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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第一章~少年編~(全47話)

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【第5話】初めての戦い

「おーい!」


ニクスが遠目に同教会で一緒に育つ少女リリーを発見し、手を振りながら声をかけ近寄っていく。

リリーは年はニクスと同じだが髪色は全く違う、この地域ではありふれた色だが綺麗な金髪に碧眼という美少女であった。


「おそーーい!!」


目を吊り上げ、怒りながら答えるリリー。


「リリー、ごめん!」


言い訳もせず素直に謝るニクス。


「もー!待ってたんだからね!」


頬を「むーっ」っと膨らませながらニクスを睨みつけるリリーと呼ばれた少女。

リリーとは幼馴染というより姉弟に近い存在だ。


「どうせいつもみたいに、アレク達にいじめられてたんじゃないの?大丈夫?」


怒っていたはずのリリーも勘が鋭いようで先程のやり取りを見ていないながらも言い当てた。

これが本で見た女の勘ってやつなのかな?


「あうっ!本当にリリーは勘が鋭いなー。大丈夫、ありがとう。」


何だかんだと言いつつも心配してくれる姉のような存在であるリリーに素直に感謝の言葉を添える。


「私はニクスのおねえちゃんですから!ニクスのことはお見通しよ!」


胸を張りながら答えるリリーにニクスが若干すねた様子で答える。


「おねえちゃんって言っても数日早く教会に入っただけじゃないか!」


「たった数日でも早くいればそれは立派なおねえちゃんなんだから!」


こういったやりとりはいつもしている。

だが、喧嘩になることはない。

ちなみにリリーはすでに『魔法の素質』があって魔法を使ってのお手伝いもしてる。

いいなー。


「それよりも、早く薬草やきのこ見つけて帰ろう!それで、わたしも早くニクスみたいに本を読むために勉強しなきゃ!」


どうやらリリーはお手伝いよりも本を読むための勉強を優先したい様子。

「はやく、はやく」、と言いながら小さな籠を背負いながら急かすリリー。


「待ってよー!その籠僕が持つからー!」


「いいの!おねえちゃんに任せなさい!」


「またー・・・。」


こんなやり取りをしながら教会のすぐ近くにある森の入口で薬草と食用きのこを採取するのが二人の日課のようなお手伝いであった。

と言うより、僕が魔法を使えないでいてそれ系のお手伝いができないから、僕が出来るものをシスターが考えてくれた結果だった。


森の中は当然ながら獣や魔獣がいる可能性が高いが、人が暮らしている付近や森の入口など、人の気配が多い場所では滅多にこれらに遭遇することはない。


ではなぜこの様に危険が少ない場所で貴重な薬草や食用きのこが採取できるのかと言うと、それは単純にニクスの知識からである。


正確に言えば、以前ニクスが読んだ本の中に『森での生活の知恵』という本がありその中に今回の目的となる薬草や食用きのこの詳細な情報が載っていたため、その知識を利用してのお手伝いであった。


本って本当に素晴らしい!と心のなかで賛辞を送る。


「本当にニクスは物知りよね。」


リリーが適当に拾った木の枝をブンブン振り回しながら茂みの中をかき分け、目的のものがないかを探しながらぼやいている。


「僕が物知りじゃなくて本の力であって、先人たちの知恵だよ。」


リリーと同じように目的のものを探しながらニクスが返す。


「せんじんたちのちえ?」


6才のリリーには難しかったようで頭に?を浮かべている。


「なんでもない、気にしないで。」


そっけない返事をするとむー!っとリリーのいつものふくれっ面が容易に想像が出来てすこし笑ってしまう。


しばらく採取に集中していると


「あ!見つけたー!!」


リリーの弾んだ声が聞こえた。


ガサッ!


リリーの声に重なるように距離にして十数メートル先程度のところから草が揺れて大きめな音がした。


「リリー、静かに!」


ニクスが緊張した様子でリリーに黙るように語気を強めて注意する。


「きゃっ!どうしたの?そんなに怖い顔して・・・。」


ニクスが普段とは明らかに違う緊張した表情を浮かべていることでリリーにも緊張が伝わる。


この匂い・・・。なんだ?知らない匂いなのにかなり危ない匂いな気がする・・・!

ニクスは嗅いだことがないにも関わらず非常に危険な匂いが漂っていることに気がつく。


『死の匂い』


それはニクスが生まれる前、前世とでも言うべき存在であったときの唯一の特技であり、今のニクスには存在しないはずの記憶の匂いだった。


ガサガサッ!


更に大きな音がしたと思った刹那、匂いが強烈になると同時に大きな猪が草むらよりとてつもない速度でニクスめがけ突進してきた。


なっ!?


あまりにも強烈な匂いと飛び出してきた6才の少年から見れば巨大な岩の様にも思える猪が出てきたことに、普段は冷静な性格をしているニクスであったが反応が出来ず硬直してしまう。


「危ない!!」


えっ!?


