【第44話】覚醒
「何故だ。コイツは俺のもう一つの魂のはずだ・・・。何故こんなにも脆い。」
魔人が長い時を過ごし、ようやく自分を殺しきれるもう一人の自分の存在だと思っていた人間があっさりと血の海に倒れたことに絶望していた。
ぴくっ
絶命したと思われたニクスの指がかすかに動く。
「ん?」
魔人がニクス達の骸が転がっていると思っていた方よりマナの流れを感じ目を向ける。
そこには悠久の時を生きた魔人ですらも見たことがない現象が発生していた。
大きく切り裂かれ絶命したと思われていたニクスとレビンの体に流れ出た血液が戻り始める。
「なんだ!?」
ニクスとレビンの体に血液が戻りきったと思ったら、その2つの体は宙に浮き始め、2つの体の間で時計の蓋が開く。
勢いよく逆に時を刻みだす懐中時計。
「一体何が起きている!?」
魔人のは想像にもしていなかった現象にただただ困惑する。
逆に時を進めていた時計の針がピタリと止まった時それは起きる。
『身体と精神』を司るニクスに、『魔法属性』を司るレビン、そして『魔臓』を司る命の逆巻時計がゆっくりと一つになっていく。
「は、はは・・・、ハハハハハ!!そうだよな!やはりお前は俺を殺し切ることが出来る唯一の人間なはずだ!」
魔人が目の当たりにする現象を理解したようにその現象を最後まで見届ける。
カッ!と強い光をニクス達が放ったかと思うと、そこにはニクスの『本来あるべき姿』だったものがそこに現れる。
夜空を思わせる漆黒の髪は大きく色を失い、光を放つような銀髪になる。
顔には縦半分に割れた黒猫を模した様な仮面を右半分の顔を覆うように被っている。
そして全身にはとても近寄りがたい様な電撃が絶えず放電され、バチ!バチ!と大きな音を上げ続けている。
ゆっくりとその者の左目が開眼されると瞳は綺麗な金色だったはずだが、漆黒の色を纏っていた。
「いいぞ!いいぞ!!俺はこの瞬間を待ち望んでいた!!さあ、殺し合おうぞ!!」
魔人は熱を帯びたように変容したニクスに対し声を上げるもニクスからの返答はない。
刹那
バチチチ!!
強い放電の音がしたかと思うとニクスの姿は完全に消える。
「な!?どこだ!!」
バチチチチ!!!
少し離れた場所で放電の音が聞こえ魔人がその方を向くと、いつの間にか自分の足元に転がっていたニクスが師と呼んでいたその骸を抱きかかえていた。
ニクスが何かを言うと、師と呼ばれていたものの骸は完全に灰となったが不思議なことにその灰は崩れるどころかニクスの体に吸収されていく。
______________________________________________
「先生、聞こえますか?」
僕はもう既に虫の息となり、命の炎が消えかかっている先生に問いかける。
答えはない。
「先生。本当に今までありがとうございました。これからも先生の教えを胸に刻み、しっかりと自分の足で生きていきます。」
改めて胸に刻み込むように自分に言い聞かせるように先生に話しかけると、先生がふっと笑ったような気がした。
その瞬間先生の体は全てが灰になる。
「先生、最後の試練必ず達成してみせます。」
そう言うと僕と一体となった魔臓の代わりになっている命の逆巻時計が先生の灰をどんどん飲み込んでいく。
流れ込んでくる先生の命を変換したマナが身体を巡る。
「ああ、これがマナを感じるということなのか。」
全身にマナが巡ると同時に電撃が体外へと放出される。
バチチチ!
「準備はいいな?レビン。さあ、始めようか。」
僕は一体となったレビンに声を掛ける。
「まずは、獲物を回収しなくちゃな。」
そう言い、ハンドブレイカーが地面に突き刺さっている場所まで一気に駆け抜ける。
その速度はとてつもなく疾く、先程の先生の全力の疾さを遥かに凌駕している。
まさに稲妻のような疾さだった。
魔人は先程先生を回収した際にその速度を見ているためか、二度目のこの速度に既に対応している様子で、僕の速度に合わせ攻撃を放ってきたが、その攻撃から発せされる闇のマナを目視し、更に死の匂いが最もしない方向に身体が自然と動く。
魔人は完全に今の一撃が僕に入ると思っていたのだろうが、僕は流れるようにそれを躱しハンドブレイカーの回収に成功する。
「なっ!?」
魔人が攻撃を躱されたことに目を大きく開いて驚いていたが、今の自分からすると逆に驚くほど魔人の放ってきた一撃を目や鼻、そして感覚で察知することが出来た。
「さて、このままじゃあいつを殺しきれないな。そうだよな?レビン。」
僕の問いかけにレビンが脳内で(そうだな。)と言った声が聞こえてきた。
「なら・・・。『殺しきれる形』にしよう。」
そう言いながら僕は常に持ち歩いていた革袋に入っていた黒砂を使い、ハンドブレイカーにまるで漆黒の刃が出来るよう、マナから変換された電撃を利用しながら形成する。
それはとても薄いが黒砂が先生の命のマナとレビンから生み出された電撃を利用した一本の剣となる。
【黒砂の剣】
僕がその漆黒の剣を作り終えると、魔人も流石に素手では分が悪いと感じたのか、禍々しい一本の剣を手に取っていた。
一気に加速し【黒砂の剣】を振ると、読み切っていたかのように魔人も合わせてくる。
その瞬間【黒砂の剣】からは放電現象が起きると同時に通常の剣の鍔迫り合いでは決して起きないような甲高い「キイイイイイイン!!」という音が絶えず聞こえる。
パキ!
