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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第二章

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【第68話】私の知らなかった世界【番外編】

「ああ、もう信じられない!」


私はたった数日前に入門してきたヒューマンの少年にイライラしていた。

その少年は私の憧れの存在であるレオニダス様の無二の親友と呼ばれているランスロッテ様の子だという。

そいつは急に道場に来たかと思うと私ですらまだ相手をしてもらっていないのに、レオニダス様と試し稽古の様なものを行ったらしい。

お祖父様や、レオニダス様、ランスロッテ様が見守る中で十人組手まですることになりしかも最後の相手は私であった。

相手の少年は気術は使えないようだが呼吸法をある程度使える上にやたらと身体能力が高く、しかも実戦経験も豊富に見えた。

私は立場をわからせるために一撃で捻り潰してやると思っていたが全くそんなことは出来ない。

なんで、入らない!?なんで届かない!?

心の中でそう焦るがゆえに、私はお祖父様に言われていた気術を使うなという言葉を破る。

こんなヤツ、どうなった所で私の知ったところではない。

そう思い一撃に気術を込め、後もう少しで仕留められると思った所でレオニダス様とランスロッテ様が介入し、十人組手は強制的に終わりを告げる。

しかも、憧れの存在だったレオニダス様に「未熟がすぎる。」とまで言われてしまった。


こんなにも恥辱を味わったのは初めてかもしれない。

私の中で怒りだけが燃えていた。


私は幼少期から特別だった。

生まれてすぐに『グリーンドラゴン』の襲撃が有り、それによりこの国は大きな損害を受けた。

特に兵達はこの国を守るまいと必死に戦ったが多くの命を落とすことになった。

父と母もこの国に仕える兵士だった。

当然ながらグリーンドラゴンと相対することになったが力及ばず命を落とすことになった。

そんな中、レオニダス様が単騎でグリーンドラゴンを仕留めるという偉業を成し遂げた。

彼によりこの国は大きく救われることになる。

嬉しかったのはレオニダス様は私のお祖父様の弟子だったということだ。

レオニダス様の名声が上がるに連れ、当然お祖父様の権力も大きくなった。

両親を早くに亡くした私はお祖父様のもとで何不自由すること無く育つことが出来た。

才能もあった。

12才の時、呼吸法を完全取得し気術を身に着けたという最年少記録を更新した。

それもあり、今年13才の成人を迎えると同時に師範代の位を正式に授かった。


道場の皆が私に跪き頭を下げるのに愉悦を感じた。

そうだ、私は特別なんだ。

そんな気持ちで過ごしていたが突然現れたどこの馬の骨ともわからないヒューマンの少年の出現によって、私の日常は壊された。


この少年は来て早々に昇段試験があり、なんと一発で黒帯を全員一致で習得した。

聞けばまだ年は11才だという。

つまり私はこの良く分からないヒューマンの少年に記録を更新されたということだ。

悔しい!

何なんだこいつは!!


その日の夕方、悔しいというただ一点の感情でどうやってこのウサを晴らそうかと思っていた時、その耳障りな声が聞こえてくる。

どうやらあの少年が門下生たちと一緒に締めの掃除をする様だ。

私の気持ちも知らずにヘラヘラと笑っている。

私は思わず声に出して言ってしまう。


「ヘラヘラしちゃって馬鹿みたい!!」


私の声を聞いた門下生達はすぐにその場に跪き頭を下げていた。

一足遅れてヒューマンの少年も同じ様にしていた。


どうやら仕草は真似しただけで、先程の私のことも禄に聞いてなかったらしい。

「あんたのことよ!新入りのヒューマン!!」


ここまで言ってようやくその少年は自分のことだと気がついたようだ。

「あの?僕に何か御用でしょうか?」


白々しい態度に思わず言葉が出る。

「ふん!どうやら上手くお祖父様に気に入られて、初日から黒帯なんて締めているようだけど私は認めないわ!ランスロッテ様の子だからと特別に貰ったんでしょう?」


そう言うと今まで平然としていた少年の顔に怒りの表情が見て取れた。

「僕が今ここでこうして皆さんと学びあえているのは確かにランスロッテ様のお力が合ったからです。」


ヒューマンなんて禄にこの国に入国すら出来ない種族だ。

「ほら見なさい!所詮ヒューマンなんてそんな程度よ!」


すると驚いたことにヒューマンの少年は体勢を直しスッと立ち上がり私を睨む。

そしてあろうことかこの少年は私にこう言い放つ。

「申し訳ないですが、自分は新入りなので何故この様に人を貶すような人に頭を下げる必要があるのか理解できません。」


他の門下生たちが説得しようとしているがこいつはお構い無しだ。

「この人が総師範(マスター)の孫娘だからですか?それこそ意味がわからない。総師範(マスター)は確かに素晴らしい方だとは思いますがその孫娘というだけで他の師範代の方と階級は同じはずです。こんな膝をつき頭を下げる程の人物ですか?それこそ、立場を利用し、自身を特別な存在だと勘違いしているだけではないですか?」


