第二章 草原の戦い 1-8
〝なんとこの状況になっても、この人はまだ勝負を諦めてはいない。なんという執念・・・、いやこれぞ武人として当然の心構え。わが師に値する方だ、この方の側でもっと学びたい〟
「いや、あなたのおっしゃる通りです。勝敗が決まる前から負けを認めるなど、愚の骨頂でございました。目から鱗とはこのようなことを申すのでしょうね、わたしも最後まで味方の勝利を信じて戦います」
「ははは、その意気です。武人として死ぬ覚悟を持つことは大事なれど、死ぬことはいつでもできます。人は生きてこそなに事かを為すことができる、無駄に死んではなりませんぞ。わたしには妻も子供も、老いた両親もおります。その者たちのためにも簡単に死ぬ訳にはゆかんのです、死を恐れているわけではない、命を大事にしたいのです」
この言葉を聞いた瞬間、デオナルドの脳裏に唐突に一人の娘の顔が浮かんだ。
義姉であるヴァイオレッタの一番下の妹、フェアリータの可愛らしい顔であった。
〝このような時に、俺はなにを考えている──〟
デオナルドは頭を振って、その面影を強引に消し去った。
「レミキュス殿、もしこの戦に生き残れましたなら、是非にもわたしの師となって下さいませ。お人柄といい武人としての資質といい、何からなにまで手本に致しとうございます。あなたが拒まれてもわたしはもう決めました、今日これからわたしは貴方の弟子となります」
「なにを申される。わたしなど取るに足らん田舎貴族の出、トールンの名門アイガー家のご子息を弟子にするなどとんでもない」
「いや、師を選ぶのに家柄など関係ございません。気位も他人の目も関係ない、地に頭を突いてでもあなたを師に迎えたい。なにをやらせても完璧な兄の陰で、わたしはいつも思い悩んでおりました。どうすれば兄のようになれるのか、又なぜに兄とは似ても似つかぬこんな出来損ないに生まれて来たのかと。それがいまやっと分かったのです、わたしはあなたを待っていたのです。わたしを鍛え導いて頂けるお方に巡り合えるのを、きっと待っていたのです。わたしには兄のような天賦の才はない、その代わりに天はあなたという師をお与えくださった。あなたの下で研鑽を積み、やがては兄にも劣らぬ武人になりたい」
「貴公の決心はよくわかりました、すべては戦が終わって後の話しとしましょう。ならばどうあってもこの戦は勝たねばなりませんぞ、まずはお互いの仇ヴィンロッドの首を狙いましょう。そして共に明日のために命を懸けて戦い、そして勝利し生き残りましょう」
なんの気負いもなく、レミキュスは頬を緩めながら目の前の青年を見た。
「はっ、レミキュスさま。最後の勝利をわれらの手に」
デオナルドが力強く返事を返した。
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