【第22話】黒砂を纏った猫
「おはようございます。」
朝食を食べている時間に先生はやってきた。
「おはようございます。アッシェさん。良かったら召し上がっていきますか?」
シスターから朝食を誘われ、「折角なので。」と食べていくことにしたようだ。
「よう、体調は戻ったか。」
席につくなり僕の体調を確認してくれる辺り、先生の優しさを感じられる。
「ありがとうございます。お陰様で。それよりも食後少しお時間よろしいですか?」
早速朝食を受け取り食べている先生に昨晩のことを相談すべくお願いをする。
「ああ、構わない。むしろ俺もお前に聞きたいことがある。」
そう言い食後に二人で話し合いが行われることとなる。
「で、どこで話をする?」
先生が確認をしてきたので、二人で話し合える場所をシスターに用意してもらい二人だけでの話し合いをすることにした。
「私はいなくても大丈夫ですか?」
シスターが心配そうに声をかけてくれるが僕は「大丈夫です。ありがとうございます。」とお礼だけ伝え先生と二人で話し合いが行われることになる。
「で、単刀直入に聞くが、あの日何があった?」
早速本題だと言わんばかりにまずは僕が倒れた日のあの事を確認するように聞いてきた。
「それはお話しますが、話が終わった後、先生の力を貸してください。」
そう言い、僕は頭を下げる。
「内容による。さあ話せ。」
先生はどこか思うことがあるようで話を促してきたので僕が住民登録の日に起きたあの瞬間の話をする。
「正直殆ど覚えていません。あの木札に触るまでははっきりと覚えています。そして触った後自分が光りに包まれたことも。ですがそれ以降のことは全く思い出せないんです。」
「光りに包まれた?」
僕の答えに先生が疑問を抱いたようで聞き返してきた。
「リリーに聞きました。僕は木札に触れた瞬間、倒れ込みしかも魔道具を破壊したと。」
リリーから聞いていたことを先生に伝える。
「そうだ。それ以外のことは何も起きていない。」
先生からの返事もリリーの証言を裏付けるものであった。
「正確に言うならば魔道具を破壊したのではなく、魔法属性を確認する水晶部分だけが破裂した。登録自体は問題なく完了している。」
「水晶が破裂ですか・・・?」
聞き返す僕に先生は「ああ、そうだ。」と端的に答える。
「それで、それ以外は本当に覚えていないし変化もないのか?」
先生からの更なる問いに少しの沈黙の後、こう答える。
「マナが・・・、『視える』様になりました・・・。」
結論からすれば昨日の出来事から先生が来るまでの間に起こったことを整理し自分なりに導き出した答えだった。
「マナが『視える』だって?感じるではなくか?」
先生はかなり訝しがりながらそう確認をする。
「はい、逆に感じることは今まで通り出来ません。」
それを聞くと先生は目を閉じ無精髭を撫でながら考え事をしているようだ。
そしてふと、先生の身体から立ち上る『赤い』ゆらぎ、すなわち『火属性のマナ』を目撃する。
「先生、今『火属性のマナ』を身体から放出してますね?確かめるためですか?」
冷静にそう先生に問いただす。
「本当に『視えて』るんだな。」
そう言いながら先生は再度黙り込む。
「正直な話、俺はお前が魔法に目覚めたのかと思った。所謂『中途覚醒』ってやつだ。勿論これは知ってるな?」
先生は淡々と語りかける。
「勿論知っています。『魔法の素質』が通常通り発現しなかったブランが何かをきっかけとして急に魔法の素質が発現することですよね。」
僕は以前本により学習していたことを思い出しながら返す。
「その通りだ。更に付け加えるならば、この『中途覚醒』に至ったものは通常の魔法の素質の発現者よりも遥かに強力なマナを内包する魔法使いになる場合が非常に多い。だが下手をするとその今まで無かったマナのコントロールが出来ず、マナに飲み込まれて消滅する場合もある。」
なるほど、だから先生は焦っていたのか。マナによる自壊については知らないことだった。
「だがそうではなく、ただ『視える』ようになっただけだ、と。」
再度の確認に僕は端的に「はい。」とだけ返答する。
先生は少し考えた後、「わかった。」と話を切り返す。
「わからないものをいくら考えたところでわかないままだ。それで?」
先生は僕の様子からまだ続きがあることを悟っていた。
「流石僕の先生ですね。率直に言います。助けてください。」