私はこの発言に完全にブチギレ思わず顔面めがけて手が出てしまった。

だがこいつの事だ。

この間の組手の時の実力があるなら余裕で躱せるだろうと考え、寸止は考えなかった。

だがこいつは予想外のことをした。

いや、何もしなかった。

躱すでも守るでもなく、何もせず私の拳が顔面にめり込むのをただ見ていた。


当然勢いのあった拳は寸止することを考えていなかったので勢いそのままに顔面に入る。

「な、何であんた避けなかったのよ!!」


私はコイツの訳がわからない行動にただただ困惑する。

コイツは鼻の骨を折られ、鼻血を流しながらもゆっくり立ち上がる。

「避ける必要がないからですよ。それにこの程度、全く痛くも痒くも有りませんし。」


その上また挑発までしてくる。

「な、あんた・・・!!」


「どうしましたか?もう一発殴りますか?」


ここで騒ぎを聞き付けた師範代達が一斉に集結し、私とそいつを引き離した。

私は理由がわからず立ち尽くしていると、ランスロッテ様がこの場に現れそいつが事情を説明した途端だった。


そう、それは明確な敵意を超えた殺意に近い感情が私に対し向けられる。

「ひっ!?」


余りの恐怖に私は一瞬息を呑んでしまうが、それも本当に一瞬のことでそいつがランスロッテ様を嗜めることでこの場は解散となった。


その夜、私は事情を聞くということでお祖父様に呼び出された。

「エレインよ。わかっているな?嘘偽り無く話せ。何があった。」


「わかりません。何故かアイツに対し悔しいという気持ちだけが沸き起こり制御できなくなりました。」


「何故手を出した?師範代となる時の誓いとして、無意味な暴力はしないと誓ったはずでは?」


「アイツの実力なら避けるか守るかで回避すると考えていました。まさか何もしないとは思いも寄りませんでした。」


「それで最初から寸止も考えず撃ち抜いたと?」


「申し訳有りません。」


「・・・。自身が行ったこと、よくよく考えるが良い。下がって良し。」


「失礼致しました。」


私はその日、一睡もすることが出来なかった。

今まで怒りのままに拳を振り下ろしたことは何度かあった。

だが当然今までそれは脅しに過ぎなかったし、人を傷つけるために振るったことはなかった。

今まで私を馬鹿にしてきた奴らはそうすることで実力差を感じ、二度と馬鹿にしてくることはなかった。

アイツの目。

殴られてなお、平気だと言い張れるだけの胆力。

今までの奴らとは違う。

だけど何が違うのかがわからない。

種族が違う?いや、そんな話ではない。

何かが違う。

だけど何が違うのかがわからない。

「直接聞くしかないか・・・。」


渡しは翌朝、いつもより早くに支度を済ませ門下生たちが掃除していると思われる場所へ向かうと、案の定アイツは既に掃除を終えていて、不思議なことに一人で呼吸をしながら柔軟をしていた。

それは私から見てもとても均衡が取れた素晴らしいと思えるような柔軟であった。

だが、今はそんなことを考えている場合ではない。


「あの・・・。昨日はごめんなさい。」


「え?」


なんと聞こえていなかったようだ。

「ごめんなさい、と言ったのよ!」


結局謝罪しに来たのに怒鳴るような形になってしまった。

「ああ、気にしないで下さい。昨日は僕も調子に乗って挑発しすぎました。申し訳有りませんでした。」


殴ったほうが圧倒的に悪いに決まっているのに、それなのに自身も悪かったと謝罪をされてしまう。

それにこの落ち着きよう。

本当に気にしていないように感じた。


私は寝ずに考えていた事を聞いてみた。

「貴方は何故ここに来たの?」


「えっと・・・強くなるためですね。気術を身につける必要ができたのでランスロッテ様と一緒に来ました。」


「理由を聞いても?」


「そうですね。僕が努力をしなければ今から4年後にその人達を失ってしまうからですかね?」

その答えは曖昧としか言えないような内容だった。

私はその返答に更にモヤモヤとしてしまう。


「もし詳細が知りたいならランスロッテ様にお聞き下さい。僕ではどこまでお話して良いのかわからないので。僕からもお聞きしても?」


自分のことなのに話していいないようなのかわからない?

本当にわからない。

一体どういうことなんだろうか。


そしてこの少年から不思議なことを聞かれた。

私がした質問と同じ事だった。

なので私はこう答える。

「最強になるため。そして皆に認められるためよ。」


そう、私は最強になって皆から認めれて、行く末はレオニダス様の様に大統領になるんだ。

だがその後のことを聞かれて困惑する。

最強になって何がいけないの?

