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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第一章~少年編~(全47話)

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【第30話】命の重さ

日が昇り朝を何事もなく無事に迎える。


「ふぁ・・・、あーぁ・・・。」


そこにリリーが塔に登って顔を出す。


「おはよう、ニクス。レビン。」


「おはよう。リリー。」


そう言いながら塔を降りていくとシスターに感謝を述べられる。


「特に問題なく安心して夜を過ごすことが出来ました。ありがとう、ニクス。日頃の訓練の成果ですね。」


素直にそう言われ、嬉しかった。


「今日はお迎えの日ですね。朝食は今日は手伝わなくても大丈夫ですから、朝食が出来るまで、少しお休みしてても大丈夫ですよ。」


その言葉に甘えることとした。


それにしても、本当に短時間睡眠は便利だった。


先生が最初に説明してくれた通り、何時でもどこでも寝ることが出来るようになっており、しかも一瞬で熟睡出来るのでたとえ短い時間でも十二分に身体を休めることが出来た。


朝食となり、今日も朝からシスターより昨日の注意点が再び挙げられる。


帰り支度をぱぱっと済ませ腰に先生から貰った短剣を差して先生を待っていると、突如としてその穏やかだった日常は崩される。


「シ、シスター!!!大変だ!!」


そう言いながらこの教会で一緒に育てられている少年一人が顔から鼻血を流し土まみれになりながら部屋に突入してくる。


「どうしたのですか、ゲンツ!?」


シスターはゲンツのその姿に嫌な予感が走ったのだろう、すぐにゲンツに駆け寄り鼻血を拭いてあげながら話を聞く。


「盗賊達が現れてレミーが捕まった!周りにいた大人たちは斬られた!」


「なんですって!?」


シスターの嫌な予感は的中したようだ。


どうやら話によるとゲンツは、朝の注意通り大人を含む五人で行動をしていたが、急に盗賊たちが現れ、まずは大人たちが斬り伏せられた。


その後レミーが捕まったとのこと。


ゲンツはと言うと、なんとか逃げおおせたようで鼻血は逃げる際に転びその出血であったとのこと。


レミーは今年で10才になる女の子だ。


恐らく丁度いい『商品』になると考えて捕らえたのだと思われる。


人身売買や奴隷制度もまたこの世界ではありふれた日常だったからだ。


今日に限って先生の到着が遅い。


もしかしたら盗賊を警戒し、根城になりそうな場所を潰しながら向かっているのかもしれない。


通常ならばそれが元冒険者としての確実な行動であったのだろうがそれが今回に限り逆手に出たという形になる。


こんな日が高いうちから堂々と村に現れ襲撃をするなど色んな意味で自殺行為に等しいからだ。


分かってはいる。


分かってはいるが、行動せずにはいられなかった。


「ゲンツくん!その場所はどこ!?」


思わずそう聞く僕にシスターが「ニクス!いけません!!」と声を張り上げ絶叫する。


ゲンツは僕の心から湧き出る思いを感じたのか思わず「第一倉庫付近だ・・・。」と答えてしまう。


僕はと言うとその一言だけを聞き、「レビン!」と声を上げる。


レビンは分かっていたようで僕の背中に飛び乗ると僕は全速力で教会を飛び出す。


後方ではシスターの僕を呼び止める絶叫が聞こえていた。


教会から第一倉庫へは全速力でものの数分で到着できるほどの位置にある位に近く、倉庫の容量はかなり大きな物であった。


倉庫に近づくとあの『匂い』と血の匂いが強く漂ってくる。


バッと横の草むらに入り少し遠目から状況の把握を行う。


盗賊の数は目視で確認できる限りは三人。


地面に斬り伏せられ、血を流している人は大人四人と子どもが一人の計五人がいた。


それもその子どもは家の教会の子どもでレミーと同い年でレミーと非常に仲が良かった男の子、ワッツであった。


ワッツは既に息絶えているように見える。


盗賊三人のうち一人は、レミーを服を破き覆いかぶさっているように見え、二人は見張り役のように見える。


ワッツが殺され、レミーが暴行されようとしているその光景に激怒と呼べる感情が湧くとともに至極冷静に視界がひらけたようになる。


僕は先生から貰った短剣に手をかけその瞬間を待つ。


一瞬だった。


レミーが一際大きな悲鳴を上げたことで、二人の見張り役の視線が完全に外れる。


右手に短剣を抜き、一気に距離を詰める。


見張りの一人が気が付いたときには、もう僕はその盗賊の間合いに入り込んでいた。


「なっ!?」


そう盗賊が発したところで僕に咄嗟に掴みかかろうと伸ばした手をするりと抜け思い切り顎めがけ短剣を握った手で殴りつける。


顎は人体における重要な急所であるため、その一撃を受けた盗賊は白目を剥いて倒れ込む。


