【第36話】鍛冶屋での設計
週末の日となり、いよいよ指折り数えながら待っていた当日が訪れる。
「先生!今日は何時頃出発ですか!?朝一でですか!?」
早く早くと口から出そうになるがあえて言わずに、だが確実に急かすように先生に確認を取る。
「あ?今日なんかあったっけ?」
先生が思わずそう口を開いたときには無意識に拳が飛んでいたが、いつもの如くいなされる。
「阿呆が、嘘に決まってるだろ。もう少し怒りをコントロールしろ。」
どうやら僕を試したらしい。まんまと乗ってしまったのでまだまだ修行不足なようだ。
「朝食を食べたら出発する。今日は恐らくかなり時間がかかるからな。」
そう聞いたので急いで朝昼晩の食事を用意し、朝食後は正座をして待っていた。
「なにしてんだ?」
「感情のコントロールです。」
先程のことから学び実践してみたが、「なんだそれ?」と笑われてしまった。くそう!
鍛冶屋には行ったことがなかったので本当に楽しみだったと行きすがらの道で先生に話をする。
「特に今日は重要な日だからな。お前の相棒を決める日だ。」
「相棒ですか?」
頭に?を浮かべていると、まあそのうち分かると返答がある。
鍛冶屋近くまで来ると熱気が伝わって来る上に大きな金属音が定期的に聞こえてくる。
「ここが鍛冶屋なんですねえ・・・。」
そう呆気にとられていると先生はそそくさと中に入ってしまう。
「おう、いるか?」
先生が気楽な挨拶をしていると如何にも職人って感じのオーラがすごい人が汗塗れになりながら何かを打っている。
「来たか。待ってたぞ。で?そいつが例のガキか?」
恐らく僕のことだと思ったので挨拶をする。
「はじめまして。ニクスと言います。あの、2年前包丁を打ってくださったのは貴方でしょうか?」
「2年前の包丁ー?ああ、あれか。」
そう言いながら手を止めポンと手を打ち思い出したかのようだった。
「ああ、あれを打ったのは確かに俺だ。いやあ、あの時は驚いた。普段料理なんぞにまったく興味がない男がいきなり包丁はあるかと言ってきたからな。」
そういい、ガハハと豪快に笑う職人。
「自己紹介が遅れたな。俺はこの鍛冶場の頭領でハーガンという。こう見えてハーフドワーフだ。」
確かに言われてみれば身長はヒューマンに近かったが他の特徴がドワーフに似ている。
初めてハーフ種族に出会った。
ぺこりと頭を下げると、「本当にアッシェの弟子なのか?」とここでも訝しがられる。
「ハーガンは頭領とは言うが実際はこの鍛冶場は一人で運営している。今日の件も伝えてあるからな。」
「余計なお世話だ。で、ニクスと言ったか。早速だが得意な獲物はあるのか?」
ハーガンさんにそう言われ「獲物?ですか?」と場違いな言葉に?が浮かぶ。
「得意な武器ってことだ。」
先生からそう言われ納得する。
「得意な武器ですかあ・・・。今までは包丁か素手位でしたね。後一応先生から譲り受けた短剣は持っています。」
そう言いながら腰に差していたお守りの短剣を見せる。
それを見たハーガンが驚いていた。
「お前、これはまさか?」
「ああ、そのまさかだ。今はこいつのお守りだ。」
そんなやり取りを見て思わず聞いてしまう。
「この短剣そんなに凄いんですか?」
「聞いてないのか!?コイツは魔法金属のミスリル製だ。そんじょそこらじゃ手に入らねえよ。」
ミスリルは希少な金属であり目玉が飛び出るような価値があると以前本で読んだことがあった。
「こ、これがミスリルだったんですか!?」
「ん?言ってなかったか?」
平然と答える先生に「聞いてないです!」と突っ込んだ。
「そうか、まあそういつはもうお前のものだ。返品は受け付けねえからな。」
手にあるお守り程度に思っていた短剣が想像を遥かに超えてくる代物でより一層大事にしようと心に決めた。
「じゃあ、ニクスの獲物は短剣か?」
ハーガンがそう聞いてきたが、それに対し先生が「いや」と否定する。
「こいつは両利きなんだ。今も訓練でそれを伸ばしている最中だ。」
「両利きか、なるほどな。」
ハーガンが物珍しくもないと言った感じで答えるが、先生が「生まれつきのな」と言ったことで目の色が変わった。
「そいつはすごい。生まれつきの両利きは一種の才能だ。じゃあ、二刀流にでもするのか?」
