【51話】不完全な融合
「さあ、こちらがニクス様とレビン様のお部屋になります。ごゆるりとお寛ぎ下さい。」
家守妖精のハースリンに案内された一室は簡素ながらも非常に広く一人と一匹で住むには十二分すぎるほどの広さだった。
「こ、この部屋を僕達で使って良いのか。」
「ランスロッテはこの家に滅多に帰らないと言っていたが宝の持ち腐れだな。」
レビンからの衝撃の言葉に驚きを隠せない。
「そうなの!?こんなに立派なお家なのに?」
「ああ、言ってただろ。あいつは元冒険者なんだよ。根無し草のその時暮らしが性分にあってるらしい。」
「はー。というか本当にレビンは色んな人と情報交換してるんだな。」
レビンのコミュニケーション応力の高さに素直に驚く。
「ふふん!流石俺様だろ?褒めてくれて良いんだぜ?」
「さっきまで吐きまくってたくせによく言う。」
僕達はそんなことを言い合いながらも荷物を片付ける。
と言っても元々荷物はかなり少ないのでさっと終わる。
そこにハースリンが朝食が出来たと呼びに来てくれた。
「こちらでございます。既に御主人様は召し上がっているようですが。」
ハースリンが言うように既にランスロッテ様は朝食を食べ始めていた。
そこには男爵という階級を持っているはずながらも全く貴族感を感じさせない普通の食事の様相に僕は少し気が楽になる。
「見ての通り、ここは男爵家であり僕は男爵位を持っているがそんな物は関係ない。テーブルマナーも必要ないし、なんなら少し大きい家位の感覚でいてくれて構わないからね。」
やはり心を見透かされているようで先にランスロッテ様に言われてしまう。
「あはは。その方が僕としても楽で助かります。この食事はハースリンが?」
「そうだよ。おいしいぞー。」
「ではありがたくいただきます。」
パク、これは!確かに美味しい!
伊達に男爵家の家守をしているだけのことはある。
部屋も綺麗だったし料理番まで完璧だなんて。
僕も時間があれば教えてもらおう。
レビンはよほど気に入ったのかガツガツ食べていた。
「ごちそうさまでした。ハースリン今度料理を教えて下さい。僕も料理は趣味なんです。」
「お粗末様でした。そうなんですね。まあ・・・、教えるのはやぶさかではないですが御主人様の訓練に耐えられたら、とお伝えしておきますね。」
どうやらランスロッテ様の訓練は相当ハードな様だ。
「頑丈なのだけが得意なので、最初は無理かもしれませんが、そのうちにでもお願いします。」
「畏まりました。」
そう言いながらそそくさと食器類を下げるハースリン。
「さて、とりあえず今日の予定だが。」
そう言いながらランスロッテ様が話を切り出し始めた。
「ここから比較的近い場所に冒険者ギルドとそのギルドが管理している特別な演習場がある。そこを貸し切って、全力で僕と戦ってもらうよ。勿論殺しはしないから安心して。」
ぼ、冒険者ギルドー!!
まさか夢にまで見た冒険者ギルドに行くことが出来るなんて!
「まあ、ギルドはあくまでついでだ。そんなに期待しないようにね。」
「わかっています。頑張るぞー!」
ドラゴンスレイヤーの称号を持つ方との戦闘訓練、本当に楽しみだ。
食後に武器類をまとめしっかりと逆巻き時計も首から下げ、ランスロッテ様と冒険者ギルドへ向かう。
「うわー!うわー!本当にここが王都の冒険者ギルドなんだ!すごい迫力!」
「あはは。そんなに珍しいかな?ニクス君は変なものが好きなんだねえ。」
「僕の小さい時からの夢でしたから!」
「そっか、夢か・・・。まあいい、中にはいってササッと訓練場の申請をしよう。」
ぎいと音がなる扉を開け中に入るとそこはまさしく夢にまで見た冒険者ギルドそのものだった。
逞しそうな冒険者たちに依頼表、うわー!本当に嬉しいなあ。
僕もいつか冒険者になってやるんだ!
