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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第一章~少年編~(全47話)

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【第39話】知らせは突然に

9才の誕生節をお祝いしてもらい、いつものように週末を過ごし、先生の家へ帰る準備をしていた時それは突然やってきた。


「あら、何やら表が騒がしいですね?」


シスターがふと外を見ると紋章付きの馬車が泊まっている。


「あ、あの紋章はまさか・・・。」


シスターは慌ててリリーを呼び、それ以外の子どもたちを部屋に戻り、許可が出るまで決して出てこないよう伝える。


僕と先生はその様子にふと気がつく。


「アカデミー関係ですね?」


僕はシスターにそう聞くがどうやらそれだけではないらしい。


先生もちらっと外を確認し、その馬車の紋章を見るなり「来たか。」となにか知っているような表情をする。


そうこうしている内に先触れとしてまずは使いの者がやってくる。


「失礼します。こちらはリリー様が在籍する教会で間違いないですね?私はグラン=ヴァリエルを治める現当主マクシミリアン・ド・ヴァリエスト公爵様の使いです。今から公爵様が直々に御出でになられますので関係者様のみこちらにいらしてください。」


そう言いながらその公爵の使いと自己紹介したものは部屋を見渡し、僕と先生を見つけ強制だと言わんばかりに言い放つ。


「貴方が『灰被り』ことアッシェ様とその弟子でありリリー様の弟君であらされるニクス様ですね。貴方がたへも公爵様はお会いしたいとのことでしたので、是非残ってください。」


そう言い残し、公爵の乗る馬車へと戻っていく。


「なんで僕達もなんですかね?」


「恐らくリリーのことに加えて、この間の盗賊関連のことだろう。それにマクシミリアン公爵が来てるってことは近衛騎士としてマーリンが来ているはずだ。」


先生はそう言いながらやはり何かを知っているような表情をしている。


しばらくの後「グラン=ヴァリエル現当主マクシミリアン・ド・ヴァリエスト公爵様、入室いたします。」


そう聞こえた為、関係者と呼ばれたリリー、シスター、そして僕と先生はその場にて跪き頭を下げる。


そうして先生の予想通りマクシミリアン公爵が入室してきて近衛騎士として少し後ろにマーリンさんが付いてきていた。


「私がグラン=ヴァリエル現当主マクシミリアン・ド・ヴァリエストである。此度は突然の来訪失礼する。楽にしてもらって良い。」


マクシミリアン公爵は自己紹介を簡潔に述べると話がしたいので楽にするようにとのことだった。


「リリー様ですね。初めまして。」


公爵と言う割に非常に気さくな人物であるようで、リリーにも高圧的な態度ではなく友好的な姿勢がその一言で感じ取れた。


「はい。私がリリーです。お初にお目にかかります。公爵様。」


リリーは以前シスターに最低限のマナーを教わっていたようで、自身が持てる最大の敬意を持って公爵に挨拶をしていた。


「先触れも出さず突然の来訪となってしまったこと、本当に申し訳なく思う。早速で申し訳ないのだが少し座らせてもらっても?」


公爵がそう言ってきたのでシスターが慌てて椅子を出す。


「貴方がリリーの育ての親であるこの教会のシスターですね。楽にしていただいて結構。」


その言葉を聞くもやはりシスターの顔色は良くない。それぐらい目上の存在になるというわけだ。


使いの者がその椅子に持ち運び用の豪華な布を掛け、簡易的な公爵にふさわしい椅子となる。


「私も年かな。非常に疲れやすくてね。」


そう言いながら用意した椅子に腰を掛ける公爵。


年とは言っているが正直先生より少し上、シスターよりも年下と言った印象だった。


「さて、私が今日こちらに来た理由だが、以前上級文官が話しを伝えたアカデミーについてのことである。」


やはりリリーのアカデミーのことであった。


「まずは、9才の誕生節おめでとう。リリー様。」


公爵という雲の上の存在に祝われたことをどう受け取ったら良いのかリリーは困惑している。


「ああ、いや言葉のまま受け取ってもらって構わない。貴方が無事に年を重ねられたことを素直に喜ぶ。」


「ありがたき御言葉です。公爵様。」


頭を下げ礼を言うリリー。


「ふむ、やはり来て正解だったか。」


リリーの行動を見てそう独り言をいう公爵。


「リリー様。大変お心苦しいお話をさせていただきます。当初は10才になったらアカデミーに入学をするというお話でしたが、アカデミー入学の前に我がヴァリエスト家に客人として夏の誕生節の頃から招きたい。」


公爵があまりにも突然なことを言い放ったことに全員が言葉に動揺が走る。


「当初よりリリー様はこの村で育ったということで、この村を統治しているグラン=ヴァリエルの貴族の家のどこかが後ろ盾として立ち、そしてアカデミーにそのまま送り出すつもりでした。」


