【第53話】ニクス・アーテル
「僕がランスロッテ様の養子に・・・ですか?」
僕はあまりに急でとんでもないことを言われ理解できずにいた。
「ああ、すまない。困らせようとしたわけじゃないんだ。それに無理にとは言わない。だがこれは私なりの『覚悟』だとでも思ってくれれば良い。勿論君にとっても損な話ばかりではない。」
ランスロッテ様はその表情から察するに非常に真剣に見える。
「理由をお聞かせしてもらってもいいでしょうか?それに『覚悟』とは?」
ランスロッテ様は話に聞く限り、一箇所に留まらない自由人の様な印象を持っていた。
だからこそ非常に気になった。
「そうだね。君と先程、100%の全力ではなかったとは言えその潜在能力を見ることが出来たしそして、君が相対するべき存在ノクタリオスという魔人の脅威度も格段に跳ね上がった。私は正直、最初に君からノクタリオスが世界を破壊し尽くすと聞いた時、それはありえないと思った。何故なら過去そんなことを画策してきた人間や魔人を幾度となく見てきたが、どれもそれは叶わず今に至っている。」
「確かに、『今』この瞬間があるということは何かしらの理由があって頓挫したからこそ存在している『今』なんでしょうね。」
僕はこの世界の歴史は本の中でしか知らない。
だがランスロッテ様はハイエルフであり、ノクタリオスほどではないとは言っていたがそれでも悠久の時を生きてきた生き証人なのだと思った。
「ふふ。余り女性に年齢のことを考えさせるべきではないかな?」
びくー!!
考えが読まれてしまったようだ・・・。
「す、すみなせん。そんな気ではなかったんですが。」
「いや、冗談だよ。正直もう年齢のことなんてどうでもいい位私は生きている。それが数少ないハイエルフという種族のある意味では宿命なのだろう。だから不思議とね、ノクタリオスが死を望むというのも満更わからないわけではないんだ。」
遠い目をしながらランスロッテ様が言う。
「え?」
「よくおとぎ話なんかでも不老不死に憧れて、とか錬金術の奥義『賢者の石』を使えばとか色々な話があるだろう?」
「確かにおとぎ話なんかではよくあるテーマですね。」
「君は不老不死に憧れたり、それを望むかい?」
「そうですね・・・。前世にあたる僕の最後を知っているからなのかどうせならば病気や怪我をせず、家族に囲まれながら生きて、皺くちゃなおじいちゃんになって、最後は寿命で終わりたいかもしれないですね。」
僕は村にいた元気なじいちゃんを思い出しながら答える。
「ふふ。良いね。私もそれは望みかもしれないな。だけどね、私たちハイエルフ種やほぼ無限に生き続けているのではないかと言われている龍種、そして君の片割れとして生を受け、歪な形の生を持ってしまったからこそ自死すら許されないある意味では神の領域からも逸脱してしまったノクタリオス。少ない存在ながらも生まれた時より長く生きる運命にある種族の願いは何だと思う?」
「それは・・・。まさか『死』ですか?」
「そう。長命種の願いは悠久の時を生きることよりもいつか訪れるであろう『死』を望む。長生きするのは悪いことではないだろう。だが、長生きしすぎるのはね、疲れるのだよ。」
そう語るランスロッテ様の顔に死を切実に望んでいたノクタリオスの顔が重なって見えた。
「例え友と呼べる存在や恋仲、あるいは結婚し子どもや家族を設けたとしてその相手が早くに不幸にも旅立ってしまったら?残りの遥かに長い人生を孤独で過ごさないといけない。それは『呪い』と言ってもいいだろう。」
「少し前まで普通の人間だった僕からすれば途方もない苦悩だと理解できます。魔人となった僕からすれば、それは今後僕も向き合わなければいけない事実だと言うことも理解できます。」
そうだ、僕には身近に短命だったものと長命すぎるものの存在が混在している。
どちらが辛いかと聞かれてもどちらと言い切ることが出来ない。
「君は本当に10年しか生きていない子どもとは思えない思慮深さだ。ただただ驚きを禁じ得ない。」
そういってランスロッテ様は本当に驚いたような表情をしている。
「あはは。僕は短すぎた生も長過ぎた生も両方『視ました』から。」
「そうだったね。すまない。だからこそ君という存在を通しノクタリオスの『望み』を切実に叶えてやりたいと思った。これは長命種である私のある意味では君とともに背負う『宿命』なのかもしれないと感じたんだよ。」
「ランスロッテ様・・・。」
「私は今まで独りを望んできた。それは過去に人と繋がりがあり、別れが合ったからこそその現実から逃げるように独りで彷徨ってきた。だが、最近になりまた新たな出会いがあり友と呼べるべき存在が生まれ、更には同じ様な『呪い』により苦しんでいるものを見つけてしまった。私はもうこれ以上失いたくはないし、同じ思いはさせたくない。」
その言葉を聞き僕は自然と涙が流れていた。
「お、おや?何か困らせてしまったかい?ごめんよ。私はこういう時どうしたら良いのかわからないんだ。」
僕のそんな姿を見てランスロッテ様はおろおろと狼狽していた。
