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黒砂の光  作者: 馬ノ やすら
第一章~少年編~(全47話)

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【第10話】基本なはずの食事

アッシェ師匠もとい先生から今後の方針を聞き、気分を入れ替える。


「そうだ、何事にも理由はあるんだ。これから頑張るぞ!」


そう意気込んでいると、後ろから先生がこれから夕飯の準備をするので今日は適当に時間を潰していてほしいとのことであった。


正直、今まで暮らしていた環境とはまるで違うことに戸惑いよりも興味のほうが勝っていたのでこの家や作業場を見て回ることにした。


「先生、当然触ったりはしませんからこの家や作業場を見学してもよろしいですか?」


そう聞くと、先生は少し強めな声で答える。


「狩りに使うぐらい危ない道具も当然あるから、絶対触ったりするなよ?最悪、触った手が飛ぶからな?」


確かに、狩りに使う道具なのだ。触った瞬間に発動するような仕掛け罠などだった場合、下手をすると触った瞬間に作動したら簡単に腕ぐらい飛ぶだろう。


その瞬間を想像してしまい、鳥肌が立つ。


「わ、わかりました・・・。見るだけにします。」


そう答えると先生は「おう、そうしろ。」と軽く答える。


職人等の場合、自分の職場を下手に詮索されるのを好まない者は多いとは思うのだが、アッシェは年齢以上にニクスが大人びていて、かつ子どもらしからぬ冷静さを持っていると今までのやりとりから感じていることからも問題はないだろうと考えたようであった。


「うわぁ!本当に本の中でしか知らない、見たことがないものばかりだ!」


ワクワクしながら家や作業場を警告通り決して触らずに見ているだけでも、今までは本の中では情報として知ってはいたものがいざ、眼の前に実物があることに興奮を覚える。


ざっと、見た感じだけでも罠だと思われる物や獲物から剥ぎ取って綺麗に処理されている毛皮や皮のなめし台等、壁には道具を修理するために使うであろう工具類が見て取れた。恐らく刃物類は安全性から何処かにしまってあるのだと思われた。


「あれ?」


一通り作業場などを見終わった時点であることに気がつく。


「先生、弓は無いんですか?」


そう、先生の家には狩人なのにも関わらず弓や矢が存在していなかった。


「弓?ああ、俺は弓は使わない。ほぼ罠猟専門だ。」


そういう狩人もいるんだと狩人=弓だと勝手に思い込んでいた自分を少し恥、思い直す。


「というか、俺は弓は元々大の苦手で専門外だし、それにこの足じゃ弓の形が取れないだろう?」


そう言われ納得した。そう言われなければ全く考慮に入らないぐらい、普段の先生の動きは片足が義足だなんて思えない。

これもまた何かの技術なんだろうと思った。


「あれ、じゃあ先生は冒険者時代はどうやって戦ってたんです?」


そう言われたアッシェは、「ああ・・・。」と言いながら顎で一点を指す。

そこにはこの村でも比較的目にする武器、剣が立て掛けてあった。

だがそれはより良く目にする剣よりも幅が広いように感じた。


「この剣はブロードソードですか?」


以前冒険者関連の本を読んだ時に見かけたことがあり、剣にも色々あるんだと感心したことがあった。


「お前、本当によく知ってるな?それも本の知識か?」


先生は少し引いた様な顔でこちらを見ながら問いかけてくる。


「はい、そうですね。」


「それにしてもお前、貴族や裕福な家庭でも無いのに良くそんな本を読む機会があるな。」


アッシェの疑問は当然であった。

当然のようにニクスは本からの知識だと言うが、この『アプロディア』では手書きの写本が一般的でまだまだ本は貴重品だ。素材の紙も一般的ではなく、貴重品に分類される。


「ああ、それはシスターが昔使っていたという本を引き取って来て、書庫に入れてるんですよ。数は多くないですし、本ももう元々ぼろぼろになった様なものばかりでしたが。」


そう、僕が読んだ本は全てシスターが持っていたものだった。


「シスターか・・・。なんでそんなに本を持ってるんだか?」


確かにこれも自然な考えで普通、教会や孤児院で働いているようなものにとっては本との関係は無縁だろう。


「確か昔、大きな学校で先生をしてたらしいですよ。」


かなり前だが、勉強の最中にそんなことをシスターが懐かしそうに話していたのを覚えていた。


「ああ、納得だ。教師だったのならあの頭のキレや本を持っていることもわかるな。」


先生は何やら一人でうんうん、と納得している様子だった。


「まあでも、お前が元々読み書きできるって言うならこちらも非常にありがたい話だ。」


先生が唐突にそんな事を言いだした。


「なぜです?」


「冒険者にとって読み書きは勿論、最低限の算術が必須だからだ。俺はとてもこれらを覚えるのに苦労したもんだ。」


冒険者にとって読み書き、算術は必須なものであった。読むことが出来なければ、依頼票に何が書かれているのか理解できないし、書けなければ依頼終了時のサインも書けない。加えて算術が出来なければ最悪、依頼費用を誤魔化されて、しかもそれに気が付かないこともあるからだ。


