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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第二章

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【第49話】再会

僕は公爵様達への事情聴取をした後、起き上がれるまで数日間は掛かったが、それでも致命傷を負っていたにも関わらず、たったの2週間足らずで起き上がれるまでになっていた。

本来なら数カ月はまともに動けなくてもおかしくない傷だ。

これが僕に掛かった【健やかに】が呪いにより変質したっけかなのだろう。

そう言われれば村で以前流行り病が流行ったときも僕は全く掛からなかった。

運が良いだけかと思っていたがどうやら違うらしい。


僕は・・・。


コンコン


ひとり気が沈んでいた所に突如ノックが聞こえる。


「あ、はい。どうぞ。」


「失礼致します。」

そう言いながら入ってきたのは、綺麗なドレスで着飾り、髪を綺麗に整えた一人のお姫様とその護衛騎士と思われる女騎士だった。


「お加減は如何でしょう、ニクス様。」

なんと初めて会ったと思われたそのお姫様はリリーだった。


だが、今までと様子が違う。

僕が知っている教会で一緒に育ったリリーではなく、公爵家養女の『リリー・ヴァリエスト様』だった。


僕はそれにすぐに気が付き、その場に跪き頭を下げる。


「リリー様がお越しになられるとはつゆ知らず、この様な大変無礼な格好で申し訳有りません。この度はご心配をお掛けし大変申し訳有りませんでした。」


「良いのです。ニクス様。お加減は良くなられましたか?」

リリーの顔は見えないが声でわかる。

僕の言葉遣いに対し若干動揺している気がした。


「はい。右目は完全に失明してしまいましたが、お陰様でこの様に今では起き上がることが叶うまでに回復しました。これも単にお世話になりましたヴァリエスト公爵様方のお力添えのお陰です。本当に感謝申し上げます。」


「そうですか。右目の件は本当に残念です。ですがそのお言葉、お義父様にしかと届けておきましょう。では私はこれから『アカデミー』へ出発しますので、この辺りで失礼致します。今後もご自愛くださいね。」


そうか、リリーはアカデミーへ通う前にわざわざ顔を見せてくれたんだ。

本当に根っからのお姉ちゃんなんだから。

「わざわざ、お忙しい所ご足労いただき感謝の念に耐えません。リリー様の『アカデミー』でのご活躍を心よりお祈り申し上げます。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」


僕からの真意もしっかり受け取ってくれたようで、リリーは笑顔で部屋を出ていった。

窓から外の様子を見るとリリーが公爵様に見送られ、馬車に乗り込むところだった。

ふと僕と一瞬目が会い、笑みを浮かべた気がした。

「いってらっしゃい。リリー。頑張ってね。」

僕は聞こえないだろうがそう一人で言ってリリーを見送る。


「あれ?レビン?」

僕はふとレビンがやたらおとなしい事に気がついた。


「なんだよ!」

そう言って声を荒げるレビンは涙と鼻水を流して泣いていた。

猫なのに・・・。


「うるせえな!見るんじゃねえよ!俺だってな、本当はリリーをちゃんと送り出したかったんだよ!でも問題になっちゃいけないと思って今日は黙ってたんだ!」


レビンが感情的にそう言っている。

「レビン、そんな感情豊かだったっけ?それに今日はってことは他の日はどうしてたの?」


「どうやらお前と『元の姿』に戻って以降俺には会話する能力と感情表現が豊かになったという2つの変化があったんだよ。ちなみにお前が寝込んでいる間に俺はさっさと傷も塞がって、それから昨日の夜までは毎日リリーの部屋で話ししてた。」