「こいつは涙もろいガキなんだ。何もする必要はないぜ。」
そんな様子を見たレビンがランスロッテ様にアドバイスをしていた。
「そ、そうなのか・・・?」
僕は涙を拭い、深呼吸をしてからランスロッテ様の目を真っ直ぐ見る。
「ランスロッテ様。どうか僕とレビン、そしてノクタリオスを助けて下さい。僕達はまだまだ力も知識も技量も何もかもが足りません。お願いします。」
僕とレビンは頭を下げる。
「・・・。ああ、よろしく頼む。これから君達にとっては長く険しい道になることだとは思うが共に乗り越えていけると信じている。ありがとう、ニクス君。レビン。」
そう言いながらランスロッテ様は僕達に握手をしてくれた。
「ありがとうございます。ランスロッテ様。ここまでお話を聞かせて頂き、先程ランスロッテ様の養子の話と『覚悟』のお話、理解できた気がします。」
「そうか。それは良かった。私は皆から言われているように言葉がどうも足りなくてね。君が聡い子で本当に助かる。」
もしかしたらランスロッテ様は今までどこかしら自分と世間を無意識に切り離していたがために言葉が足らなかったのかもしれないと僕はそう思った。
「これからは一杯お話しましょう。それこそランスロッテ様のご活躍のお話や冒険したお話等沢山聞きたいです!」
「そうだね。話の種はたくさんある。だが可能なら私は『過去』よりも『未来』に目を向けたい。一緒に話の種を作らないかい?」
非常に嬉しい提案だった。僕は二つ返事で承諾する。
「是非!」
「それで養子の話だが・・・。」
「本当に僕なんかがそれを望んでも良いんですか?それこそランスロッテ様はこの国の男爵の爵位を持つ方ですよね?王様に怒られませんか?」
そう言うとランスロッテ様は笑い出す。
「あはは。それは心配しないでも良い。確かに王様は私の信頼している人物の一人だが、そんなことを言う人だとは思っていないし、そんな事を言いだしたら私は爵位など脱ぎ捨てて、この国から去るだけさ。勿論君とレビンとね。」
「ありがとうございます!心の底から嬉しいです!」
「よろしく頼む、ランスロッテ。」
「ああ、よろしく頼むよ。我が子達、ニクス・アーテル君とレビン・アーテル君。」
「アーテル・・・。それが僕達の氏になるんですね・・・。なんだか信じられないです。」
改めてランスロッテ様にそう言われじわじわと実感が湧いてくる。
「レビン・アーテルか!かっこいいじゃねえか。気に入った!!」
レビンも嬉しそうだ。
「気に入ってもらえて何よりだ。これも運命かな?『アーテル』は昔の言葉で『黒』を意味する。爵位を賜った時、王より考えろと言われて困り果ててね。夜空を見ていてその時に思いついた氏なんだ。君たちは何かと『黒』に縁がありそうだ。」
確かに髪の色だったり毛の色だったり、黒砂を使ったりと黒には縁があるのかもしれない。
「とりあえず明日には王に手紙を出して数日後には僕は王に直接出頭して報告することになるだろう。正式にはその際に出るであろう王の許可が出てから、君たちを養子に迎え入れることが叶う。なので実際はもう少し待っててね。」
事情が事情だし、恐らく養子の話もランスロッテ様の突発的な考えだろう。
そこはしばらくの我慢だ。
「わかりました。あ、でも色よい返事が貰えなくても僕は問題ないですからね!『アーテル』を名乗れなかったとしても僕とレビンはもう気持ち的にランスロッテ様の子のつもりですから!」
「あはは。それは嬉しいことを言ってくれる。まあ、どうなるかは確かにわからないが努力はしよう。これが君たちの親としての最初の仕事だ。」
「はい!」
「良かったですね・・・!ランスロッテ様・・・。本当に良かったですね!」
何処かからか、すすり泣く声が聞こえてきた。
「ん?この声は?ハースリン!どうかしたの!?大丈夫?」
その泣き声の主はハースリンだった。
「ようやく、ランスロッテ様もご家族を得ることが出来たのですね。私大変感動いたしました。」
「あはは、ハースリン。いつも心配をかけるね。」
「いえ、私は生涯をランスロッテ様にお使えすると決めた身です。ランスロッテ様のお子様であるならばそれは私にとっても重要なことです。」
「ハースリンも大事な家族だものね?」
僕はそんな事を言うとハースリンがひどく感動したようで更に泣き出した。
「ニクス様・・・!」
「あはは。ハースリン、そう言えばニクスは料理が得意なようなんだ。今度ニクスと一緒に料理をして私に振る舞ってくれないかな?」
そう言ってランスロッテ様がフォローを入れてくれる。
「そうなんですね!では是非今度ご一緒にお料理しましょう!」
ハースリンは興奮気味に僕の手を取ってブンブン握手をしてきた。
「よろしくね。ハースリンのご飯は美味しいから勉強させてもらうね。早速今日の夕飯から手伝ってもいいかな?」
僕がそう提案すると「是非そうしましょう!」とハースリンもご満悦な様子だった。
こうして僕とレビンは新しいこの家で新しい家族として迎えられることとなった。




