職員2.劇作家
契約とは、悪意である。
搾取の機構。欲の詰まった無機質。
である以上、本質的に等価など起こり得ない。
「…ですが。例外はあります。ええ、あるのです。例えば。そう、神が如きものならば!」
「詭弁は止めろ、度し難い。仮の人格同士で詰り合いなぞいい笑い者だろ」
嫌悪感は拭えない。
だが、その表出こそ愚かであると、確かに私は心得ていた。
「フフ…ええ、確かに。ただ…全てが詭弁、ではないでしょう?価値観の違う両者であれば、ええ、時に等価は起こり得る」
「度を超えた不等も時に、な。どうあれ、それは私の領分じゃない。お前、本分を忘れるなよ」
この忠告が、領分を超えたものとはわかっている。
だが、現状が少なくとも人類の不利益にしかならないことも確かである。だから、言わざるを得なかったのだ。
「ええ。忘れたことはありませんよ。我々は…ええ。人類のために、あるべきでしょう」
◇
最後の記憶はなんだったろう。
死に、我に返り、自覚する。
「その顔は…ええ、後悔、ですかな?そうお気に病まれるな。ええ、痴呆ばかりは、人の手に余る領分にて」
いつから居たのだろう。
男は気付けば側にいた。その超然とした雰囲気は、それが神だと私に悟らせる。
「…お恥ずかしい限りです。この歳になっても、いえ。死んで尚、悔恨は消えないらしい」
「ええ。それが人です。だが…ええ、それを掬うのも、吾輩の責務なれば」
「と、言いますと?」
「授けましょう。ええ、異能を。あなたが次の人生を、よりよいものと出来ますように」
異能。
生まれたときに授かる、不思議な力。
強度には個人差があり、強大なものともなれば、文字通り世界を覆し得るという。
授かる条件はまだ分かっていなかったはず、だが。
「……なるほど。では、貴方が?」
「流石。察しがいいですな。ええ。正解です。全ての異能は、是、全て吾輩の差配にて。アナタの場合は……そうですね……決して忘れることのない記憶力…なんてどうでしょう?」
「願ってもないことです。それが私の、唯一の未練ですから」
私は、概ね、満足した人生を送った。
仕事も、趣味も、友人も。全てに恵まれていた。
そう。末期の自分自身を除いて、私に不満などなかったのだ。
「ですが、対価はあるのでしょう?でなければ、全人類が異能を持っているはずだ」
そう。神が真に”掬う”ことを、目的とするのなら、人類は皆掬われて然るべきだ。
死後に悔いが消えないことを人と呼称するのなら、猶更に。
「ええ。まァ…大したものではない。神は全知であるべきですが……吾輩、多忙にて。ええ、つまり、伝えていただきたいのです。次の死後、貴方の記憶をね」
成程、それは道理だった。
神とて人格があり、すべきことがあるのなら。
全知全能には努力が要る。
それは道理だ。ただ…道理を覆し得るからこその全能では?
そんな疑念を握りつぶす。
不要な詮索だ。願ってもない、ことなのだから。
「承りました。私なぞの一生でよければぜひ、貴方の目に成らせていただきたい」
そう答えた瞬間、目の前が真白に塗り潰された。
「確かに。ええ、確かに聞き届けましたとも。良き人生を。それが、我々への贄となります」
我々…?と考える暇もなく。
私の思考は漂白した。




