【第52話】蒼雷
ドクン・・・ドクン・・・。
命の逆巻時計が手にした魔石を吸い取り始め、それに合わせて時計が勢いよく針が進む。
だが今回は、アッシェ先生の命を頂いたときよりも針の進みは少なかった。
その針はすぐにピタリと止まり時計の針が逆に進み出す。
僕とレビン、そして命の逆巻時計は再び一つになり、完全な『ニクス』の姿を取り戻す。
その瞬間全身をマナが駆け巡り体外へと放電現象が始まる。
バチチ!!
それを見たランスロッテ様も身に纏うマナの色を一段と濃くさせると僕と同じように体中から放電現象し始める。
バチ!バチ!!
『死の匂い』が更に濃くなるのを感じる。
この匂いにあの姿。
ランスロッテ様も本気というわけだな。
逆にここで手を抜いたら僕は死ぬ。
直感的に感じハンドブレイカーに黒砂を纏わせる。
【黒砂の剣】
それを見て仕掛けてきたのはランスロッテ様だった。
バチチチ!とランスロッテ様から派手な音がしたかと思うと既に間合いに入られている。
「早い!だけど!」
決して捌ききれないスピードではない。
超高速のランスロッテ様の一撃を受け流す。
その瞬間雷と雷がぶつかったため激しい放電の音と共に、僕の【黒砂の剣】特有の甲高い音が聞こえた。
ランスロッテ様は一瞬驚いたような表情をしたが僕はその瞬間を見逃さない。
一歩ランスロッテ様が下がれば僕は更に一歩を踏み込み切込む。
その一撃をランスロッテ様は受け流すことを避け、大きく後退した。
その為、僕の【黒砂の剣】は切っ先が地面に当たりその際の【黒砂の剣】より生じる超振動による一撃で地面が『抉り取られる』。
バガァン!!
立ち上る土煙に視界を奪われるも、僕の眼はマナをしっかりと『視て』おり、ランスロッテ様の正確な位置を知るとともにそのマナがとてつもなく研ぎ澄まされ膨れ上がっていくのを見る。
【蒼雷】
一瞬の事だった。
ランスロッテ様が放ったその雷魔法は蒼き雷の3本と矢となり飛んでくる。
とてつもないほど強い『死の匂い』が濃くなる。
僕はその状況から一気に【黒砂の剣】を解除し、矢の射線状に一枚の極薄な黒砂で構成した大盾を展開し僕自身は一気に後ろに退いた。
なんとか2本の矢はその新たに展開した黒砂の大盾に直撃させることが出来たが1本を逃す。
文字通り雷のような速さでその一本は自身に迫る。
『死の匂い』の濃さが変わらない。
だがその時、僕の与えられた命の逆巻時計の時間が切れる。
僕達は再びバラバラの存在に戻る。
まずい!
本能的に死を覚悟した時だった。
ふと『死の匂い』が急速に消えたのを感じる。
僕に向かっていた一本の雷の矢は急速に進路を上に変え『特別訓練場』に設けられている防御結界に直撃したようで凄まじい音を立てながら爆散していた。
「た、助かった・・・。」
「流石に今回は俺様も死んだと思ったぜ・・・。」
僕とレビンはその場に力を失いへなへなと座り込んでしまった。
「大丈夫だったかい?」
ランスロッテ様が近寄ってきてくれ僕に手を差し伸べてくれた。
「流石に今回は死ぬかと思いました。」
率直な意見を述べるとランスロッテ様は「あはは。」と苦笑いをしていた。
「いや、私もあそこまでやられると思ってなかったもんで少し本気を出してしまった。」
僕はランスロッテ様の手を貸してもらいながら立ち上がる。
レビンはどうやら完全に腰が抜けている様で立ち上がれなかったため僕が抱きかかえることにした。
「それにしても今回のあの形態変化は規模感も小さかったし、時間も短くなかったかい?」
「なんでそれを知ってるんですか?まさか見てたんですか?」
僕はその的確な言葉に驚く。
確かにランスロッテ様の言う通りだった。
先生の命の最後の灯火を命の逆巻時計で返還した時はもっと勢いよく時計の針は激しく動いていたし、何より変換されたマナの量に明確な違いがあった。
