第三章 バミュール邸での密議 3-7
いままで多少血が昇って赤くなっていた顔が、みるみる青褪めて行く。
「な、なにを訳のわからんことを──、大公殿下を救けるだと。自分の申しておることが分かっているのか、この場でお前をひっ捕らえて成敗してもよいのだぞ。それに大公殿下が軟禁されているなどという戯言をどこで聞いて来た、そのような話しならば聞くまでもない、さっさと屋敷から出て行け。変な言いがかりをつけると本当に容赦はせぬぞ」
フェリップは立ち上がるなり、目の前のやくざを怒鳴りつけた。
「芝居はよしてくれませんか、すべてご子息から聞いております。お兄上のジョージイー公のお屋敷でのことから、ヒューガン等悪人どもの陰謀までなにもかもをね。いまさら知らぬ存ぜぬは通用しませんぜ、こっちだって子供の遣いじゃないんだ〝へい、すいませんでした〟って黙って帰れるもんじゃねえんだ。端っから命を懸けてここへ乗り込んでいるんだよ、どうあってもこの話し聞いてもらわなきゃわたしの侠が立たねえ」
凄味のある顔で、クエンティが啖呵を切る。
「あなた、一体これはどういうことなのです。陰謀とはなんなのですか? わたくしにも分かるようにお話しください。何故そのことをヴィクターが知っているのです、さあお聞かせください」
ダイレナが夫のフェリップに喰って掛かる。
「そう喚くな、かなり複雑な話しゆえ簡単に説明はできん。後ですべて聞かせるからいまは黙っていて欲しい」
そういって妻をなだめる。
「クエンティと申したな、このような大事をすぐに返答は出来ぬ。明朝もう一度訪ねて来ては貰えぬか、それまでにわたしの肚は決めておく。だが良い返事が出来るかどうかは分からんぞ」
クエンティへ向き直ると、きっぱりとした口調でそう言い切った。
「明朝だな、必ず約束は守ってくれ、戦の勝敗を決するにはそれでも遅いかもしれん。いいかい、お宅のご子息は中々に立派な性根を持った青年だ、一切の危害は加えねえから安心しな。いい返事を待ってるぜ、では今日はこれで退散するとしよう」
クエンティは別れの挨拶も交わさずに部屋を出て行く。
「おいクエンティ、お前とは前にどこかで逢ったことはなかったか?」
フェリップが後ろ姿に声を掛ける。
「さあ、こんなやくざ者がサイレン家のお殿さまと関わりがある訳はねえんじゃねえですかい。誰かとお間違いだと存じます」
素っ気なくそう言うと、さっさと出て行った。
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