【第47話】報告
「さて、ではニクス君。話を聞こうか。」
そう言いながら話を切り出したのは公爵様だった。
「まずはあの日起きたことを覚えている限りでいい。可能な限り詳細に話してくれ。」
僕は目を閉じ、あの10才の誕生節を迎え、時計を受け取った後、教会から帰路についたときのことを思い出す。
「僕は教会で10才を教会で祝ってもらい、その帰り道にあの異変は起きました。」
「それはあの『真紅の満月』かね?」
どうやら事前に公爵様も情報を集めていたようで、あの空のことを『真紅の満月』と呼んでいた。
「あの空のことは『真紅の満月』と呼ぶのですね。その通りです。先に異変に気がついたのはアッシェ先生でした。見たこともないような表情で凍りつき、剣に手を置きながら・・・震えていました・・・。」
「アッシェが・・・。失礼しました。」
先生の名前を出したことで思わず動揺したのかマーリンさんが声を出していた。
「僕はブランでしたので空の異変に気が付きはしましたがその存在には気が付きませんでした。一瞬のことでした。気が付くと恐らく魔法の一撃だったと思います。僕は巻き上がる轟音と爆風で混乱している最中に、アッシェ先生の左腕が宙に飛んでいることに気が付きました。そして『死の匂い』が辺りに漂い始めたのを僕は感じました。」
「『死の匂い』とは?」
公爵様が問う。
「僕が6才の時に身に着けた特殊な能力です。僕自身や他人の『死』が匂いとして認識出来るのです。」
それを初めて聞いた一同は驚いていた。
「君はブランだろう?」
「はい。それと8才の時にもう一つの特殊な能力、『マナの視覚化』を身に着けました。」
それは以前にマーリンさんが確認していることから恐らく公爵様たちへの情報として事前に渡っていたのだろう。
先程の様な驚きはない。
「話を戻そう。君たちを攻撃し、あの『灰被り』の二つ名まで持つアッシェの腕を一撃で吹き飛ばした者の姿は見たのかね?」
「はい。それは人形をしておりましたが、一目で見てわかる異形でした。額に瞳がある三つ目で、コウモリのような羽が右肩から一翼だけ生えておりました。アッシェ先生はその姿から『魔人』とそれを呼びました。」
「やはり魔人か。何か会話はしたのかね?」
これについても事前に情報を得ていたような公爵様は続ける。
「はい。自分は僕に殺されたいのだと言っておりました。最初は全く意味がわかりませんでした。」
「『最初は』ということは後からその理由はわかったのかね?」
僕の言葉に引っかかるものを感じた公爵様がその理由を知りたがった。
「公爵様、これから僕が話すことは嘘偽り無く、自分で見聞きし、体験したことで有り事実です。・・・その、全てを信じてもらうことは難しいかもしれません。何せ自分でも未だに完全に飲み込みきれていませんので。ですがこれだけは言っておきたいです。僕を信じて下さい。」
公爵様は即答はせずに目を閉じる。
何かを考えたのち「ふー」っと深呼吸をした後目を開く。
「信じよう。」
「僕は・・・『魔人』です。それも今回いきなり現れた『魔人』とは同じ魂のルーツを持つものでした・・・。」
僕から出た言葉に一同が声を失う。
「なっ・・・!」
「僕の所謂『前世』と呼ばれる人物は今からはるか昔、それこそマナが発見されていない時代に生まれたという人物でした。」
僕は一度目を伏せたのち、公爵様の目をしっかりと見ながら話を始める。
「『マナが発見されてない時代』だと・・・?そんな時代が存在していたのか?」
公爵様が信じられないというように聞き返す。
それはそうだろう。僕達の世界ではマナは合って当然のエネルギーだったからだ。
それは過去を遡っても一緒だと思っていたが、実はそうではなかったと言われれば信じられなくなるのも当然だ。
「恐らく彼が言ってるのは事実です。大昔にその様な文献を呼んだことがあります。」
そう言い、フードを目深に被っていた女性、ランスロッテさんがそのフードを脱ぎ顔を見せる。
彼女はエルフであった。
「その顔から察するにニクス君はエルフは初めてかな?だが私は普通のエルフではない。その祖とも言える『ハイエルフ』だ。」
「『ハイエルフ』ですか・・・。確か非常に長命な種族であり、魔法に関しては右に出るものはいない種族だが、近年ではまるで見なくなり、絶滅したのではないかと言われていた種族ですよね?」
それを聞いたランスロッテさんが非常に驚いた顔になっていた。
「これは驚いた。よく勉強している。その通りだ。まあそれなら都合がいい。ハイエルフは非常に長い時代を生き続ける。ずっと過去を遡れば今は失われてしまった文献なども読むことが過去にはあった。そしてその文献の中の一つに、そのマナが存在していない時代のことが書かれていたのだよ。」
