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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第一章~少年編~(全47話)

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【第7話】アッシェの憂鬱【番外編】

「アッシェの旦那!居ますかい!?」


突然、村の知人が家に飛び込んでくる。


「ああ?」


俺はぶっきらぼうに返答する。


「ああ、良かった。大変なんでさあ!一緒に来てくだせえ!」


村人はかなり急いでいるようだ。


「なんだってそんな急かすんだ?わかったよ。ちょうど今、片付いたところだ。」


仕事道具の手入れをしている最中だったが丁度終わったところだ。


村人に案内され、しばらく走って移動した先には見慣れた教会もとい孤児院が目に入る。


「うん?ここは・・・。」


「アッシェさん、来てくれたのですね。」


迎えてくれたのはこの教会を運営しているシスターであった。


「シスター、そんなに焦ってどうかなさったので?」


このシスターには恩がありそのせいか、いつもは言葉が汚めではあるが自然と敬語で接している。


「ええ・・・。実は以前お話したことがある森の入口付近での採集のこと、覚えていますか?」


シスターは俺に相談・依頼したことを覚えているか確認する。


「勿論ですよ。ここの子どもたちが森の入口付近で薬草等を採集出来るか、安全も含めて確認してほしいといった内容の依頼でしたよね。」


シスターは頷き、更に続ける。


「はい、その件です。実は先程その付近で採集をしていた子どもたち二人が猪に襲われ怪我をして帰ってきたのです・・・。」


シスターの言葉に俺は心底驚く。


「なんだって!?たしかにあの付近の状況は確認しましたし、ましてや獣が入らない様にするための工作までしてたというのにですか。」


そう、依頼があった付近の確認のみならず獣が入り込んだりしないよう、二重に罠や特殊工作を仕掛けておいた。


「それで子どもたちの容態は?」


しくじったという悔しさの滲み出る表情で子どもたちの安否を確認する。


「二人の子どもが巻き込まれましたが、幸運にも女の子一人は肩口を若干切りましたが3針程度縫う位のほぼ軽症に近いです。もう一人の子どもは、その・・・、見たところ全くの無傷に近い状態なんです。」


シスターからの言葉に心底安堵し、一気に気が抜ける。


「それで、その猪から無事に命からがら逃げられたということですか。本当に大事無くてよかった・・・。」


その言葉にシスターに、若干の戸惑いを見せる。


「それがですね・・・。私は確認しておりませんが、村の男衆方の話によると、その猪はすでに絶命しているそうなんです・・・。」


その言葉に思わず、「えっ?」っと自然に聞き返すほど驚きを隠せない。


「なんだって?その死体はどこに?」


その言葉に、先に確認していた男衆のうちの一人が返答する。


「俺が案内しますよ。」


そう言いつつ先導してくれるようだ。俺はそれに続き、更にその後ろに興味本位で見たいという男たちが3人ほど付いてくる。


森の入口付近に到着すると、まだ現場には付いていないにも関わらず血の匂いが漂ってくる。


「うっ、これはすごい匂いだな。」


興味本位で付いてきた男のうちの一人が鼻に手を当てる。


そして、現場に到着すると、魔法での戦闘があったかのようなあり得ないような光景が眼前に広がっていた。


「こいつは・・・」


あまりの光景に、普段こういう血なまぐさい現場を見慣れていない男のうちの一人が少し離れた場所で嘔吐していた。


この光景はそれぐらい凄惨なものであった。


体長は恐らく1.3メートル程度はあっただろうと思われる成獣の猪、正確には『フォレストボア』に顎下から正確に脳を破壊するように先の尖った比較的大きな木が突き刺さっている。


更にその木は根本を大きな岩で固定されていたため、フォレストボアの突進時のエネルギーを分散させること無く衝突したと思われ、そのエネルギーに木が耐えられず折れ、更にフォレストボアの内蔵付近を傷つけ、折れた木が頭骨だけではなく、分厚い皮を持っていることで有名なボアの皮を貫通し色々な部位から飛び出しているという状態であった。


そのあまりにも異様な光景に思わず息を呑む。


「これを子ども二人でやったって・・・?」


フォレストボアは猪ではあるが、当然馬鹿ではない。


眼の前に障害物があれば、たとえ突進していたとしてものその突進を止めたり、軌道を変更することは容易に行う。


だが、眼前に広がるその光景は、明らかに障害物に気がつくこと無く、木に接触する瞬間まで突進をし続けた様な状態であり、普通は見ないような光景であった。


幸いにもまだ日は高い時間であったため、血の匂いに他の獣たちが寄ってこないよう、俺達は一度村に帰り道具を回収した後、もう肉にも皮にも使いようがない、そのフォレストボアだったものを処理した。


「お疲れ様でした、アッシェさん。どうでしたか?」


普段は冷静で汗一つ流さないようなアッシェが若干動揺している様子であったためシスターは心配そうに声を掛ける。


「あれで死者どころか重症者も出ていないというのが奇跡としか言えないような現場でした。あれを本当に子ども二人で成し遂げたので?」

本当に不思議でしか無いような状況に思わず再度確認した。


シスターは困惑したように答える。


「その、子ども二人が今は疲れからか、寝入ってしまっており起きる様子もないので状況を本人の口から語らせることは出来ませんが、ニクスがリリーを背負って、こちらに逃げて来た際に端的に話していた内容からすればそうなります。」


その言葉にハッとする。


「ニクス・・・?ニクスとは以前シスターが言っていた少年のことですか?」


シスターは静かに頷く。


「そうか、あれをニクスが・・・。」


「わかりました。ではニクス本人から話を聞きたいので、目を覚ましたら私のところへ使いを出してください。」


シスターは頷く。


「わかりました。では目が冷めましたら年長の者を走らせ、知らせに行きましょう。」


その言葉に一言注意を付け加える。


「ああ、後、ニクスが起きたとしてもベッドからは離さず、そのまま横にしておいてください。見えないダメージが身体に残っている可能性が非常に高いので。」


シスターは若干青ざめながら了承する。


「わかりました・・・。それと、あの話は・・・」


そこまでシスターが口に出すと俺もシスターとの約束を覚えていたので答える。


「それはニクス本人次第ですね。」


そう言い、最低限のやり取りをした後、帰路につく。


(しかし、あれをブランのしかも6才の子どもがやったとしたら・・・)


背筋に冷たいものを感じながら無意識に無精髭を撫でながら物思いにふける。


(これは早いところ、引き取ってやったほうが良いのかもしれんな。もしかしたらあいつの様に・・・)


義足である右足のふとともに手をやりながらかつての相棒のことを思い出していた。

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