【第62話】もう一人のドラゴンスレイヤー
レオニダスさんの提案により、僕はアルヴェリオン共和国の大統領と直接腕試しをすることになった。
早速僕達は大型の円形演習場で向き合う。
「ニクスとか言ったな?そう余り考えるな。ただの演習だ。」
「そうは言っても・・・。」
「力を貸してほしいのだろう?ならまずはお前の力を示せ。この国、『アルヴェリオン共和国』は力こそ絶対だ。故に最強たるものがこの国の頂点に立つ。」
「ということはこの国の最強は・・・。」
「俺だ。」
そう言ってレオニダスさんがニッと笑顔満面で答える。
「・・・わかりました。今の自分でどこまで通じるかわかりませんが、よろしくお願いいたします。」
「やる気になったようで何よりだ。どこからでも良い。掛かってこい。ただし手加減なぞしようと思うなよ?死ぬぞ。」
一気にレオニダスさんの纏う空気感がかわり圧が強くなる。
そして久しぶりに『死の匂い』が漂い出した。
「勿論そんなことはしませんよ。レビン。」
「おうよ。」
僕とレビンは一体となり右目の眼帯を外し、右手にハンドブレイカー、左手に短剣の二刀流で攻めることにする。
「ほう・・・。その格好。面白い。」
僕は息を整えると一気に呼吸を大きくする。
「ふっ!」
短く息を吐き、一気に突進し斬りかかる。
だがその一撃は簡単にいなされる。
カウンターで飛んでくる一撃はまるで大砲のごとく重いがとてつもない速さだ。
僕もそれを受けるのではなく流すように回避し攻める。
だが届かない。
そもそも体格差が有りすぎて間合い感覚がおかしくなる。
自分は間合いの外にいるつもりがその間合いの外から一撃が飛んでくる。
躱し懐に入ったつもりが途轍もない速さで既にレオニダスさんは構え直しており懐に入る好きがない。
「ぐう!」
次第に僕は防戦一方になる。
『死の匂い』も段々と濃くなり始める。
「お前の力はこんなもんか!!」
一段と匂いが濃くなり、緊急回避を試みるが一撃の速度がとてつもなく早く放ってきた一撃が僕の胴体に入る。
ハンドブレイカーで上手くガードは出来たが明らかにガードを押しのけるような力でハンドブレイカーごと吹き飛ばされる。
「がはぁっ!」
「ランスロッテぇ!お前、まさかこんな奴が脅威だなんて言うんじゃねえだろうなあ!?この程度だったらその魔人は俺が殺してやる!!」
明らかな実力不足な僕に対し、レオニダスさんは怒りが爆発していた。
「相変わらずの馬鹿力だな。それに今のままではこうなるのははじめから分かっていたさ。」
ランスロッテ様が僕に近づきながらレオニダスさんに言い返す。
「ニクス君。まだやれるね?」
「当然です!僕はランスロッテ・アーテルの子、ニクス・アーテルですから・・・!」
僕が体制を立て直し呼吸を整えていると、ランスロッテ様より小ぶりな魔石を渡される。
「そうだね。なら君の本気を見せてやると良い。」
「あん?魔石だ?」
「気をつけろよ、レオニダス。此処から先のニクス君は今までとは別人だぞ。」
ランスロッテ様がレオニダスさんにそう言い放ち、一気に安全圏まで退避する。
僕はその姿を見届けた後、手に握った魔石を思いきに握りしめる。
「ドクン!」
命の逆巻時計がそれを合図に一気に脈打ちだす。
魔石は砂になり命の逆巻時計へと消えていき、そして時が逆さに回りだす。
顔面の右反面に猫の面のようなものが現れ、僕は全身にマナが回りだすのを感じる。
その瞬間けたたましい音共に体外へと電撃が放出される。
バチチチチ!!!
僕は常に持ち歩いている黒砂にマナを通しハンドブレイカーの形態を変化させる。
【黒砂の剣】
僕はそう唱えるのと同時に一気に間合いを詰める。
速度は先ほどの比ではない。
今までは雷の魔法を自然と身体に纏わせ、身体強化により爆発的な速度を生み出していたが今はそれに呼吸法が加わっている。
その一撃はまさしく稲妻の如く、レオニダスさんを持ってしても目の端で追うのがやっとの位の速度だ。
「なっ!?」
慌てて躱そうとするがとても速度が追いついていない。
入る!