「なるほどね。お前にそんな変化が現れるとは思ってもいなかった。というかさらっと毎日リリーと部屋で話してたとか言うが・・・。」

レビンに生じた変化に驚きつつも会話できることになったことでしっかりと意思疎通が可能になったレビンはリリーと楽しい会話をしていたのだろう。


「僕を差し置いてー・・・。」


「そう言うな。リリーは俺にとっても姉みたいなもんなんだし、何よりあんなに綺麗になってくれちゃって・・・。俺は嬉しいぜ。」


「本当に感情豊かなおしゃべり猫になったなあ。」


呆れていると「猫ではない。『カーバンクル』だ!リリーが付くてくれたかっこいい種族名があるだろう。」と反論された。


「そんなこと、もうすっかり忘れてたよ・・・。」


僕は今の今までレビンが魔獣登録の際にリリーが付けた種族名、『カーバンクル』のことをすっかり忘れていた。


すると部屋の外から聞いた声が聞こえてくる。

「『カーバンクル』か、久しぶりに聞いた言葉だ。確か古い民謡に出てくる力をもたらす額に宝石の埋まった猫型魔獣だったっけ?やあ、ニクス。調子はどうかな?」


「こんにちは。ランスロッテ様。お陰でだいぶ良くなりました。右目が見えないのでまだ不慣れな部分はありますが。例の報告の件は終わったのでしょうか?」


「よう、ランスロッテの姉ちゃん。元気か?」


貴族様であり命の恩人でもある方に対する異常な軽口に僕は冷や汗をかいてレビンを叱る。


「レビン!無礼だろう!」


「あはは、良いんだよ。君が気を失っている間にレビンとは大分仲良くなってね。これくらい気にしなくて良い。」


「そ、そうだったんですね・・・。レビン、お前僕が気を失っている間に随分めちゃくちゃしてないか?」

あまりに人見知りしないレビンに今後が心配になる。


「まあ、怒られるのは俺じゃなくお前だしな。」


「お前も怒られるんだよ!」


そんなやりとりを笑顔で見ていたランスロッテ様だったが、不意に身体から薄い黄色いマナが立ち上るのが見え、僕とレビンは瞬間的に構えてしまう。


「ほう、本当に今の状態はブランなのに『視える』んだねえ。興味深い。」


「・・・試されたんですか?」

僕は笑みを浮かべているランスロッテ様に確認する。


「まあね。なにせ君とは今後長いお付き合いになるからね。少しでも君のことを知りたくてさ。」


ランスロッテ様の言っている意味がよくわからなかった。

それが顔に出ていたのかランスロッテ様が意外なことを言い出す。


「今日から君とレビンの後見人として私がなることになった。そして今日から君とレビンの師になる。これは決定事項であり、変更は不可能だ。なにせ国王の命でもあるからね。」


笑顔でそう言い放ったランスロッテ様に僕とレビンは驚愕した。

「「ええーー!?」」


「ふふ、その調子だともうそろそろ体調は良さそうかな?ふむ、後は精神的な部分か。」


ランスロッテ様が独り言のように言っているともう一人の知り合いが現れる。


「やあ、こんにちは。」

マーリンさんだった。


「あ、こんにちは。マーリンさん。」


「よう、マーリンの姉御。」

レビンの姉御というのが気になったがもうこれ以上レビンに何を言っても無理だと悟った。


「うはは、相変わらずだなこいつは。」

そういうととんでもない速さでレビンを捕まえブンブン振り回していた。


「ぐあー!は、離せー!ニクス!!助けろ!!」


「少しはそうやって貰って反省したら良いよ。」


「薄情者ー!」


「本当に面白いねえ、君たちは。まあだからこそ変わり者の僕の親友に気に入られたんだろうけど。」


そう言ってマーリンさんはランスロッテ様に話しかけていた。

「結局君が後ろ盾になるんだって?さっきマクシミリアン様から伺ったよ。」


「ああ、準備ができ次第王都へ連れて行く。」


さらっと出たその言葉に僕は驚く。

「え!?王都に行くんですか!?」


「なんだ、まだ話してないのかい?」

そう疑問の様子でマーリンさんがランスロッテ様に確認していたが、当のランスロッテ様は「いや?」と頭に?を浮かべていた。


「あれ?私さっき説明しなかったっけ?後見人になるって。」


「それは聞きましたが、王都に行くのは初耳ですよ!」


「ああ、なるほどね。いつもランスロッテはどこかしら言葉が足らないんだ。まあ、今後長い付き合いの内に慣れるだろうさ。頑張ってね、ニクス君、それに・・・あれ?レビンはどこいった?」


「レビンならどこかに逃げていきました。」


「あっはっは。ああ、そうだ。大切な話があったんだ、ニクス君。」


マーリンさんの雰囲気がガラリと変わり、空気が変わるのを感じた。

「私と一緒に一度村に戻るかい?荷物もアッシェの家においてあるのを回収すると良い。それと挨拶まわりも済ませると良いかもね。恐らくその後はもう村に戻るほどの余裕も無くなるほど、生活が激変するだろう。その前に精神面を整理すると良い。」


「さっきランスロッテ様が言ってたことですね。わかりました。いつ出立されますか?」


「そうだな、体調がいいなら今日これからはどうだい?私の魔術馬具付きの愛馬に乗せてあげるよ。そうすれば2時間と少し位で到着できるからね。今日の内に帰ってこれるだろう。」


