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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第一章~少年編~(全47話)

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【第26話】灰と白

レビンとテイム登録をするため、乗合馬車でグラン=ヴァリエルへ出発する当日、僕は先生より大きめのフード付き外套を渡される。


「先生、これは?日ごろ美味しい食事を作っている僕にプレゼントですか!?」


そんな事を言うとデコピンが飛んでくるのが見えたのでとっさに避けると反対側から手刀が飛んできて頭に刺さる。


「痛いです!!」


「まだまだだな。それよりもその外套はテイム登録が完了するまでしっかりと見に付け、レビンを隠しておくように。」


そう言われ?が浮かぶ。


「お前な、説明しただろう。レビンはまだ害があるともないともわからない状態の魔獣だ。誰に何時襲われても文句は言えないんだぞ。」


そう言われてハッと思い出し、そそくさと外套を見に付けレビンを外套の中に入れる。


「なぁーあ?(狭いんだが?)」


「僕も着たくて着てるわけじゃないんだ、我慢して。」


そう言ってレビンを黙らせる。


乗合馬車前でリリーとシスターとは待ち合わせをしていたのでそこで合流すると、リリーも何故か外套を被っていた。


「リリーみたいな美人は誘拐される可能性があるからな。念の為だ。」


先生がそう言うとリリーはかなり照れているようだった。


しばらく話をしていながら時間を待っていると、「そろそろ定刻ですので出発しますよ!」と声がかかる。


シスターはリリーに「短い間ですが身体には気をつけるんですよ。」とハグをしていた。


そして僕には少し大人しくしていなさいとハグではなくお説教が飛んできた。なんで?


「なぁーあ(日頃の行いだな。)」


「うるさいよ!」と思わず突っ込む。


「「行ってきます!」」


そう言い元気にシスターと別れたのも束の間、あまりに揺れる馬車に頭をぶつけるわオシリは痛いわでリリーと一緒に「痛い!」の大合唱となった。


途中何度か休憩を挟みながら、どんどんと進み景色が目まぐるしく変わる。


1日半の移動だということだったので途中で何処かでテントでも貼るのかと思ったら、そんなことはせず御者を交代制にして小休憩以外移動に時間を使うとのこと。


「長距離移動の場合は当然テント泊などを行う場合もあるが、こうした比較的短距離移動の場合、下手に休憩などで気を抜いていると野盗に襲われかねないからな。」


そう先生から説明を受けるが疑問が浮かぶ。


「夜の移動のほうが危ないんじゃないですか?」


「なんのための魔法だと思っている。それに馬車には魔道具のランタンで視界が開け、安全に移動ができるようになっている。」


確かにこの馬車にはランタンが前方に一つと左右に一つずつの計3つ付いているのに先程気が付き不思議に思っていたところだった。


「それに今回の旅の行き帰りで仮に野盗が出たならそれはそいつらの運が悪かったってことだな。」


言われてみればこの旅には先生が乗っている。


森での動きを見るにそこらで活動しているような野盗では全く刃が立たないだろうな、と思い返していた。


そしてほぼ予定通り、出発してから約1日と半日が過ぎた頃、馬車の揺れが明らかに減ったことでどうやら舗装された道に入ったことがわかり、景色を見るとそこは今まで見たことがないような景色がそこにはあった。


それは大きな城壁に囲まれた、間違いなく「都市」であった。


初めての光景に僕とリリーは感動を覚えていた。


少しの間、城壁内に入る前に番兵による馬車の荷物や人物等の検閲が入り、僕はレビンがバレるんじゃないかと若干挙動不審になったが、そこは先生が何やら首飾りを見せたことで事なきを得る。


「全く、お前ってやつは手間のかかる・・・。」


「ははは、すいません・・・。緊張してしまって・・・。」


先生に頭を下げていると「面倒事が起きなければいいが」と先生が溢したことが若干気になった。


「目的地グラン=ヴァリエルに到着です。お疲れ様でした。」


御者に降ろされ、感謝の意を伝える。


たった1日半の移動であったが、体中が痛い。


リリーも同じ様な様子であった。


「今日はもう時間的に登録は無理なのでこれから宿に行き一泊した後、明日の朝一番で登録をしてから乗合馬車の時間まで町中で時間を潰してから帰るぞ。登録が終われば問題なく散策も出来るしな。」

