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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第一章~少年編~(全47話)

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【第42話】リリーからの手紙と金色だった懐中時計

季節は巡り、春になっていた。


そう僕は10才の誕生説を迎えることとなった。


「おう、お誕生節おめでとうな。これでお前も10才か。」


朝一番に会うなり先生はお祝いの言葉をくれる。


「ありがとうございます。ここまで健康に育てたのも先生のおかげです。」


僕は本当に健康でかつ大きく育つことが出来た。


「本当にでかくなったな、お前。これが成長期ってやつか。」


「相変わらず成長痛は痛いですけどね・・・。」


そんなことを話しているとレビンが起きてきた。


「レビン2才のお誕生節おめでとう!」


レビンにそう言うと頭に?を浮かべている。


「なぁーお?(俺は前から2才だったが?)」


レビンは誕生節のことを知らないようだったので、教えてあげると衝撃を受けていた。


「なぁーお・・・。(今まで2才だと思ってたのに・・・。)」


「あはは」と笑っていると先生が急にこっちへ来いとリビングに手招きをして僕を呼ぶ。


「どうかしたんですか?」


そう言って先生の元へ向かうとテーブルの上には手紙と万年筆、そして墨の入った瓶が置かれていた。


「わわわ・・・!どうしたんですかこれ!?」


僕は初めての諸々に興奮していた。


「もしかしてこれが今年の僕へのプレゼントです!?」


目をキラキラさせて先生を見る。


「残念。半分あたりで半分外れだ。」


「半分?」


「実はな、リリーの護衛に付いているマーリンからの要請でな。今年の誕生節のプレゼントとしてリリーからの手紙を預かってきた。ほらこれだ。」


そう言うと先生はリリーからの手紙を渡してくれる。


「大感激です!!」


話を続けるぞと先生は言う。


「それで、マーリンからの提案でな。リリーに返信をお誕生節のプレゼントとして渡してほしいと言われ、このセットを預かったんだ。お前が書き次第、マーリンの部下が取りに来るそうだ。ちなみに万年筆も墨壺も合わせて回収だ。」


「ええええ!!!??」


万年筆や墨壺を貰えると思ってたばかりにショックだったが、たしかにこれらは高級品だ。きっと貸してくれたんだろう。


「あ、それで半分正解半分はずれなんですね。」


「そういうことだ。」


なるほどと納得しているとふと気になる。


「シスターの分はどうなってるんです?」


「ああ、シスターは元々遠方の人たちと手紙をやり取りすることがあってな、自前で手紙や万年筆は持ってるとのことで、おまえの分と合わせてマーリンの部下に預けるそうだ。」