「当然お前のことだから・・・」

そう先生が聞いてきたところで、若干食い気味に「シスターに教わりました!」元気よく手を上げながら答える。


その姿を見た先生が怪物でも見たかのような、顔を引きつらせていたのが納得できない。


「まあ、良い。そろそろ夕飯だ。」


「わーい!」

素直に喜んでいると、「やっぱし6才の子どもか。」と何故か先生が安堵している。解せぬ。


せっせと夕飯を運ぶお手伝いをしたが、何やら不穏な雰囲気を感じていた。


んんん??まさか・・・???


そんなことを思っていると先生が「さあ、食うぞ。」と先に食べ始める。


それに釣られ、僕も「いただきます!」とお腹が減っていたので元気よく挨拶した後メインディッシュであろう肉から食べ始める。


ぐぎぎぎ・・!

か、硬い・・・!


ブチンと切れたところで味わってみるがなんとも言えない表情になる。


「ん?どうした?食材だけは一杯あるんだ。たらふく食っていいぞ。」


先生はそう言ってくれるので、スープなども口に入れる。


うっ、しょっぱい・・・!?


慌てて水を飲む。


「ごく!ごく!ごく!」


「なんだ?喉にでも詰まったのか?」


そう先生に聞かれ素直に答える。


「先生、料理苦手ですよね?」


率直な感想に先生は「うっ!」っと喉をつまらせた様子で咳き込んでいる。


やはり・・・。

運んでいたときから何か違和感があったのだ。


「お、お前!飯を食わせてもらうだけでもありがたいっていうのに味に文句言うのか!」

そう言って先生は逆ギレ気味だった。


「確かにご飯をいただけるだけで本当に嬉しいです!感謝します!でも味がいまいち過ぎます!」

もうこの際だと直球に返答することにし、更に加えて提案をした。


「先生!僕に料理番をさせてください!」


その言葉に思わず「ブッ!」っと吹き出す先生。


「お、お前何を・・・、いや、まさか・・・。」


そのまさかである。


「はい!教会での料理番はシスターと僕、後お手伝いでリリーがやってました!」


あくまでリリーはお手伝いという点がポイントだった。


「なんつう生活してたんだ、お前・・・。」


やはり顔を引きつらせている先生。解せぬ。


「僕はブランだったので、やれることをやってたまでです。それに味の評判もすこぶる良いんですよ?」


「理解できるような出来ないような・・・。」


呆れたとしか言えない表情の先生であったが、先生からの一言で少し考える必要が出てきた。


「お前、明日の朝から日が暮れるまでの間、今までとは全く違う生活になるんだぞ?しかもトレーニング後じゃまともに動けないだろう?」


確かにその通りだった。

今まではそのような過酷なトレーニングはしたことがなかったし、ましてやそんな状態の後、料理をしたことはなかった。

そこで少し「うーん・・・」と考えた後提案をする。


「ではこうしましょう!朝と昼については僕が早起きして2人分を同時に作ってしまい、昼はそれを温めるだけで食べれるようなものを作ります!」


「夜はどうするんだ?」


その問いにもばっちりと答えた。


「夜は朝のうちに同時に仕込みだけ行っておいて、焼くなり煮るなりの最後の工程前まで進めておきますので、先生がそれを使って仕上げてください!」


そう、全て事前に準備をしておいて、万が一動けなければ、最後の工程だけは先生に頼めば良い。

そこで多少の失敗はあるかもしれないが、基本的な味付けについては自分で済ませているので今日の様な、大失敗!というようなことにはならないだろうと考えた。


「お前、それじゃあ朝一番で計6食分近く作ることになるが・・・?」


先生がそう切り出したところで「何が疑問なんです?」と返す。

「だって教会に居た時は毎食、それ以上の人数分の料理を作ってたんですよ?」

当たり前のことを言って返す。


「お前本当に6才なのか・・・?」

そう言って先生は僕の頭をグリグリとし始める。


「い、痛いです・・・!」


「いや、すまんな。今まで戦ってきたどんな魔獣よりもお前のほうが恐ろしいかもしれん。」


「その感想は予想外です!」


そう言って今日の作ってもらった夕飯はなんとか胃の中に押し込み明日の早朝からの準備に備え、早々に寝ることにした。


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