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作者: 華梶ゆう

猫。

猫はどんなイメージかと聞かれたら大抵の人はかわいいだの利口そうだの、暗闇にいると目が光って怖いだのと答えるだろう。

かわいい見た目をしているため飼っている人はたくさんいる。でも私は猫が嫌いだ。あの気まぐれで、何を考えているか分からないような目をして周りを見渡し、いきなり消える。そんな動物のどこがいいのかさっぱり分からない。

私は猫のようなあいつが嫌いだ。何をするにしても自由気ままに動き、不真面目で、しかし見た目が可愛いため他の人からは人気。それが猫宮結菜。クラスメイトだ。

彼女とは幼稚園の頃からの幼なじみだ。昔から猫のような人だった。年長さんの頃だろうか。先生が縁側に寝転んでいる結菜に一緒に遊ぼうと声をかけた。しかし結菜は何も答えなかった。ただただこちらを見るばかりで、何を考えているのか分からない。そして少し経ってから首を横に振り部屋に戻ったのだ。その時先生も言っていたが、本当に猫のような子なのだ。

小学生、中学生に上がるにつれ、瞬時に答えないというのは減ったのだが、相変わらず猫のような子だった。結菜はいつもたくさんの人に囲まれていた。大体他愛のない話をしていて、友達感覚の人が多かったのだが、もちろん彼女に好意を寄せる人も少なからずいた。その度に彼女は断っていたが。

「なんでいつも告白断るの?」

幼なじみだからなのか、普通に家が近いからか分からないが、帰りはいつも私と帰っていた。しかも二人で。昔から嫌いは嫌いだったが、よく話す子ではあったため、ほとんどの時間を結菜と過ごしていたと思う。

「んー、好きって言われて嬉しく無いわけじゃないけど、私はそういう意味でその人のこと好きじゃないからかなぁ…。」

と至極真っ当な意見を言われる。そりゃ好きではない人と付き合うのは大変だろう。

「好きな人いないの?」

「私は好きっていう気持ち分からないもん。」

にこっと笑う彼女のその顔を私にしか見せたことがない。

「今日この後どっか寄らない?」

「用事あるから無理。」

ごめん、急ぐねと付け加えて電車に私たちは乗った。

私は結菜が羨ましい。



私の幼なじみはとてもクールで、格好よくて、いつも頼りになる自慢な人だ。一条純夏。純夏には昔から猫のような人とよく言われてきた。自分でも分かっている。かわいくて、自由気ままに動いて、気分によって色々変わる。羨ましい。何度言われてきたことか。でも、私は純夏が羨ましかった。

私の家はいわゆる放任主義で、小言を言われたことなんてないし、自由に過ごしている。だけど、心配なんてされたことないし、ご飯とかも一緒に食べたことなくて、冷めたものがあるだけ。昔から愛されたことなんて一回もないし、よく親子の愛などテレビで流れたりしているけどそんなの一度もない。自由って一見いいものって思われるけど実際はその逆。いい事ばかりではないってこと。

純夏には純夏なりの苦労があることはもちろん分かっている。純夏の家は私とは逆に厳しい家庭なのだ。習い事もきっちりやらなきゃだし、勉強も運動も出来なきゃいけない。そうじゃなければ一家の恥だと言われてしまう。遊ぶことなんてほとんど許されたことなんてなかった。小学校の頃はその事について愚痴を聞いていた。かわいそう、がんばってね、なんて薄っぺらい言葉を並べても意味の無いことは分かってるし、純夏が報われることにはならないことも分かってた。でも、その一瞬に見せる純夏の笑顔を絶対に守らないといけないと思っている。

また今日も多分何かしらのことをしなきゃいけないのだろう。

私は純夏が羨ましいけど、もっと一緒にいたかった。


小学生の時だろうか。私が純夏と初めて一緒に帰った時だ。幼稚園の頃から純夏からの視線には気づいていたけど、私はあの時自分の存在意義が分からなくて、誰かとの絡み方も分からなかった。だから小学生に上がってから、少し過ごしやすいような環境に落ち着いたため、純夏に声をかけた。

「純夏ちゃん。一緒に帰ってくれないかな?」

純夏はびっくりしたようで肩をビクッと震わせてた。それからこっちを見てニコッと笑い、

「もちろん。」

と言った。

帰り道はとても静かだった。私たちはどっちも人見知りみたいな感じで、何を話そうかとお互いを探りあってるみたいな。そんな感じも面白かった。

「え、えっと…純夏ちゃん今日って遊べる?良かったら一緒に…」

「今日は家庭教師が来るみたいだから無理なの、ごめんね。」

その時に純夏の家庭事情を聞いた。

「まぁしょうがないよね。子は家を、親を選べないわけだし、それがシュクメイってことよね。」

「純夏ちゃんの言ってることよく分からない。」

「えっと…絶対そうなるってこと?」

「過去が変わったら違かったかもよ?」

純夏は言葉を詰まらせたみたいで、頬を膨らました。

「そうね。でもいいの。私が我慢すれば大丈夫だから。」

そしてニコッと笑って、私に言った。

「私、結菜ちゃんのこと嫌い!」


ねぇ、純夏今でも私のこと嫌いかな?



