【第20話】異変
翌日、僕とリリーは住民登録を行うために隣の村まで移動することになる。
「ニクスー?これでどうかな?恥ずかしくないかな?」
そう言いながら、僕にリリーが一番気に入っているという一張羅を見せてくれる。左手首には僕が作った腕飾りも付いていた。
「とっても綺麗だと思うよ?リリーは元々可愛いんだし。」
僕の左手首にもリリーから貰った腕飾りを付け、更に率直な意見を言うと、リリーは赤面して下を向く。
「お前、直球すぎやしないか?いつもこうなのか?」
そんなやり取りを見ていた先生がリリーに聞いていた。
「ニクスはいつもこうなんです。」
「困ったやつですまんな。」
何故か先生がリリーに謝っている。なんで?
「ところで今日は先生が同行してくれるんですね。」
「シスターと村長からのお願いでな。まあ冒険者の頃の護衛以来とは違って遥かに気楽なもんだ。」
どうやら隣村までの移動の護衛兼保護者として先生に白羽の矢が立ったようだ。
本来は親のどちらかか両方が同行するわけだが、僕達は孤児なので基本的に保護者はシスターになるが、当然教会から離れるわけにもいかないのでこうした代理がいつも建てられる。
今回は日頃から僕の保護者にもなっている先生になったという理由らしい。
「アッシェさんよろしくお願いしますね。」
シスターから声が掛かると「お任せを」といつもの様に端的に答えていた。
「アッシェさん、今日はお世話になります。」
「おう、任せておけ。」
そんなやりとりをリリーともしていた。
出発の声とともに、僕達の村からは合わせて6人の子どもとその保護者たちが隣村まで徒歩で移動する。
いつもの早足とは大分違いゆっくりペースだった。
「こんなペースで間に合うんですかね?」
先生に聞くと、隣町までは子どもの足でも1時間掛からない程度の距離なので問題ないとのことだった。
「そういえばこの村と先生の家以外の場所に行くのは初めてた!」と今になってワクワクする要素が出来た。
「この村より少しでかいだけでそうは変わらねえよ。」とあっさりと言われてしまったので露骨な嫌な顔をすると「いつもこんな感じなんですか?」とリリーが興味を惹いたように聞いてきた。
リリーは普段の僕と先生とのやりとりや生活が日頃から気になっていたようでこの移動時間に聞きまくっていた。
先生は嫌な顔一つすること無く、何故かうんうんと頷きながらリリーと意気投合しているように見える。
そうこうしている内に本当にそんな離れていない場所に目的の村が見えてきた。
「確かに先生の言う通り、あまり変わり映えしないですね・・・。」と肩を落とすと「言ったじゃねえか。」と突っ込まれ、それ見たリリーが笑っていた。
村の中心あたりには人集りができており、その中心には簡素な祭壇のようなものが設けられている。
その横にはこのあたりでは見たことがないような立派な服を纏った人物が居た。
先生の話では、国より派遣されてきた文官だそうで下級貴族に当たる人物だという。
「はー、あれが貴族なんだね。」と小声でリリーと話をしていた。
しばらくした後、文官貴族より簡単な祝いの言葉の後、住民登録についての意味を説明され、そして名前が呼ばれる。
名前が呼ばれたものは文官貴族の前まで行き、その文官貴族が手にしている小さな木札のようなものに手を触れることで登録が完了する様子だった。
ちなみに事前の説明では木札の一番上付近に小さな水晶が埋め込まれており、この水晶の色によって自分の『魔法属性』がわかるとのこと。
『魔法属性の色』は次のとおりだった。
火=赤
水=青
土=黄土
風=緑
光=白
闇=黒
一応頭に入れたが僕はブランなのできっと透明なままなんだろうなあと思っているとリリーの名前が呼ばれ、リリーが小さな声で「言ってくるね。」と手を降っていたので僕も手を振り返して見送っていた。
登録をした瞬間、何やら文官貴族が一瞬動揺したように見えた。
何が起きたんだろう?と思っているとリリーが少し小走りに帰ってきて若干驚いた様子であった。
「どうしたの?」と小声で聞く。
「私、光属性だったみたい・・・。それも結構強めな。」と言ったことで僕も思わず「えっ!?」っと出てしまったので慌てて口を抑える。
『光』と『闇』属性については非常に稀な属性であり、特に光属性についてはかなり特殊な魔法である『回復魔法』が使えるようになる可能性を秘めている。
回復魔法が非常に強力に行使できるものはそれだけで身分関係なく国に召し上げられる可能性があるほどの重要な属性魔法であった。
まさかそれをリリーが秘めていたのは予想外だった。
若干動揺していると、今度は僕の名前が呼ばれた。
「頑張ってね」とリリーが小声で言うので笑顔でだけ返しておいた。
はぁ、どうせ無色でブランというものが知れ渡り、また違う意味で文官貴族に驚かれるんだろうなあと、とぼとぼ歩いていく。
「ではニクスよ、この魔道具に手を。」
そう文官貴族に言われ、右手を魔道具と呼ばれた木札に手を伸ばす。
その瞬間、異変は起きた。
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パッと光で当たり一面が見えなくなると思ったら見たこともない真っ白な部屋の片隅に立っていた。
「え!?ここは・・・、どこだ・・・?」
見たこともないような綺麗な部屋に、よく見るとベッドらしきものが見える。
そして、そのベッドの隣では音が鳴っているなにかが動いている。
『ピッピッピ・・・』
音が断続的にその空間で流れている。
全く見たこと無いような光景に胸が以上にドキドキと鳴り、指一本動かせない状態で居た。
よく見るとベッドには一人の人物が寝ている様子であったが、その人物は男なのか女なのかもわからない状態で非常にやせ細りただ苦しそうに「はぁ・・・、ぜぇ・・・。」と苦しそうな息遣いだけが聞こえてくる。
『ピッピッピ・・・』
そのベッドの上にいる人物が呼吸をするたびに自分も苦しくなる感覚を覚え、胸を抑える。
「ぐっ・・・。」
思わず倒れ込みそうになり、視界が一瞬ぼやけたかと思うと今度はそのベッドの人物の周りに見たこともない程の沢山の光の粒が呼吸に合わせるように明滅を繰り返していた。
『ピッピッピ・・・』
風が一瞬吹き、バサッと壁にかかっていた大きなカーテンが揺れると今度はとてつもなく強烈な匂いが漂ってくる。
『死の匂い』
あの猪との戦闘時に初めて嗅いだ、とてつもない匂い。今回はそれを遥かに凌駕するような匂いに思わず鼻を押さえるがそれとは関係なくその匂いは漂っている。
この匂い・・・、あの人からするんだ・・・。直感的に悟る。
不思議なことにその光景を目撃し、理解したことで何故か一筋の涙が頬を伝う。
『ピー・・・』
聞こえていた音に変化が現れたと同時にそのベッドで寝ていた人物からの辛そうだった呼吸の音も止まる。
匂いが一気に消えたと思うと今度はその人物付近で光っていた大量の光の粒が大きくまとまり始め、最終的に2つの大きな光となり、くるくると回転しながら交差しすごい速さで天へと登っていった。
その光景を見た後、ばったりと倒れ気を失う。




