【第23話】リリーの憂鬱【番外編】
「ニクス!!」
ニクスが住民登録時、いきなり倒れ込む光景を目にした際、私は絶叫し、走って近づこうとしていたがアッシェさんに腕を捕まれ「俺が行く。」と引き止められる。
住民登録の時、『光の魔法適正』があることがわかり、それも秘めた力はかなりのものだと知り驚きとともにこれでニクスに追いつけると心の何処かで思っていた。
それなのに、再びニクスは再び倒れてしまい、大急ぎでアッシェさんに抱えられている。
「すまん、リリー。最後まで付き合えそうにない。君は他の親御さんたちと一緒に村に帰るんだ。」
アッシェさんからそう言われ頷くことしか出来なかった。
何が光魔法の適正だ。今回復の魔法が使えなければ意味はまるでないじゃないかと心の奥底で悪態をつく。
他の子供達や親達と一緒に村に帰ると一目散に教会へと駆け足で戻る。
「戻りました!ニクスの様子は!?」
「おかえりなさい、リリー。そんなに大きな声を出さなくても大丈夫ですよ。」
シスターはいつもの様子で答えてくれたが、私はその言葉の中に動揺している様子を押し隠しているのがわかっていた。
「ごめんなさい。心配で・・・。」
そう言い思わず震える手でニクスに貰った腕飾りを触る。
シスターは何も言わずにその手を重ねてくれる。
翌日になってもニクスは目を覚ますことがない。
それどころか息が苦しそうに胸を抑えたりうなされたりしていた。
「ニクス・・・。」
そう言いながら額においてある手ぬぐいを水で濡らし直しそっと置き、ニクスの手を握りその場から離れることが出来なかった。
私は2年前、無意識の内に猪からニクスを庇って怪我をしたことがある。
あの時は本当に無意識で身体が動いてしまってしまい、結果として右肩に3針ほど縫う程度の傷を負うことになった。
傷それ自体は大きくはなく、今はもう殆ど見えないくらい目立たなくなった。
だが心の傷は違っていた。
正直、猪のことはあまり覚えていないので大丈夫であったが、その後、ニクスが猪を倒し、私を担ぎながら森から脱出し、その後寝込んでしまったこと。
それに恐怖を覚えていた。
ニクスが寝込んでいる間に何度も「私のせいだ!」と大泣きしたのを今でも覚えている。
シスターはその度何度も慰めてくれたがやはり自分を責めずには居られなかった。
ニクスが元気になってからは嬉しかったが、いきなりこの教会を出ていくという絶対的な決心をしていた時、私は頭が真っ白になっていた。
またニクスがこの手から離れていってしまう。
その話を聞き、一人で泣いているとシスターは私の頭を撫でながら言う。
「彼の『夢』だそうです。リリー、貴方はどうしたいですか?」
そう言われた時、私は涙をぐっと拭い、両手を握りしめてこう返した。
「それならニクスの『夢』を全力で応援します。お姉ちゃんですから!」
そう言うとシスターも「ふふ、そうですね。」と笑顔を見せてくれた。
それからというもの、ニクスに一歩でも近づきたくて勉強に励み、料理に挑戦し続け、お手伝い枠からしっかりと料理番になるまで成長することができた。
だけど毎週末、たった5日見ない間に、5日前にあったときとは別人の様な雰囲気を出し更に成長を感じられるニクス。
追いつきたい。
どうやったらニクスの横に並んで一緒に立つことが出来るの?