そう思った瞬間、不思議な力によって弾き返される。
だが僕は既に二の矢として鎖状にした黒砂と短剣を結びつけ弾き返された瞬間にはそれを放っていた。
その短剣も電撃を帯びとてつもない速度でレオニダスさんの腕に絡みつく。
「ぐ!小手先を!!」
僕は絡みついた鎖を思い切り掴み投げ飛ばす。
「うお!?何だと!!」
レオニダスさんの巨大な体格が一気に宙に浮き投げ飛ばされる。
宙に投げ飛ばされた時点で僕は武器を手放し、【黒砂の剣】を鎖状にしたものを手に巻き付け一気に殴り掛かる。
ギュイイイイ!!
殴りかかったレオニダスさんは投げ飛ばされた形のまま器用に体制を立て直し、僕の一撃をはめていた籠手で受けようとするも、【黒砂の剣】特有の超振動によって途轍もない音を立て更に火花が散る。
だが、命の逆巻時計の時間が切れたようで僕の身体から一気にマナが抜け僕、レビン、命の逆巻時計はばらばらになってしまう。
「ぐう、ここまでか・・・!!」
僕は反動で思い切り体勢が崩れ、その場に転倒してしまう。
息を整えようとするも、初めて行った命の逆巻時計と呼吸法の同時併用の負担があまりに大きすぎまともに呼吸ができなくなっている。
レビンも呼吸が絶え絶えになり、まともに呼吸が出来ていない様子だ。
「ぜはぁ・・・、はぁ・・・・。」
レオニダスさんは先程の最後の一撃を受けたにも関わらず平然と歩いてくる。
なんとか立たなければ・・・。
そう思うがまともに呼吸が出来ない僕は目も霞、まともにレオニダスさんを捉えることすら出来ない。
「ぐう!!」
そう言いながら立とうとした僕にレオニダスさんが手を差し伸べ支えてくれた。
「おう、大丈夫か?いやはや驚いた。一瞬とは言え俺があそこまで押されるとは想像もしていなかった。ランスロッテ!」
いつの間にか匂いも消えて霧散していた。
「ああ、ここからは私が引き受けよう。」
いつの間にかランスロッテ様も近くに来ていて、僕達を担いでくれる。
「良く頑張った。流石私の子たちだ。」
僕はそのランスロッテ様の声を聞き、最後には気を失ってしまった。
「う・・・ん・・・?」
僕はしばらく気絶していたようだが目が覚めるとランスロッテ様とレオニダスさんが話をしていた。
レオニダスさんはお土産のお酒を飲みながら機嫌が良さそうに感じる。
「おや?ニクス君、目が覚めたかな?大丈夫かい。」
ランスロッテ様が優しく起こしてくれる。
「ええ、かなり息苦しいですがなんとか・・・。」
いまだ肺へのダメージがかなり残っており息がしづらいがなんとか起き上がれる程度にはなっていた。
「初めての完全顕現に合わせての呼吸法だ。無理はしないほうが良い。」
「はい。ですがあれでは僕は力不足でしたよね・・・。」
僕が項垂れ、そう言うとランスロッテ様とレオニダスさんがお互いを見つめ合って大笑いを始めた。
「あはは。流石我が息子だ。本気で勝つつもりでいたようだね。」
「ガハハハ!面白い小僧だ!!その小さな身体でまさか俺を投げ飛ばし、しかも竜骨の籠手にヒビまでいれておいてそれでも足らないと来たか!!ガハハハ!」
僕は状況を理解できずにポカーンと口を開けているとレオニダスさんが説明をしてくれる。
「言っただろう。あくまで腕試しだ。確かに最初のお前ではまるで話にならなかったが、マナを得てからの本当のお前は別物だ。合格だよ。」
「えっ!?」
「ふふ。むしろ不完全な状態で良く最初あれだけ頑張ったね。」
「ああ、普通のやつなら初手で身体に大穴開けて死んでるわな。良く躱せたもんだ。」
「まあ、私と毎日丸一日掛けて稽古してるからね。」
それをレオニダスさんが聞き口を開けて驚いていた。
「本気か・・・?まさかランスロッテのやり方についていける子どもが居るとは思いもしなかった。」
「現役最強のドラゴンスレイヤー様のお眼鏡にかなったようで何よりだ。」
「えっ!?」
僕は更に衝撃を受ける。