僕もその点は以前より疑問があった。


孤児という村でも序列にすれば下な人間をいきなりアカデミーという貴族社会に入れるものなのかと。


そうした場合、後ろ盾がなければ恐らく孤児という立場から他の生徒に気に入らないという理由で潰されるのではないかと考えていた。


公爵は続ける。


「後ろ盾は非常に大切です。ご存知無いかもしれませんが貴族といってもその中でも序列は存在し、下級から上級まで含めればこの国だけでも相当な数になります。そこで私は考えました。今日リリー様に直接お目にかかり、状況次第では私が後ろ盾として立ち、当初は客人として迎い入れ、礼儀作法を学んでもらい、10才の誕生節までに問題がないと考えられた場合、正式に養女として迎え入れると。」


公爵家が後ろ盾に立つというのはとてつもないことだ。


ましてや養女になどとは一切考えも及ばないことであった。


なにしろ『公爵家』は貴族の序列で言えば王家に次ぐ第2位に位置している。


後ろ盾で言えばまさに最強と言えるだろう。


「私が・・・、公爵家の養女・・・、ですか・・・?」


あまりのことに言葉が続かないリリー。


無理もないことだと思う。


今まで孤児として教会で育っていたものが、いきなり貴族のそれも最上位に位置する姫になるかもしれないという可能性が出てきたのだ。


「ええ。ですが、貴方は見た目は大変美しいが、公爵家が後ろ盾になるには教養が足らない。そこで本当ならば、春の誕生節を迎えた今日にでも連れて帰りたいとは思ったのですが、流石に心の準備や家族との別れも必要でしょう。一つの季節分を猶予の時間として与えますので夏の誕生節の頃に正式にこちらに迎え入れたいと存じます。その代わり、時間がありませんので当家にいらしてからはとてつもなくハードになるということだけはお忘れなきよう。」


あまりの事態に誰も言葉が出ないでいると公爵の後ろより「失礼致します。」と声がかかる。


マーリンさんであった。


「閣下、少し私から彼女に話をしても?」


マーリンがそう公爵に聞くと、二つ返事で「お願いする。」と返答がある。


「お目汚し失礼致します。」


そう言いながらマーリンさんは騎士の表情から以前会った時のような柔らかい表情になる。


「久しぶりだね、リリーちゃん、ニクス君。」


ただの挨拶のはずなのに救われるような気がした。


「お久しぶりです。マーリンさん。」


リリーがそう答える。


「本当に急で済まない。実はリリーちゃんの後ろ盾になってほしいと頼んだのは他でもない僕なんだ。」


マーリンからの言葉に僕とリリーは勿論、今まで黙って聞いていた先生までも声を出す。


「やっぱりお前からだったか。」


「流石相棒、バレてたか。」


「元だ。」


そんなやり取りを見ながら僕がマーリンさんに聞いた。


「もしかして、あの食事の時ですか?」


「流石ニクス君。正解だ。」


リリーがどういう事?と聞いてきたのでマーリンから説明があった。


「実はね、リリーちゃんの噂は、君が8才の誕生節を迎えてから貴族界隈では持ち切りだったんだよ。誰がその後見人となるべきかとね。」


それを聞いて僕もなるほどと思った。


「将来の光の回復魔法使いの後見人として後ろ盾になれば貴族としての格が上がる、と言ったことでしょうか?」


「本当に鋭いな、ニクス君は!その通りだよ!!」


僕の答えに心底驚いているマーリンだった。


「僕も元庶民だったが、貴族社会の考えは正直庶民の考えとは乖離しすぎててね。そこで、アッシェと共にリリーちゃんらしき人物がグラン=ヴァリエルに入ったと聞き、あの食事の時に見定めてもらったのさ。」


その言葉を聞いた先生が話を遮る。


「やはりそういうことだったか。あの時リリーに外套を被せ目立たないようにしてて正解だったな。」


なんと先生はリリーと貴族の揉め事を避けるために外套を被せ、目立たないようにしていたとのことだった。


「それにきっとお前なら来るだろうとも思ってたしな。」


なんと先生はマーリンさんが以上のことを踏まえて接触を図りに来るのではないかと考えていたそうだ。


「そうか、あの時先生がシスターに無理を言ってでもリリーをグラン=ヴァリエルに連れて行ったのは・・・。」


僕はそこまで言われて当時のやり取りを思い出しハッとする。


「ああ、状況を考えて恐らくリリーの後見人で大分荒れると分かっていた。下手をすると血が流れるかもしれないともな。それだったら、庶民だった俺の元相棒を今では近衛騎士として召し上げ、更にグラン=ヴァリエルの騎士団長にまで担ぎ上げた地位のある理解者に委ねるのが最も安心できると思ったからだ。」


先生は少ない情報から一体何手先まで読み通しているのか、我が師ながら恐れを感じた。


「あれ?でも先生が銀級の首飾りを番兵に見せたのは偶然では?」


僕がグラン=ヴァリエルに入る際、レビンがバレるのではと慌てた結果怪しまれ、それを回避するために先生が首飾りを見せそれが結果的にマーリンさんへと繋がったと思っていた。


