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職員2.劇作家

契約とは、悪意である。

搾取の機構。欲の詰まった無機質。


である以上、本質的に等価など起こり得ない。


「…ですが。例外はあります。ええ、あるのです。例えば。そう、神が如きものならば!」


「詭弁は止めろ、度し難い。仮の人格同士で詰り合いなぞいい笑い者だろ」


嫌悪感は拭えない。

だが、その表出こそ愚かであると、確かに私は心得ていた。


「フフ…ええ、確かに。ただ…全てが詭弁、ではないでしょう?価値観の違う両者であれば、ええ、時に等価は起こり得る」


「度を超えた不等も時に、な。どうあれ、それは私の領分じゃない。お前、本分を忘れるなよ」


この忠告が、領分を超えたものとはわかっている。

だが、現状が少なくとも人類の不利益にしかならないことも確かである。だから、言わざるを得なかったのだ。


「ええ。忘れたことはありませんよ。我々は…ええ。人類のために、あるべきでしょう」



最後の記憶はなんだったろう。

死に、我に返り、自覚する。


「その顔は…ええ、後悔、ですかな?そうお気に病まれるな。ええ、痴呆ばかりは、人の手に余る領分にて」


いつから居たのだろう。

男は気付けば側にいた。その超然とした雰囲気は、それが神だと私に悟らせる。


「…お恥ずかしい限りです。この歳になっても、いえ。死んで尚、悔恨は消えないらしい」


「ええ。それが人です。だが…ええ、それを掬うのも、吾輩の責務なれば」


「と、言いますと?」


「授けましょう。ええ、異能を。あなたが次の人生を、よりよいものと出来ますように」


異能。

生まれたときに授かる、不思議な力。

強度には個人差があり、強大なものともなれば、文字通り世界を覆し得るという。

授かる条件はまだ分かっていなかったはず、だが。


「……なるほど。では、貴方が?」


「流石。察しがいいですな。ええ。正解です。全ての異能は、是、全て吾輩の差配にて。アナタの場合は……そうですね……決して忘れることのない記憶力…なんてどうでしょう?」


「願ってもないことです。それが私の、唯一の未練ですから」


私は、概ね、満足した人生を送った。

仕事も、趣味も、友人も。全てに恵まれていた。

そう。末期の自分自身を除いて、私に不満などなかったのだ。


「ですが、対価はあるのでしょう?でなければ、全人類が異能を持っているはずだ」


そう。神が真に”掬う”ことを、目的とするのなら、人類は皆掬われて然るべきだ。

死後に悔いが消えないことを人と呼称するのなら、猶更に。


「ええ。まァ…大したものではない。神は全知であるべきですが……吾輩、多忙にて。ええ、つまり、伝えていただきたいのです。次の死後、貴方の記憶をね」


成程、それは道理だった。

神とて人格があり、すべきことがあるのなら。

全知全能には努力が要る。

それは道理だ。ただ…道理を覆し得るからこその全能では?

そんな疑念を握りつぶす。

不要な詮索だ。願ってもない、ことなのだから。


「承りました。私なぞの一生でよければぜひ、貴方の目に成らせていただきたい」


そう答えた瞬間、目の前が真白に塗り潰された。


「確かに。ええ、確かに聞き届けましたとも。良き人生を。それが、我々への贄となります」


我々…?と考える暇もなく。

私の思考は漂白した。

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