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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第二章

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【第66話】強さの先に

「ニクス様!本当に大丈夫ですか!?今日はお休みしても良いのでは!!」

ハースリンは一夜明けてもこんな調子で心配が爆発しているようだ。


「あはは。大丈夫だよ。ありがとうハースリン。」


「そうは言うが本当に大丈夫かい?」

ランスロッテ様も珍しく目頭にシワを寄せている。


「ええ、ありがとうございます。一日でも休んだら取り戻すのに一週間は掛かりますからね。」


「全く、そういう所は本当に頑固者だな。」


「ああ、こいつは一回言い出したら聞きやしない。諦めたほうが良いぜ。」


「レビン、今度ニクス君に何か合ってゲラゲラ笑ってたら・・・わかってるね?」

昨日のレビンの態度が相当ランスロッテ様に癇に障ったらしくこってり絞られていた。


「は、はひ・・・。」


「それではお先に行ってきます。」

昨日のように早々と出発し、呼吸法も混じえたランニングで道場に向かう。

道場に着くと既に門下生たちが昨日のように朝の支度をしているところだった。


「おはようございます!今日もよろしくお願いします!」

僕はそう挨拶を行い道場に入ると声を掛けられた。


「おはよう、鼻大丈夫だった?」


「昨日見てたけどすごかったな!スカッとしたぜ!」


「ああ、でもランスロッテ師すげえ怖かったな。」

等など色々と言われる。

やっぱりランスロッテ様の放っていた気迫は相当だったようだ。


掃除の班に分かれるとラーベンさんに謝られてしまう。

「昨日は大変だったね。すまなかった。本当は近くにいた僕達が静止させるべきだったんだが・・・。」


「気になさらないで下さい。ラーベンさん。こちらにはこちらの都合があるようにそちらにはそちらの都合があると思うんです。怒りを抑えきれなかった僕が悪いんです。」


「だが!」


「さ、早く掃除済ませちゃいましょう!」

そうして僕はニッ!っと笑顔を見せるとラーベンさんも渋々掃除を始めてくれる。

相変わらずこちらの班は早々に終わったので昨日と同じ場所で呼吸法を使ったストレッチをしていると声が掛かる。


「あ、すみません。今日もまたやっちゃったみたい・・・え?」

そこにいたのは僕の鼻の骨をへし折ってくれたエレインだった。


「何度も呼びかけたのに何で気が付かないの!?」


「あ、すみませんでした。集中してこのストレッチしていると周りのことがわかりにくくなってしまって。おはようございます。エレインさん。今日は何の御用でしょうか。」

僕はスッと体勢を直し、跪くではなく直立で話を聞くことにする。


「えっと、その・・・。鼻は大丈夫だったの?」


「いえ、見事に骨折していて昨日は痛い思いして自分で直しましたよ?」

僕は決して大丈夫ではなかったので率直にありのままを話した。


「・・・なさい。」


「え?」


「ごめんなさい、と言ったのよ!」


「ああ、気にしないで下さい。昨日は僕も調子に乗って挑発しすぎました。申し訳有りませんでした。」

そう言い僕は丁寧に頭を下げる。


「貴方は何故ここに来たの?」


「えっと・・・強くなるためですね。気術を身につける必要ができたのでランスロッテ様と一緒に来ました。」


「理由を聞いても?」


「そうですね。僕が努力をしなければ今から4年後にその人達を失ってしまうからですかね?」

僕はどこまで話していいかわからなかったのでぼやかしながら説明した。


「え?」

だがやはりエレインには伝わらなかったようだ。


「もし詳細が知りたいならランスロッテ様にお聞き下さい。僕ではどこまでお話して良いのかわからないので。僕からもお聞きしても?」


