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1-1

最初の記憶はわけがわからなかった。

温い液体に包まれ数か月、気づけば俺は終わっていた。


2度目から10度目まではいずれも似たようなものだった。

母親から産み落とされ、10を数えぬうちに流行り病で命を落とす。


生きる度に別の親と巡り合い、彼らから言葉を教わった。

そうして、俺は「自我」とも呼ぶべき思考の基盤を育んだ。


とはいえ、親の庇護下にて死ぬことを人生と呼ぶのは憚られる。

それらの過程に於いて、私はなにも選択していないのだから。

選んだことといえば精々、その日は何が食べたいだとか、明日は誰と遊びたいだとか。

貧しい農村が殆どだったので、選択肢もたかが知れていた。


人生を歩まずして、記憶だけが積み重なっていく。

気付けば俺は、一度も大人にならぬまま半世紀以上過ごしていた。


故に、11度目。

ケルサス・シルウィアとして生を受け、10度目の誕生日を重ねた時。

50年以上の人生の中で初めて、俺は自由意志を持ったんだ。



「なあ、ボニー」

「なんです、兄上」


「俺、初めてだ。15歳になったの…」

「それ、毎年言ってますよね。呪いかなにかですか?」


呆れたような口調。

当然だ。俺は毎年、新しい年齢を噛み締めていた。

とりわけ、今日は格別だ。


15歳。この国では、それは大きな節目の歳だ。

所謂成人。家長の庇護を抜け、一人の大人として認められる歳。

そこそこの爵位を持つシルウィア家においてもそれは例外なく、今夜は大規模に祝されることが決まっていた。

そして。だからこそ、その誕生日は悲哀にも溢れていた。


「…ほんとに明日、発つんですか」

「教会からの託宣だ。それ以外ないだろ」


託宣。

それは「神の声が聞こえる」異能を持つ神父によって下される預言であり、

時として王の命令や法律すらも超越した権限を持つ決定事項。

通常、国の重要な決定や戦争の調停、或いは世界規模の災害に対してのみ発布されるその力が、個人に向けられることはそう多くない。

代わりに、向けられた個人は例外なく英雄となる。

故に一般的には、託宣を賜ることはこの上ない名誉であった。


…俺に下された託宣は「成人と共に家を出ること」

そして「1年以上定住しないこと」である。


その意味するところはわからない。

だが、従わない理由はなかった。


「でも、兄上は……長男です。なんで」

「お前が居てよかったよ。少なくとも、家が消えることはない」


親に恩義はあり、情もある。

だが、親の数は既に20を超えていた。

だからこそ、文字通りそれは天啓とも呼べるものだった。


自由に世界を歩きたい。

それこそが、長くはないが数多い記憶の中で、俺が抱いた願いだった。


「ボニー。お前がいるから安心してるんだ。あとは任せたぜ、な」


別に、託宣にそんな命令は一つもなかったのに。

俺はもう二度と、こいつらに会えないと直感していた。

明日家を出て、それで最後。

この先、道が交わることはないんだろうという、ぼんやりとした確信。

悲しいが、それだけだ。15年の年月は、信頼を抱かせるに十分だった。

親は、弟は。俺がいなくても生きていける。


翌朝、屋敷の誰もが起きる前に、俺は外へと飛び出した。



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