第三章 バミュール邸での密議 2-5
「わたしはなにも知らん、そんなことを自ら企んだ覚えもないし、アーディンを処刑するのも反対だ。そんなわたしが、何故みなの恨みを買わねばならんのだ」
「だからいま言ったではありませんか、兄上はヒューガンに嵌められたのです。多分彼らはその他のあらゆる不都合なことを、すべて兄上の責任としてなすりつけ全責任を負わせるつもりだ。その上で今度は自分が大公となり、兄上を処分する積もりだと思われる。そうなればウェッディン家もお終いでしょう」
「ではわたしはどうすればいいというのだ。裏切りもならず、敗ければ処刑は確実で、勝ってもみなの誹りを受け責任を取らされる。八方塞がりではないか、一体わたしはどうなってしまうのだ。フェリップ助けてくれ、お前ならきっとどうにか出来るだろう。なんならばウェッディン家の家督はお前に譲ろう、だからどうにかしてくれ」
伯父は必死に父へ縋りついて来た。
「なんにせよ兄上お一人の問題ではない、ウェッディン家とわが一門郎党にまで関係してくる問題だ。わたしなりに考えてみましょう、しばらく時間を下さい。その間兄上はいままでとなんら変わらずに一味と接して下さい、くれぐれもここでの話しは他言なさらぬように。知られればそれこそ命取りとなりますよ、アルファー兄上を頼むぞ」
「お任せください、これからは一時も離れずにわたくしが付き従い、きゃつらめの言動に目を光らせます」
「わたしはこの騒動には表面的には一切関わらん、出来るだけ館から姿を見せずに距離を取るつもりだ。アルファーお前が兄上を支えて、しっかりと立ち回らねばならんぞ。互いに逐一連絡を取り合ってな」
そこまで話すと、父は館を去っていった。
大変なことを聞いてしまった、俺は身体中に冷や汗をかいていた。
なに気なく振り向くと、後ろに真っ白な顔をしたジョアンナが立っていた。
〝ジョアンナ──〟
俺は下の二人に聞こえないように、小さく声を掛けた。
その途端、彼女の菫色の大きな瞳から、大粒の涙がポロポロと零れだした。
慌てて彼女の身体を抱き、再び部屋へと入った。
「ヴィクター、お父さまはどうなってしまうの。それにアーディン叔父さまのことも・・・。お父さまは悪い方たちに騙されていらっしゃるのよ、たすけて頂戴お願いヴィクター」
俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくる従妹を、そっと抱き締めながらありきたりな慰めしか俺には言えなかった。
「大丈夫だジョアンナ。父上がきっといいようにして下さる。心配しなくていいよ」
そんなことしか俺には言ってやれない。
話しがあまりに大きすぎて、それ以上彼にはなにも考えられなかったのだ。
ヴィクターが語る此の度の騒動の全貌を知り、クラークスもクエンティも愕然とした。
「大公殿下を亡き者にする計画まで立てておったとは、正気の沙汰だとは思えん。どうあってもこの叛乱は成功させちゃいけませんな親分」
クエンティの言葉に頷きながら、クラークスはヴィクターをそっと抱き締めた。
「おめえいままでそれで胸を痛めてたのか、辛かっただろうな。おめえの歳で抱え込むにゃあでか過ぎる問題だ、なにせ相手は国の行く末だ」
「まだ続きがあるんだ、おれは父上がどうにか良い方へ対処してくれると信じてたんだが、その考えはあっさりと裏切られてしまった。あの人はこの叛乱劇を止めようとはしなかった、伯父上がアーディン伯父さまを裏切り、大公不介入宣言を発するのに口を出さなかった。俺はその時点ではっきりと父に失望した」
「お父上にもそれなりのお考えがあったのだろう、知っているのならすべて話して欲しい。わたしもあの男がこの状況で、なにをどうしようと動いているのかを知りたい。それなりの策があるはずだ」
怪訝な顔でヴィクターは、クエンティを見ている。
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