「え、ええ・・・。」


「貴方は何故、ここにいるのですか?」

僕は彼女と全く同じ質問をし返してみた。

これはふざけているわけでもなんでも無く純粋に知りたかった。


「私も力を付けるためよ。」


「理由をお聞きしても?」


「最強になるため。そして皆に認められるためよ。」

正直僕には理解できなかった。


「すみません。僕はこの国の事情を全然知らないので無礼があったら言って下さい。最強になることが皆さんに認められるということに繋がるのですか?」


「ええ、そうよ。最強になればこの国の頂点、大統領にだってなれる。」


「貴方は大統領になってそれで何をされるおつもりですか?」


「そ、それは・・・い、色々よ!」


「はあ・・・。わかりました。ありがとうございました。どうやら次の訓練お時間のようなので僕は失礼します。では。」

彼女の後ろでラーベンさん達がソワソワしていたのが見えたので僕は話を切り上げることにした。

それにしても彼女の言っていることが本当に理解できない。

大統領というのはあくまで立場の名前であって終着点ではないはずだ。

それなのに彼女にはそれが終着点のように話をしていた。


「皆さんすみませんでした。」

僕が頭を下げるとラーベンさん達はほっと胸を降ろしていた。


「昨日の今日でまた同じ事が起きるのかと心配しちゃったじゃないか!」


「あはは。申し訳ないです。」

その後は昨日のように同じ門下生とともに呼吸法の基礎を行いながら様々なトレーニングを終え昼食となる。

昼食時も色々な人に話しかけられてもみくちゃになりながらなんとか食事を終える。

なんか話を聞いてる限りエレインは相当嫌われてるのか?

彼女に対する不平不満が多く聞かれたような気がした。


午後になり僕達は門下生たちと別れ、師範代達のところに行くと師範代の一人に案内されある部屋に通された。

「私が来れるのはここまでだ。後は君とレビン君だけで入りなさい。」


「わかりました。ありがとうございました。」

僕はそう礼を言って頭を下げる。


「失礼致します。ニクスとレビンです。入ります。」

そうして扉を開けるとなんとそこには総師範(マスター)が一人、道場の真ん中に座っていた。


「来たか。済まないなわざわざ呼び出して。さあ、こちらに来ておくれ。」

総師範(マスター)から力強さは感じられず、一人の優しいお爺ちゃんといった雰囲気を感じる。


「失礼します。えっと?僕達だけですか?」

僕は他に人がいないのを不思議に思い思わずそう聞いてしまう。


「ああ、君達と私だけだ。今日は話を聞かせて欲しい。」

僕はそれが昨日のことを言っていることを察し、丁寧に頭を下げる。


「昨日は大変お騒がせしてしまい本当に申し訳有りませんでした。どの様な罰でも受け入れます。申し付けて下さい。」

僕がそう言うとしばらくの沈黙が流れる。


「・・・。顔を上げてくれたまえ、ニクスよ。何も罰を与えるためにここに呼んだわけではないのだ。座っておくれ。」


てっきりお説教が飛んでくるとばかり思っていた僕は頭に?を浮かべながら言われた通りそこに座る。

すると急に総師範(マスター)が頭を下げて詫びてくる。

「今回は本当に我が孫娘の事申し訳なく思っている。済まなかった。」


想像もしていなかった事態に僕は慌てて声を掛ける。

「ま、待って下さい総師範(マスター)!頭を上げて下さい。僕は謝れるようなことなど何もしておりません。それに詫びは今日の朝、彼女自身から受けておりますので!!」


僕がそう言うと総師範(マスター)が顔を上げ、少し驚いた表情で僕を見ていた。

「エレインから詫びを受けたのか?」


「はい。わざわざ僕のところまで足を運んで頂き、きちんと謝ってもらいました。僕からも昨日は挑発となるような言動が合ったのを詫びました。ですのでこの件は当事者間だけで既に解決済みであり、保護者である総師範(マスター)が謝る必要はないと思います。」