猪が眼前に迫った瞬間、突然、「どんっ!」と勢いよく、猪が突進してくる射線上から身体が押し出された。


「うわっ!」


「きゃっ!」


ニクスが勢いよく押し出されたことで体制を崩して地面に伏したと同時位に、リリーの短くも明確な悲鳴が耳に入る。


「リリー!」


振り返るとリリーが元はニクスが居た付近で倒れており、土にまみれて転がっている姿を見る。


「リリー!!返事をして!!」


一際大きな声でリリーに声を掛けるも返事はなく、しかも猪の突進からの直撃は避けられたようだが、リリーの肩付近の洋服が裂け、出血している様子で気を失っていた。


「ぐう!僕のせいだ!!」


一気にニクスの顔色が代わり悔しさが滲み出る。


幸いにも、猪は地面に転がっているリリーには気にも止めず、どうやらニクスを狙っているように見えた。

恐らくそれは猪が獣の感に近いもので、ニクスがブランであることに気がついており、反撃手段がないと思われたニクスに始めから狙いを定めている様子であった。


落ち着け!リリーは大丈夫だ!落ち着け!!


必死に自分に言い聞かせ、なんとか普段の冷静さを必死に取り戻そうと努力してみる。


「ふーっ!」


大きく息を吐き、頭を必死に働かせ、状況を確認する。


猪は自分だけを狙っているようだ。それにこの匂いにも慣れてきた。


リリーに助けられ、吹き飛んだ位置は背中付近にかなり大きな岩があり、退路が限られるあまり良くない場所であった。


考えろ・・・!集中するんだ・・・!


6才というあまりにも非力で幼い身体と頭で必死に打開策を考える。


ざらっ


これは?


一瞬手に感じた方に視線を向けると長さにして約1メートルほどでかなりしっかりとした枝と言うには太すぎる程の先が裂けた木が落ちていることに気が付く。

当然かなりの重さであり、6才の子供が抱きかかえ、振り回して武器にするほどの大きさでは決して無い。


考えろ・・・!


刹那、再び臭ってくる強烈な匂い。


匂いと同時に再度突進してくる猪。狙いは明らかにニクスであった。


自分が狙われるなら逆に好都合だ!


「来い!!」


先程の初撃とは違い状況が明らかとなっている今、必要なのは度胸とタイミングであった。


凄まじい勢いで突進してくる猪。


まだだ・・・、もう少し・・・、もう少し・・・


匂いが一段と濃くなる。


「ここだ!!」


一定の距離まで猪が迫った瞬間、普段からかなり力には自信があったニクスでさえも驚くほど更に力が入り、手元に転がっていた裂けた木の鋭い方だけを突進上に持ち上げ、反対側は大きな岩に引っかかるように構えた。


「ズドーン!!」


「バキバキ!!!」


「プギイイイイ!!」


耳をつんざくような大きな衝突音と木の裂け折れる音、そして猪の悲鳴にも似た鳴き声が響き渡る。


ニクスは匂いの正体には気がついてはいなかったが、ほぼ『なんとなく』という漠然とした感覚で匂いが最も濃くなった瞬間、抱えていた木から手を離し、一気に転がるようにその場を離脱していた。


土や葉っぱまみれになり、口に入った異物を「ぺっ!ぺっ!」と無意識に吐き出しながら猪が突進してきた、自分が元居た位置を見ると、見事に木に突き刺さり絶命していた猪が転がっていた。


「リリーーー!」


絶命した猪の姿を見ると自分の状態などろくに確認すること無く、自分を救ってくれたリリーの元へ一目散に駆け寄り抱きかかえる。


リリーは肩付近に怪我があるようであったが、気絶しているだけで命に別状はないように思えた。


「う、うん・・・?痛っ!」


リリーが目を覚ますとニクスは安堵するとともに大粒の涙を流して泣き始める。


「良かった!本当に良かった・・・!」


ニクスはリリーを抱きしめる。


「痛むだろうけど我慢して。」


不安で不安で堪らなかった家族の無事を確認した後、ニクスは自分の上着を裂き、リリーの肩口からの出血を止めるため縛り付けて圧迫止血を行う。


これも以前読んだ本の知識だ。


「うう・・・。」


やはり6才の子供にとっては身体的にも精神的にも相当なダメージであったようだ。

リリーに圧迫止血を施すと緊張もほどけたのか再度気を失ってしまった。


ニクス自身にも反動でかなりのダメージはあったが、今は興奮と安堵でまだ身体が動く状態であったため、リリーを背負い、急いで森から飛び出す。


そこには異様な音を聞きつけた教会の者たちや教会付近に住む村の大人たちまで様子を見に来た。


「リリー!ニクス!!」


シスターが悲鳴にも似た声を上げ小走りで二人に近づく。


シスターが来たことで再度安心して涙を流すニクスであったが、状況を説明しリリーを付近の大人たちへと委ねると、自身も緊張の糸が切れ一気に力が抜けその場で気絶してしまう。


良かった・・・。本当に良かった・・・。


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