【第21話】視えるマナ
僕は教会で暮らしていた部屋で目を覚ます。
「う・・・、ん・・・?ここは・・・。」
「ニクス!良かった!!」
そう言ってリリーが僕を思い切り抱きしめ泣いている。
「僕は住民登録中に・・・、あれ・・・?」
住民登録中に視界が真っ白になったことだけは覚えているが、それ以降のことは霞がかかったように思い出すことが出来ない。
「ニクス!!あぁ、よかった・・・。」
リリーの声に気がついたのかシスターもやってくる。
「ニクス、あなた住民登録の最中に急に倒れてからまた3日間も意識が戻らなくなったのよ・・・。今度ばかりは本当にだめかと思ったわ・・・。」
シスターが非常に安堵している様子から、余程状態が良くなかったのだと推察できた。
「リリー、何があったか覚えてる?良かったら教えてほしいんだ。」
その場面を見ていたであろうリリーに聞くと手を小刻みに震えさせながらぽつりぽつりと話をしてくれた。
「私にもよくわからないんだ。ニクスがあの魔道具に触れた瞬間、急にバタリと倒れちゃって。どうやらあの魔道具も壊れちゃったみたいで魔法属性はわからなかったみたい。」
その言葉に僕は「え?」と思わず聞き返す。
「ブランだから透明のままだったとかそういうことではなくて?」
リリーは横に振り「わからない。」とだけ答える。
「先生はなにか言ってた?」
同じ様にリリーは頭を横に振り、大慌てでニクスを抱えに行き、文官貴族と少し話をした後、即時この教会まで戻ったらしい。
リリーはどうやら他の保護者たちと一緒に帰ってきたようだった。
「そっか、ごめんね。リリー。また怖い思いをさせちゃったね。」
そう言いながら、震えるリリーの手を両手で包み込む。
リリーも少し落ち着いた様子で手の震えは消えていた。
「魔道具が壊れちゃったってことはまた住民登録しなきゃいけないのかな?」そう聞いた時、丁度先生がやってきたようだ。
「その必要はない。住民登録はきちんと完了している。わからなかったのはお前の魔法属性だけだ。」
「先生、ご迷惑をおかけしました。」
ペコリと頭を下げ先生に謝る。
「気にするな、何もお前が悪いわけではない。それより落ち着いたら聞きたいことがある。」
そう言って先生は部屋から出ていき、シスターとリリーもそれに続く。
僕は身体に以上はないかと指を動かしたりして確認して問題がないことを把握すると部屋から出て先生の元へ近づく。
「もう大丈夫なのか?」
先生が心配そうに聞いてくるので「大丈夫です。」とだけ答える。
「そうか、なら今日はここでゆっくりすると良い。俺は一度引き上げて明日また様子を見に来る。問題なければ明日には戻るぞ。」
そう言い残し、先生は帰っていった。
「明日か、じゃあ今日はこっちでゆっくり出来そうだね。」と言うと「そうだね。」とリリーが答え今日は離れる気はない様子であった。
「ん?リリーどうかしたの?」
何やら普段とは違う雰囲気を感じた僕はリリーに聞くが、「なんでもないの。」とはぐらかされてしまった。
まあ、リリーが言いたくないなら無理に聞く必要もないかな。
時間が経ち夕飯の準備の時間になるが、「ニクスは大人しくしてて!」とリリーとシスターに言われ、渋々と一人で庭で時間を潰すことにする。
勿論、心配されるのが嫌だったので庭にいることをきちんと伝えておいた。
それにしても何が起きたんだろうか。
強い光に包まれたことは覚えている。
だがその後のことがどうしても思い出せない。
「うーん・・・。」と言いながら思わず草原に大の字になる。
そこに見えたのは綺麗な2つに割れた大きな月と満天の星空だった。
「綺麗だなあ。」
そう言って思わず星空に手を伸ばす。
そこで異変に気がつく。
伸ばした手が黒いモヤのようなものを突き抜けていったように見えた。
「え・・・?」
思わずガバッ!っと起き上がりその手を見る。
手に異常はないようだが、何やら視界がおかしいことに気がつく。
「なんだ・・・?」
そう思っていると、遠くで僕のことを呼ぶ声が聞こえる。
「リリー、ここだよー。」
「そこに居たのね、ニクス。暗いからよく見えなかったわ!」
そう言いながらリリーは生活魔法を唱える。
【光よ】
リリーが呪文を唱える瞬間、白い光のモヤが一瞬弱く、だが確かにリリーの身体から放出されたのを目撃する。
「えっ!?」
見たことがない現象に思わず声が出る。
「ニクス?どうかしたの?」
リリーが心配そうに言うが、頭を横に振り「大丈夫、ごめんね。」とだけ伝え食事へと向かう。
夕食を皆で食べ、ゆっくりと先程の現象のことを考えながら寝床につくと何やら胸騒ぎがして収まらなかった。
いつもなら先生から習っている、睡眠法を使えばあっという間に熟睡できるというのに今日はあまりよく寝れそうになかった。
やっと寝れたと思っても、うなされハッと目が覚める。
時間はまだ夜中、教会は寝静まり静寂だけが支配しているようだったがその空間には確かに何かが『視える』ような気がしていた。
夜の暗い時間だと言うのに自然と夜目が効くとは違う意味でよくその空間が視えているような感覚になった。
あまりの不可思議な感覚に頭がおかしくなりそうで、水を浴びて頭を冷やすことを考え井戸付近に来る。
一般の人なら生活魔法の【光よ】か蝋燭を持って移動せねばきっとまともに歩けないだろう、そんな暗さであるにも関わらずブランであるはずの僕がそんなものを必要とせずに普通に移動できる。
わからない・・・、一体何が起きてるんだ・・・?
冷たい水を頭から被り手ぬぐいで頭を拭いていると、今度は不意に名前を呼ばれた気がした。
「えっ?誰?誰かいるの?」
そう目を凝らすも特に人影は見当たらない。
不安が頭をよぎったその瞬間、はっきりとそれは聞こえた。
『助けて!!ニクス!!!』
聞いたことがない声とも思えないようなそれは確かに僕の名前を呼んで助けを求めていた。
「誰なの!?どこにいるの!!」
そう思わず絶叫にも近い大声を出すと、以前猪に襲われた森の方より一筋の強い黄色の光が立ち、そしてそれは何事もなかったかのように消える。
それをぽかーんと見ていると、僕の声を聞いたのであろう、教会で寝てた友人たちが何事かと騒ぎ出し、僕の元へと近寄ってくる。
「どうしたんだ?ニクス。こんな夜中に。」
そう声を掛けてくれたのはアレクであった。
「い、いや・・・。何でもないんだ。ごめん・・・。」
何も答えられないでいた。
「なんだよなー、もう!びっくりさせるなよ!」と他の友人たちも寝床に戻っていく。
その後自室に戻ったが結局寝ることは出来ず、先生が一刻も早くこないかと心に強く思って過ごす。




