【第31話】守れたもの、守りたいもの
あの後シスターからも説教があるかと思ったが、久しぶりに教会からの死者が発生し、しかも心身に重篤な傷を負ったものまで発生してしまったのでそれどころではないようだ。
先生は事後処理があるとのことでしばらく僕はまた教会でしばらくの時間を過ごすことになる。
あの時、どうすればよかったのか。
自分には関係ないことだと無視をしていればよかったのか。
子どもだからと震えていればよかったのだろうか。
シスターの声に従い留まっていればよかったのだろうか。
いくつもの可能性を浮かべては答えが出ること無く消えていく。
数日後、村を上げての合同葬儀が行われた。
最終的に別の箇所でも村人が襲われていたことがわかり、合計で大人子ども合わせて十二名の死者が発生していた。
負傷者は大人子供合わせ八名と死者より少なかったのは、盗賊に出会ったもの達は問答無用で殺されており、奇跡的に生命が残ったと言うだけの結果であった。
この世界の命は軽い。
死者を弔う炎に合わせ聞こえてくる涙をすする音、悲しみにくれ絶望を上げる声。
自分は無力だ。
先生と訓練をし、多少力が付いたかもしれないがそれは侮りとしか言えないものであった。
最後、僕が見たなかで唯一生きていた人の家族から、「応急処置をしてくれたこと、敵を捕縛してくれた事に感謝する。」と頭を下げられた。
だが、結果的に命を落としている。
僕は何も言えずにいた。
レミーも身体よりも心へのダメージがあまりに大きかった。
唯一教会から出た死者のワッツとはお互いに惹かれ合う中であり、レミーが襲われたと聞いて、一目散に駆けつけたが眼の前で斬り殺されたとのこと。
今は自害しないようにと個室ではあるが一人にならないよう、交代で見張ってはいる。
僕は何が守れて何が守れなかったんだろう。
炎を見つめながら考える。
教会へと戻り先生を待つ。
隣には無言でリリーが座ってくれている。
何かを話しかけられるわけでもなく、ただ座ってくれている。
それだけで何かが救われる気がしていた。
そして二日後、先生は結果を持って返ってくる。
「どうやら、あの盗賊団は最近出回り始めた欲が抑えられなくなるという一種の麻薬を大量に摂取していたようで、頭のタガが外れ、昼間でもリスクを考えることも無く村々を襲っていたらしい。」
先生からの説明もどこか虚ろに聞いていた。
「・・・そうだったんですね。」
やっと絞り出せた声に先生はため息を吐き僕にじっと視線を合わせる。
「お前は何をした?」
「僕は友人や知っている村人たちが危ないと知り、駆けていきました。」
「結果どうなった?」
「盗賊達三人は撃退することが出来ました。教会の友人も命を救えました。」
「大人も一人救っただろう。」
「ですが、結果的に死んでしまいました。」
「それは結果論だ。確かにお前は救ったんだ。」
そう言われぐっと拳を膝の上で握りしめ涙があふれる。
「僕は・・・、弱いです。」
「ああ、知ってる。だから俺が訓練している。」
「もう少し早ければあの人も死なずに済んだのではないでしょうか。」
「そうかもしれない。だが結果的に死んだ。それが事実だ。」
「僕は・・・。」
そういった所でリリーが抱きしめてくれる。
「甘ったれるな。お前が全てを解決できたのではないかというのは思い上がりだ。今回の行動も勇気ではなくただの無茶な蛮行だ。」
先生がそう言うとリリーが「アッシェさん!」と言ってくれたが僕は「事実だから良いんだ。」と答えた。
「お前の手はそんなにも小さい。その小さな手で全てを守ろうとするな。それは不可能だ。」
「・・・。」
僕は答えられず沈黙する。
「考え方を変えろ。お前が守れたものはなんだ?お前が守りたいものはなんだ?」
「僕は・・・。友人を・・・、家族を守りたい。」
そう言いながらぐっとその言葉を噛みしめるように拳を強く握る。
「ならば努力し続けろ。あがき続けろ。力をつけろ。知識をつけろ。経験を磨け。それがお前を照らす道標になる。」
顔を上げ先生の目を見つめる。
その目にはもう、迷いの曇もなかった。
「はい!」
それを確認した先生は「荷物をまとめろ。帰るぞ。」と声を掛ける。
「シスター、申し訳ありませんが、そうですね、二ヶ月は丸々コイツを預かります。ああ、物資は週に一回はどのみち、村とやり取りがあるのでこちらにも届けます。」
その言葉を聞いたシスターは「二ヶ月ですね。」と反対する様子はないようだ。
「ニヶ月も会えないなんて、私は嫌だ!」
リリーが先生に向かいそう声を上げるがそれをシスターが制する。
「リリー、私も同じ意見ですがこれは必要な時間なのです。ニクスにとっても、私にとっても、そして貴方にとっても。」
そう言い、リリーの頭を撫でている。
そしてシスターは僕に向き直りこう告げる。
「ニクス、この二ヶ月で自分の道を見定めなさい。もしもニヶ月経っても道が揺らぐようならば、もうアッシェさんに預けることはさせませんし、二度と冒険者にさせるということもありません。」
その言葉に僕は答える。
「わかりました。僕は僕自身のために努力してきます。」
そう言い頭を下げ、荷物をまとめ先生の家へと帰路につく。