「あはは、それはまだまだだな、ニクス君。僕の情報網を舐めてもらっちゃ困るよ。」


勝ったなとマーリンさんは笑っていた。


先生は続ける。


「リリー、これは俺が考えた最善の一手だ。それにマーリンが乗り、更に公爵閣下が直々に機会をくれた。無理強いはしないがこれを逃せば最悪地獄を見る可能性もある。だが、公爵閣下ならその点は安心できる。」


リリーは恐る恐る聞く。


「地獄を見る、とは・・・。」


先生は少しの沈黙の後答える。


「リリーの地位や名誉だけを利用し、最悪人形のように操られ、塩梅が良くなればその手柄は貴族のものとし、失敗すればその責任はリリーにあるとされボロ雑巾のように捨てられかねない。」


その言葉を聞き僕もリリーは背筋がゾッとした。


それを聞いたマーリンも付け加える。


「公爵閣下は完全実力主義を掲げる人で、力や能力があれば平民だろうと、孤児だろうと、貴族だろうと等しく採用し、正当な評価に見合うものを用意してくれる。それは僕の身を持って証明できる。」


僕はそれを聞き、ふと疑問に思った。


「悪意も他意もないですので良かったらでいいので聞かせてください。マーリンさんは中途覚醒者だから採用されたのかと思っていました。」


それを聞いたマーリンは勿論、公爵も笑い出す。


「わはは!面白い小僧だ。マーリンが騎士隊長になるまではブランだったが実力があった。なので身分は関係ないのだ。」


「閣下の言う通り、僕はブランとして入隊し騎士隊長にまで腕一本の実力で上り詰めた。そんなある日の任務中、突然中途覚醒してね。たまたま同行していた王宮魔法使いにマナコントロールをしてもらってね。そこからは魔法を行使しながら経験を積み直し、今に至るって感じかな。」


マーリンはいたずらっぽく僕に笑みを向ける。


「そうとは知らず、変なことを聞いすみませんでした。」


僕はマーリンさんに陳謝する。


公爵が「さて」と言いながら今度は公爵は僕と先生に話を振る。


「そなたがあの名を馳せた銀級冒険者『灰被り』のアッシェとその弟子のニクス君だね?」


僕と先生は跪き頭を垂れる。


「先程も言ったように気を楽にしてくれ。今日は礼を伝えに来たのだ。先の盗賊討伐の件聞いておる。被害は出てしまったがこの村を守ってくれたこと、誠に感謝している。」


そう言いながら公爵は礼を述べた。


まさかこの地位にある人が庶民に礼を述べるとは思ってもいなかったので正直驚いた。


「いえ、私は出来ることを最大限行ったまでです。公爵閣下。」


先生は静かに言う。


「何か礼の品でも持ってくればよかったのだが、特に思い浮かばなくてな。マーリンに聞いてもあいつはそんなものは受け取らないというのでね。何か欲しいものはあるか一応直接聞いておこうと思ってな。」


公爵がそう言うと先生は少し考える。


「ではその件はリリーの一件に乗ってくれたということで相殺しましょう。感謝致します。」


それを聞いた公爵はどこか不服そうでもある。


「確かにその件は私も話を乗ったが、こちらにも非常に利が大きな話であった。むしろ感謝さえしておるくらいだ。」


それならばと先生はもう一つ付け加えた。


「こいつ・・・、私の弟子であるニクスが何かに巻き込まれた場合、助けてやってもらってもいいですか?」


その言葉に僕は思わず「先生!?」と声を出す。


「了承した。確かにその願い聞き受けた。」


間髪入れずに公爵がそう答えたことでこの一件は終いとなる。


「話は以上だ。もし心が決まったにしろ決まらなかったにしろ近い内に手紙を貰えると助かる。内容次第では準備の後迎えに来る。」


公爵がそう言うとリリーが答える。


「私・・・、決めました。公爵様、どうか私の後見人として知識を、教育を教えて下さい。決して公爵様が侮られないようしっかりと見に付け、そして堂々とアカデミーに通いたく思います。」


そうしてリリーは跪き頭を垂れ、公爵に願いを出す。


シスターは何も言わず涙を流していた。


「分かった。リリー様の決意をしかと受け止め、このマクシミリアン・ド・ヴァリエストが後見人となることをここに誓う。迎えに来るのは夏の誕生節の日。それでよろしいですかな?」


その公爵からの物言わせぬ宣言にリリーは答える。


「ありがたき御言葉。必ずやご期待にお答えできるよう努力します。」


「よろしい!では失礼する。」


そう言い、公爵一行は馬車に乗り込み帰路についた。


俺を見送った瞬間リリーは僕とシスターに泣きながら抱きつく。


僕とシスターは言葉が何も出ず、ただリリーを抱きしめることしか出来なかった。

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