「し、しらなかったです・・・!」


教会に預けられて10年経つがそんなことは一切知らなかった。


「あ、そういえば何度かシスター宛に荷物屋さんが来てたけどもしかしてあれだったのかな?」


何度か荷物屋さんがシスターに直接渡すものがあるとシスターを呼びに行ったことがあったのを思い出す。


「それだろうな。手紙は機密性の高いものだ。おいそれと渡せるものじゃないからな。」


「なるほどー。」


「今日は午後訓練は休止とし、手紙に集中しろ。それで明日には教会に行くぞ。」


以上のように今日の予定が決まったので午前のストレッチやランニング中に何を書こうかなーと考えながら行っていたら何度か先生のげんこつが飛んできた。


ようやく午後になり、腰を下ろすことが出来たのでまずはリリーからの手紙を読んでみる。



『拝啓 親愛なる友人 ニクス様へ。

私は無事にグラン=ヴァリエルへと到着し、ヴァリエスト公爵家の客人として日々を送っています。

こちらでの生活は今までになく豊かで、恵まれており健康を害すること無く過ごすことが出来ております。

アカデミーに入学する直前であるため、日々勉学に明け暮れていますが、新たな学びが多くあり、幸せな時間を過ごしております。

勉学を好まれていたニクス様であれば、それがどんなに幸せなことかは想像に容易いことかと思われます。

これからアカデミーに入学すればより多くの学びや学友たちと出会えることを非常に楽しみに思っております。

お身体にはくれぐれもご留意頂き、健やかな日々をお過ごし出来ることを切に願っております。

追伸、皆様と一緒に見ることが出来たあの景色は私を目標へ押し出してくれる光となっており、大変感謝しております。ありがとうございました。


敬具


親愛なる友人 リリーより』



内容はもっと小難しいことが書いてあったが要約すると以上のような文面であった。


リリー本当に努力してるんだろうな。字もとても上手くなっている。


だが、決定的に悲しく思ったのは僕の扱いが弟ではなく友人となっていることだった。


これはこの手紙を書いた時点では10才の誕生説を迎えておらず、正式にヴァリエスト公爵家への養子縁組がまだ定かではない状態とは言え、仮に弟がいるとなると僕を貴族間の問題に巻き込みかねないというリリーの心遣いだと思った。


いずれにしてもその件についてはどこかからか情報はあるはずだと確信していた。



『拝啓 親愛なる友人 リリー様へ

大変お忙しいと思われる時期にわざわざのお手紙たいへん嬉しく思います。

冬が明け雪が溶け始め無事に春を迎えました。

お気遣いいただいている体調も万事問題なく、健やかに過ごさせてもらっている日々です。

私もリリー様を見習いつつ、先生の厳しいご指導もありますが日々勉学に明け暮れております。

先日も大変厳しい課題がありましたが、それもなんとかやり遂げることが出来、また一つ成長できたかと自負しております。

これからリリー様に置かれましては大変な時期かと思われますが、くれぐれもご無理はなさることの無いよう、私の代わりにアカデミーを楽しみ、御学友とともに過ごされることを切に願います。

