【第67話】少しずつ
僕とレビンは総師範との話の後、昨日と同じ様に呼吸法の鍛錬に打ち込みそして終わる頃には転がっていた。
「うぐぐぐ・・・!!!」
僕はそれでもやるべきことはやりたいので気合で立ち上がり、一日の締めになる門下生がやるべきことに参加すべく身体を引きずりながらラーベンさん達の下に向かう。
「本当にそんな状態で大丈夫なの?昨日鼻が折れたばかりで今は呼吸法の途轍もない負荷が掛かったばかりだろう?」
「ご心配ありがとうございます。鼻は気にしないで下さい。呼吸法の負担も徐々に慣れていきますので。」
「本当に君たちは頑固だな・・・。」
「昔からよく言われます。」
どうやら一日の締めも掃除で終わるようだった。
だがやはり朝のようにテキパキとは終えることが出来ず、ゆっくりとなったがそれでも周りの班と同じくらいの終了時間には終えることが出来る。
「君のそのひたむきな努力の姿勢には尊敬の念を抱くよ。」
「そんな、僕はまだまだ若輩者ですので。明日も宜しくお願い致します。」
そうして僕は一日の全てを終え迎えに来てくれたランスロッテ様と共に家路につく。
その家に帰るまでの間に、今日あったことを話て相談してみた。
「ランスロッテ様、実は今日の朝エレインと話をしました。」
それを聞いたランスロッテ様の空気が若干変わるのを感じた。
「落ち着いて下さい。お互い話をして、昨日のことを謝罪し合っただけです。」
「君が謝る要素なんて無くないか?」
「いえ、僕も挑発してしまった点が合ったのでその点はしっかり謝っておきました。」
「ふむ・・・。」
「それで実は午後に入ってすぐなんですが、総師範に呼び出されましてその昨日のことについて、謝罪を受けました。」
それを聞いてランスロッテ様が過去一番に近いくらいの驚きを示していた。
「そ、それは本当かい・・・?あの総師範が・・・?」
「凄い驚きようですね。」
「君が言ってる総師範が私の知ってる総師範と同一人物とは思えないくらいの衝撃だ。」
「あ、なら黙っておいたほうが良かったのかな・・・。」
「いや、君は必要だと思ったから話をしたんだろう。それに総師範のことだ。保護者である私には知られてもいいと思っているはずだ。」
「そうですか。では続きを話しますね。先程も言ったように謝罪の内容はエレインのことでした。武を教えることが出来たが道を示すことが出来なかったと非常に後悔しているようでした。」
「確かに、あの様子ではとてもではないが人の上に立つ器とは言えぬ。場合によっては師範代の資格を降格させられても文句は言えないだろうね。」
「彼女はひたすら力を求めているようでした。ですがその力の先にあるのは最強になることただそれだけで、最強に慣れば周りから尊敬を集められると考えているようでそこが彼女の終着点のように話していました。」
それを聞いたランスロッテ様が失笑する。
「とんでもない勘違いだな。」
「総師範もそれを嘆いていました。もし可能でしたらで良いんですが、ランスロッテ様の裁量で僕達が何故ここに来たのか、僕が何故力を求めているのかを話してもらうことは出来ませんか?僕からは事態が事態なのでぼやかしてしか話すことができないのです。」
「それを話すことによって君に対して何の利がある?」
ランスロッテ様は心の底から理解できないというような表情で聞いてくる。
「そうですね。それで彼女の道が少しでも修正されて改善されれば、彼女を取り巻く環境も変わり完全に今巻き込まれてしまっている門下生たちのストレスが減ると思います。友人知人のそういった問題を解決したいと願うのはおかしな事でしょうか?」
それを聞いたランスロッテ様が笑い出す。
「あははは。ニクス君らしい。あくまで彼女のためではなく、それに巻き込まれている門下生たちのためだと言うのだね。」
「はい。正直彼女の年齢が僕と同い年ならまだ助け舟も出そうかと思ったんですが、彼女は僕より2つ上の13才で既に成人でした。それなら彼女を助ける道理なんて微塵もありません。ですがそれに突き合わされている門下生たちは別です。」
ランスロッテ様は少し目を閉じ考える。
「わかった。それで君がここでの生活がしやすくなるというのなら話をしてみよう。ただしそれによって君への風当たりも変わるかもしれないがそれでも良いのかい?」
「それで僕が邪険に扱われ始めたのならそれはそれでいいです。それならば完全に人間関係は切って捨てて、呼吸法と気術に向けての鍛錬に集中できますので。」
「相変わらずそういう線引もしっかりしてるね。それじゃあ、明日にでもエレインに話してみよう。」
「ありがとうございます。感謝します。」
僕はそう言いランスロッテ様に頭を下げる。
「気にするな。私は君たちの親なんだ。親らしいことをさせてくれ。」
「そうですね。」
僕はそう言い、にっと笑う。
家に変えるとハースリンがすっ飛んできて「今日は何も有りませんでしたか!?」と心配していた。