「なるほど。ではニクス君が間違ったことを吹き込もうとしているわけでは無いのだな。」
公爵様がランスロッテさんに確認する。
「はい、マクシミリアン様。ニクス君自身、混乱している様子はありますが言っていることは事実だと私は考えます。」
それを聞いた公爵様は少し考え「そうか。」とだけ答える。そして続きを促された。
「私の『前世』を生きた人間は魔臓がない身体のため、マナが原因で命を失いました。そしてその人物は次に生まれ変わることが出来るのであれば健やかで長生きしたいと願ったそうです。」
それを聞いた公爵様が訝しげな表情をし、僕に聞き返す。
「それはまるでその人物に会ったかのような話ではないか。」
「実際に僕はその人物に三度会いました。一度目は6才の誕生節の時でした。住民登録をした時に初めてその人物と出会いました。というよりもその人物が苦しみながら死に行く姿を見ました。」
「6才の誕生節・・・。」
「次に会ったのはあの魔人によって僕とレビンそして・・・、アッシェ先生が瀕死の重傷を負わされた時でした。その時は僕だけではなくレビンとアッシェ先生もその場に居り、はじめてその人物と話をしました。」
僕は近くにあった命の逆巻時計を手に取りそして話を始める。
「僕の前世だった、その人物の魂は死んだ時にマナの影響でその魂の形を維持したまま次の魂になることが敵いませんでした。まずは大きく2つに別れました。それが僕とあの魔人です。」
皆が押し黙るのが分る。
僕は構わず話を続ける。
「その人物が死ぬ直前に願ったこと、健やかで長生きしたいというねがいがその2つの魂に宿りました。つまり健やかでありたいという魂が僕に、長生きしたいという魂があの魔人に宿りました。ですがその分かたれた魂は前世の人物が当時は未発見だった『マナ』を病気だと思い激しく呪っていました。そしてその分かたれた魂は呪われた状態で2つの魂へと分かれることになったそうです。」
「ふー、なかなかに信じがたいな。『前世』か。確かに昔考えで『輪廻』という考えはあったというのはアカデミーで聞いたことがあったが、今はもう研究すらされてない議題だったかと思うが。」
そう言いながら公爵様は目頭を押さえていた。
「そうですね。マクシミリアン様。『輪廻』については一種の宗教的な考えとしては存在していました。ですが、当然ですが死んだ後のことの証明など誰も出来ずにいましたので、この考えは自然と廃れていきました。」
ランスロッテさんが補足をしてくれた。
「続きを聞こうか。」
頭を切り替え公爵様が話を促す。
「はい。呪われた魂は『魂の形が歪』になり、普通の人間ではいられないようです。あの魔人は長生きしたいという思いが呪いとなり生を受けたため、死ぬことができなくなったそうです。」
「それで、自身を殺してくれる相手を探す魔人か」
公爵様がそう言ったので僕は頷く。
「僕は恐らく健やかに生きたいと言う部分に呪いを受けたと思われるため、こうして瀕死の怪我でも治りがものすごく早いのだと思います。」
僕はそれこそ内臓がえぐられていたと思われた胸の傷を抑えながら答える。
「なるほど。だが、何故魔人は君と灰被りを狙った?」
「正確に言えば狙われたのは僕だけです。自身と同じ『前世』のルーツを持つ僕と死闘を繰り広げることで呪いが緩和され、魂の形が元に戻り、そして正常な形にまで戻ることが出来れば、あの魔人は『死に切る』ことができるそうです。」
「君と戦うこと以外にあの魔人を殺し切ることは?」
「不可能だそうです。何度も自死や戦争を起こしたそうですが、例え致命傷を負ったとしても呪いが発動し、生き返るそうです。」
「なんてことだ・・・。」
公爵様が頭を抱えている。
「では実質あの魔人を倒せるのは・・・。」
「残念ながら僕だけということになるそうです。」
僕がそう答えると部屋に沈黙が流れる。
「閣下よろしいでしょうか?」
マーリンさんが沈黙を破るように会話に参加する。
「許可する。」
「ありがとうございます。」
許可を与えられたマーリンさんは公爵様に感謝を述べ僕へと向き直る。
「君が2回目に呼ばれた時、なんでアッシェが一緒にいたんだ?」
「それは・・・。」
僕は一瞬目を伏せ、だがマーリンさんには言わなければと拳に力を入れ目線をしっかりとマーリンさんを見据え言う。
「それが、あの場をくぐり抜ける唯一の方法だったからです。」
「どういうことだい?」
「まず、2つに別れた魔人と僕の魂ですが魔人はそのままこの世界に生を受けました。ですが僕の魂は更にそこから3分割されて今の時代に生を受けました。」
「なっ・・・。」
僕はレビンを撫でながら話をする。