と今後の予定が発表される。


「やったー!」とリリーと手を合わせ喜ぶ。


なにせ初めての大都市の町中見学だ。心も弾む。


「ところで今日お世話になる予定の宿は決まってるんですか?」


先生に聞くと、先生は若干面倒くさそうな顔をする。


「まあ、この時間じゃあそこしかないだろうな。」


そう言いながら目的地の宿屋へ直行する。


宿屋へ行くまでの間にも露店や見たこともない店などが無尽に並んでいるのをみて、リリーと二人で興奮していた。


「ここだ。」


先生はそう言い、一件の宿屋の前で止まる。


『酔っ払った海坊主亭』と書いてある宿屋であった。なんで海坊主が酔っ払っているのかは謎だった。


宿屋に入ると僕よりも少し年上ぐらいの女の子が店番をしている。


「いらっしゃいませ。生憎今晩はもう満床なんです。」


そう少女は言った所で先生が「お前の親父に『灰被り』が来たと伝えてくれ。」


そう言い、少女に駄賃を渡した。


少女は嬉しそうにその駄賃を受取り、「少々お待ちください!」と笑顔で奥に消えていく。


少し待つと、身の丈2メートルは有りそうガタイの良いスキンヘッドの大男が現れる。


「「う、海坊主だー!。」」


リリーと顔を合わせ震えていると海坊主が先生を睨みつける。


先生と海坊主は少しの沈黙会話を始めた。


「よう、生きてたのか。」


「お前こそ息災な様で何よりだ。」


どうやらお互いに知り合いのようであった。


「先生?この海ぼ・・・、この方はお知り合いですか?」


思わず思ったことを口走ってしまった僕を不思議そうに見つめる海坊主こと先生の知り合い。


「ああ、コイツとは古い腐れ縁でな。バルトという。」


「バルトだ、よろしくな坊主。アッシェを先生と呼んでいたがまさか?」


バルトさんに頭を下げながら挨拶をする。


「アッシェ先生の弟子のニクスと言います。よろしくお願いします。」


そう言うとバルトさんは驚いた顔をしている。


「まさか、あの『灰色の鬼』と呼ばれた奴に弟子が出来るなんて・・・。世も末だな。」


バルトさんが呆気にとられていた。


「ああ、それよりも飯、食っていくだろ?お前の噂が聞こえたからな。食堂は今日は貸切にしてやった。」


「相変わらず気が利くな。」


本当に先生とバルトさんは仲が良いみたいで荷物を部屋に運ぶことになる。


「私はお父さん、バルトの娘でアリーシアと言います!アッシェさんのお噂は父より伺っています!」


そう言いながら部屋まで案内してくれる様だ。


「あれ?今日は満床なんじゃ?」


先程のやり取りを思い出すと、「アッシェさんには特別な部屋があるんです。」


そう言いながら滅多に使わないという最上階の部屋まで案内してくれる。


「こちらになります。どうぞごゆっくり!」


そう言うとアリーシアは先生に鍵を渡し、食事の準備を手伝ってくるとのこと。


「わぁ、大きな部屋ですねえ!それに景色もいい!」


見慣れたことがない家々でぎゅうぎゅう詰めになったかの様な、今まで見たことが無い光景がそこにはあった。


「きちんと手入れしてくれてたんだな・・・。」


先生はそうポツリと呟いていた。


「ああ、何でもない。荷物をおいたら早速食堂へ行くぞ。ここの飯は旨いからな。」


そう言い、併設されている今日は急遽貸切になったと言う食堂まで行くとバルトさんとアリーシアが忙しそうに準備をしているのが見える。


そしてその中にもう一人、初めて見る鎧姿の長身で長髪、銀色の髪が目を引く女性が居た。


「な・・・、おま・・・。」


先生が明らかに動揺している。


その女性は僕から見てもリリーから見てもとても美人に見え、鎧では隠しきれない程の豊満な胸元、そして美しさに比例するような力強さを感じる女性であった。


「やあ!やっと来たな!」


その女性はガシャっと鎧を鳴らしながら片手を上げこちらに手を降っている。


どうやら先生の知り合いのようだが、明らかに先生の様子がおかしい。


『カツ、カツ』と重そうなブーツを鳴らしながら近づいてくる女性に全く動けないでいる女性。


「久しぶりだな、アッシェー!元気そうで何よりだ。」


そう言い「ニッ!」っと口を大きくあけると綺麗な歯が並び、笑顔を作っている。


