその中にエレインが居るのを確認する。

朝の表情とは明らかに違い最初に接した時のようなピンと張り詰めたような独特の空気感をただ寄らせていた。


「良く来たな。ニクス、レビン。ここで君たちが自身の力のみで気術のエネルギーをコントロールできるまで鍛錬を行う。ちなみに昨日の門を開いた時点でわかったと思うが、気術の訓練は少しでも対応を間違えれば即自身の命に関わるので、決して許可が出るまでは1人で鍛錬などしないこと。良いか?」


「はい。」

僕とレビンは頭を下げ跪く。


「では、各々鍛錬を始めよ。」

総師範(マスター)から声がかかり、今の自分の段階にあった気術の鍛錬が始まる。

僕達はまだ最初の段階である門が開いた状態だが、この状態がある意味で一番危ないと聞いていた。

特に僕とレビンは特異体質なのでランスロッテ様と総師範(マスター)が付きっきりで見てくれるという。

内容としては昨日まで行っていた事と余り変わりはしないが、昨日全身を駆け巡った精神エネルギーを意識しながら行うというもの。


僕とレビンは精神統一状態に入り、呼吸を整える。

するとやはり無意識化では感じられなかった、自分の中で蠢くなにかがあるのを感じる。

昨日の段階ではこれが何なのかはわからなかったが、これが生命エネルギーでありこれが体外へと完全に出てしまった場合、それは自身の命の終わりを告げることになる。


「ほう、もう生命エネルギーを感知できるのか・・・。本当にどういう育ち方をすればここまで命と向き合うことが出来るのか・・・。末恐ろしいな。」


「ええ、それだけこの子は苦労をしてますからね。」


「ふむ・・・。ニクス、レビンよ私の声が聞こえるな?返事はしないで良い。私たちが声で君たちの精神エネルギーを導く手伝いをする。ゆっくりでいい。」

総師範(マスター)の声とともに始まったその指導はまさに針穴に糸を通すくらい繊細かつ精神を削るものだった。

最初は5分程度しかこの声に従って生命エネルギーの循環をさせることが出来なかったが、それでも最初としては順調すぎるという。


「はぁ・・・、はぁ・・・」


「すごいすごい。最初の段階でここまで繋げられる人は君たちが初めてだよ。」


「そ、そうなんですか・・・はぁ・・・、ぜぇ・・・。」


「うむ。順調だな。息を整えたら再び始めるぞ。」


「はい。」

そうして、声に従い生命エネルギーを緻密にコントロールし、少し進んでは休憩をしてという事を何度も続ける。

暫くすると「今日はここまで」という声がかかる。


「かなり早い切り上げの様に聞こえるかもしれないが初日にしては十二分すぎるほど進んだからね。後は見学するか、いつもの様にストレッチしていても良い。ただ気術だけは意識的に外すようにね。」


「わかりました。」

僕はそう言い、ゆるくストレッチをしながら他の人がどの様な訓練をしているのかを見学することにするが、ここであの奥から聞こえてくる悲鳴の正体を知ることになる。

ランスロッテ様が気術を使った組手をすると言うので見ていると、一瞬の内に打撃、締め、投げ等が決まるがその際に相手が悲鳴を上げていた。


「流石ランスロッテ様は容赦ないわね・・・。」

そう行って近づいてきたのはエレインだった。


「気術を使った組手はとんでもなく激痛なのよ。ただでさえ普通の組手でもランスロッテ様はとんでもなく強いのにそれを気術も組み込んでやるのだもの・・・。私も何度か相手をしてもらったけど死んじゃうかと思ったくらい痛かったわ・・・。」

そう言いながら思い出したのか身震いしていた。


「それがあの部屋まで聞こえてきた悲鳴の正体だったんだね・・・。」


「気術は特徴として生命エネルギーを身に纏うので、全身に武器が内蔵されているようなものなのよ。だから一撃であんな風に・・・。」


「ギャーーー!!」


「・・・と言う訳。」


「なるほど・・・。逆にその相手の纏う気術に対抗するにはどうしたら良いのでしょうか?エレイン師。」

僕は何気なくエレイン師と呼んだがそれがエレイン的には嬉しかったようで教えてくれた。


「単純な話よ。気術から身を守るには気術で対抗するしかないの。相手の気術よりもより大きい気術で防御すれば当然ダメージは入らないどころか、攻撃力を放った相手にダメージが還ることになるわ。ニクスは『流々舞(るるぶ)』という特殊な組手は知っているかしら?」


僕は初めて聞いた言葉に首を横に振り教えを請う。

「いいえ、よければ教えていただきたく。」


「いいわ。じゃあ、こちらに。」


そうして僕とエレインで初めての『流々舞』の訓練が始まる。


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