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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第一章~少年編~(全47話)

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【第45話】各々が見た“モノ”【番外編】

私は9才の夏の誕生節より今までの生活から大きくかけ離れた、それでこそどこぞの本の物語でしか見たことがないような生活を送っている。


今はグラン=ヴァリエル現当主マクシミリアン・ド・ヴァリエスト公爵様の客人として一時的に迎えられ、2つの季節の期間の中でそれこそ血の滲むような努力をし教養やマナー等を徹底的に叩き込んでいた。


辛くはあったが、私には目標があった。


そして今日その目標が報われる日がやってきた。


「リリー様。失礼しますね。まあ、すごくお似合いですよ!」

そう言って少し前までドレスなど着たこともなかったが、非常に豪華なドレスを身にまとい、髪を結い直しまるで人形の様に綺麗な格好で座っている私を見て声をかけてくれているのは、私に徹底した教育やマナーを叩き込んでくれた恩師でもあるアン先生だった。


「アン先生。本当に今日までありがとうございました。今日、こうしてこの様な晴れ舞台に立つことが叶うことになったのも、単にアン先生のご指導の賜物です。本当に感謝しています。」

そう言いながら私はアン先生に深々と頭を下げる。


「いいえ、私は出来ることをしたまでであって、その夢を掴む努力をしてきたのは紛れもないリリー様ご自身です。本当に大変だったとは思いますが今日は出発点に立ったに他なりません。これからが重要ですよ。」