魔人の剣からその様な音がしたかと思うと魔人は一気に体制を立て直すために大きく後ろに退く。
どうやらとてつもなく薄い刃のはずなのに折れないこと、更に自分の剣が刃毀れを起こしたことに驚きを隠せないようだ。
それもそうだろう、この【黒砂の剣】の刃は刃であるが1本の刃ではない。
これは黒砂が電撃により磁気を帯び刃のような形で形成されている『細かい黒砂の塊』だった。
しかもこの黒砂の刃はエレキテルの件で勉強したように短時間でとんでもない数の振動を起こしていた。
この【黒砂の剣】の真骨頂はまさにこの振動であり、刃で切るというよりも、『砂の粒子で削り取る』といった性質のものだった。
先程の鍔迫り合いで発生した甲高い音はこの振動によるものだった。
「ふはは!良いぞ!そうこなくてはな!!」
魔人が僕に対し高ぶる感情を抑えきれないかのように吠えていた。
「殺されたいなら今ここで殺してやるぞ?何故抵抗する。」
僕は先程から「殺されたい」と言いながらも激しく抵抗してくる魔人に疑問が湧いていた。
「確かに俺は長き年月を生き過ぎた故に様々なものを見聞きし体験し、死ぬことを許されないこの身体を呪った。何度も自死や戦闘を試したさ!だが死ねないのだよ!」
「どういうことだ?」
「さっきも言ったように呪いだよ。俺やお前の前世とでも言うべき奴が、短かった自身の生を呪い、長く健やかに生きたいと願ってしまった。それは通常通りの輪廻であれば良かったのだろう。だが俺達は別れてしまった!その願いも、歪な形で別れてしまい、俺は意味のない長き生を受けることになった!」
魔人の顔には絶望が浮かんでいた。
「俺の命は歪なんだよ!意味のない死は俺の呪いが許してくれず、再び命を吹き替えしてしまう。俺は悩んださ!だがな、ようやく『光』を見つけた!!それがお前だニクス!!」
「ようやく理解できた。お前と同じ前世のルーツを持つ僕とお前で命のやり取りをすることでお前の歪な命の形が正され、僕に命を取られることでようやくその呪いから解放される、ってことか。」
「理解してくれて嬉しいぜ・・・。だからよ、命の形が戻るまで、俺を決して失望させないでくれ!!」
魔人の顔は、ようやく理解者が現れたことに安堵していたのかもしれない。
恍惚な笑みを浮かべていた。
「安心しろよ。僕はお前を許す気は・・・ない!!」
そう言いながら僕は魔人に斬りかかる。
再び魔人と鍔迫り合いになるが僕は一気に【黒砂の剣】を解除する。
「なに!?」
魔人が変幻自在な僕の攻撃に対処できず再び驚愕に顔を歪める。
僕は黒砂の形状を鎖に変え、拳に巻き付けたものを魔人目掛け殴りつけ、めり込ませる。
魔人が吹き飛ぶと同時にカウンターで仕掛けて来た闇のマナの一撃が僕の身体付近で炸裂した。
だが当然の如く、僕はその一撃のマナの動きも『視えて』いたし、その一撃からどう動けば『死の匂い』から遠ざかることが出来るのかを理解していたので、それに沿って行動することで最低限のダメージで済む。
確実に魔人はダメージを受け、そして僕は魔人からの攻撃に対処できていた。
それ故に僕は勝利を確信していた。
だが、その時は突然訪れる。
真っ赤に染まっていた空が徐々にいつもの色を取り戻すと同時に1つになっていた月の形が再び何時もの様に割れた月へと戻っていく。
更にそれに合わせるように、僕自身のマナも先程の一撃で既に底を付いてしまったようで身体に走っていた電撃は徐々に弱まり始め、黒砂の鎖も形を保てなくなる。
「ぐう!折角ここまで来たと言うのに時間切れか・・・!」
魔人が悔しそうにしている。
「チャンスは5年毎に後2回だ!その時が来たら貴様と命の形を正す戦いをしてもらう!だが、その前に勝手に死んでたり、2回の内に俺を殺しきれなかった場合その時はこの世界そのものを破壊し尽くしてやる!我が名は『ノクタリオス』!!お前と対を成す存在の名だ!」
そう言いながら魔人の身体は徐々に空が戻り始めると同時に透明になり始める。
そこへ2つの魔法が魔人目掛け飛んでいく。
【氷槍万華】
【天雷神罰】
轟く雷鳴と共に巨大な氷の花が咲き乱れる。
だが、それらの魔法は届くこと無く魔人は姿を消していた。
それを見届けると僕の身体からは完全にマナが枯渇し、僕と一体となっていたレビンと命の逆巻時計もそれぞれ元の形に戻る。
それと同時に今まで経験したことのない様な痛みが全身を襲い、立っていられなくなる。
徐々に視界が霞んで意識も絶え絶えになりそうな時、遠くからマーリンさんが僕を呼ぶ声が聞こえる。
どうやらグラン=ヴァリエル騎士団が異変を察知し増援に来てくれたようだ。
僕はそれを見て安心し、気を失う。




