第三章 バミュール邸での密議 3-2
「ははっ、申し訳ございません・・・」
フェリップにも、家人総出で大事になる前になんとか息子を探し出し、なにごともなかったことにしたかったというレノンの気持ちを察することは出来た。
息子ヴィクターは使用人を始め、一族郎党から常に好かれていた。
子供の頃から愛嬌があり我が儘は言うが傲慢ではなく、乱暴だがそれ以上に人一倍の優しさを持っていた。
とにかく人気があるのだ。
この気難しいので有名な執事長も、ヴィクターにはいつも甘い。
多分レノンがみなに口止めして、息子を探し回っていただろうことぐらい容易に察しがついた。
「レノン、お前がみなに口止めしておったのであろう」
「――――」
「やはりそうか、今更お前を叱っても仕方がない。いつもの遊び仲間たちには当たって見たのか、どうせ行動を一緒にしているはずだ。すぐに行方は知れるだろう」
「はっ、勿論すぐに確認致しました。しかしボッティーガ領主クレイシェルさまのご長男リッティオンさま、商務長官シェルム卿のご三男ホーフェンさま、外務次官ブレッテルさまの末弟ミニエールさまの三人ともが、一昨日から館には戻っておられぬことがわかりました」
「やはりいつもの悪仲間と一緒なのだな。あの馬鹿者めが、この大変な時期をなんと考えておるのやら――。ならば例の遊郭の女の方はどうだ、お前のことだもう調べてあるのだろう応えよ」
「そ、それが――」
報告し辛そうなレノンを、主人が睨みつける。
「遊郭〝雪暉楼〟のファンティーヌというのが若さまの相手の遊女の名なのですが、客として忍び込ませた家人の報告によれば、その遊女もやはり一昨日から楼に姿を見せていないというのです」
「くうぬっ、これは偶然ではないぞ。あの馬鹿息子めがなにかやらかしおったに違いない、どこまで親に迷惑を掛ければ気がすむのだ。十八になり成人の儀も終わり少しは大人になってくれると期待したが、遊女などに現を抜かすとんだ放蕩息子であった、わたしの育て方が間違っておったようだ。よりにもよってこんな時に、女絡みで問題を起こすとはなんと情けない奴だ、廃嫡も考えねばならんかもしれんな──」
呆れたように肩を落とす主人に向かって、執事長はヴィクターを庇うような発言をする。
「旦那さま、それはちと言い過ぎでございます。若さまは多少無鉄砲で乱暴な所はございますが、仲間たちからの信頼も厚く、みなから慕われているようにございます。ご幼少の時からわれら使用人にも常にお優しく接せられ、お考えは聡明で、あのお齢で国を憂うるお心もお持ちのお方です。此度のこのような行動には、きっとなにか事情がおありなのでございましょう。廃嫡などとご短慮はお止めください、やがては大公に就かれてもおかしくない、立派な若者にご成長なされます。そのような言葉がお父上の口から出たと知れれば、きっと若さまのお心が疵ついてしまわれます」
レノンが必死な顔で、主人へヴィクターの良い所を力説する。
「お前がそうやって甘やかすから、あ奴がつけ上がるのだ。少しきつい灸を据えねばならん、場合によっては、一時嫡男の地位から外すこともありうる」
「なにをそう大声を出しておられるのです、奥にまでなにやら騒がしさが伝わって参りましたよ」
そう言いながら姿を現したのは、フェリップの妻ダイレナである。
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