【第4話】ブラン
「やーい、このブラン!悔しかったら取り返してみろよー!!」
そういってニクスをからかうのは同教会で育つアレクとカッツェである。
あいつら、僕の宝物を!
「返してくれよ!それは僕の宝物なんだ!!」
今にも泣きそうな声でからかうアレクとカッツェを追いかける。
「やべえ、あいつかなり本気で怒ってるっぽいぞ!!逃げろ!!!」
ニクスが宝物と呼んでいた一冊の本を持ち、一目散に走って逃げる少年たち。
「待てえええ!」
僕をからかうだけならまだしも、あの本を持ち出すのは許すつもりはない。
追いかけるニクスの足は非常に早く、あっという間に本を持っていた少年に追いつく。
ガシッ
「うわあ!返す!あいててて・・・、こんな汚い本なんてすぐに返すから離してくれ!!」
そう言いながらニクスに捕まった少年の一人は息も絶え絶えに、答える。
「ああ、良かった・・・。ただでさえボロボロなのに破けたりしないで取り返せた・・・。」
すぐに捕まるくらいならこんなことしなければいいのに。ましてや僕よりも5才近く年上なのにね。
ニクスはとてつもなくボロボロになっている本を宝物と呼び、好んで何度も読み返す位の読書家なのにも関わらず、頭一つ大きい少年たちに追いつくことが可能な足と、抑え込むだけの力があり非常に身体能力が優れていた。
「くそーーー!ブランのくせに!!なんでこいつこんなに強いんだ!?」
ニクスに捕まっていたアレクは抑えられた時に付いた土埃をぱんぱんっと払いながら文句を言っている。
「実はブランなんて嘘っぱちで魔法を使えるんじゃないか?」
一緒にからかっていたカッツェも訝しがる。
『ブラン』
それは生まれながらに魔法適性がまったくない存在である。
この世界『アプロディア』において、人族、特にヒューマンに取っては魔法は使えて当たり前の技術であり、使えないほうが稀有中の稀有な存在で、『マナが全く使えない空っぽで真っ白』と言う侮蔑的・差別的な意味で『ブラン』と呼ばれる。
「今は使えないだけでいつか僕も魔法が使えるようになるんだ!だからこの本で勉強しているんだ!!」
ニクスは大きな声で少年たちに反論する。
「ニクスは馬鹿だなあ、魔法の素質はだいたい3才の頃に決まるんだぞ?」
アレクとカッツェがお互いに顔を見合わせながら呆れた表情で答え、更に小馬鹿にしたように畳み掛けるように言う。
「お前、今年で6才だろ?6才なんて魔法の素質どころか生活魔法だって皆当たり前のように使えて、お手伝いとかしてるじゃないか。」
ぐぬぬ。なかなか痛いところを付いてくるな。
「ぐぅー!絶対魔法を使えるようになっていつか冒険者になるんだ!それで宝を見つけてシスターたちに恩返しをするんだ!」
悔しそうにニクスが答える。
「あら、それは嬉しい話ですね。でも、当然魔法が使えないようでは冒険者になることは認められませんね。」
ニクス達の後ろから初老の女性の優しげな声が聞こえる。
「やべえ、シスターだ!逃げろ!!」
アレクとカッツェは一目散に逃げようとするもシスターの言葉に阻止される。
「あなた達、元気いっぱいに遊ぶのは良いことだけれど、それはやることを終えたからニクスと遊んでいるのですよね?まさか、終わっていないわけではないでしょう。」
アレクとカッツェはびくっ!っと体を強張らせ早々と自分たちに割り当てられているお手伝い現場に走っていく。
「ニクス、貴方も大切な本を取り上げられて悔しいのはわかりましたが、あの様に力で取り押さえるのはよくありませんね?」
ニクスもその言葉を聞き、体を強張らせる。
「シスター、でも・・・」
ニクスは反論しようとするが最期まで言わせる前にシスターがそれを遮る。
「色々悔しかったのはわかります。ですが暴力は何も解決しません。貴方なら言葉で取り返すことも出来たのではないですか?」
シスターが笑みを浮かべながら優しくニクスの頭を撫でる。
「貴方は6才でその難しい本を読むことができ、理解することが出来ているのです。それに他のお友達にお話をするのも得意でしょう。」
シスターがニクスが大事そうに抱えている本を見ながら問いかける。
「わかりました。」
と項垂れる。確かに人と話すことは好きだし得意だし、説得や仲裁するのも得意だ。
この「アプロディア」では決して教育制度が整っているとは言えない。
それどころか識字率も非常に低く、本を読むことが出来るのは本当に一部のしっかりとした教育を受けた者たちだけだった。
だが、ニクスは自分が魔法の適性がない『ブラン』だと言うこともあったが、それ以上に本というものに何故か執着し、孤児院でも唯一の教育者として保護した子どもたちに勉強を教えているシスターへ、人一倍質問を行い、自主的に小さな黒板と白墨を使用して勉強に励みなんと6才という年齢で大人でも苦戦するような本を読了しそれもある程度の理解を示していた。
「シスターが貸してくれたこの『魔法書・基礎理論』で勉強していつか魔法が使えるようになるんです!」
頭を撫でてくれているシスターの手を幸せそうに受け入れつつ、ニカッっと子供らしい無邪気な笑みを浮かべながらニクスが答える。
「あらあら、わかりました。賢いニクスならばいつか歴史に名を残すような魔法使いになるかもしれませんね?」
ふふっっと優しい笑みを浮かべながらシスターが答える。
「頑張ります!」
そう、今は使えないかもしれないけど絶対に魔法を使えるようになってやるんだ。
歯切れが良い返答をするニクス。
「ですが、貴方もあの子達のように、やるべきことは終わったんですよね?まさか賢い貴方まで途中であの子達と追いかけっこをしてたわけではないですよね?」
笑みの中にも凄味を効かせたシスターから発せられる。
「あうっ!行ってきます!!」
背中に冷や汗を感じながらニクスが答える。
「その本は私が預かっておきますから。気をつけていってらっしゃい。」
シスターはニクスより本を預かりながら答える。
「はーい!行ってきます!」
ニクスは答えながら走っていく。