その笑みですらどこか美しさが漂っている気がする。


「ああ・・・。本当に久しぶりだ。マーリン。」


先生とマーリンと呼ばれた女性は少し見合った後握手をしていた。


「まさか僕に何も言わずにさっと用事だけ済ませて帰るつもりだったな?」


ぐいっと、力任せに握った手を引っ張られ力負けして思いっきり先生が引き寄せれている姿を見て驚いた。


先生は片足が義足ながらも普段はそれを全く感じさせないぐらいの運動能力と力強さを得ている。


なのにも関わらず、マーリンさんは、やすやすと先生の身体を『片手だけ』で動かしたのだ。


「いたたた、相変わらずの馬鹿力だな。お前は。」


「訓練が足らないんじゃないか?どうせなら僕が鍛え直してやろうか?」


そんなやり取りをしていると、バルトさんが出てきて「早速やってるな」と言いながら近づいてくる。


「まあ、アッシェの馬鹿とはこれぐらいにして、こちらにいる不可思議な猫を連れた少年と素敵なレディを紹介してくれないか?」


先生を離した女性は僕達に興味があるようだった。


「ああ・・・。こいつはマーリン。こっちの生意気そうなのが俺の弟子でニクス、その隣の美人な嬢ちゃんはニクスの姉のリリーだ。」


「初めまして、マーリンさん。僕はアッシェ先生の弟子でニクスと言います。」


「初めまして、ニクスの姉のリリーです。」


そう言い二人でマーリンさんに対し頭を下げる。


「おおおー!?本当に弟子なんて取ったの!?驚いた!ああ、自己紹介だったね。」


僕の存在に驚きつつ、そう言うと姿勢を正しマーリンさんが自己紹介をしてくれる。


「僕は紹介の通り、元アッシェの相棒だったものでマーリンという。現在はこの都市グラン=ヴァリエル所属第一騎士団長を任されている。よろしくね!」


そう言い自己紹介をしてくれるが僕はマーリンさんが先生の元相棒だった人だとは思っても居なかったので驚いた。


「だからあの時、コレを番兵に見せたくなかったんだ。」


先生がそう言いながら普段は服の中にしまっているタグが付いた首飾りを出す。


入口で僕が挙動不審に鳴ってしまった時に出していたタグだった。


「やはり情報が回ったか。」


そう先生は言うと「当たり前だろー。」とマーリンさんは返していた。


そこに食事の準備を終えたバルトさんとアリーシアが来て「終わったなら食事にするぞ」と声がかかる。


どうやらマーリンさんとも一緒に食事ができるようで僕は嬉しくなる。


マーリンさんも嬉しいようで鎧を脱ぎすて食事が食べやすいようになる。


やはりとても魅力的な女性的な身体のラインに僕とリリーは「「わー・・・」」といって二人で赤くなっていた。


「ん?早く食べよう!」


そう言われ、皆で席につき、食事会が行われた。


「「「おいしー!」」」と僕やリリーは勿論、マーリンまでガツガツと食事を楽しんでいた。


「なぁーお!(旨い!旨いぞ!)」


どうやらレビンも相当気に入ったようだ。


僕達以外はご飯をガツガツと食べているレビンが気になったようで僕から簡単な説明をする。


「はー、テイム登録ねえ。」


バルトさんやアリーシア、マーリンさんは不思議な目で見ていた。


「まあ、確かにこの状態じゃあ連れ去られて売られちゃうかもねー。」


マーリンさんは先程紹介してくれた通り、正規の軍人でしかも団長だと言うことだったので、そんな人が言うんだったらそうなのだろうと思った。


ちなみに団長というからにはこの都市の兵たちの頂点に位置する位の人なんだろうけど、どうも見た目とギャップが有りすぎてピンときていない。


それよりも僕は色々と聞きたいことがあった。


「あの、質問していいでしょうか?」


手を上げ質問することにした。


「はい、どうぞ!ニクス君!」


マーリンさんはノリ良く答えてくれる。


先生は頭を抑えていて僕が聞きたがっていると思われることに予想がついているようだ。


「先生について関係など教えてもらえるなら教えて下さい。いつも冒険者時代については元銀級の二つ名持ちで相棒が居たとしか教えてくれないんです。」


僕の言葉により先生は頭を抱える。


「はー。あの寡黙な灰色の鬼がそこまで教えたなんて、逆にびっくりだよ。」


