【第15話】お土産
「では、二人とも中にはいってお茶でも飲んでいってください。聞きたいこともありますし。」
シスターに促され、室内に入ると僕の姿を見つけた他の教会に住む友人たちが一斉に声をかけてくれる。
「あ、ニクスだ!帰ってきたんだ!」
「お帰りニクス!大丈夫だった?」
「ニクス、なにかお土産はないの?」
等など三者三様のおかえりを貰う。
「ただいま。皆。お陰様で大丈夫だよ!それにお土産も・・・。」
そう言いながら先生を見ると、「ほれ、これだ。」と言いながらかなり様々な食品が入った大袋が3つ渡してくれる。
「えええええ!?こんなに貰えるんですか!?殆ど素材屋に卸す分かと思っていました。」
あまりの多さに変な声が出るくらいに多かった。なんせ荷車の半分近くに相当する量であったからだ。
「ああ、構わない。食料品には全く困っていないからな。家で腐らせるより、食い盛りのチビどもに食ってもらったほうが良いだろ?まあ、毎度これぐらいってのは難しいとは思うがな。」
そう言い放つ先生に思わず手を合わせ拝む。神様がここにいた。
「馬鹿やってないで、お前も手伝え。」
そう言われ僕も荷物の持ち運びを手伝う。
「ああ、そうだ。これを忘れてた。」
そう言いながら先生はそんなに大きくない両手のひらで持てる位の蓋付きの壺をシスターに渡す。
それを渡されたシスターが蓋を開けると独特ないい香りがする琥珀色の液体が見える。
「あらまあ!蜂蜜ではないですか!?こんな高価なものよろしいのですか?」
そう、その壺に入っているのはまさしく蜂蜜であった。
「ああ、家は定期的に養蜂をしているじいさんから多めに貰えるんだ。それに家じゃあ日常的に使ってるしな。」
先生の言葉に耳を疑う。
「蜂蜜、あったんですか!?全然見かけませんでしたけど!?」
「ああ、あっただろう。それにお前も毎日使ってただろ?」
更に驚き言葉を失う。
「つか・・ってた・・・?料理で使った記憶は微塵もありませんが・・・。」
1週間分の記憶を辿ってみるが蜂蜜を材料に料理をした記憶は1個もない。
「料理?そりゃ食ってないからな?お前、毎日ひぃひぃ言いながら身体に塗り込んでたじゃないか。」
そう言われたことでハッとした。
「ま、まさか!?あの塗り薬ですか!?」
そう、あの独特な匂いのする軟膏のような塗り薬である。
最初は匂いが独特すぎて訝しがっていたが、初日に塗って、二日目の朝のダメージが予想以上に回復してたことにとても驚き、それ以来毎日1日の終りに塗り込むのが日課になっていた。
「ああ、なんだ?気が付かなかったのか?あの軟膏の材料の素材の主な回復成分は薬草と蜂蜜だぞ。」
かなりの量を今まで普通に使っていたので、頭が真っ白になる。
「蜂蜜は薬だろ?」という先生に思わず「違います!」と突っ込んでしまった。
確かに蜂蜜は薬剤としての機能も非常に高いがやはりその魅力は数少ない甘味としての用途だろう。
他のお土産をざっと見た感じ、卵や乳、バターがあったのが見えたのでシスターに相談をする。
「シスター、どうせなら頂いたお土産を使って昼食を作りませんか?どうせなら先生にも食べてもらいましょう。」
その話を聞いたシスターは笑顔を浮かべ「それは良いですね。」と二つ返事で了承を得た。
「一週間ぶりにニクスとお料理できるのは楽しみですね。」
そう言いながら、シスターは是非にと先生を誘う。
シスターに恩があるという先生は、断りきれない様子で、「では、ありがたく。」と答えていた。
先生が冷静に返答している際、若干嬉しそうな笑みを浮かべていたのを僕は見逃さなかった。
「私もニクスとシスターのお手伝いするんだからね!」
そう言っていつものお手伝い枠としてリリーも参戦することになった。
後ろではワイワイと子どもたちが先生から預かった大袋を開け物色している。
「うわ!すごい!こっちは一杯のお肉や腸詰なんかがあるぞ!」
「こっちは野菜が沢山だ!」
「でっかいチーズもある!!」
等などキャイキャイと子どもたちは大盛りあがりだった。
「本当にこんなに沢山頂いてよろしかったのでしょうか?大丈夫ですかアッシェさん。」
シスターは心配そうに聞くが、先生は「問題ないです。」と答える。
「確かに送る分としては多めかもしれませんが、俺はそれに似合うだけのものをコイツから貰ってるので。」
そういうと僕の頭をぐいっと掴んで引き寄せた。何か先生にあげたことあったっけ?