かなり興奮した様子で聞いてくる。
「高価な剣を二本も持てないです!」
そう、心の声が思わず口から出る。
それを聞いたハーガンは豪快に笑う。
「ガハハ!値段のことは気にするな。まあでも武器類の初心者が持つなら鋼が妥当か?」
そう言いながら、一人で考え始めてしまった。
それに先生も加わり、そうだなと考え始めてしまう。
完全に取り残された僕はしばらく会話に入れそうになかったので店の中を見させてもらう。
まさに圧巻だった。
個人経営であり村の鍛冶屋ということもあってあまり種類は無いように見えたがそれでも飾られている武器類からは言い表せられない圧を感じる。
ただやはり、9才の自分からすればどれも大きく感じる。
特に普段基礎格闘術の訓練ではショートソードの木剣を使っているのでそれに慣れてしまっている。
ならばいっそショートソードと先生から持った短剣の二刀流などは?とも思った。
先生とハーガンさんは延々とあーでもない、こーでもないと言っておりやはり会話に入れそうもない。
「ん?」
色々と見て回っていると一つの面白いものに目が留まる。
「あのー、これって触っても良いんですか?」と一応ハーガンさんに確認する。
「お前、随分珍しいものを見つけたな。俺もそんなの置いてあったの忘れてたところだ。」
そう言いながら手渡してくれたのは歯がついてない鈍器のようなものだったが持ち手の部分から大小二本に分岐している見たことがない形をしていた。
「それはな、以前東の島国から来たっていう奴が路銀が付きたので買ってほしいと言われ、物珍しさから引き取ったもので名前を『十手』と言うらしい。」
確かに今まで見たどの武器とも違う不思議な武器だったが手に持ってみると意外と馴染んだ。
大きさも重さもショートソードに酷似している。
それにこの形状ならば相手と鍔迫り合いのような形になった時、絡め手として武器を破壊したり、封じたり出来るかもしれない。
そこに僕は可能を見出していた。
「先生!僕はこれが気に入りました!」
「阿呆か、刃がついてない武器でどうやって敵を仕留める?鈍器としても非常に心細い。護身用の武器なんじゃないかそれ?」
先生からの冷静な指摘に敵を仕留める、つまりは命を奪える形が必要なんだと認識を改めさせられる。
確かにあの時、盗賊を素手で封じ込められたのは運が良かっただけだ。
後になって聞いた話だが、盗賊の殆どは捕縛時の対応では相手を封じることが出来ず、結果殆どをその場で『殺して』動きを封じる必要が生じていたとのことだった。
それを思い出し、確かにこれではだめだと考え直す。
そこにたまたま目に入ってきたのは片刃のショートソードに似た剣であった。
僕は十手をその片刃のショートソードに重ねるようにし目を凝らす。
これだ!
「すみません、ちょっと絵を書きたいので白墨と黒板はありませんか?」
その声を聞いた先生とハーガンさんは声を揃えて文句を言う。
「遊びじゃねえんだぞ!」
「真面目にしろ!」
だがこちらは大真面目だ。
「遊びかどうかは僕の絵を見てから言ってください!」
そう強く言うと、ハーガンは仕方ないといい奥から注文を書き取る際に使用しているだろう白墨と小さな黒板を持ってきてくれる。
僕はそれに今思いついた自分で考えた片手剣を描いてみる。
「ここをこうしてっと・・・。出来ました!」
そう言いながら書き上げた絵を二人に見せる。
「これが僕が考えた十手の特徴と片刃のショートソードを合体させた剣、【ハンドブレイカー】です!」
その絵を見て二人は少し驚いたようだ。
「お前、絵は下手なんだな・・・。」
「えええーー!自信作だったのに!!」
教会内では絵は上手い方と言われてただけにショックだった。
「だが、ニクスの想像していることは理解した。なるほど、鍔に十手の特徴を入れつつ、刃はショートソード程度でかつ片刃にしたか。」
「武器を絡みとる術がありつつ、敵を殺し切るだけの術もある。悪くはないんじゃないか?」
再び先生とハーガンさんはこの絵をもとにあーでもない、こーでもないと始まったがそれはすぐに終わる。
「よし、これで試作品を作ってみよう。」
ハーガンさんの一言で僕の相棒になるかもしれない、試作品が作られることになる。




