【第25話】グラン=ヴァリエル
レビンを救出してから3日後、先生は森より帰って来る。
「おかえりなさい、先生。」
「おう、帰った。」
かなりの強行スケジュールだったのだろう、流石の先生にも疲れが見える。
「先生お腹空いてませんか?何時帰ってきても良いように余計に作ってあるんです。」
「流石だな。貰うよ。」
そう言いながら先生が教会に入り食堂へ行くとレビンが先生に「なぁーお」と礼を言っていた。
「レビンがあの時は助かった。感謝している。と言っていますよ。」
そんな僕の言葉に先生は一言「そうか」と済ませている。
そのやり取りを見たリリーが先生に「ニクスは本当にレビンの言葉がわかるみたいですよ。」と真顔で言っていた。
「・・・は?」とあまりに突飛な話に先生が唖然としている。
「そういえばお前、逃げるときも何かこの猫とやり取りしてなかったか?」
「なぁーお(猫ではなくレビンだ。)」
レビンは相当自分の名前を気に入ったらしく、会う人会う人に自慢のように語っている。だが当然猫の声なので何を言われているのかは相手はわからない。
「それについてですが、いまお食事をお持ちしますのでその時にでも。」
そう言いながら僕は先生に食事を運ぶ。
「ふー、久しぶりにまともな飯を食った気がする。」
「以前の先生の食生活とは大違いですね。」そう言い、僕は笑う。
「飯は旨いほうが良いのは当然だ。」と先生はそう言うと「なぁーお(同意する。)」とレビンが頷いていた。
「レビンも同じだと言っています。」
先生は僕のことをじっと見つめ考えている様子であった。
「それは嘘やまやかしでもなく『事実』なんだな?」
先生からの何かを確認するときにいつも自然と来る強い視線を感じる。
僕は姿勢を正し「事実です。」と端的に答える。
「そうか。」と先生は一言返し、何かを考える。
「なにか思い当たることでもあるんですか?」
先生が考えている最中に聞いてみる。
「まあな。その猫は見ての通り『魔獣』だ。魔獣は獣でありながら場合によっては知性を有し、人とコミュニケーションを図れる個体もいる。恐らくその部類だと思う。」
静かにだが、確かな雰囲気を出し先生は語る。
「『魔獣』ですか・・・。」
「なぁーお?(魔獣ってなんだ?)」
当のレビンは理解していない様子であった。
「レビン、お前の額には『魔石』があるだろう?それを持つ獣を魔獣っていうんだよ。」
そう僕が言うとレビンは片手を額に当てていた。
「なるほど、確かに意思疎通できているようだ。」
そのやり取りを見ていた先生の仮説が確執に変わったようだ。
「先生、魔獣の扱いってどうなるんですか?」
僕はそう聞かずには居られなかった。せっかくの新しい家族に何かあったらと思うとたまらない気持ちになった。
「時と場合によるな。」
先生は食後のお茶を飲みながらそう語る。
「時と場合ですか?」
「そうだ。魔獣は獣と違い知性を持ち合わせている可能性があるがゆえに無闇矢鱈に駆除や討伐の対象になったりはしない。下手に手を出すと見た目とは裏腹にとんでもないマナを内包する魔獣だった場合、国が滅びかねないからな。」
冷静にそう語る先生に思わず唖然とする。
「逆を返せば手を出さなければ全く無害な場合も多い。ましてやコミュニケーションが取れるならばなおのこと、先にそれを試してから危険度が図られる場合が主流だ。」
「ではどうしたら、無害な魔獣だという証明が出来ますか?」
先生がそう言うからには何か方法があるはずだと客観的に判断ができた。
「街に行くぞ。そしてその猫、レビンと言ったか。こいつをお前がテイムした魔獣だと冒険者ギルドに直接登録に行く。」
街?テイム?冒険者ギルド?
沢山のワクワクするようなワードが波のように押し寄せたことで頭が破裂しそうになる。
「この村にある冒険者ギルドではだめなんですか?」
話を聞いていたシスターが先生のお茶を継ぎ直しながら話しに混ざる。
「ありがとうございます。ええ、テイムの登録については村のような小さな冒険者ギルドでは無く、街の各支部に直接登録しなければいけないんです。」
「そうなんですね・・・。」
シスターは複雑な表情で納得している。
「じゃあ、僕も街に行けるってことですか!?やったー!!」
そう喜ぶとデコピンが飛んでくる。
「痛い!」
「なぁーお(ざまあねえぜ。)」
「はあ、街か・・・。二度と行くことはねえとは思っていたが・・・。仕方ねえな。」
先生は非常に気が重そうな表情をしている。
「え、そんなに問題があるならわざわざいかないでも良いのでは?」
そう言うと「はあ、問題大有りだ」と返答がある。
「さっきも言ったが魔獣は基本的に討伐対象になりうる存在でその回避方法がテイム登録だ。つまりこのテイム登録が終わってない魔獣は誰にいつ狩られても文句は言えない存在だと思え。」
その言葉にドキッ!として冷や汗が流れ出る。
「そういう訳だ。早い内に出発するぞ。」
その話を聞いていたリリーが横から「あの!」っと大きな声で割って入る。
「もしよければ私も連れて行ってくれませんか?」
リリーの発言を聞き、シスターも驚く。
「リリー!?」
「シスター、私は2年後にクラディス王都に行かなければいけません。その前に少しでも覚悟を決めるべく一度は大きな街を見ておきたいと思ったんです。」
その言葉に一番驚いていたのは、この話を知らなかった先生であった。
「2年後にクラディス王都?まさか・・・、アカデミーか!?」
勘の良い先生は先日の登録の時のことと今の発言で即座にアカデミーに入学することが決まっていることを察する。
シスターとリリーは頷くだけで返答する。
「ニクス、お前は知っていたのか?」
そう聞かれたので、「リリーから直接聞きました。」とだけ答える。
少し先生が考えた後、「シスター、しばらくリリーをお借りしても?」とシスターに相談を持ちかける。
シスターは流石に即答できなかったようだが、リリーの懇願もあり一緒に行くことになる。
「了解した。だが行く場所は当然、首都クラディス王都ではない。ここから最も近いこの国の都市のひとつである『グラン=ヴァリエル』だ。」
「グラン=ヴァリエルは確か工業が盛んな都市でしたっけ?」
以前シスターから教わった地理を久しぶりに思い出しながら答える。
「そうだ、ここから定期馬車便が出ていて、それに乗って片道約2日ほどだ。」
「はぁー・・・。」
リリーと僕は顔を見合わせ、遠い目をしている。
「シスター、出立は4日後でどうですか?問題なければ最速で行きたいのですが。」
先生はシスターに日程調整を確認する。
「・・・。わかりました・・・。ではそうしましょう。ただし、ニクスとレビンの要件が済み次第早急に戻ってきてください。」
シスターの感情を読み取ったのであろう先生は「必ず。」と言って解散となった。
リリーは早速準備にかかるという。
僕も準備しようかと思ったのだが、「お前は最近訓練をサボりすぎだ。数日でも良いから再開するぞ。」と地獄の行進であっという間に出立の日を迎えることとなる。




