【第12話】悲鳴をあげる身体【午前の部】
「ああああ!足、足が!裂けてしまいます!!!」
思わず叫ばずには居られないほどの状態であった。
「大げさに叫ぶんじゃねえ。それにこの程度で裂けやしねえよ。」
先生は冷静な表情で僕の身体を押し、強制的に伸ばしている。
「僕が知ってるストレッチじゃありません!」
「じゃあ、はじめましてだな。それよりも息を吐け。」
淡々と言われ突っ込みたくもなるがそんな余裕は微塵もない。
「ふぅーーー!」
言われた通りに息を吐くと先生は更に体重をかけて伸ばしてくる。
「うううううぅぅぅ!!」
この様な過酷なストレッチを朝食後から3時間程度ずっと行っていた。
「ふむ、これで身体がいい感じに温まってきただろう。」
爽やかな笑顔で聞いてくる先生。
「足・・・、足は付いてるますよね・・・。」
プルプルと小刻みに震えながら確認してみる。
「阿呆か、こんなんで簡単に取れやしねえよ。それとも試してみるか?」
「結構です!」
「おう、まだ元気だな。じゃあ少し水分補給したら次行くぞ。」
そう言いながら水筒代わりの竹筒を渡してくる先生。
「ごく!ごく!ごく!」
まだストレッチしかしていないというのに異様に汗を流していたし、喉も渇いていたのでありがたくその水筒の水を飲む。
「つ、次は何をするんです・・・?」
恐る恐る次のメニューを先生に聞く。
「次は走る。それだけだ。」
そう言うといつの間にか手に木剣らしきものをしている先生。
「も、もしや・・・?」
「おう、遅かったら尻をこれで叩くからな。」
先生が端的に言う。
「さあ、休憩は十分だ。行くぞ!」
早速、木剣を振り上げて来るので急いで僕は走り出す。
「ひいいい!」
「でたらめに走るなよ!手を大きく振り、足はしっかり上げろ!それに呼吸を意識しろ!」
そう言われ、なるべく言われたことに注意を払いながらただひたすらに走る。
だが予想外だったのはただ平坦な道を走るのではなく、若干勾配があるある様な道であったため呼吸をするたびに肺がはち切れそうな感覚を覚える。
「しっかり息を吸って、しっかり吐き出せ!」
ある程度のところまで来たところで再び小休止が入り、今度は来た道をひたすら戻っていく。
今度は行きとは違い下り坂であったため、想像以上に足への負担が大きい。
「ぐううう!!」
なんとか気合でスタート地点まで返ってくることが出来た。
「ぜはぁ!はぁ!はぁ!」
言葉も出ず汗と同時にヨダレと鼻水も出ているがそれを気にする余力もない。
「よし、昼休憩だ。」
そう言った先生は一緒に走っていたはずなのにも関わらず、呼吸が乱れるどころか汗一つ流していることはなかった。
「で、昼飯はどうするんだ?」
朝ごはんで味が良かったことを気に入ったのか、先生が「早く準備しろ」と言いながら急かしてくる。
「台所に・・・はぁ、二人分置いてありますので・・・はぁ。」
息も絶え絶えに答えると、先生は「仕方ない」と言いながら取りに行ってくれた。
昼ご飯のメニューは、軽食といった感じでパンに具材を挟んだサンドと朝食の残りのスープであった。
「スープが冷めているようだが?」
貸してもらった手ぬぐいで汗などを拭くのに精一杯の僕を見ながら不満げに言う。
「本当なら僕が温め直す予定だったのですが・・・。」
こんなに午前だけでへばるとは正直思っても見なかった。
「まあ、温めるくらいならやってやるか。」
先生が少し不満げに言うと、唐突に指をパチンと鳴らす。
すると不思議なことにスープが火にあたってもいないにも関わらず、「グツグツ・・・」と沸騰し始める。
「えっ!?」
今まで見たことがないその光景に思わず先程までの疲れも一気に吹き飛び、温かくなったスープを凝視する。
「ん?魔法を見るのは初めてじゃないだろう?」
そう先生が不思議そうな質問をしてくる。
確かに魔法を見るのは初めてではない。
僕達が生活を送るうえでは魔法は必須だ。
といっても普段使っているのは火種を起こす魔法や明かりを灯す魔法、一部を洗浄したりする魔法、すなわち『生活魔法』と呼ばれるものだ。
この生活魔法は、特別な属性を有し無くても、マナのコントロールさえ出来れば練習次第で出来るようになる魔法でありそれ故、生活を送る上で欠かせない術となっている。
「『生活魔法』・・・、じゃないですよね・・・?」
座り直し、食事を受け取りながら先生に質問する。
「ああ、そういうことか。」
先生は納得した様子で説明をしてくれる。
「食いながら話そう。」
「はい、いただきます!」
食事の最中、先生が説明をしてくれた。
「さっき使ったのは、『生活魔法』ではない。俺の『属性魔法』の応用だ。」
「『属性魔法』!初めて見ました!!」
以前、宝物と呼び毎日擦り切れるほど読んでいた『魔法書・基礎理論』に書いてあったものに興奮を覚える。
「『魔法の属性』についてはわかるか?」
先生の質問に「はい!」と勢いよく答え、自分が知る知識を話した。
「『魔法の属性』とはすなわち、基本四元素である『火』・『水』・『土』・『風』があり、更にそこに『光』と『闇』を加えた合計6つの属性ですよね?」
「さすが本の虫、正解だ。」
相変わらず若干引いたような顔をしているのが気になる。
「さっき先生は応用って言ってましたが・・・、もしかして『火』属性の応用ですか?」
「うーん?」と考えながら先程の事象と先生の『属性魔法の応用』という言葉から推察してみた。
「流石にそこまで言い当てるのは予想外だ。そうだ、さっきのあれは『火』属性の魔法の応用で熱だけをコントロールしたものだ。」
先生は素直に驚いたと良い、話を続けてくれる。
「俺は元々『火』属性の魔法が得意だったんだが、更に得意だったのがこの『熱』に特化させた魔法だったのさ。」
先生はそう淡々と語りながら温かくなったスープを美味しそうに飲んでいる。
「はー。やっぱし魔法はすごいですねえ。」
つられて僕もスープを飲む。
「『魔法』の使い方は何も属性だけの話ではない。むしろ応用を効かせることが最も重要だからな。まあ、これ以上は秘密だ。」
先生はそう言いながら早々に食事を終え片付け始めている。
「えー、もっと聞きたいです!」
そう、言っては見たが先生から端的に「だめだ。」と言われる。
「どうせお前のことだ、少しでも時間を稼いで休憩時間を長くするつもりだろう?」
「そんなにせこいことはしませんよ!」
とは言ったものの、実は内心若干狙っていたのを見透かされてドキッとしたのはここだけの話。
「さあ、続けるぞ!」
その声に頭が真っ白になった。