そう言いながらマーリンさんは素直に驚いていた。


「だな。」とバルトさんまで同意している。


「まあ、その話の通りかな。ちなみにその相棒は僕のことだ。まあ今はアッシェと同じ元冒険者で今は『首輪付き』になったけどねえ。」


マーリンさんは遠い目をしながらそう説明してくれる。


「この『酔っ払った海坊主亭』はこいつらが駆け出しの頃から面倒見てやってる宿でな。今日おまえたちが泊まる部屋はこいつらが唯一『買い取った部屋』なんだよ。」


バルトさんの追加の説明に更に驚く。


「部屋を買い取ったんですか!?」


リリーと僕は顔を合わせ驚いている。


「まあ、そんな事もあったねえ。僕は未だにたまに使わせてもらってるから良いんだけどね。」


そこで追加で質問をした。


「失礼を承知でお聞きしたいんですが先生の相棒はブランだったと言うこともお聞きしました。つまり、マーリンさんがその相棒のブランだってことでよろしいのでしょうか?」


その様に質問すると若干の沈黙の後マーリンさんが「・・・そうだけど、それがどうかした?」と返答してくれる。


だが、僕はそれが信じられなかった。


マーリンさんからマナが流れているのを『視えて』いたからだった。


その空気感で悟ったのか先生が僕に確認をしてきた。


「ニクス、やはり『視えて』いるんだな?」


僕はその質問に端的に「はい。」とだけ答える。


「マーリンすまない。ニクスに他意や悪意があって聞いたわけではない。ニクスもブランだからな。」


その言葉にリリー以外はざわっとした。


「え!?君ブランだったの!?」


マーリンさんからのその言葉にも端的に「はい。」とだけ答えた。


「でも、『視える』ってどういうこと?」


マーリンさんが訝しがってこちらを見ていたので、一度先生の顔を見た後一つだけ頷き、僕のマナが『視える』という体質について説明をした。


「それでか・・・。確かに僕は正確に言えば『元』ブランだよ。所謂『中途覚醒者』だ。」


マーリンさんからの包み隠さぬ情報の提供があり、先生が小さく舌打ちをしたことが気になった。


「それで、僕のマナは何属性に視える?」


そう聞かれたが、それが難しかった。


マーリンさんもまた、レビンと同じ様に四属性以外の属性だったからだ。


「ごめんなさい。属性まではわかりません。でも色はわかります。」


その言葉にマーリンさんが腕組をしながら片眉だけあげて「ほお?」と言う。


こういうところは本当に先生にそっくりだと思った。


「『水色』のマナですよね。」


そう答えると、マーリンは心底驚いたようだった。


「正解!!すごい!本当に『視えて』るんだねえ。」


パチパチと手を鳴らしながら素直に感嘆していた。


「昔は『白の破壊者』なんて呼ばれてたけどね、今は氷属性の魔法適性が現れて『白氷の守護者』って呼ばれるようになったよ。」


笑顔で教えてくれた。水色のマナは氷属性だったんだ。


「それでお前は晴れて『首輪付き』になったってことか。」


先生が片目を付して腕組をしながらそう聞く。


「しょうがないじゃないか。『中途覚醒時の暴走』を止めてくれたのがたまたま近くに居た王宮魔術師さんだったんだもの。死ななかっただけマシさー。」


あっけらかんとマーリンさんは言ってのけた。


「おっと、もうこんな時間かー、そろそろ宿舎に戻らないと副団長にどやされちゃうのでここらで御暇するねー。」


そう言いながらマーリンさんは慣れた手つきで外していた鎧をさっと身につける。


「帰る前にひとつだけ。」


振り返りながらマーリンさんは僕の頭を撫でながら言う。


「君がアッシェの弟子ならば、実質私の弟子でもある。なにか困ったら遠慮なく僕を頼ってくれ。」


そういたずらっぽく、マーリンさんは笑う。


「勿論、ニクス君のお姉ちゃんであるリリーちゃんもね。それじゃあねー。」


そう言い手を振りながらマーリンさんは街に消えていった。


「嵐みたいな人でしたね?」思わず誰に聞くわけでもなく独り言が漏れてしまったがそれは皆思っているようで、「ああ、本当に」と聞こえてきた。

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