見張りのもう一人が僕に気が付き、「このガキ!」と言いながらその手に握っていた剣を振りかぶっているのが見えた。


以前なら簡単に斬り伏せられていたと思われるが先生との訓練で体幹やバランスが鍛えられ反射神経も上がり目も格段に良くなっている。


先生の一撃よりも遥かに遅い。


それに自分からあの『匂い』がしていないのを十分に理解していたので、腰に下げていた革袋から黒砂を握り、盗賊が放ってきた剣を避けながら目に向かって思い切りぶつける。


もろにその黒砂の目潰しを受けた盗賊は剣を振ってバランスを崩していたこともあり思い切り転倒した所に合わせるようにみぞおちを狙い思い切り蹴り上げる。


こうして二人を一瞬の内に無力化したことでレミーに暴行しようとしていた盗賊のも慌てて体制を取り直そうとするが既に遅い。


蹴り上げた足を戻した瞬間、軸足にし一気に踏み込み間合いを詰める。


その光景にさらに慌てた盗賊が近くに転がしていた自分の剣を横に薙ぐが、当然それも体制が悪い中で放たれた一撃だったため持っていた短剣で弾き上げ、隙だらけになったこめかみを左手で力の限り殴りつける。


殴りつけられた盗賊はそのまま吹き飛んでいく。


「ふぅー・・・。」


一息の内に一連の行動を起こしたため、一気に呼吸を吐く。


油断すること無く、状況を確認すると三人の盗賊たちは間違いなく行動不能に陥っている。


レミーは暴行を受けたためだろうか服が大きく破かれ身体から血と涙を流し、身体を大きく震えさせている。


ワッツ及び三人の大人は既に絶命しているのが確認できる。


一人は重傷ながら息があるように思えたのでレミーに上着を渡し、その息がある大人に近づき状況を確認した後止血作業に入る。


その瞬間突如あの『匂い』が強烈になる事に気が付き、顔を上げるとそこには若干離れた所の一人の人物に黄土色のマナが収束しているのが見える。


岩の槍(ガイストゥング)


呪文がそう聞こえ「まずい!」そう思ったときには身体が勝手に反応し短剣を構えながらレミーと重症の大人の前に立ちふさがっていた。


どんどんせまる【岩の槍(ガイストゥング)】に濃くなる『匂い』、もうだめかと思わた瞬間聞こえる声。


灰燼の槍(アシュケロス)


そのよく見慣れた『灰』の魔法は【岩の槍(ガイストゥング)】を蒸発させていた。


「説教は後だ、阿呆。」


先生の声が近くで聞こえたと思った瞬間にはもう既に離れた位置で盗賊たちに悲鳴が上がり、あるものは戦闘不能に、あるものは絶命の断末魔を上げていた。


先生が残党を全て処理したのかこちらに近づいてくるのが見える。


「この二人はまだ生きています。特にこちらの人はかなりの深手です。すぐに治療しなければ持ちません。」


先生に説明すると先生は「・・・わかった。」と少しの沈黙の後、その辛うじて生き残った人に対し応急処置を施しているように見えた。


僕はその姿を確認し、レミーを教会まで運ぶ。


レミーを運んできた僕を発見しシスターが近寄る。


「レミーをお願いします。」


端的にシスターに依頼すると「わかりました。ですが貴方は後で、分かっていますね?」


シスターから悲しい顔でそう言われ、「はい。」とだけ答えた。


庭に出るとふと顔に何かが当たるものを感じ空を見上げると雨が降り出していた。


それは次第に大きな雨粒となり僕の身体を激しく濡らしていく。


「ニクス!!」


リリーが僕のことを発見しシスターと同じように声を張り上げ近づいてきたが、僕は「来ないで!」と大声で静止する。


「お願いだリリー、今は一人にしておいてくれ。」


「ニクス・・・。」


雨は容赦なく振り付け、僕の身体に付いた血を涙と共に洗い流す。


しばらくすると先生が全てを終わらせたようでこちらに来た。


「先生・・・。」


そういうと問答無用で拳が飛んできて僕の頬を殴りつける。


それは僕の身体が後ろに飛ぶほどのかなり強い力だった。


「バカ野郎が。」


そう言い先生は手を伸ばすので僕は「はい。」と言いながら先生の手を掴み、教会の中へと入っていく。


教会に入るとシスターは大きめの手拭いを僕と先生に無言で渡し、リリーは温かいお茶を用意してくれていた。


沈黙がこの場を支配する。


「先生、あの人は助かりそうですか?」


「いや、致命傷だった。苦しまないように俺がとどめを刺した。」


「そうですか・・・。薄々、そうではないかと思っていました。」


そう言うと涙が止まらなくなる。


そんな僕を後ろからリリーが抱きしめてくれ、同じ様に泣いていた。


シスターも後ろで僕達を見ながら泣いているように感じた。


「先生、この世界の命はなんでこんなにも軽いんでしょうか。」


少しの沈黙の後先生はこう答えた。


「その答えが知りたいのであれば、まずはお前が強くなれ。俺が少しでも遅れていたらお前はその答えを知ること無く死んでいた。」


「はい。」


僕の言葉が静かに響く。







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