「君とノクタリオスのやり取りを見たのは本当に終盤だけだったよ。だが、君とノクタリオスから発せられるマナはとてつもなく強いものだった。現場に駆けつけている時点、かなり遠い場所からでも君たちのマナを感じることが出来た。そしてそれはとんでもない力だったし、事実あの戦闘跡は今の比じゃなかったからね。」
「自分ではわかりませんでしたがそんなに強いマナだったんですね。」
ドラゴンスレイヤーの称号を持ち王宮魔法使いの人物から見てもそう感じ取れたということはやはり命の逆巻時計で変換される『命のマナ』は代償が大きい代わりに出力も桁違いなようだった。
「だが、しかし末恐ろしい。君の本来の力ではなかったとは言えまさか『ここまで』とは。」
そう言ってランスロッテ様は僕と一度だけ【黒砂の剣】の刃を受けた杖と剣が一体になったかの様な特殊な武器を見せてくれる。
その武器は恐らく【黒砂の剣】と接触した際のダメージが大きかったのか、かなり刃毀れを起こしていた。
「これ、一応オリハルコン製の武器だったんだけどね。まさかそれもマナで強化した状態でここまでダメージを受けるとは思いもしなかった。」
ランスロッテ様がさらりといった言葉に僕は耳を疑う。
「オ、オ、オリハルコンですか!?伝説の金属じゃなかったんですか?」
「おや?オリハルコンを知っているのかい?」
「はい。この僕の剣を打ってくれた鍛冶師の方が教えてくれました。」
以前ハンドブレイカーを打ってくれた鍛冶師のハーガンさんの話を思い出す。
「俺の夢はオリハルコンを使って武器を打つことだ!」と言っていた。
その際にオリハルコンについて色々と教えてくれていたのだった。
「そういや君の剣、さっきと違うねえ?黒い刃が付いてなかったかい?」
ランスロッテ様が興味深そうに聞いてきたので、僕は【黒砂の剣】について説明した。
「ほー・・・。超振動する黒砂を集めた刃か・・・。なかなかに発想が面白い。」
「元はと言えば色々エレキテルのことを勉強した上で付いた知識を、初めてあの元の状態になった時に、ノクタリオスを『殺しきれる形』に作り上げた物でしたが。」
「急造品のオリジナル魔法であの威力か・・・。」
ランスロッテ様がちらっと視線を動かした先には先程【黒砂の剣】が接触した際にできた大きなえぐれた跡があった。
「それよりも身体は大丈夫なのかい?」
ランスロッテ様が僕の身体のことを心配してきたが、今回はダメージらしいダメージもない。
ただマナを使った反動か疲れは感じている。
「はい。そうですね。疲れはしましたが身体のダメージはほぼ無いですね。」
僕が声答えるとランスロッテ様は「そうか。」といって考え込んでしまった。
僕はその姿を見て「あの・・・?」と思わず声を掛ける。
「あ、ああ。すまない。私の癖でね。なにか疑問などがあると場面を考えずに考え込んでしまうんだ。今日はこれぐらいで引き上げよう。」
「はい。」
僕はそう言い、荷物をまとめレビンを頭に乗せてランスロッテ様と『特殊訓練場』の外へ出ると予想外なことが起きた。
ダンバンさんを筆頭に冒険者ギルドの人たちが色々と声を掛けてくれた。
「坊主!お前凄いな!!俺も長い事コイツの友人をやってきたが、まさか『蒼雷』とまともにやり合ってるやつなんて初めて見たぞ!」
ダンバンさんが興奮しながら僕をバシバシ叩いてきた。
「あ、はは・・・。所で『蒼雷』というのは?」
僕は初めて聞く単語をダンバンさんに聞いてみた。
「こいつの二つ名だよ。実際この二つ名の由来にもなった魔法も見ただろう。最後にお前を追い詰めたあの魔法だ。ランスロッテは白金級の二つ名持ちだ。」
ダンバンさんが衝撃的なことを言ったので僕は思わず叫んでしまった。