「うん?あれ?前に言わなかったっけ。私以外にもう一人ドラゴンスレイヤーの称号を持つものが居ること。」
「なんか聞いたような気はします。」
「それがレオニダスさ。レオニダスは史上最も硬いと言われているグリーンドラゴンを仕留めドラゴンスレイヤーの称号を得たのさ。そして今の地位に居る。」
「ええ!?」
「ガハハハ!そういう訳だ。ちなみにその最も硬いと言われているグリーンドラゴンの骨を使って作られたのがこの竜骨の籠手だ。今まで傷一つ入ったことはなかったが遂に傷つけられちまった。」
「そ、そんなすごい物だったんですね・・・。」
僕は話のスケールの大きさに呆気にとられていた。
「それにしてもあの力を持ってしても倒しきれない魔人か・・・。確かにそいつがその気になればこの世界は終わるかもな。」
「だろう?だから君の力が借りたい。」
「良いだろう。この小僧が呼吸法を使っていたのも初めからそれが狙いだったんだろうしな。」
「流石。良くわかってる。」
僕一人が良く分からないでいるとランスロッテ様が説明をしてくれた。
「君は獣人たちのことをどれくらい知ってるかな?」
「え?今まで出会ったことがなかったのでほぼ知識がありません。すみません。」
「まあ、そうだろうな。俺達は基本外との繋がりを持とうとしない。故に知られている部分は少ないから気にすることはない。」
レオニダスさんがお酒を煽りながら話してくれる。
「俺達はな、基本全員がヒューマン達の言う所のブランなんだよ。」
「ええ!?」
僕は余りの事実に思わず声が出る。
ヒューマンの世界ではブランのほうが圧倒的に少ないのに獣人の世界ではブランであることが一般的なのか。
「だが、俺達は魔法とは別の術を用いて戦う。それが『気術』だ。」
「『気術』ですか?初めて聞きました。」
「そもそも魔法はどうやって行使されているかは理解しているよね?」
ランスロッテ様からおさらいだと言わんばかりに質問される。
「ええと、自然界に存在しているマナを体内に取り組んで魔臓で取り組んだマナに属性を付与させ圧縮し、放出されるのが魔法ですよね。」
「その通り。付け加えればブランは魔臓が上手く機能せず魔法が発現しない状態のことだ。」
「そうですね。」
僕はうんうんと言いながら話を聞く。
「『気術』はそもそも自然界に存在しているマナを必要としていない。自身の生命エネルギーを身にまとわせることによって成り立つ身体強化術だ。」
「生命エネルギーを・・・。」
「そういう意味では君の魔臓の代わりになっている命の逆巻時計に近いかもしれないね。でも効率がまるで違うんだよ。君の命の逆巻時計は途轍もない爆発力はあるが、比例するように途轍もなく消費が激しく燃費が悪い。」
「そうですね。自身や他者の生命をエネルギーにする割に一瞬で終わっちゃいますね。」
「『気術』は生きていれば自然に発生する生命力をエネルギー源にしている。効率も継戦能力も魔法よりはるかに高い。極端な話生きている限り、『気術』を発動することが可能ってこともあながち言えなくもない。」
「そんなことが・・・。あ、もしかしてランスロッテ様は・・・。」
「ああ、私は魔法も気術も両方使える。ちなみにこの世界でこの二つを体得している存在は私が知る限り会ったことがない。」
「そ、そんな稀有な存在だったんですね。」
「ふふ。驚いてくれたようで何より。」
「話を戻すぞ。ニクス。お前には今後訓練により『気術』を取得してもらうことになる。そして将来的に気術で命の逆巻時計の燃費の悪さを補う訓練をする。」
僕はそこまで言われここに来た理由が初めて理解できた。
燃費が悪いならそれを補う手法を身につければ良い。
理由は単純明快だった。
「理解できたようだな。とりあえず夜も遅いし飯を食う気力もないだろう?今日はもう寝ろ。訓練は明日以降だ。」
「はい!」
なんとか無事にレオニダスさんに認められ僕は新しい戦闘術、『気術』を身につけるべく次の訓練へと移行する。