アン先生にそう言われ確かに今日が出発地点になるんだと心を入れ替える。


「失礼致します。騎士団長のマーリンです。」

昔から知った声が聞こえて私はどこかホッとする気持ちがあった。


「どうぞ。」


「失礼します。ああ、本当にお綺麗ですね。リリー様。今日この日を迎えることが出来、私はとても幸せに思います。」

マーリンさんがその様に声をかけてくれるが、今日この日を迎えることが出来たきっかけになったのはマーリンさんのお陰だ。


「マーリン様。この度は本当にありがとうございました。こうしてこの日を迎えることが出来たのもマーリン様のご尽力があったからこそです。感謝申し上げます。」

そう言い私はマーリンさんへも頭を下げる。


「勿体ないお言葉、大変光栄であります。ところで今日は紹介したいものが居りまして。よろしいですか?」


「ええ、勿論です。」

マーリンさんから許可を求められたので当然許可を出す。


「失礼致します。本日付でリリー様の護衛騎士に任ぜられたナタリーと申します。よろしくお願いいたします。」

ナタリーと名乗った女騎士はそう言いながら私の前で跪く。

前々から実はナタリーのことは知っている。

客人としてこのヴァリエスト公爵家に来てからは持ち回りで何人かの騎士たちが護衛をしてくれていた。

ナタリーはそのうちの一人であり。私が最も信頼を寄せている護衛騎士だった。

というのも彼女も元は平民の出で、しかも元ブランだった。

それでも絶えずマーリンさん率いる騎士団での指導のもと騎士として励んでいた所、突如魔法の才能が開花し、中途覚醒者となった過去を持つ。

そういった経緯もあり、元孤児で平民だった私としては、出が貴族の騎士よりも余程馴染みやすい騎士であった。


「まあ、正式にナタリー様が私の護衛騎士になってくれるのですね。嬉しい限りです。」


「勿体ないお言葉です。」


ナタリーは私が元平民でしかも孤児だということは知らない。

そもそもこの家の中でも私の元々の出自を知るものはほんの僅かだ。


対面を保つためにヴァリエスト公爵家の親類である某男爵家の者ということになっている。


「失礼致します。そろそろお時間です。リリー様、準備はよろしいでしょうか?」


使いの者が迎えに来る。


「ええ、よろしくお願いしますね。」


そう言いながらマクシミリアン様が待つパーティ会場へと歩を進める。


今日は私の10才の誕生節の日のパーティであり、そしてその場で私がこの家養女として正式に迎えられる日だった。


会場付近に行くとそこにはマクシミリアン様の姿がある。


「これはこれは、どこぞの光の女神様かと思ったぞ。お誕生節おめでとう、リリー。」


「まあ!本当に綺麗だわ!リリー、おめでとう。」


「ありがとうございます。マクシミリアン様。ハンナ様」


マクシミリアン様の隣りにいるのは奥様であられるハンナ様だった。

私はその二人に対し、感謝の礼を述べるとともに深く頭を下げる。


「ふふ、今日でその『マクシミリアン様』も終わりだな。」


「ええ、そうね。今日からは正式に私たちの娘になるんですもの。」


私には家族はいたが本当の親は誰かは知らなかったし興味がなかった。


親代わりのシスターがいてくれたし、それこそ兄弟はたくさん居たからだ。


だが、10才になる今日、私に人生で初めて心の底から父、母と呼べる存在が出来ることになる。


「さあ、行こうか。わが愛しい娘よ。」


「はい。」


そうして父の腕を取りエスコートされながら会場に入る。


そこでは見たこともないほどの貴族たちが集まっており、本日のヴァリエスト公爵からの発表を今か今かと待っているような様子だった。


重大な発表があるとは触れられていたが、詳細は伏せたままだったようだ。

だが、目ざとい貴族たちの中には既に私の養子縁組の話を何処かからか聞いていたようだ。

私がマクシミリアン様にエスコートされている姿を見ると一層貴族たちがざわつくのが分かった。


「今日この日、春の誕生節を迎えられたことを心から歓迎する。何故ならば、今日この日に私が娘を迎えることが出来たからである。」


マクシミリアン様はそう言いながら今までの私の『作り上げた過去』を話、そして養女として迎えることとなったことを正式に貴族たちに向かって発表する。


そうして私は、今日この日をもって『教会出身の孤児のリリー』から、『ヴァリエスト公爵家養女のリリー・ヴァリエスト』となった。


事前に覚えるべき人物とそうでない人物を叩き込まれていたため、パーティ中に色々な人を紹介されると事前に叩き込んだ名前や特徴と照らし合わせながら特に重要な人物から優先して脳内に叩き込んでいた。


そうしている内にどんどんと時間が過ぎ私も疲弊してきた頃にお義父様が私に「今日は下がって休みなさい。」と言ってくれた。


お義父様もお義母様も本当によく人を観察されており、どこでどの様なタイミングで話をしたり切り上げたりするかの判断が的確だった。


これが本物の貴族というものなのだと思い知りながら部屋へと戻ろうとしたその時だった。


とてつもない嫌な予感がした。


どっと脂汗が吹き出し、目眩がする。


「リリー様!」

今にも倒れそうな私を見てナタリー様が私を支えてくれた。


その姿を見た、お義父様とお義母様が来てくれ「どうかしたのか!?」と声をかけてくれる。


会場は小さな騒ぎになっている。


「わかりません・・・、ただ・・・、何かが・・・来ます。」


私は漠然ととんでもないものが『来る』という感覚だけが頭を支配していた。


そして私は割れた月の浮かぶ空を指差す。


「何が来るんだ!?・・・え?」


お義父様が私に問いかけ私が指を差した方を見た瞬間だった。


それは突如として起きる。


___________________________


それは突然のことだった。


リリーちゃんが急に倒れられたかと思えば、「何かが来る」と指を指しながら気絶してしまう。


その瞬間だった。

僕も途轍もないプレッシャーを何処かで感じ空を見るといつもの夜空ではなく、血で濡れた様な真っ赤な空になり、しかもいつもは割れて存在していた大小の月が一つになっていた。


そしてそこに一筋の強い光の柱を確認する。


「あの光、あの方向・・・。まさか!アッシェ!?」


僕はその光のことを知っていた。


その光は僕の元相棒だったアッシェが銀等級の冒険者証に勝手に細工し、魔道具化したものの光であり、その光が意味するところは『命の危機が迫っている。援軍を寄越せ。』という信号弾のようなものだった。


僕は以前それを作っているアッシェに対し話をしたことがあった。


「そんなもの必要ないだろう?それが必要になるってことは軍クラスの部隊が必要になるってことじゃないか?」

それ聞いたアッシェはいつものようにぶっきらぼうに答える。


「ああ、だからこれを作っておくんだよ。用心に越したことはない。」


「そんなもんかねえ?」


「そういうものだ。」


その場面が鮮明に思い出される。まずい。


僕は早足でマクシミリアン様の元へ向かい状況を説明する。


「閣下。あの光の柱は私の旧友の信号です。可及的速やかに軍を派兵する必要があります。どうか、ご指示を。」


いつもの僕の空気感では無い、一都市の軍団長としての僕を見て、マクシミリアン様は端的に問う。


「灰被りのことだな?」


「はい。しかもあの信号は命に関わるものだと認識しております。」


その言葉に閣下の表情が固まり、冷や汗をかいているのがわかる。


それもそうだろう。元とはいえ銀級冒険者でしかも二つ名持ちの人物からの救援というのはそれだけの意味がある。


同じ銀級の冒険者でも二つ名があるかどうかでは雲泥の差だ。


マクシミリアン様も一都市の頂点に立つ為政者として十分に理解していた。


それ故、決断は早かった。


「第ニ、第三軍は万が一に備えて、都市内で待機。第一軍団は完全装備にて出撃。状況により待機させている第ニ軍団も出撃させる。これで良いな?」


十二分すぎるほどの号令だった。


「はっ!」


「私も手伝おうか?」

そう言って声をかけてくれたのは紛れもない僕の親友であり命の恩人でもある、王宮魔法使いのランスロッテだった。


今日は噂の光の大魔法使いになるかもしれないというリリーちゃんのことを見に来ていた。


「心強い。助かる。」


「構わないさ。親友の頼みならどこへでもいくさ。」


そう言い、二人でパーティ会場を出て即時軍部へ緊急招集を掛けた後、私が率いている第一軍を完全装備にし、魔術馬具で強化された馬を使い早馬でアッシェからの合図があった場所へ向かう。