そう言うと慌てたように一瞬身体をビクッとさせるが僕の表情を見て聞き返す。
「何をどう助けたら良い?」
「僕と一緒に森に行ってください。そして『僕に助けを求めているもの』を助けてください。」
そう言い、深く頭を下げる。
「お前に助けを求めているもの?まさか・・・。」
先生はなにか思うところがあったのか、「詳しく話せ。」と話の続きを促してきた。
正直もっと抵抗に似たようなものをされるかと思っていただけに驚きはしたが、先生に思う所があるならば話は早い。
今日の夜中の出来事を、包み隠さず話をする。
「なるほど、それでお前に助けを求めるものか。」
先生は目を閉じ考えている。
「はい。」
「わかった。その光の方向は覚えているな?念のために武器と簡易の装備は持ってきておいたので今すぐに行くぞ。」
先生の決断は早かった。
「勿論です。感謝します。」
頭を下げて礼を伝えると「相手が助かってからにしろ。」と言われそのとおりだと思った。
話し合いが終わり、部屋から出るとその様子を遠目から見ていたのかシスターとリリーが心配そうに近寄ってくる。
「大丈夫?・・・これからどこか行くの?」
リリーが心配で潰れそうな顔をしているのでリリーの頭を撫でて「すぐに戻るよ。」とだけ伝え出発することになる。
荷車に乗せていた装備品を先生はすぐに背負い、ブロードソードを腰に下げる。
そして僕に対し、8才のプレゼントでくれた短剣を僕に「お守り代わりだ。」と渡してくれるので僕は頷きながらそれを腰に差す。
「急ぐが付いてこれるか?」
先生はかなり早めに事態を解決したい様子であり、走って一直線に目的地まで行くとのこと。
「2年間の修行の成果がだせますね。」
走りながら笑顔でそう答えるがその中ある緊張は隠しきれなかったようだ。
「お前の能力も活用させてもらう。獣は斬り伏せて、魔獣は避けていくぞ。」
「わかりました。」
確かに今の僕ならば、マナを『視る』ことが出来るのでより危険度の高い魔獣は避けていけると判断したようだ。
「ある意味の実地訓練だ、気を引き締めていくぞ。」
そう先生が言いながら更に速度が上がる。
以前までの僕ならば絶対についていけないだろう速度で走り、かつ足場が悪い場所であっても鍛えた体幹と重心のトレーニングの効果か、障害らしい障害も特に気にならない。
スタミナは言わずもがなだ。
どんどんと風のように森を踏破していく。
「前方に熊だ、気をつけろ。」と突然言われるが、マナは特に視えない。
「問題ありません。」と短く答えると先生は抜剣したかと思うと魔法を唱える。
【灰にする剣】
その瞬間、濃い赤色のマナが一瞬にして先生の身体を纏い、そのマナが構えているブロードソードへ収束していく。
一瞬だった。
一気に距離を詰め、熊の虚を突いた一閃はとんでもない熱量を持っていたようで切断部から大部分が燃える工程を通り過ぎ灰となっていた。
「凄い、これが先生の本気・・・。」
あまりの光景に唖然とするが先生の「急ぐぞ!」という声に我に返り先を急いだ。
目的地付近に近づいた時、先生が手で静止を促し無言のまま様子を伺う。
視線の先には3頭の狼型の獣が小さな岩の隙間に吠えて、その隙間から何かを取り出そうとしているような光景が目に入る。
よく見るとその隙間から、昨日見た色と同じ黄色のマナが流れ出ていた。
「先生、あそこです!」
そう言うと、やはり先生の判断は早い。
前々から状況を観察していたように僕の声を皮切りに一気に突撃し、先程の魔法【灰にする剣】を投げナイフとブロードソードに纏う。
1頭の狼は投げナイフに気がつかない内に頭頂部に一撃が入り、その場で絶命する。
もう1頭の狼は先生の気配に気がついたのか辛うじて反応し、ナイフの直撃を避けたが、掠っただけでも致命傷になる程の熱だったため、やはり反撃までは至らなかった。
最後の1頭については完全に先生に気がついており反撃に至るがそれよりも早くブロードソードで斬り伏せられ、大きく切り裂かれた傷は灰になって絶命した。
「ニクス!」と声をかけられ、すぐに黄色いマナの元へと近寄ると、そこには額に赤い魔石らしきものが張り付いている、ざらざらとした黒い砂を纏った黒猫が居た。
最初は威嚇をし警戒していたが、僕のことがすぐに分かったようで手を差し伸べるとその身を委ねるようにし、気絶した。