「別れた3つのうちの一つは『身体と精神』を司る僕になりました。ここにいるレビンは僕の『魔法属性』を司っています。そしてこの時計・・・。この時計は僕の『魔臓』を司っています。」
時計が魔臓というのはやはり衝撃だったようだ。
僕自身信じられなかったことだ。
「この時計は僕の『前世』の時代から存在している時計だそうです。そしてこの時計はとてつもない時間を過ごすことになり、神の力を宿す魔臓になったそうです。」
「神の力を宿す魔臓だって?」
それに反応したのはランスロッテさんだった。
「はい。それ故、この時計には『命の逆巻時計』と言う名がある時計型の魔臓になったそうです。」
「『命』と付くからには何かしらの縛りがあるんじゃないのか?」
公爵様は鋭かった。
「はい・・・。この時計のマナは通常のマナとは違い、その・・・、自身や他者の命をマナに変換します。そして今回は、アッシェ先生が命を差し出したことにより、この『命の逆巻時計』が魔臓として動き出しました。」
それを聞いたマーリンさんが薄々感づいていたのか下を向き拳を強く握りしめている。
「すみません、マーリンさん・・・。」
僕はそう言わずにはいられなかった。
だが予想外の返答が返ってくる。
「君のせいじゃないさニクス君。あいつは・・・、アッシェは・・・、そうせざるを得ない状態だったんだろう?例えば、もう助からないほどの致命傷を負っていたとか。」
流石相棒だった人だ。
僕はそれにきちんと答えなければならないと思った。
「はい。残念ですが・・・。あの人物に呼ばれたときにはもう先生はほぼ命の火が消えかかっていました。そして最後の師としての試練として、そして贈り物として・・・、僕にその残りの命を渡して下さいました。」
「ははは、あいつらしい。本当にアッシェは良い弟子を持ったんだろうな。礼を言わせて欲しい、ニクス君。あいつを師として慕ってくれて、そして弟子として最後を見届けてくれて感謝している。ありがとう。」
そう言い僕に対し頭を下げるマーリンさんに困惑する。
正直殴られるかと覚悟してたくらいだったからだ。
「本当に・・・、本当にアッシェさんは僕にとってはいい先生で、師匠で・・・家族でした。ありがとうございました。マーリンさん。」
その言葉に対しマーリンさんがそっと僕を抱きしめてくれ涙を流している。
我慢しようと思っていた僕も思わず大粒の涙を流していた。
その光景を見ていた公爵様より声がかかる。
「本当に済まないがマーリン。まだ少し聞きたいことがある。大丈夫か?」
公爵様より声がかかったことによりマーリンさんは涙を拭き公爵様に跪く。
「大変失礼しました。閣下。この度の非礼に対する罰は如何様にも受ける所存です。」
「罰しはしないさ。お前の大事な人の最後だったんだ。聞き届ける使命がある。」
「ありがたき御言葉、感謝致します。」
公爵様が僕に向き直る。
「まだ何か追加で話すべきことがあるなら今のうちに聞いておかねばならない。何かあるかね。」
僕は頷きこう答えた。
「あいつは5年毎に後2回顕現し、僕と『命を正す戦い』を仕組んできます。仮にその2回の戦いの間に僕が死亡したり、もしくは戦闘を拒否した場合・・・、やつは世界を破壊し尽くすと言いました。そしてそれだけの力を有していると『前世』の人が言っていました。過去にいくつかの大国を一瞬で滅ぼしたそうです。」
僕の言葉に皆唖然としている。
だが僕は最後にこれを伝える必要があった。
「そして、あの魔人の名は『ノクタリオス』です。」
そう、あいつは悠久の遥か長い時を生き、破壊願望に支配された『名前付き』なのだ。
それは今後の方針にとってとても大きな意味を持つ。
「僕からの報告は以上です。信じてもらえないかもしれませんが、これが僕が持ち合わせるものの全てです。」
「最初に言った通り、私は信じるさ。ニクス君。まずは礼を言わせてくれ。ノクタリオスの一時的な撃退、それに重要な情報を提供してくれたことに感謝する。そしてこのことだが、我が主君であるこの国の王に伝えねばならない。場合によってはこの情報は更に関係国に共有されることになる。君の扱いは今まで通りではいられないだろう。」
「それは理解しています。最悪処刑されてもおかしくはないと考えておりました。」
僕は率直な意見を述べる。
「だがそれをすれば5年後にノクタリオスが顕現した際にこの世界は滅ぶ。そうなんだろう?」
「はい。」
そうだ、僕が死ねばノクタリオスが世界を滅ぼす。
なんとしてでも生き延び、そして10年以内にやつを完全に殺し切るための力を身に着けねばならない。
僕はその事実をぐっと胸に刻み込み、この日の聴取会は終了することとなった。
その後、自身を取り巻く環境が大きく変化しノクタリオスだけではなく、様々な困難が待ち受けていることを僕はまだ知らない。
第一章
少年編・完




