【第46話】ノクタリオス
「あれ?ここは・・・」
僕はまたしてもあの白い部屋へと移動していた。
傍らにはレビンがおり、ベッドにはあの人物が座っている。
手には命の逆巻時計を持ちそれを見ていた。
「ニクス。何度も済まないね。」
そう言いながらその人物は謝罪を述べる。
「いえ、丁度僕も聞きたいことがあったので。」
「そうだろうね。」
「あの『ノクタリオス』と名乗っていた魔人が言っていたことは事実なのでしょうか。」
そう、僕は確認したいと思っていた。
あの魔人が言っていたことを。
「ああ、事実だと思う。」
「だと思う?自分のことなのにわからないんですか?」
自分のことだろうに曖昧な返答が帰ってきたことに若干の苛立ちを覚える。
「すまない。だがそれもまた事実なんだ。なんせ君たちが生まれたのは私が息絶えた後、僕の意識とは関係がない所で発生してしまったことなんだよ。そこは理解して欲しい。」
その言葉に僕は何も言えずぐっと拳を強く握りしめる。
「確かに僕は当時では未知の存在だったマナというものに翻弄され続け、常に病院での生活を強いられることになった。原因不明の病ということで痛みや苦しみなどを緩和することしか出来なかった。そんな自身を呪い、そしてもし次の生というものがあるならば、それは健やかに、長生きしたいと思うのは悪いことなのかな?」
僕はそう言われ何も言い返せなくなる。実際そのとおりだと思ったからだ。
「それにニクス達やノクタリオスが生まれたことは私の範疇を超えた出来事なんだよ。こうして私から見ればニクス達に接触し、話をしていることは奇跡という他に言いようがない。」
「貴方はあの魔人のことはどの程度知っていたのですか?」
自身から分かたれた存在ならば魔人のことは知っていたに違いない。
「残念だが断片的にしかわからない。私という存在は殆どノクタリオスに残らなかったんだと思う。」
「彼の呪い。歪な命の形というのは?」
「それは事実だ。というのも、実は君自身の命の形も歪な形になってしまっているからね。」
僕は予想外の言葉に耳を疑う。
「え!?じゃあ僕という存在は・・・?」
「普通の人間とはかけ離れているだろうね。なんせ先程ノクタリオスと対峙した時のあの姿こそが『本来』のニクスという存在の形なんだ。今はこの通り、時間切れで再び君とレビン、そして命の逆巻時計に戻ってしまった。」
そう言われ僕は聞かずに入れなかった。
「では僕は普通の人間ではないのですか?」
「ああ、性質的にはノクタリオスに非常によく似ていると思う。つまり君も魔人だということだ。」
「そんな・・・。」
僕はこれからどうなるんだ?という不安で押しつぶされそうになる。
「それは君を取り巻く環境次第だろう。確かに魔人と言われれば聞こえはあまり良くないかもしれないが、幸いなことに君は家族や友人、知人に恵まれている。それに以前アッシェ先生が言っていただろう。魔獣でも知性を有するものとは無闇に戦うことはしないと。」
そういえば先生がそんな事を言っていたのを思い出す。
「君は世界を滅ぼしたいと考えるのか?」
そんなことを唐突に言われたので全力で突き返す。
「そんな事思うわけ無いじゃないか!!」
「ならそれが答えだろう。これからも今までのように君自身で有り続ければ良い。それを周りが理解してくれれば自然と魔人としてではなくニクスとして見てくれるだろう。」
「・・・わかりました。それともう一つお聞きしたいのですが。」
僕がそういうとその人物は当然理解しているようで話をしだす。
「あの空のことだね。あの赤い空と一つの月はノクタリオスの固有の魔法だと思ってくれれば良い。彼はあの空の下でないと活動ができないんだ。」
理解できず言葉に詰まる。
「あの空は彼がこの世に生を受けた時の空の再現なんだよ。彼はあの真っ赤な空に満月の浮かぶ夜に生を受けた。そして生を受けるとともに僕の強い呪いが発動し、そして縛られてしまった。だから彼はあの空間でしか活動することが出来ないんだ。」
だから空が戻ると同時に彼は引かざるを得なかったのか。
あのタイミングで丁度先生から頂いた命のマナが尽きて僕自身活動限界が来たのは本当に運が良かったのかもしれない。
「君のマナにも限界があったようにノクタリオスのマナにも限界がある。そしてノクタリオスのマナが尽きた場合、再びマナが完全に戻るまで5年の歳月が掛かる。それ故、彼は次に顕現するのは5年後だと言ったんだ。ちなみに後2回だけというのは彼の焦りだろうね。」
「5年毎に現れて、チャンスは後2回・・・。つまり僕は15才になった時と20才になった時にあいつと戦う必要があり、20才の戦いの時に仕留めきれない場合は奴が世界を滅ぼす・・・、ということですか。」
僕は最後の確認をする。
「ああ、その認識であっている。20才の時に仕留めきれなければ、文字通りノクタリオスはこの世界を破壊し尽くすだろうね。事実過去に何度かやつは一瞬で大国と呼ばれる国を滅ぼしている。」
その言葉に僕は唖然とする。
そういえば魔人は自分が死ぬために戦争をしたと言っていた。
恐らくそのことなんだろう。
「それでニクス。君に『最後』に伝えることがある。」
「最後?」
「残念だが、僕という存在はここまでのようだ。」