翌朝はなんと早々に昨日の僕との約束を果たすということでなかなか起こしても起きないランスロッテ様が僕より先に家を出た。
話が終わったら道場内で寝るらしい。
流石そこら辺はきっちりしてるなと笑ってしまう。
僕達はいつも通りの時間に出発し、到着するとなんとそこにはエレインが待ち構えていた。
「あ、あの・・・。」
エレインがモジモジしてなかなか言葉を発さない。
「何か御用でしょうか?」
「昨日は夜お祖父様とお話をしたわ。それに今朝はランスロッテ師も貴方の境遇について話してくれた。」
ああ、早速お二人は実際に行動してくれたんだと納得する。
「そうですか。」
「あの話は本当なの?」
「嘘を言ってわざわざ他国から来ると思いますか?」
「そ、それは・・・。あの!もし良かったらでいいの!!少しずつあなたと一緒に行動してもいいかしら?」
うーん、正直これは予想していなかった。
どうしたもんかと考えているとラーベンさん達が僕に声を掛けてくれるがエレインの姿を見て跪いた。
僕はこれが許せなかった。
そこであることを思いつく。
「わかりました。では少しずつ一緒に行動しましょう。ただし、条件があります。」
「じょ、条件・・・?」
「ええ、これが無理なら諦めて下さい。」
エレインが決心したように目を真っ直ぐ見てきた。
「わかったわ。聞かせて。」
「僕と行動をする時は『総師範の孫娘で師範代』という肩書を脱ぎ捨て、『ただの門下生のエレイン』として行動して下さい。」
僕がそう言い放つと周りがどよめき出す。
それはそうだろう、もう何年下手したら十年以上の時を過ごしてきた肩書を一時でも良いから捨てろと言っているのだ。
『総師範の孫娘で師範代』のエレインしかしらない門下生にとってはそれは不敬でしかないであろう。
だが、エレインは真っ向から反論するではなく少し考えている。
そして彼女は決心する。
「わかったわ。貴方と行動をともにする時は『ただの門下生のエレイン』として行動させてもらう。」
その声を聞き、更にどよめきが起きる。
「よかった。ラーベンさん達?一体誰に対して跪いているのです?ここにはその様な態度を示すべき人物は居ないはずですが。」
「だ、だが!」
「これは彼女の意思ですよ?それにこの扱いをすることによって罰せされることも有りません。そうですよね?エレインさん。」
「ええ、今の私はただの門下生のエレインですから人を罰したりといったことはしませんし、出来ません。」
「だそうですよ?」
「わ、わかりました。」
そう言いラーベンさん達は立ち上がる。
「ラーベンさん、彼女は僕達の班ということで良いでしょうか?」
「あ、ああ。それでいいと思う。というかそれしかないと思う。」
「では、決まりですね。はいこれ、エレインさんの分です。」
そう言って僕は自分が持っていた箒を渡す。
「こ、これは?」
エレインが困惑している。
「見ての通り箒です、今日から毎朝掃除をしましょう。まずはそれからです。」
「で、でも私掃除なんてしたことないわ・・・。」
「ええーーー!?一回もですか?」
エレインが僕の質問に対し頷き一つで返す。
「はあ・・・。しょうがないですね。まあ誰でも最初はあるものです。その最初が遅かっただけど思い、エレインさんには教えてあげますね。」
「ええ・・・。」
「人から教えてもらう時は『お願いします。』、終わったら『ありがとうございます。』、これは基本ですよ?エレインさん。」
僕が少し眉を寄せて言うとエレインは素直に従う。
「お、お願いします。」
「では頑張りましょう!」
そうして僕達のいつもの班にエレインが加わり掃除が始まる。
別の班がそれを見てギョッとしていたが僕達は気にしない。
「あ、そうだ。エレインさん。明日から何か目立つ印を付けてきてくれませんか?」
僕は必死に掃除をしているエレインの姿を見て意見を述べる。
「印?」
「そうです。『総師範の孫娘で師範代』と『ただの門下生のエレイン』をパッと見ただけでわかるように出来るような印です。その印があればラーベンさん達や他の門下生の方達も考えを切り替え易くなるはずですから。」
僕がその様なアイデアを出すとラーベンさん達も同意してくれる。
「確かにその様な印があれば私たちも接しやすいです。」
ラーベンさん達も同意してくれたことでエレインも理解した様だ。
「わかったわ。明日からそうね、ニクスの様に腕章をしてくる。そうすれば一目でわかるわよね?」
「それはいいアイデアですね。」
僕が素直に褒めるとエレインは照れている。
朝の掃除はいつも最初に終わっていた僕達だったが、それでもなんとか少し遅れたくらいで終えることが出来た。
「では今日はここまでですね。エレインさんお疲れさまでした。また明日よろしくお願いしますね。」
僕がそう言うとエレインは「ええ」とだけ返す。
「エレインさんさっき教えましたよね?こういう時の返し方。」
「そ、そうだったわね。ありがとうございました。」
「はい。お疲れ様でした。」
こうして僕達とただの門下生のエレインの不思議な関係が少しずつ始まる。