その言葉を聞き総師範(マスター)が更に驚きの顔を見せる。


「君は本当に11才の少年なのか・・・?とてもエレインより2つも年下とは思えない言葉だ。」


「良く言われます。というかエレインさんは13才だったのですね。」

正直言うと同い年くらいかと思っていたが13才だったのか。

13才と言えば僕の国では成人する年齢だ。


「ああ、もう13だ。君たちの国でも13才は一つの節目。成人の年であろう?それはここでも同じ事だ。彼女は立派な成人の女性なのだよ。」


「あ、やはりここでも成人年齢は同じだったんですね。」


「本人もそれは理解していると思うが、先日の組手といい、昨日の暴行といい、正直なことを話せば私は彼女の祖父として非常に恥ずかしい思いをしている。」


「成人しているのでしたらそれは総師範(マスター)の責任ではなく当人の責任ではないでしょうか?少なくとも僕の国ではそうです。」


「そうだな。その通りだよ。彼女の両親が早くに亡くなり、唯一の肉親として彼女を育ててきたが、私の育て方がいけなかったのか、武を教える事はできても道を示すことが出来なかった。不甲斐なく思う。」


「そんな事情があったのですね。確かに周りの同じ師範代の方たちから見ると相当彼女は若いですよね。」


「ああ、あの年で師範代になったのは彼女が初めてだ。武の才能は合ったかもしれないが、中身が伴っておらん。」

僕は出会ってまだ数日しか経っていない総師範(マスター)にこんな話をするのも失礼かとは思ったが、思い切って話をすることにした。


総師範(マスター)、僕たちはまだ出会ってから数日という浅い関係ながら彼女に対し思ったことがあります。お話してもよろしいでしょうか?」


それを聞いた総師範(マスター)の表情が少し明るくなる。

「ああ、是非率直な意見をもらいたい。どうも彼女の年に近い者たちから詳細な話は聞けないものでな。」


「それはそうだと思います。今日朝ここに来てからお昼までの間に聞いた彼女に対する評判ははっきり言って底辺に近いものだと感じました。」


「そ、そんなに悪いのか・・・?」


「はい。」


「それとこれは彼女自身から聞いたお話なのですが、彼女の目標が良くわからないのです。」


「それはどんな話だった?」


「最初は僕に彼女の方から問われました。何故ここに居るのかと。僕はその際、私の境遇をすべて話してはいけないと思い、僕が努力をして強くならなければ4年後に大切な人達を失うからとぼやかして答えさせていただきました。もし詳細が知りたいのでしたらランスロッテ様にお聞き下さいと。」


「ふむ。それが正しいだろう。」


「そして僕は彼女に同じ事を聞きました。貴方は何故ここに居るのかと。すると答えは最強になり皆に認めてもらう。最終的には大統領になる、というのが彼女の力を求める理由だそうです。」


「・・・。」

総師範(マスター)は目を閉じ僕の話を静かに聞いている。


「僕は今まで大変ありがたいことに国の頂点に立つ人物、お二人に会うことが出来ました。そこまでお二人とは話せていませんがその身振りや話し方、そして慕われ方からみてもとても信頼されている絶対的な指導者なのだということがわかりました。」


「そうだな。国の頂点に立つものは何より信頼の上に成り立っている。」


「ですが、彼女の言う大統領に僕は違和感を覚えました。彼女の言う大統領は、一つの肩書ではなく終着点の様に聞こえました。」


「そうだったか・・・。ありがとう、ニクスよ。ここまで詳細にあの娘の話を聞いたのは久しぶりかもしれない。」


「いえ、大変失礼だとは思いましたが今の総師範(マスター)となによりエレインさんには必要話のような気がしたのでお話させていただきました。」


「ああ、大変意義のある話だったよ。感謝する。」


「では僕はここら辺で失礼させていただきたいのですがよろしいですか?」


「ああ、そうだな。君には時間は貴重だ。努力したまえ。今度君に直接指導をつけてやろう。」


「いえ、それは結構です。僕は自分で実力をつけ、真に総師範(マスター)の指導を受けるに足りうると思った際はその時に宜しくお願い致します。」


「・・・。そうか、そうだな。」


僕は頭を下げ退室する。


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