大統領になることの何がいけないの?

わからない。

このヒューマンの少年と話をしていくと今まで築いてきた自分というものに疑問が浮かぶ。

何故だろう。

わからない。


悶々とした時間を過ごし気がつけば夜になっていた。

頭に疑問が大量に浮かんでいる時だった。

お祖父様から呼ばれる。


「失礼致します。総師範(マスター)。お呼びでしょうか?」


「うむ。ここに来て座りなさい、エレイン。」


「はい。失礼致します。」


「今日私はニクスと話をさせてもらった。」


「ニクス、あの少年ですね。」


「ああ。そしてエレイン、君のことを聞いた。」


「え?」

私は非常に戸惑った。

まだあの少年はここに来て立った2、3日程度のはず。

それにお祖父様は武の事は話をしてくれても私のことについては話をしてくれたことは記憶にない。


「エレイン、済まなかった。私は総師範(マスター)として武について教えることは多々あったが、祖父として、家族としてお前の話を聞いたことがない。今日は総師範(マスター)では無く祖父としてお前の話を聞きたい。」


私はそれを聞いた瞬間自然と涙を流していた。

何故涙が出てきたのかはわからない。

だがこの涙が止まることもなかった。


「聞かせてもらえるかな?エレイン。君は何者になりたい?」


「私は、レオニダス様の様な誰からも好かれる最強の大統領になりたいです。」


「そうか。だが勘違いしてはいけない。レオニダスが誰からも好かれ、大統領の座に長いこと座っていられるのは何も強いからだけではない。あやつは人一倍努力し、励み、学び、そして私たち国民を愛しているんだ。」


「愛・・・ですか・・・?」


「そうだ。私が今までエレインに与えてやれなかったものだ。だからそれが分からないかもしれない。だがお前はまだ若い。これからだ。失敗もするだろう。恥ずかしい思いもするだろう。だがそれも全て学びの材料の糧にしなさい。そうして今のレオニダスがある。」


「・・・。」


「大統領を目指すのは立派な志だ。だがそれは通り道の一つでしかない。その先を見据えなさい。君が本当に何者になりたいのかを。良いね?」


「・・・はい。」


「それとエレイン。今後は私も改めることにする。武の師である総師範(マスター)としての私と君の唯一の家族である祖父としての私、それを私なりに使い分けてみようと思う。どうやらこの年になってもまだまだ学ぶべきことはたくさんあるようだ。」


「ありがとうございます。お祖父様。」


「ああ、その呼ばれ方をするのも久しぶりだな。今日はもう遅い。寝ると良い。」


「はい。おやすみなさいませ、お祖父様。」


私は部屋に帰り、泣きつかれたのか早々に寝てしまった。

夢を見た気がした。

それは孤独な夢だった。

とても辛い夢だった。


時間はあっと言う間に朝になり目が覚める。

私が支度をしていると来客がある。


「失礼する。エレイン嬢はいるか?」

そう言いながら姿を見せたのはレオニダス様の古き友であり、あの少年ニクスの義理の親であるランスロッテ様だった。


「何か御用でしょうか?」


「君に大切な話がある。総師範(マスター)の所に来なさい。」

そう言うとそそくさとランスロッテ様はお祖父様の元へ向かってしまった。


「失礼致します。」

そう言ってお祖父様の部屋に入るとランスロッテ様とお祖父様が並ぶように座っている。


「この様に朝早くからどの様なご要件でしょうか?」

私がそう問いかけるとランスロッテ様に想像もつかないことを言われる。


「ニクスと私について非常に重要な話がある。この話は誰にも言わないこと。もし仮に誰かに喋ってしまった場合、君の命の保証はできかねない。もし命が惜しい場合、即座に部屋から退出しこの事は忘れなさい。」

突然やってきたかと思えばいきなりすぎる話をされ戸惑ってしまう。


「怖いのなら出ていくことを勧める。」


「お祖父様・・・。」

私はお祖父様の方を向き確認をするがお祖父様の目は伏せられている。


「エレイン、君はもう13才の立派な大人だ。判断は自分でするように。それでどうする。」

ランスロッテ様にピシャリと言われ私の意思は固まる。


「お聞かせくださいませ。」


「わかった、話そう。」

そうして始まったランスロッテ様の話はとても信じがたい話だった。

ニクスの生まれてきた境遇、育ってきた過程、そして今に至るまでの途方も無いほどの苦悩。

とても11才の少年が持つべきものではないと思った。

少なくとも私が同じ立場だったら、とっくに崩れ立ち直れなくなっていたと思う。

だが彼は立ち続け、進み続けている。

私は自分が恥ずかしくなった。


「最初に言ったようにこの話は他言無用だ。」


「承知しました。お話しいただきありがとうございました。」

私は心からの礼を述べ、退室する。

私は考える。

これからどうすべきなのかを。


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