なんと、あの乗合馬車では1日半近くかかってたものが2時間と少し位の時間で片道行くことが出来るらしい。

恐らくだが、それだけの行軍速度があったが故に僕とノクタリオスの最後の瞬間に立ち会うことが出来たのだろう。


「わかりました。今から準備します。」


「では準備でき次第、そこから見える庭にいてくれ。馬を回す。ランスロッテはどうする?」


「マクシミリアンと最後の調整をして待っている。明日には王都へ向け出立する。」


「了解した。ではね、ニクス君。ああ、レビン君も連れて行くからね。」

どうやら影に隠れていたレビンは見つかっていたようだった。


早速用意してもらった服に着替え、準備を終え庭で待っていると僕の知る馬とは一回りぐらい大きさが違う馬に乗ったマーリンさんが現れる。


「おまたせニクス君。さあ、行こうか。ん?どうしたの?」


僕はあまりの迫力にぽかーんとしてしまっていた。

「ああ、いえ!すみません。あまりに立派な軍馬だったもので。」


「あっはっは。大きいよねこの子。私の自慢の愛馬だ。さあ、後ろに乗って捕まってくれ。」


そう言われ、手伝ってもらいながらやっと後ろの部分に乗ることが出来た。

「よし!それじゃあしっかり捕まっててね。街道に出たら全速力でいくぞー!」


「へ?うわーーー!!」

街道に出たと思ったら、本当にとてつもない速度で走り出す軍馬。

マーリンさんの背に捕まっていたので正面景色はわからなかったが、横を向けばとんでもない速度で景色が変わっていく。

だが不思議と揺れは感じず、お尻も痛くない。

更に風もあまり感じることがなかった。

これが魔術馬具の効果なんだろう。速度の強化だけではなく、それによって発生するあらゆる事態の緩和の効力があると考えられた。


「ほ、本当にあっという間に村に着いた・・・。」

ここまで早いと乗合馬車での移動が果てしなく遅く思えた。


「あっはっは。軍は機動力が命だからね。さて、まずはアッシェの家から荷物持ってきてくれるかな?必要なものを持ってきてくれたらあそこは後は私が処理するから。」

元相棒としてのけじめなのだろう。

若干寂しさも感じる気もするがそれを一切表情にしない辺り、流石は僕の先生の相棒だっただけのことはある。


「すぐに終わりますよ。元々ここの荷物は少ないですから。」

そう言うとパパっと自分の荷物をまとめる。

勿論愛用していた包丁と、あの軟膏も忘れずにしまい込む。


「マーリンさん終わりましたよ。後は先生のものですのでお任せしますね。」


「そっか。わかった。じゃあ君は世話になった人たちへ挨拶していくと良い。最後は教会かな?そこで私は待ってるから。」

そう言われ僕とマーリンさんは一度別れる。


僕とレビンは村でお世話になった方たちに王都へ向かうことになったと伝え、今後は恐らく会えなくなると挨拶に回る。


「大変だったね。」


「その目、大丈夫かい?」


「アッシェさんはお気の毒だったね。いい人だったのに。」


「頑張るんだよ。」


等など励ましや慰めの言葉をもらえた。


それは紛れもない、一人の人間『ニクス』への声掛けだった。


「本当にもう会えなくなっちまうのか?寂しいじゃねえか。」


そう言って気を落としていたのはハンドブレイカーを作ってくれたハーフドワーフの鍛冶師ハーガンだった。


「僕もです。ハーガンさん。本当にお世話になりました。それに先生も大変お世話になりました。」


そう言って僕は先生の分まで頭を下げて礼を言う。


「ちょっと待ってろ。」


ハーガンは奥へと下がり一振りの剣を持ってきてくれる。


それは紛れもないハンドブレイカーだった。


「それは?」


僕が尋ねると「持っていけ。」と渡してくれる。


「これはあの後、俺が新しく打ち直したものだ。あの場所を見た限り、今持ってるそいつはもうボロボロと思ってな。」


ハーガンさんは僕と先生のことを聞き、実際にノクタリオスと対峙した現場を見に行ったとのこと。

そして僕のハンドブレイカーもきっと使い物になってないのではないかと確信し、新たに打ち直してくれたらしい。


「本当に頂いても良いんですか?」


「固よりそのつもりだし、もうお前用に調整も済んでいる。貰ってくれ。」


そう言われ手渡されたハンドブレイカーは今までより軽く感じ、更に今までよりも手に馴染む感じがした。

鞘から抜いてみて驚いた。

なんと刃は僕が先生より貰った短剣と同じくミスリル製だったからだ。


「こ、こんな貴重なもの頂けません!」


「馬鹿を言うな。これからの為に必要なものだろう。持っていけ。」


頑固なハーガンのことだ。絶対に譲ることはないと理解していた僕は頭を下げて礼を言う。


「ありがとうございました。」


「おう、身体にはくれぐれも気を付けてな。」


ハーガンさんもまた一人の人間『ニクス』として送り出してくれる。


教会付近に行くとシスターが立っており、僕の姿を見るなり声を上げる。


「ニクス!」


思わず僕は走って駆け寄りシスターを抱きしめる。


「シスター・・・、僕は・・・。」


「村の方々から聞いております。行くのですね。」


「はい。」


「色々掛けたい言葉があったはずですが、不思議ですね言葉にならないのです。」


「はい、僕もです。」


「ですがこれだけは言えます。貴方は私の大切な子どもであり、家族です。辛くなったらいつでも待っています。」


「はい。」


そこへマーリンさんがやってくる。

「お別れは言えたかな?」


「マーリンさん、ありがとうございました。これで心置きなく行くことが出来ます。」


「マーリン様、度々のご尽力大変感謝申し上げます。今後とも何かあれば私の大切な子たちの力になってくださればと思います。何卒よろしく申し上げます。」

シスターはそう言い頭を下げる。


「わかっています。ニクスもリリーも私の大切な人から預かった子たちですから。騎士団長の名のもとにお守りしてみせます。」


「シスター、行ってきます。」

そう言い僕はマーリンさんの馬に乗る。


「行ってらっしゃい。どうか身体には気をつけて。」


「シスターもお元気で。」


そして僕とレビンは村から去る。

恐らく二度とこの村には戻らないのだろうと心の何処かでそう思っていた。



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