中学生に上がってから結菜は人との接し方に慣れたみたいで、私以外にも話す人が多くなった。

「結菜ちゃんかわいいね。」

「結菜ちゃん、どこのやつでメイクしてるの?」

「結菜ちゃんの髪型いいなぁ、真似しようかな。」

そんなことを言ってくるクラスメイトに結菜はふふっと笑うとこう言っていた。

「そんな大したものじゃないよ。」

この頃の私たちは一緒に帰るも、話すことは本当になくて、でも一緒にいることは必然みたいな感じの関係だった。

「結菜、帰るよ。」

「うん、わかったぁ!」

ニコニコしながら私の方を向いて、鞄を持つ。

「結菜ちゃんってなんで純夏ちゃんと仲良いんだろうね?」

クラスメイトの誰かがそんなこと言っているのを何度も聞いた。「二人って正反対だよね」と。

勉強ができるけど愛嬌がない私と勉強は出来ないけど愛嬌がある結菜。確かに全然違う。

「結菜、別の人と帰りたかった?」

「なんで?」

「私じゃなくて他に仲良い人たくさんいるし…」

「純夏ちゃんの傍が一番落ち着くからいいの。」

私はふーんとうなづく。あんまり分からない。

「それに純夏ちゃんは……やっぱりなんでもない。」

そう言って結菜は楽しそうに笑った。

「何隠してんのよ。」

じーっと結菜を見ると、結菜は首を振って

「なんでもないの。」

と可笑しそうにまた笑った。



高校生になってからますます純夏は忙しくなり、ついには倒れてしまった。

「純夏…大丈夫?」

「平気よ…ただの寝不足よ。」

救うことができるのであれば。

「純夏、一緒に家出しよう!」

純夏は少し驚いた表情を見せながらもにこっと笑った。

その日から私と純夏の逃亡生活が始まった。まずは食料確保のため私の誰とでもすぐ仲良くなれる長所を生かし、あちこちで人から大量に食料を貰った。服は最低限の二枚ずつ持って、コインランドリーで洗濯する。住むところは車の通らない脇道。まさに猫が入るようなところ。

「お母さんたちから大量の鬼電来てる…。」

「GPS機能とか付いてない?」

「消してきたから大丈夫。」

さすが抜かりない。

「結菜、連れ出してくれてありがとうね。」



さすがの両親も怖くなったのか警察に行方不明届けを出したみたいだ。テレビ屋の前を通った時に流れていた。しかし、結菜については何も触れていない。

「私の親はそんなの出さないよ、私がいなくなっても気にしてないだろうし。」

表面上では笑っていても、本当は悲しい思いをしているのが伝わってくる。

「結菜、ずっと一緒にいようよ。いつまで生きれるか分からないけど、来世では絶対幸せになろうね。」

「うん!」

テレビからはアナウンサーがずっと話している。「一ヶ月前から突如姿を消した一条純夏さん。今頃どうしているのでしょうか。またご両親はどう思っているのでしょうか。少し聞いてみましょう。………」「びっくりですよ。突然いなくなって…誘拐されたのかしら…早く帰ってきてほしい…。」

そんなこと思ってないくせに。帰ってきたら怒られるし、成績について言ってくるだけ。

「あれ…?君たち…」

中年のおじさんに話しかけられる。そして、顔をじっと見られ、ハッとしたような表情になる。

「一条純夏ちゃん?!さぁ帰ろう!ご両親心配してるっていうニュース見たし…。」

腕を掴まれそうになった。と結菜が手を払い除けた。

「純夏行こ!」

路地裏を通り、右に曲がり、左に曲がり、走る。

先程のおじさんは他の人にも声をかけ、私たちを追いかけた。

あるビルに入り、屋上へと駆け上がった。もう逃げ道がなかった。あちこちから手が伸びてきて、逃げられない。

「さぁ…帰ろう…こっちに来て…。」

たくさんの人がこちらを見る。どうすればいいの。

「結菜…あのさ…。」

「純夏、ずっと一緒にいるって言ったよね。」

私たちはお互いを見て、屋上の端へと走る。

「来世では絶対幸せになろうね。」

そう言うと私たちは飛び降りた。これで死ねるだろう。

「待ちなさい!」

その声を最後に私の意識は途絶えた。



「猫宮結菜さん、大丈夫ですか?」

声が聞こえる。

「えっと…。」

「気が付きましたか?ここは病院です。あなたはビルの屋上から飛び降りたんです。」

分かってる。てことは自殺は失敗したの?

「警察がお話を聞きたいって言っているので、少し良くなったら呼びますね。」

「……純夏は…?」

看護師は私を見るもそっと顔を背ける。

「一条純夏さんはお亡くなりになられました…。」

「え…?」

「あなたと一緒に飛び降りましたが残念ながら…。」

涙も流せないほど痛みが走る。なんで…なんで私だけ…一緒が良かったのに。

「猫宮結菜さん、お話を伺いたいのですが。」

純夏がいない世界なんていらないのに。


退院してから私は純夏のお墓参りに行った。水をかけて、お花を挿して、手を合わせる。

少しそこでぼおっとしていると猫が寄ってきた。足に擦り寄ってくすぐったい。その子を撫でるとにこにこと笑った気がした。その笑顔は…純夏そのものだった。

読んでくださりありがとうございました。続編はございません。

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