まだまだ冷え込む時期ではありますゆえ、お身体には十分にご配慮いただき、健やかに過ごせますよう私も祈っております。

追伸、私も共に見たあの景色は、私自身の目標への道を照らしてくれる光となっております。

共に過ごせたことをたいへん嬉しく思っております。


敬具


親愛なる友人 ニクスより。』



「まあ、こんなものか。」


何度も見直しながら確認していると、「お前こんな小難しい物よく書けるな。」と後ろから言われる。


「うわぁ!」と思わず手紙を台無しにしてしまいそうになり焦るが無事だった。


「先生!手紙は勝手に読んでいいものじゃないんですよ!」


先生に言うと「すまんすまん。」と珍しく素直に謝ってきた。


「掛けたならこの封筒に入れろ。この封筒は魔道具の一種で渡したい人物でなければ決して開くことがないという魔道具だ。」


そう言われ僕はリリーからの封筒も見てみると確かに薄っすらとマナを視る事ができた。


「こんな魔道具もあるんですねえ。」


「よし、手紙を入れて封をしたな。じゃあ、教会へ行くぞ。」


先生が手紙を預かり、僕は荷物を背負い荷車も押す係になっていた。


「こんな重いもの、よくその足で押せましたよね・・・。」


そう先生に言うと「コツがあんだよ」といつもの返しで返された。


教会に到着後は皆が出迎えてくれる。


「ニクス、10才のお誕生祭おめでとー!」


だが、当たり前だがその声の中にリリーがいないことが少し寂しく思えた。


「シスター、これがニクスからの手紙とお借りしていた道具一式になります。」


先生はシスターに会うなり早々に僕の手紙類一式を渡していた。


シスターは僕の顔を見ると「おめでとう、ニクス。」と嬉しそうな表情をするがやはりどこか寂しさが漂っているのを僕は知っていた。


「預かったものは3日後に騎士団の方が使いとして私の元へ来るそうです。その時にしっかりと渡しますからね。」


シスターはそう言いながら大切にしまっていた。


それから帰るまでの間に皆から色々お祝いをもらったり、話をしたり、ついでにレビンの2才のお誕生節もした。


「なぁーお!(これで俺も正式に2才だ!)」


誇らしそうにレビンが鳴いていた。


あっという間に時間が過ぎそろそろ先生が迎えに来る少し前、シスターの部屋に呼ばれたので行ってみる。


「ニクス、来たわね。どうぞこちらへ。お掛けなさい。」


シスターより勧められた椅子に腰を掛ける。


「ニクス、本当に大きくなりましたね。ここ最近では特にそう思います。私は嬉しく思いますし、リリーも同じく嬉しく思っているでしょう。」


やはりどこか寂しげに思えるその顔に僕は思わずシスターに聞く。


「シスター何かあったんですか?言えないことならば言わなくても大丈夫ですが、聞けるなら是非聞いておきたいです。」


話を切り出すと、シスターは「敵いませんね。」と笑いながら僕に話をしてくれた。


「これはまだ正式な発表ではありませんので黙っていてほしいのですが、リリーが正式に公爵様に認められヴァリエスト公爵に養女として迎え入れられると言うことがリリーからの手紙に書いてありました。 」


「そうだったんですね。」


「ええ、ですからリリーは今後、公爵家の姫としてリリー・ヴァリエストを名乗ることになります。」


以前から聞いていた話だったのにもかかわらず、いざその時が来ると実感が持てないでいた。


「リリー・ヴァリエスト様ですか・・・。」


僕の言葉に一つシスターは頷く。


「ですが忘れないでください。たとえ今後リリーの『記録』からこの教会のことが消えるかもしれませんが、決してリリーの『記憶』からは消えることはありません。貴方はリリーの大切な弟です。」


シスターからの言葉が胸にしみる。


「・・・はい!」


シスターの言葉をしっかり胸に刻み返事をする。


「いい返事です。それと、これは別件なのですが。」


そう言いながらシスターは一つの木箱を取り出す。


「これを貴方に。ニクス。」


木箱を手に取ると「開けてみてください。」とシスターに促され、そっと木箱の蓋を開ける。


そこには見たことがない金無垢の懐中時計があった。


「こ、これは・・・?」


僕が思わぬ代物を目にし、思わずシスターに聞く。


「これは貴方がこの教会前に捨て子として置かれていた際に、一緒に籠の中に入っていた時計です。」


そう言いながらシスターはその日のことを思い出していたかのようだった。


「あれから10年の歳月が経ちました。本当ならば貴方が成人する時にでも渡そうかと思ったんですが10才の誕生節を迎えたこの時に『渡したほうが良いような気がして』貴方にお返しすることにしました。」


渡したほうが良いような気がしてという言葉が非常に気になる。


だが何故だろう、僕もこれを受け取ったほうが良いような気がしてならない。


胸騒ぎがする。


その時部屋の扉にノックされ、「俺です。ニクスはいますか?」


先生がどうやら迎えに来たようだった。


僕は箱の蓋を閉じ、とりあえず受け取るだけ受け取って先生と帰路につくことにした。


「ではまた2ヶ月後にお会いしましょうね。身体には気をつけて。」


教会の皆にそう言われながら送り出される。


先生との帰路の途中、2日間であったことを話しながら帰っていく。


不意に先生が、「そういや、あの箱なんなんだ?」と言われ実は僕も気になっていたあの箱のことを先生にも話す。


「金無垢の懐中時計ねえ。」


そう言いながら「俺にも見せてみろ!」なんて興味津々で先生が言うので仕方なく箱を開けてその懐中時計を先生見せる。


「ほぉー・・・?」


先生は無精髭を撫でながら見てる。


「結構良いものなんですかね?」


先生が興味深げに見ているので思わず聞いてしまう。


「金だったら相当な物だろうな。裏面も見せてみろ。こういう物はだいたい刻印が何処かにあるはずだ。」


「裏面ですか?」


そう言いながら僕はその懐中時計を手に取り持ち上げる。


その瞬間だった。


『・・・・けた・・・。』


「え?先生なにか言いました?」


そう言い先生を見ると、何故かブロードソードに手をかけ、見たこともない表情で冷や汗をかいている。


『見つけた・・・!』


はっきりと聞こえる声。


手に取った金色の懐中時計はずわっ!と色だけを吸われたように変色し、真っ黒な懐中時計へと変化する。


「ニクス!気をつけろ!何かが・・・来る・・・!!!」


先生の警告が発せられた瞬間だった。


一瞬にして空が真っ赤になっていた。


何よりも異常だったのは、『割れていた月が元に戻って一つの月に戻っていた』ことだった。

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