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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第一章~少年編~(全47話)

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【第38話】9才の誕生節

ハンドブレイカーを受け取ってからそう日が経たない内に、春の誕生節を迎える。


つまり僕は数え年で9才ではなく、正式に9才を迎えることとなる。


先生からの計らいで、今年の誕生節は訓練期間の最中であったが、一時的に教会への帰宅が認められる。


「こんな時くらいは実家に帰って子どもらしく過ごすもんだ。」


先生からのありがたい言葉を貰ったので、今年の誕生節も皆と過ごす事ができそうだ。


ただし、食事の作り置きはしておくようにと厳に言われたのでそれは勿論力作を用意しておきますよ!


「今年も何かリリーの嬢ちゃんに渡すのか?」


そう聞かれたので実は密かに用意していた鉄で作った指輪を細い皮のロープで首から下げられるようにしたお手製の首飾りを作っていた。


本当は指輪にしたかったのだが、サイズがわからなかったので首飾りにした。


指輪には「リリーへ、心を込めて」と掘ってある。


それを見て先生は非常に驚いていた。


「な!?お前いつの間にこんなものを!?しかも自分で作っただと?どうやって!?」


驚きよりも混乱と言ったところだろうか。


実はコレを作るにあたっては、鍛冶師のハーガンさんの協力があったので作ることが出来た。


ハーガンさんに一度、ハンドブレイカーのお礼を込めた夕食を一度招いた後、「アッシェ!てめえ!毎日こんなうまいもの食ってやがったのか!?」と先生とハーガンさんが喧嘩になりかけたことがあった。


その後、ほぼ週1回以上はここで夕飯を食べるようになったのだが、その度に先生と喧嘩になりかけたので、僕が折衷案として昼食を数日に一度の頻度で届けるということが決まった。


僕としては食材は余り物で作っているし、ハンドブレイカーのお礼の気持でもあったので必要はなかったのだが、どうしてもとハーガンさんが譲らなかったので、ならばと今回リリーに送る指輪の制作について相談をし、時間を見つけては鍛冶場でコツコツと一緒に作っていたのだった。


「なんてやつだ、ませガキめ。」


「へ?」


先生の言っている意味がよくわからなかったので変な声が出てしまう。


春の誕生節になり、教会へと帰宅する。


いつものように大きな声で出迎えてくれる皆達に自然と笑顔が溢れる。


レビンはというと教会の子どもたちに久しぶりに合うせいか、もみくちゃにされていた。


ちなみにハンドブレイカーはやはり誕生節には不似合いだということで一時的に先生が預かり、腰に短剣だけを差していた。


「おかえりなさい。お誕生節おめでとう、ニクス。」


いつものように温かい笑顔で迎えてくれるシスターやリリー。


「ただいま。お誕生節おめでとう、リリー!」


僕もそう返し、早速手作りの指輪の首飾りを渡すとリリーは感激していた。


「こんな高価なものを?」


そうシスターが聞いてきたので、「手作りですよ?」というと驚愕していた。


「本当に貴方は何でも出来るのですね・・・。」


「僕は出来ることしか出来ないです。」


笑顔で返すと僕とシスターのやりとりの後ろでリリーが指輪の首飾りを持って嬉しそうにくるくる回っていた。


喜んでもらえたようで何よりだった。


リリーからも御返しと言わんばかりにプレゼントを渡された。


なんと今年はリリーが木細工で作ったという首飾りだった。


またしても同じ様なプレゼントになりお互い笑い合う。


「やはり姉弟なんですね。」


そう言いながらシスターは笑っていた。


夕食時、シスターからの話としてリリーが来年、教会を出てアカデミーに通うということが紹介された。


どうやらいきなり去るのではなく、一年という猶予期間を教会全体で共有し、その時になったら心置きなく送り出そうという配慮からだった。


僕もこれには賛成だ。


何よりもリリーが一番安心できると思ったからだ。


いつも通りの日常


いつもしている仕事や手伝い


いつも同じ空間を共有している家族


それらが丁度1年後には全てが変わるのだと実感が湧く。


1年後、僕は同じ様に今までの生活が続くが、リリーと共に歩む生活は無くなる。


死別ではないので会おうと思えば会えるだろうが、今までのようには行かない。


それこそ、月日がさらに流れ回復魔法使いとしてリリーが能力を開花させれば王室の人間に会う位、いやもっと難しいかもしれない位の雲の上の存在になってしまうかもしれない。


漠然としていた風景が目の前に迫ってきていることをこの時再認識し、残りの1年をリリーと共に大切に過ごそうと思った日になった。

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