「さあ、ニクス君こちらへ。やあ、済まないがギルマスはいるかい?ちょっと直接話をしたい。」
そう言いながらランスロッテ様は良く見えなかったが手に持っていた何かを受付に見せるとそれを見た受付は駆け足で下がっていく。
「ギルマスってギルドマスターですか!?」
僕はあまりに驚き口から心臓が飛び出そうになった。
「ああ、僕の友人の一人だ。それに今回の件ではギルマスの力が不可欠でね。と、噂をすればお出ましのようだ。」
僕は明らかに空気感が変わったのを肌で感じそちらを向くと、茶色のマナが二階からゆっくりと下がってくるのが見える。
「おいおい、友人が頼ってきたっていうのにいきなりそんな敵意剥き出しにしなくてもいいだろう?ダンバン。」
ダンバンと呼ばれた男は背が高く筋骨隆々としていてそこらの冒険者より一回りも二周りも大きく見えた。
だが、年齢は先生より若干年上ぐらいに見える。
「何が友人だ馬鹿野郎。この放浪者め。今までまともに依頼一つこなさないで何してやがった。」
ダンバンさんはキッとランスロッテ様を睨みつけるとダンバンさんの纏うマナの色がより濃くなる。
「ニクス君。ダンバンのマナの色は何色に視える?」
「茶色、土のマナですね。」
僕は即答するとそれに驚いたのかダンバンさんを取り巻いていたマナが一瞬にして消える。
「あ?何だこのガキ。」
ダンバンさんが珍しいものでも見たような顔になりランスロッテ様に聞く。
「ああ、僕の弟子のニクス君だ。」
「お前が・・・、弟子だと・・・?ガハハハ!!なんの冗談だ!」
そう言いながらダンバンさんは大笑いを始める。
「残念ながら大真面目なんだな。ダンバン、『特別演習場』を貸し切りたい。今から可能かい?」
ランスロッテ様のその言葉にダンバンさんの笑いがピタリと止まりランスロッテ様を睨みつける。
「久しぶりに戻ってきたと思ったら、『特別演習場』だ?何をするつもりだ。」
「この弟子の力を知りたい。」
ランスロッテ様がそう答えるとダンバンさんの頭に?が浮かぶ。
「弟子なのに力を知らないのか?普通逆じゃねえのか?それに『特別演習場』って・・・。」
「なんなら、見学にでも来るかい?その『意味』がわかるはずだ。」
ランスロッテ様からの笑みが消えダンバンさんをしずかに見つめる。
「・・・わかった。俺も立ち会おう。まあ、『特別演習場』の鍵は俺しか持ってねえからどうせ行くしか無いんだがな。」
「ふふ、そうだね。」
そう言って僕達はその『特別演習場』とやらに向かうことになる。
ダンバンさんとランスロッテ様のやりとりを見ていた暇を持て余した冒険者たちもどうやら付いてくるようだ。
「ランスロッテ様、『特別演習場』ってなんですか?普通の演習所ではないのでしょうか。」
僕は『特別演習場』という単語が気になっていたので聞いた。
「ああ、『特別演習場』は特殊な超結界が張ってある演習場で、その演習場から外部へ被害が出ないように施された演習場なのさ。それ故に『特別演習場』と呼ばれる。」
ランスロッテ様が答えるとダンバンさんも話に乗ってくる。
「おい、お前。こいつが『特別演習場』を使うことの意味をわかってねえのか?お前弟子のくせに師であるコイツに殺されるぞ。」
「え?」
そうこう言っている内に『特別演習場』とやらに付く。
そこは非常に大きな円形の闘技場の様な形になっていた。
ガチャリ
ダンバンさんは『特別演習場』の正面扉の鍵を開ける。そこは演習場というにはかなり大きな施設だった。
「俺達は観客席で見ている。あとは勝手にしろ。」
そう言ってダンバンさんと付いてきた冒険者たちは観客席のような場所へ移動してしまう。
「ありがとう。助かるよダンバン。」
「さあ、ニクス達はこっちだ。」
中心地点位までくるとランスロッテ様が確認をしてくれる。
「君にとっては久しぶりの運動じゃないか?少し準備でもするかい?」
確かに言われてみれば最近は傷がいえるのを待ちひたすら回復に努めていたので運動は久しぶりだった。
せめてストレッチだけでもしようと思い声を掛ける。
「少しだけお待ち下さい。ストレッチだけさせてもらってもいいですか?」
それに対しランスロッテ様は頷きだけで返答する。
僕は静かにストレッチを始める。
ぐっぐ・・・
うん、筋肉は問題ないし、傷口も完全に塞がっている。