ひたすら悩んでは努力を重ねそして2年が経ち、住民登録の際に自分がとても希少な光属性の魔法使いだということがわかり、内心これで追いつけると思っていた矢先のことであった。
今はただ、ニクスの手を握ることしか出来ない私の頬を涙が濡らす。
そうしていると、教会の入り口付近が賑やかになったかと思うと「リリー。」とシスターより呼ばれたのでニクスの手を離し、涙を拭き、笑顔を作って階下に降りるとシスターの横に昨日の住民登録の際に居た文官貴族様ともう一人、更に綺麗な服で着飾り雰囲気がただならぬ中年の男性が立っていた。
その人物は文官貴族様の主であり王家直属で勤務しているという上級の文官貴族様であった。
「はじめまして。貴方がリリー『様』ですね?」
その上級文官貴族様が私のことを『様』付けで呼んだことに驚き、しどろもどろに返事をしてしまう。
「は・・・、はい・・・。私がリリーですが・・・。」
そう言うと上級貴族様は内々の話をしたいとのことであったため、保護者であるシスターを残し、他の子供達に一切話が聞こえないよう外に追い出した。
部屋の中には私、シスター、昨日の下級文官貴族様、そして上級文官貴族様だけとなり、部屋の外には一人の騎士が見張りを行うという厳重体制になった。
一体何が起きているんだと不安で一杯になる。
上級貴族様がこう話を始める。
「リリー様、貴方はどうやら過去でも類を見ないような類まれな光属性をお持ちの可能性が高いのです。是非そのお力を我が国の為に使ってはいただけないでしょうか?」
そう言われるが私の頭の中は?で一杯になり答えることが出来ない。
だがシスターは違ったようだ。
「そ、それはまさかリリーにアカデミーに通った後、国所属の回復魔法師になれとそういうことでしょうか・・・?」
その様に聞き返していた。
「話が早くて非常に助かります。ああ、そういえばシスターも元はアカデミーの人間だとか?」
上級文官貴族様がそう確認すると「はい。」と下を向きながら手を強く握りしめてている様子が見て取れた。
その表情はどこか悔しそうにも見える。
上級文官貴族様は続ける。
「知っての通り、アカデミーの入学は通常10才になる年の春です。」
そう、言うとシスターは「はい、存じております。」と端的に答える。
その言葉を聞くと、話は終わったとでも言うように上級文官貴族様は立ち上がり一方的に言い放つ。
「その頃にお迎えに上がります。では失礼いたします。リリー様。」
と私に頭を下げ、下級文官貴族様と一緒に退席し、そのまま教会前に止めてあった馬車で去ってしまう。
私がその光景にぽかーんとしているとシスターが私を優しく抱きしめる。
「これは貴方にとっては大変幸運であり、名誉なことなのですよ。リリー。」
私の顔を見ながらそう言ってくれたが思わず聞き返してしまった。
「では、シスターやニクスにとってはどうなのですか?」
「そ、それは・・・。」
シスターでも答えられないようであった。
「では私は行きません。ここから離れるつもりはありません。」
そう力強くシスターに向かい言い放つと、シスターは今まで見たことも聞いたことの無いような様子で「それだけはいけません!」と強く反発されてしまった。
「良いですか、リリー。よく聞いて下さい。」
そう言いながらシスターが座り直し、私もシスターに視線を合わせるように座る。
「基本的に教会、孤児院といったほうがよろしいでしょうね。ここで育つものの最大の後見人は国になります。そして、幸か不幸か、貴方は強い光の魔法適性があることがわかりました。これは将来、『確定』で貴方はアカデミーで魔法を中心に勉学をし、そして卒業後は回復魔法師として国に一生を捧げることが『決まった』のです。」
その話の内容があまりに突飛でなかなか理解できず「え・・・?え・・・?」と何度も確認する。
「わからないだろうし、わかりたくもないかもしれませんが、これがリリー、貴方の運命なのです。」
シスターははっきりと言いきったことで思わず反発してしまう。
「私の考えはどうなるんです!!」
「リリー、落ち着いてください。私も悔しいのです。ですがここで育つ者、それも光の魔法適性があるものとしての決まりなのです。」
シスターが明確に言いきったことでそれは避けがたい事実であると理解した。
「やはり、貴方も賢い子です。私は嬉しく思いますよ。」
そう言い私の頭を優しく撫でてくれるシスター。
その手は若干震えているようにも感じた。
10才の春、つまり後丁度2年後に私はこの教会を出ていき、アカデミーに入学することが決まった。