「なっ!?」
あまりにも勝手な言葉に僕は言葉を失う。
「本当にすまない。本当は結末を見届けたかった。だがどうやらそれはこの世界の神々が許さないらしい。僕はこのまま強制的に消されるようだ。」
そう言いその人物は手を伸ばすと確かに徐々に体が透けていっていた。
「じゃあ、今後僕はどうしたら・・・!!」
「自分を信じろニクス。君はその名の通り『光』だ。自身の行動が、言動が、きっと縁を結んでくれるだろう。君は決して一人ぼっちなんかじゃない。前を向け。目を開けろ。そして、しっかりと自分の足で歩いていくんだ。」
僕の前の存在だったその人物はそう言い残すと、光の粒になり消えていった。
僕はそれを見届けた時、目を覚ました。
「ん・・・、ここは・・・。痛っ・・・!」
見たこともない部屋で横になっていた様だが、僕の身体からは途轍もない痛みを発し、しかも体中包帯でぐるぐる巻きにされていた。
それに右目も負傷したのかいつもと物の見え方が違っていた。
「ん・・・、あ・・・。目が覚めたのね!ニクス!!!」
そう言い見慣れない部屋なのにも関わらずリリーが僕の手を握っていて泣いていた。
「リリー・・・?」
僕は何がどうなっているのかさっぱりわからない状態だった。
「待ってて、すぐお医者さんを呼んでくるから!!」
そういうとリリーは早足でこの部屋から出ていきどこかへ行ってしまった。
「なんでリリーが・・・?それにこの部屋は?」
僕がそんな事を思っていると声が聞こえてきた。
「ここはグラン=ヴァリエルにある我がヴァリエスト公爵家の客間だよ、ニクス君。」
以前聞いたことのある声とともにぞろぞろと何人かの人物が部屋に入ってきた。
「私を覚えているかね?」
その顔は見たことがあった。
「はい、公爵閣下。お久しぶりです。この様な姿で申し訳ありません。」
僕は流石に寝たままでは無礼がすぎると思ったので身体を起こそうとするも上手く動かない。
「無理をしてはならぬ。君は瀕死の重症を負っていたのだ。そしてその治療を行うため、一時的に我が屋敷に移送させてもらったということだ。なのでゆっくりしてくれたまえ。」
なるほど、見たことない豪華な部屋にリリーがいた謎がわかった。
「ありがとうございます。それで、僕はどれくらい寝ていたのでしょうか?」
「10日間だ。」
そうか、あの魔人と対峙してから10日も経ったのか。
「失礼ながら公爵様、よろしいですか?」
そう言いながら出てきたのは医者のようだった。
「ああ、頼む。」
公爵様が二つ返事で許可を出すと僕の診察をしてくれるようだった。
「では失礼します。」
そう言いながら包帯を解き始めるとなんと僕は致命傷を負っていたはずなのに傷が既に塞がり始めていた。
「・・・やはりか・・・。」
公爵様はそれを見て思うことがあるようだ。
「昨日よりも更に傷が塞がってきていますね。右目の方は残念ですが・・・。」
そう言いながら医者は包帯をすぐに交換してくれる。
今のやり取りから察するにどうやら僕の右目は完全に潰れたらしい。
「ああ、お前は完全に片目になったぞ。」
そう言いながらレビンが僕に乗ってきた。
「レビン。君もかなりの傷を追ったと思ったのに大丈夫だったのか。」
「死にかけたがな。まあこれもあいつの言う呪いだろうな。」
そこであることに気がついた。
「レビン、君話せるようになったのか!?」
「そのようだな。」
そう言うと何故かレビンは得意げだった。
その光景を見ていた公爵様は何か考えていたようで、僕の包帯の交換が終わるとすぐに「人払いを」といい、この部屋にいた大半の人がいなくなる。
そして部屋に残ったのは僕、レビン、公爵様、マーリンさん、そして見たことがないフードを目深に被った人だった。
公爵様が代表し僕に尋問を行うようだ。
「ニクス君、私の質問に嘘偽り無く答えてくれるかな?」
公爵様が先にその様に確認をしてきたので僕は答える。
「自分の命にかえて、嘘偽り無くお答えすることをお約束します。」
僕は命を助けてもらった人たちに対し無礼なことは出来ないし、ましてや自身に起こっていることは自分だけでは抱えきれないと感じていた。
「うむ、では少し時間を貰うぞ。体調面で辛くなったら言ってくれたまえ。配慮しよう。」
「ありがとうございます。大丈夫です。痛みにも慣れてきましたので。」
それを聞いた公爵様の顔が少し厳しくなるのを見た。
「・・・。そうか。では遠慮なく聞くことにしよう。先に証人として同席者を紹介する。こちらは知っているな。第一騎士団長のマーリンだ。そしてこちらは王宮魔法使いのランスロッテという。」
僕はマーリンさんと初対面になるランスロッテさんに挨拶を行う。
「マーリンさん、お久しぶりです。ランスロッテさんははじめまして、ですよね。ニクスと言います。よろしくお願いします。」
マーリンさんは僕が知っている陽気な表情ではなく厳しい表情をしている。
「久しぶりだね。ニクス君。」
「よろしく頼むよ、ニクス。」
ランスロッテさんはフードが目深に掛かっていて顔はわからなかったが、声から女性だということはわかった。
「では始めようか。」
公爵様からの一言により、今回の一件の聴取会が行われることになった。




