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第4話 舞踏会と楽師と不意の囁き

本日二度目の投稿になります。続けてお読みいただけることに感謝しております。少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 夜会用の広間は、燭台の灯に照らされて華やかに輝いていた。

 この夜、侯爵家が主催する小規模な舞踏会に、エカテリーナとマリアは招かれていた。


「見てマリア! ドレスも髪飾りも完璧でしょう? 今夜こそみんなの視線を集めてみせるわ!」


「ええ、とてもお似合いです。お嬢様の輝きに、誰も目を逸らせませんよ」


 マリアは穏やかに言いながら、エカテリーナのリボンの端を整える。そんなやりとりの最中、会場の端で楽の音が響き始めた。

 弦をつま弾く繊細な旋律。人々のざわめきの中でも、確かに耳をとらえる澄んだ音色だった。


「……あの楽師は?」


 マリアが視線を向けた先にいたのは、二十代半ばほどの青年だった。濃い栗色の髪を無造作に流し、黒い衣装に身を包む姿は舞踏会の客よりもむしろ舞台の主のように際立っている。瞳は深緑に輝き、演奏に集中しているのに周囲を圧倒する雰囲気を纏っていた。


「素敵……! あの人、楽師なの?」

 エカテリーナがぽつりと呟く。だが青年の視線は、演奏の合間にふと上がり――マリアと交わった。


 彼は曲を終えると、すっと立ち上がり、観客の中を迷いなく進んでくる。

「公爵家のメイド長殿でいらっしゃいますね」


「……私に何かご用ですか?」

 マリアは一歩下がり、丁寧に会釈する。


「私の名はダリオ・ロッシ。旅の楽師です。音楽は人の心を映すもの……今宵、あなたを見ていたら、どうしても声をかけずにはいられませんでした」


 低く響く囁きに、マリアは瞬時に眉を寄せる。舞踏会の場で、いきなりそんな口説き文句を投げかけられるとは思いもよらなかったのだ。

 エカテリーナは隣で「え? え? どうしてマリアなの!?」と目を丸くしている。


「……光栄ですが、私はただの使用人です」

「その立場に関わらず、あなたは輝いている。弦を奏でていると、不思議とあなたを思い浮かべるのです」


 マリアは冷静に微笑んだものの、内心では(またですか……)と大きなため息をつきたい気持ちを抑えていた。

 会話の様子を周囲が面白そうに見守り、エカテリーナは頬をふくらませて椅子を蹴る。

「もう! なんでマリアばっかり!」


 舞踏会の喧騒の中、また一人、新たな青年がマリアに惹かれてしまったのだった。




短い間に続けて読んでくださり、本当にありがとうございます。立て続けの更新ですが、少しでも楽しんでいただけていれば嬉しいです。次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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