「ニクス、きちんと私との約束通りお手伝いやっているみたいで安心しました。それで、普段はどんなお手伝いをしているんですか?」
そう聞かれ「料理を毎食分作っています。」と答えるとシスターは納得した様子であった。
「ああ、ニクスはとても6才とは思えないぐらい料理が上手でしょう?役に立てたようで何よりです。」
そう言いシスターが今度は僕の頭を撫でてくれる。
そこで初めて、「なるほど。」と納得した。僕の料理はやはり先生の胃袋を握ったらしい。
少しの会話の後、早速僕、シスター、そしてお手伝い枠のリリーの3人で以前のように教会分に先生の分を加えた料理に取り掛かるようにした。
料理が完成するまでの間、先生は一緒に持ってきた素材を一度素材屋に持っていくという。
食後に勘定をしてもらうようだ。
「ニクスー、今日は何を作るのー?」
そう言いながら僕の顔を覗き込むリリーに対し僕は「卵トーストを作ろうと思ってるよ。」と答える。
「それは良いかもしれませんね。主な材料は頂いたものを使いますし、パンも丁度固くなってきていましたので家から出しましょう。」
シスターが僕の返答を聞くなり時間が経ち固くなってきた通称カチカチパンを出してくる。
メニューが決まればいつもの通り手際よく分担をし、リリーが卵を割り、僕はリリーが割った卵の混じってしまった殻を取り除きながら、量を考え乳を入れ混ぜたものをちょうど良い大きさに切り分けたパンに浸し、シスターはフライパンに多めのバターを溶かした後、綺麗な焼きめが付くまで焼いている。
仕上げに今日のお土産の目玉の一つであろう、蜂蜜を少し垂らして完成である。
「出来たー!いい匂いだねえ!」
そう言いながらリリーはお腹を鳴らしている。
「温かいうちに皆で頂きましょう。」
シスターが号令を掛けると、他の教会にいるものが総出で一斉に食堂へと運ばれる。
先生も丁度荷物の引き渡しが終わった様子であったため、僕自身が先生の元へ皿を持って行く。
「温かいうちに食べてください。あと、蜂蜜の美味しさに驚いてください。」
そう皮肉たっぷりで先生に言うと「ほぉ?」と片眉だけ持ち上げて興味深そうに見ている。
「「「いただきます!」」」
久しぶりに大人数で囲う食卓に嬉しくなる。
卵トーストを口にした者たちは皆、普段は食べれないものに歓喜していた。
先生はと言うと、あまりに美味しかったのだろうか、固まっていたと思ったら蜂蜜を凝視していた。
きっと今後蜂蜜は全て薬になることは無いだろうと悟った。やったよ!今度から蜂蜜が調味料で使えるよ!!
昼食会は大好評のうちに終わる。
昼食後、僕は溜まってしまっていた洗濯物を洗いに大急ぎでリリーに手伝ってもらいながら洗濯をする。
シスターと先生は食後のお茶をするようだった。
________________________
「それで、どうでしょうニクスは?やっていけそうですか?」
お茶を飲みながらシスターがアッシェに静かに聞く。
「問題はないどころか、先程も言ったように助かっています。」
アッシェもお茶を飲みながら返す。
「訓練の方はどうですか?」
シスターが心配そうに聞くとアッシェは考えている様子であった。
「ニクスは今まで特に訓練等は行ったことはないんですよね?」
そうシスターに確認を取るとシスターも疑問に思った様子であった。
「ええ、確かにそのはずです。知識欲や興味が非常に強い子でしたので勉学は人の何倍も努力し、それを吸収している様子はアッシェさんもご覧になったかとは思いますが・・・。」
その言葉にアッシェも頷く。
「確かにあの貪欲なまでの知識欲はあの年齢にしては驚きますね。」
シスターも「ええ。」と頷き返す。
その返事を見たアッシェはこうも続ける。
「頭もいいですが、身体のセンスも抜群に良いですよ・・・。正直あそこまで粘り、そして今この場でピンピンしているのが不思議なくらい頑丈で精神面も強い子です。」
アッシェは手に取ったお茶の入ったカップを見つめながら続ける。
「以前俺が冒険者を現役でやってた頃、持ち回りで新人に訓練をつける役というのがありました。」
それを静かに聞くシスター。
「当然今のニクスと新人冒険者では年齢が違いますので全く同じ内容だとは言えませんが、似たような訓練を新人冒険者数名にしたことがあります。」
「それで、その新人冒険者の方はどうなったのですか?」
シスターが若干顔色を悪くしながら聞く。
「全員2日も持たず、冒険者をやめ、田舎に帰っていきました。」
更にシスターの顔色が悪くなる。
「で、ではニクスは・・・?」
お茶を口に運び「ふぅ」と一息入れたアッシェは答える。
「あれはきっと最後までやり遂げますよ。」
アッシェのその言葉にシスターは安堵したような不安感で押しつぶされそうな複雑な気持ちになる。