これなら問題なさそうだ。
「ほお、とんでもない身体の柔らかさだ。それは前の師匠からの教えかい?」
ランスロッテ様が僕のストレッチを見ながら聞いてくる。
「はい。アッシェ先生に僕は6才より教わってきましたが、基本的に毎日数時間ストレッチだけを行っていました。」
「なるほど。それは良い師に付いたね。」
「ええ、僕の自慢の師匠です。さて、身体の確認はこれくらいで大丈夫です。」
「わかった。ああ、獲物は鞘から抜いてもらって構わない。本番に近いほうがより君のことを『知る』事ができるからね。」
ランスロッテ様はそう言い、笑顔を消す。
そして漂ってくる『死の匂い』に身体を薄い膜のように黄色いマナが包んでいた。
「はい。」
そうか、本当にランスロッテ様は場合によっては僕のことを殺すつもりなのかしれない。
なにせランスロッテ様との付き合いはまだ短く、ランスロッテ様から見れば僕は『ニクス』ではなく『魔人』だったからだ。
「いつでも良いよ。」
ランスロッテ様がそういうなり僕は一気に低姿勢で距離を詰める
「ふっ!」
一気に切り上げからの連撃を打ってみるが軽くいなされ躱される。
そして躱されると同時飛んでくる鋭い杖の一撃。
まるで杖の先に刃でも付いているのではないかと思わされるその一撃を僕も躱しハンドブレイカーの特徴を十分に使いながら絡め手も混ぜながら攻防が続く。
何手か打ち合った後不意に視覚からランスロッテ様が消える。
そして強くなる『死の匂い』。
やはり狙ってきたかと思い僕はその瞬間一気に引く。
「ほお?今の一瞬の死角からの攻撃に対応して一気に引いたか。流石の戦闘センスだ。」
ランスロッテ様が素直に感心している。
「ええ、僕も何もこの数日ずっと寝ていたわけでは有りません。まず間違いなくこの潰れた右目は死角になり、弱点になると思っていました。ですが、僕はもう一人で戦っているわけでは有りません。」
僕は深呼吸をする。
「行くぞ、レビン。」
「待ってました。やろうぜ、相棒。」
そう言うと僕とレビンは『元の状態の一歩手前』、不完全ながらも融合する。
そして僕は右目にしていた眼帯をゆっくりと外す。
髪の色は以前のように夜空のような漆黒のままだったが目の色だけが金色の目から同じく夜空の如く漆黒な目に変化している。
そして潰れたはずの右目にはまるで猫の目の様な瞳がある目がそこにはあった。
「ほう・・・。これは予想外。」
ランスロッテ様がそんな事を言っている瞬間、初撃よりも更に疾く駆け抜け、一気に攻め立てる。
何度か打ち合いをする。
ランスロッテ様の一撃が僕に入りかけると『死の匂い』が濃くなる。
それに条件反射的に僕とレビンが反応し、およそ人間とは思えないような体勢からその一撃を躱す。
「これも避けるのか。」
ランスロッテ様が小さく呟いた瞬間を見逃さす瞬時に切り込む。
取った!と思った瞬間ランスロッテ様の黄色いマナの残穢だけが残りランスロッテ様も一気に僕から距離を取っていた。
「驚きだよ。まさかニクス君とレビンが不完全な状態でここまでの力を出してくるとは。私も思わず少し本気を出してしまった。」
少しの本気、それは恐らくこの黄色いマナすなわち本来の僕と同じく雷属性のマナだろう。
微弱だがバチバチとランスロッテ様の身体から放電しているのがわかる。
「今ので取れないなら正直現状ではランスロッテ様に一撃を入れるのは難しいと思いますが。」
そう言いながらも僕は打ち込む機会を探るが、明らかにランスロッテ様のギアが一段上がったことにより僕が優位に立てる可能性がほぼ無くなる。
強い。
明らかにアッシェ先生よりも数段格上の存在だ。
本能がそう告げていた。
「ふむ。ならばこれはどうだ?」
ランスロッテ様がそう言いながら懐から一つの石を取り出す。
それは魔石のようだった。
「考えていたのだ。君の命の逆巻時計は文字通り命を対価にマナを生み出すのだろう?なら魔臓で生み出された命を形にしたようなもの。そう魔石をその燃料に出来ないかとね。」
ランスロッテ様は僕に向かいその魔石を軽く投げる。
僕はそれは攻撃ではなく、あくまで試しているんだと認識し、それを受け取る。
すると命の逆巻時計が動き出す。
「やはりか。」
ランスロッテ様が静かな声で確信を得る。