明らかに異常な事態だった。

今までの人生でこんなに真っ赤な空になったことはないし、ましてや月が一つにくっついているなんてのは想像もしたことすら無かった。


「これは『真紅の満月』だな。」


ランスロッテは何か知っているようであったため、風のように疾く駆け抜ける馬に乗りながら聞く。


「『真紅の満月』とは?今は少しでも情報が欲しい。」


「私も詳しいことは知らない。かなり古い文献で読んだだけの話。個人的には伝説やおとぎ話の類かと思っていた。」


「それで?」


「『真紅の満月』が天に現れた時、魔人が現れ、自身を殺してくれる相手を探しているんとか。ただその魔人はあまりに力が強すぎるためにまともに相手にできる物は居らず、以前顕現した時は一つの大国が一瞬で滅んだらしい。」


「魔人・・・。」


「あまりの与太話に作り話かとも思ってたんだがどうやらそうじゃないらしい。ほら、君も感じないか?」


そう言われるとどこからとも無く吐き気を催す様な邪悪としか言えないマナを肌で感じ始める。


「とてつもないマナだ・・・。」


「ああ、私もここまでのは初めてだよ。」


道が開けると魔人と誰かが戦っているように見える。


その二人の戦いは凄まじく、訓練を受け、しかも魔術馬具によって強化されているはずの軍馬ですら躊躇い近づこうとしない。


それだけ凄まじい光景だった。


「これ以上は馬では近づけない。」


僕は馬から降り、第一軍全体にここでとどまるよう指示を出す。


「その様だね。どうする?」


「どうもこうも無いさ。自分の足で行くまで!」


そう言い、僕とランスロッテは自身に【身体強化】の魔法をかけ、一気に二人が戦っている場へと駆けつけると事態が更に変化する。


「空が元に戻っていく・・・?」


「魔人の気配も弱まっている・・・!今が好機だ!!」


自身達の魔法の射程圏内に入った所で、自身が放てる究極魔法を唱える。


氷槍万華(アイシクル・カリス)


天雷神罰(ジャッジメント)


僕が放った【氷槍万華(アイシクル・カリス)】は白氷の魔法であり対象に接触すれば花のように氷が咲き乱れ、相手を一瞬にして絶対零度の氷で封じ込める魔法だ。


そしてランスロッテが放った【天雷神罰(ジャッジメント)】は珍しい雷系の魔法であるが、威力は天から降り注ぐ雷の一撃そのものを更に凝縮したような一点集中型の破壊型大魔法だった。


仕留めた!


そう思った瞬間だった。


魔法が着弾する頃には魔人は完全に姿を消し、空もいつもの空へと戻っていた。


そして、その頃になってようやく魔人と対峙していた人物が明らかになる。


「えっ!?ニクス君!!」


僕は慌てて彼のもとへ向かうがアッシェの姿はない。


どうやらニクス君は魔人が撤退したことと、僕達が援軍に来たことにより安堵したのか一気に倒れ込む。


だが、その姿はひどく痛々しかった。


右目付近から大きく切り裂かれたと思わしき傷が左下腹部まで続いている。


だが不思議なことに出血があまり見られない。


それどころか、右目はかなり損傷しているようだが、そこから続く大きな傷は若干だが塞がりかけていた。


僕は合図を出し衛生兵にニクス君とレビンを引き渡す。


他の隊員には各自散開し、戦いの舞台になった場所の被害状況や、場合によっては救助を行うよう指示を出す。


「マーリン、どう?」


「いや、アッシェは居ない。だけど不思議とアッシェのマナの残穢だけを感じる・・・。」


「それって・・・。」


「そんなはずはない!あの『灰被り』だぞ!きっとどこかに・・・!」


そう言い僕は若干取り乱しているとあるものが目に入る。


それはアッシェが愛用していたブロードソードの一部と高熱により大きく溶け変形した彼の冒険者証だった。


それを見つけた瞬間僕はすべてを悟った。


もうこの世界にアッシェは居ない。


僕はアッシェの遺品を回収する。


「大丈夫かい?」


ランスロッテが僕を心配してくれている。


だが今は涙を流している場合ではない。


「大丈夫だ。僕は誇り高きグラン=ヴァリエル騎士団第一軍団長の白氷の守護者マーリンだ。」


自分にそう言い聞かせるように奮い立たせるも涙は自然と一筋流れ出ていた。



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