「ええーー!!し、白金級の二つ名持ちだったんですか・・・。」
「言ってなかったっけ?まあ余り公に出してないことだしね。あ、それとダンバン。申し訳ないが今日のこの事は可能な限り箝口令を敷いてくれ。この子を預かっているのは『僕の上の人間』の指示だからね。」
それを聞いたダンバンはどういう事態なのかを即時理解したようで、この場にいた冒険者たちに即時箝口令を敷く事となった。
「今後、ここが空いてるなら適宜貸してもらうかもしれないが大丈夫かい?」
ランスロッテ様がダンバンさんに確認を取ると「ああ、そういうことなら構わない。」と返答してくれた。
「さて、家に帰ろうかニクス君。」
「はい。」
そう言って僕達は男爵家に戻る。
「今日はもう予定もないし、私も考えたいことがあるから自由にしていいよ。」
ランスロッテ様の計らいで昼前に終わったこの特殊闘技場の後は自由時間となった。
「とりあえず僕も何も考えて無かったし、いつものルーティーンでもしようかな。」
そういうとレビンが嫌そうな顔をしていた。
「ついに地獄の行軍を自分からやるようになったか・・・。」
そういい、逃げようとするレビンの首根っこを僕は捕まえる。
「お前も一緒にやるんだよ。」
「何で俺まで!!」
「『俺達』で強くなるんだろう?」
僕はそう言いながらにっこり笑う。
「ぐわーーー!!」
レビンの悲鳴がこだました。
しばらくストレッチをしているとハースリンが昼食の準備ができたと呼びに来てくれた。
「た、助かった・・・。」
レビンがはあはあ言いながら言っているが当然僕は逃がすつもりはない。
「昼食後も自由時間なんだから続きやるに決まってるだろう?」
「お、お前!本当にアッシェの野郎そっくりになったな!!」
「当然じゃないか。アッシェさんは僕の先生だったんだから。」
ハースリンが用意してくれた昼食は、今回のことを想定してかかなり消化の良い内容物に見えた。
「ああ、美味しかった。」
僕が食べ終え、ハースリンがせかせかと食器を下げているとランスロッテ様より話があった。
「ニクス君。午後は何をする予定かな?」
「あ、はい。今日は自由時間ということだったのでストレッチを再開して後は基礎体力トレーニングでもしようかと思ってます。本当は打ち合い訓練もしたかったんですが、実はアッシェ先生から一人で武器を使った訓練は、変なクセが付くからという理由でさせてもらえなかったんですよね。」
それを聞いたランスロッテ様は感心したようだった。
「本当にいい先生だったんだねえ。私もそれには賛同する。」
僕はそれがとても嬉しく自然と笑顔で答える。
「ええとっても。」
「無愛想なおっさんだったがな。」
レビンがそんな悪態をつくので僕が「こらー!」と叱る。
その姿を見てランスロッテ様は「ふふ」と笑っていた。
だが、次の瞬間真面目な表情になった。
「ニクス君。まずは謝らせて欲しい。場合によっては君を殺すつもりでいた。すまない。」
「大丈夫です。知ってましたから。」
僕がそう答えるとランスロッテ様が驚いたような表情をした。
「当然じゃないですか。僕とランスロッテ様はまだ付き合いも浅く、ランスロッテ様から見れば僕は得体のしれない魔人の片割れでしかないんですもの。王家を支える人間として、白金級冒険者として不穏だと思われれば殺されたとしてもそれは致し方のないことだと思います。」
「君は・・・。そうか。私の親友が痛く気に入り、眼にかけて心配していたのもよくわかった。」
恐らくそれはマーリンさんのことだろうとどこかで思った。
「私はね。今日の一件で思い知ったよ。もっと君のことを知らなければならいとね。そこでだ、もしよければ私の養子にならないか?」
考えてもいないことを言い出したランスロッテ様に思わず驚いてしまう。
「えっ!?」




